NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第18話C そして勇者は乾杯の挨拶をする。みたい!?



 それから勇者はハックと鑑定局に向かったが、その道中で運良くアンジェラ、ヤンド、サイカの3人と偶然にも遭遇し、タリエルのいる鑑定局で面接を行う事になった。鑑定局の前まで来て全員を見送った後、勇者はひとり協栄ギルドに向かった。

 いつものように受付のじーさんに仕事を斡旋してもらい、作業を開始する。


「慣れれば簡単だけど、単純作業もキツいな。」


 今日は草刈りの仕事をひたすらこなすだけだったので特に頭を使う必要が無いのだが、それがまたキツい。

「しかし…この先どうするか。ステータスが上がらないのは困ったなぁ。」

 勇者はある事で悩んでいた。それはレベルアップしてもステータスが上がらない事である。『ステータス変動:無効』というデバッグ能力が解放されたのだが、デバフの効果やバッドステータスにならないという利点はあるが、ステータス値自体も変動しなかった。その能力が解放されてからは確認の為、積極的に経験値を稼げる仕事を選んでなんとかLV2にはなれたのだが、案の上ステータス値は上昇しなかったのである。

「死なない、金無限、装備作り放題、でもステータスはLV1のまま。これ結構詰んでねーか?」

 深く大きい溜息をつくが現状は変わらない。この先たとえ強い魔法を覚えたとしても、MPの上限も変わらないので使用出来ないか、もしくは大した威力は期待出来ない。いくら強い装備品が作れても、職業特性に引っかかりFランクの共通装備しか使えない。所持金は100Gのまま。

 全くもって前途多難である。現実に帰れる方法が見つかったとしても、そこに行き着くまではハック達に任せたパーティメンバーの力に頼るしか無いように思えた。自分で自分の事も出来ないなんて情け無い。その感情が支配していた。その感情を誤魔化すために、ひたすら無心で草を抜く。

「はぁ、これでこの区画は終わりっと」

\テテーン/ 『草刈り』を合計 10回 クリア しました

「おや?実績解除か?」

 メニューボードを取り出し、ステータスを確認する。だが通り名は増えていなかった。


「ん?解除されたのは通り名じゃない??何が解除されたんだ?」

 良く見るとパッシブスキルが一つ増えている。

「うわ!こ、これだ!!」



パッシブスキル詳細

草刈りの報酬: VIT+1
よくこんな事10回も続けたね。運営からのご褒美です。






 すぐさま自分のステータス値を確認し、VITの所に(+1)と表示されてるのを見て理解する。

「基本値はあがんねーけど、スキルとしての増減は受けてる!!これだ!!これが俺の強化方法だ!!」

 勇者はあまりの嬉しさに両手でガッツポーズをする。握りしめた拳が痛い程に。


「こんなチマチマした稼ぎ誰がやるんだと思ってたが、こういう隠しイベントがあったとはなぁ。これは大発見だぞ。」

 これで明日からの大きな目標が出来た。それはひとつひとつの仕事を複数回こなして実績を解除し、それでステータス値を上げられるだけ上げる。先は長いがただ何もしないで待ってるよりは百倍マシだ。勇者はそう思った。

「後は…ハック達の面接結果待ちか。それにしてもハックとタリエル、何の話しをしてたんだろう。」

 とりあえず今日の作業はここで終え、ハックの錬金術工房に帰ることにした。










「ただいまーハック。って!うぉ!みんな居るのか!?」


 外から見て窓に明かりが灯っていたので、ハックは帰ってきてるだろうと思っていたのだが、まさか面接したメンバーのアンジェラ、ヤンド、サイカ、それにタリエルとマリーナまで部屋に居るとは思わなかった。いつも夕食を食べているテーブルには豪華なご馳走が並んでいる。


「おぉ!皆、我等のパーティリーダーが帰ってきたぞ。」

「ユーシャおかえり。」

「おかえりなさい、勇者さん。」

「こんばんは、勇者君。」

「マルマルさん、お仕事お疲れ様でした。」

「もー遅いよマルたん!料理冷めちゃうじゃんかー!!」

「なんか、こんな大人数だと圧倒されちゃうな。それで面接の結果はどうだったの?」

「もちろん全員合格だ、勇者殿」

「え!全員!?そりゃ良かったけど、一体何を話したんだ?」

 タリエルがコソッと近寄ってくる。

(全員、私やハックさんと『同じ』だよ。ハックさんと一緒にそれを確認したんだ。)ヒソヒソ

(マジ!?全員!いずれ自分がNPCだって気付くってのか?)

(そう、ハックさんによると、みんな何かの縁みたいなものがあってマルたんの所に集まってるみたい。それが何かまでは分からなかったけど)

(なんだそりゃ?運命ってか?)

(ハックさんはマルたんの恋の魔法の深淵?てのが原因って言ってたけど本当??)

(んなわけねーだろ!!ありゃ俺がハックを納得させるのに適当に言っただけだよ!!)

「それで、早速だが勇者殿。新たなパーティ発足の記念に宴の準備をしたので、スピーチと乾杯の挨拶を頼みたい。」

「え!?俺?ってか、みんなどこまで知ってるの??」

「もちろん、全て話したさ。包み隠さずね。」

「マジかよ!?そーいうの普通俺に一言ぐらいあるだろ?ま、でもいいか。どうせ隠し事するまでもないからな。」

 勇者は机の上に黒い方のメニューボードを置いて、みんなに見せる。初めて見た3人からは驚きの声が漏れていた。

「みんな、聞いてると思うけど、俺はここの世界ではない所から来た。そしてそこに帰る方法を探している。唯一の手がかりはこの黒いメニューボードだ。これを使ってこの世界から出る方法を探す、それがこのパーティの目的だ。それまでどうか力を貸して欲しい。頼む!」




「友よ、私の力を貸そう。」

「まぁ、それなりに努力するよ。ユーシャ。」

「困っている人を見捨ててはいけないとモンクの修行中に教わりました。協力します!勇者さん。」

「大変だったみたいね、勇者君。困った事があったらいつでも頼っていいですからね」

「えーっとパーティには入れませんが、ウチの大事な従業員さんの為に、頑張ります!」

「同じく外野だけど、この美少女鑑定局員がたーっぷりサポートしてあげるからね、マルたん!」




「みんなありがとう!」




 勇者は片手でぶどう酒の入ったグラスを持ち上げ、もう片方の手で今度は紫色のメニューボードを操作する。パーティ編成のページを開き、ハック、アンジェラ、ヤンド、サイカの名前を選択する。後は決定するだけの状態で手を止め、もう一度みんなの顔を見る。

「それでは、新たなパーティの門出を祝い、カンパーイ!!!」

 乾杯の合図と共に編成を決定する。それと同時に掲げた互いのグラスを机の上でぶつける。






…だが、ぶつかったグラスは3つしか無かった。





 何故なら、勇者、ハック、タリエル以外の者はみな頭を抱えて苦しみ出し、グラスを落としてしまったからだ。








第18話 END

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