NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第25話B #3 『残念勇者の伝説』



 その日の午後、勇者は特に何もする事がなくダラダラと街の中で過ごしていた。大魔道飯店でのお勤めが終わった開放感に任せて遊ぼうとは考えていたのだが、特に何も心に引っかかる窮屈さというのは無かった。


「ふーむ。とりあえず冒険準備しなきゃなんだろうけど、特にする事ないなぁ〜。」


 普通であれば回復アイテムだったり冒険に必要な道具を準備するのだが、勇者にとって回復よりも死に戻りの方が手っ取り早いし、最悪回復する必要があったとしてもナユルメツに頼ればなんとかなる。バットステータスにはこの黒いメニューボードのおかげでかからない。

「またお茶でも飲みに行くかな。そこで考えよっと。」



 勇者は喫茶店スケアガーゴイルに行く事にした。

「おい止まれ!」

 急に高圧的な話し方で止められる勇者。振り向くとそこに会いたくない人物がいた。領主のカルガモットだ。

「お、おぉ。領主さんじゃねーか。どうも。」

「また良からぬ事をしようとしているだろ?パーティを集めているようだな?」

「いやいや、なーんの事かさっぱり…」

「シラを切るのもいい加減にしろ。この街で悪事を働くのは許さないぞ!このニセ勇者」

「あのねぇ…いきなり言われもない事を言って、人を偽物呼ばわりするのは良くないと思いますよ?」


「う、うるさい!私はどうしても貴様を見ていると我慢がならんのだ!」

「あんたがご先祖様の事尊敬してるのはわかる。でもなぁ、俺は勇者を名乗りたくて名乗ってる訳じゃないんだよ。そこは理解してもらえないと困る。」

「コイツ!知ったような口を聞きやがって!」

 カルガモットは勇者の胸倉を掴んだ。

「…どうすんだ?領主さん。えぇ?行くとこまで行くなら俺は構わんぞ?」

「いつか絶対に貴様の尻尾を掴んで…」



 カルガモットに揺すられた衝撃で勇者のポケットから黒いメニューボードが落ちてしまう。

「…!!しまっ」「なんだコレは?」

 勇者が手を伸ばそうとするより早くカルガモットが拾おうとする。その時…


「何やってるの?」

 急に後ろから声をかけられて2人ともビクッとする。その隙に勇者はメニューボードを拾い上げポケットにしまい込む。


「こ、これは!チリードル殿!!」

 声の主はタリエルだった。

「タリエル、聞いてくれよコイツが…。」

「チリードル殿!ただ今街に不穏を招く原因を排除し、ファステに平和を取り戻そうとしていた所です!」

 途端に姿勢を正し、タリエルの方に向き直すカルガモット。その様子を不審な眼差しで見つめる勇者。

「チリードルって何だ?」

「もぉー私の苗字だよマルたん!覚えてないのショックなんだけど。」

「ま、まるたん?」

「あぁ!タリエル・チリードルって名乗ってたな!思い出した!」

「で、領主さんと何してんの?」

「知らんよ。勝手にいちゃもん付けて来たんだよ」

「コイツは危険なオトコですチリードル殿!下がっていて下さい!」

「いや、ちょっとマルたんに用あるんだけど?てか、何危険って。」

 タリエルがジロリとカルガモットを睨む。何故かたじろぐ領主。


「わたしマルたんと同じパーティだけど危険なんて事無いよ?」

「な!!!本当ですか!?チリードル殿!?こんなニセ勇者とパーティを組んでいるのですか!?」

「だから、俺名乗りたくて勇者の名前名乗ってる訳じゃ無いって!」

「構わないでくれますか?ウチのマルたんに!てか、いい加減苗字呼び辞めてもらえます?領主さんぐらいですよわたしの事そう呼ぶの。」

「す、すみませんチリードル殿、善処します!」

「なぁ、もういいか?行っても?」

「貴様、今回はチリードル殿の顔にかけて捕まえないでおく。次会ったら容赦しないからな!」


 カルガモットは赤いマントを翻し颯爽と帰って行った。


「「何だったんだ?あいつ??」」


 




「うおー疲れた〜!ただいま、ハック。」

「あぁ、おかえり勇者殿。」

「ついに大魔道飯店の借金!返し終わりました!」

「それはそれは。お勤め、御苦労様でした。」

「ついにその時が来たな。いよいよ明日か?」

「あぁ、すでに皆には準備するよう伝達してある。そういえばアンジェラ殿が馬車を持っているという話でな。今回はそれを使わせてもらう。」

「へぇ!?アンジェラが馬車を?」

「何でも、前に一緒に行動していたパーティが残して行った物らしい。大切に使わせてもらおう。」

「今日はじゃあ男二人で決起集会と洒落込むか!俺酒買って来たぞ!」

「よし!私も秘蔵のひと瓶を出させてもらおう!」

 二人は書斎の机をテキパキと片付け、夕食の準備を進める。勇者はいつも飲んでるぶどう酒。ハックはお気に入りの強烈にバニラの香りのする透明な蒸留酒を用意した。


「うっし!一杯目はどっち!?」

「…ここはキャノンボールと洒落込もうではないか勇者殿!」

「いいねぇ〜そういう乗り嫌いじゃないぞ!!」

 二人は片手に空いたグラス、もう一方の片手にはそれぞれのボトル。正面に2人は向かい合い、それぞれの対角にあるからのグラスに同時に注ぎ込む。


「「俺たちの冒険に、乾杯!!」」


 二人同時に口の中にグラスの中身を放り込む。


「うーむ、いつもの味だ!美味い」
「ぶっはぁ!コレ甘いのにめっちゃ強い!いいわ!」



「よくぞここまで耐えた!勇者よ!そなたの道は明るいが険しい。心してかかれよ!」

「おう!器用貧乏な錬金術師!アンタの作戦がキモだ。明日からも頼むぜ!」




 二人はボトル一度机に置きそれぞれ交換し、今度は別の酒をグラスに注ぎ、一口で飲み込む。


「クク…強いなやはり!」
「あー美味い。最高!」


「「さぁ!飲み明かすぞ!!」」


 錬金術工房の窓の明かりは、それから2時間程消える事はなかった。
勇者達のレッツエンジョイサウタナライフ2は、まだまだこれからだ。





第25話 END



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