NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第44話 #3 Boss『ザゥンネ家の英雄』




水の中に落ちた勇者。


 川だと思われていたそれは、崖から染み出る地下水が更なる地激に流れ込み地下水脈となっていたものであり、静かな水面の見た目とは違い光の届かない程に底は深かった。


「ぐぁ…ぐ………」


溺れる事に恐怖は無かった。

落ち続ける事にも恐怖は無かった。


 しかし、自分の即時復活という特性を、たったの1回見ただけであっという間に切り返したカルガモットの『戦闘慣れ』には恐怖した。


(どうする?このまま復活しても同じ事の繰り返しだぞ?考えろ…)


 息苦しさなど等に感じなかった。既に肺から溢れ出る空気も無く、手足も動かせない状況だった。辺りは水中とは思えない程に黒く染まっていく。


(考えろ…何か………)


 『底』なのだろうか。それともまだ沈み続けているのだろうか。上も下も無く、浮遊感すら感じられない、真なる闇の中に勇者は居た。




─ ─ ─




『……か……?………ぶ………』



 何かの声がした。聞いた事のある声だった。



『諦めるのかい?ブレイブハート』




 姿形は見えなかった。ただ眩しく光る『輝き』のみが、視界の中にあった。


(諦める?何を?)

『抗う事さ。意識が薄れているね?』


(何…していたんだっけ??)

『あらあら、忘れてしまったのかい?』

(疲れたんだ…疲れたよ)

『そうかい?ま、それならそれでいいさね。ずーっとここにいればいい。』


(ずっと……ここに?)


『そうだよ。それを望むならねェ』


(ここに…)


『ま、奴らなら何とかするかも知れないからね。それでいいさ。私達は私達だ。』


(奴ら…??)


定命の者モータル達さ。潰えたとしても、それが自然なんだから。』

 何かをしていたはず、しかしそれが何か上手く思い出せなかった。

『例え何かを捨ててもそれを責めたりしない。このまま私の魂の傍らに置いておくから、永劫の時を見続けていればいい。』


(俺は……俺は誰だったっけ?)


『<二重円の勇者ダブリングブレイブハート>』


(そんな名前だったかな?もっと違うような気がしたが…)


『○○だよ。○○だったんだ。』


(………だった?)


『お前をそう呼ぶ、存在がいたんだ。』


(………誰??)


『今はまだみんな上にいるね』


上を見上げて、そちらに行こうとする。

『……行くのかい??』


(うん。……だって、俺の事待ってる人が居るんだよな?)


『誰の所に行くか、ちゃんと分かる?』



(えーっと…)



 何があったのか1つずつ思い出し、顔を思い浮かべる。その1人ひとりを思い出す度に景色に色が戻ってくる。



(ハック…)
(タリエル…)
(マリーナ…)

(ヤンド…)
(アンジェラ…)
(サイカ…)



『おお!ちゃんと思い出せたね。良かった良かった。自分の事は思い出せなかったのにねェ。』


「…何言ってんだよ。忘れたくてもあんな濃い奴ら忘れる訳ないだろ。」

『そうかい。ま、それだけ魂に刻み込まれていたんだねェ』


「お前だって、その内の1人なんだぞ?『ナユルメツ』」


『くふふふふ…』


 話をしていた輝きは赤い色に染まり、その中から姿形が浮かび上がってきた。


『思い出してくれて、ありがとよ。』



「おう。…面倒かけたな、すまんかった。」


『良いって事さね。』




「…なぁ。ここって、地獄?死後の世界??」


『あっはっは!!ウチらがそんな所行ける訳無いだろう!おかしな事を言う勇者だね!ここは水の底さ。後は泳いで上がるだけだ。』

「うん……うん、分かった。」

『成すべき事は分かるね?ちゃんとその腰にあるの使うんだよ?』

 腰の当たりをさする。冷たいが鋭く尖った確かな感覚があった。


「……よし!サンキューな、ナユ!!俺、何とかするよ!!」


『いつでも戻ってきて良いからね。私はいつでもそばにいるさ。』


「それはしばらく先になりそうだなぁ。80年ぐらいは予定先延ばしだよ。」


『……なぁんだ。ほんのちょっとじゃないか。』


「『あはは!』」




「….じゃ!行ってくる。」

『はいよ、行ってらっしゃい。』



 一時期自分を見失ってはいたが、自分を取り戻した勇者○○は仲間を助ける為に希望を胸にし、浮上して行った。





『…寂しくても、待てるさ。もう同じ時を歩むことは決まってるんだよ。』










「錬金術師の魔法を反射した時、確かに3人巻き込まれたハズだ。何故今は4人居る!?」


 剣を抜き、倒れた4人ににじり寄るカルガモット。そこに居るのは…

 岩石にもたれかかった、全身血だらけのヤンド。タリエルとマリーナを庇う様にして倒れているサイカ。


 先ずは虫の息のヤンドよりも、覆い被さっている怪しい3人組の方に向かった。気絶しているのか、呼吸している素振りは無かった。


 倒れているサイカの足を蹴ってみる。反応は無かった。


 カルガモットは倒れているタリエルの顔を見ない様にして、今度はヤンドの方を見る。


「…………岩石の影になってコイツが見えなかっただけ…か?」




 明らかに重症のヤンドからも、生者の気配は無かった。


「…気のせいだったようだな。まぁ、錬金術師の命が少し延びただけだ。その先の未来に変更は無い。」


 振り向いて視線をハックに戻し、トドメを刺そうと歩き出したその瞬間。



─ヤンドの口元が、ニヤリと笑った。





「貴様っ…!!!」





 振り向き様に剣技を繰り出すカルガモット。




そのタイミング。

 奴の注意が二度三度外れるその瞬間を。





















『サイカ』はずーっと待っていた。













「っしゃあぁぁ!!!」

 いつもの武器として使っている古い包丁ではなく、現役の冒険者時代に使っていたクナイをカルガモットの首筋に一直線に突き立てる。


 ハックの魔法が反射され爆発した時、ヤンドが全ての破片を背中で受け止めたのだった。そこにヤンドとサイカ間で会話など無かったが、比較的冒険者としての期間が長い2人にはそれだけで意味が通じ会えた。






「自分が犠牲になるから、チャンスを」
「必殺のタイミングで、必ず討ち取る」




それが、今だった。

 ハックですら想像し得ないまさに絶好のタイミング。





それを…






─カキィィィン!





 カルガモットは騎士としての勘だけで、『首の皮1枚』つなぎ止めた。





「ハァ、はぁ、ハァ」タラッ



 カルガモットの首筋から一雫血が垂れる。



 勇者のアキレス腱に突き刺したナイフ。あのタイミングで使用して鞘の抜け止めを外して無ければ、サイカのクナイは打ち返せなかった。



「あ…あぁ…そんな。」

「ふ、ふふふ、ふはは…」




▷『ザゥンネ家の英雄』 の 攻撃!
サイカ に大ダメージ!



「きゃあぁ!!」バタッ


「な、何とかなった。殆ど運だが…こちらが上手になった。」

「そ、そんな…サイカ殿!!」

「もういい加減にしろ!あのニセ勇者も水の底だ!お前達の苦悩もこれで終わりだ!!冒険の終わりゲームオーバーなんだ!!」





「いいや、まだ終わっちゃいねぇ。」


 振り返ると、ずぶ濡れの勇者がそこにいた。

「ぐぅ!…もう戻って来たのか!!ニセ勇者!」



「…サイカ、ありがとな。おかげで『攻略』の目処がついた。」


「ごめ…なさい。勇者、君」

「ハック!!他の奴らを頼む!!」

「…すまぬ勇者殿、魔術師の私では太刀打ち出来ん!後を任せる!!」ダッ






「…太刀打ち出来ない、か。ははは、いい事言うなハックは。」


「何がおかしい?ニセ勇者。」


「杖しか持たない魔術師のハックが『太刀打ち出来ない』なんておかしいだろ?刃物持って無いんだからな。その言葉を使うのはヤッパを武器にする奴だけだ。」



 勇者が腰に隠した武器に手をかける。


「ではハックに合わせてこちらも言わせてもらう。」








「??」







「『真打登場』だ。」




第44話 END 

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