NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第22話A そして勇者は絶叫の中で静かに横たわる。みたい!?



 キングアンデッドコボルド。コボルドの死体が複数集まり、1つの塊となったモンスター。身体は大きいがアンデッド特有のスピードの遅さが弱点で、並みの冒険者ならそこまで苦労はしない。ただ、それはそれが出現する辺りで腕をならした冒険者達の話で、勇者達一行のような経験の浅いパーティには強敵に変わりは無かった。


「グァァアア!!」

 暴走したヤンドが腹の辺りに飛び込む。敵の身体は脆く、あっという間にヤンドは突き抜けていくがその穴はすぐに塞がってしまう。物理ダメージではあまり効果が無さそうだ。

「ヤンド1人じゃ厳しそうだ!俺達も散って遠距離攻撃をしよう!」

 パーティのそれぞれが間隔を空けて広がり、相手からの攻撃を分散させる。

「ハァ!!」「やぁっ!」

 アンジェラがつま先辺りを切り、サイカが飛び蹴りを食らわせる。だが、キングアンデッドコボルドには対してダメージにはなってないようだ。

「ダメだ、神聖系の攻撃が出来ないなら炎系の魔法はどうだ?」

「フゥ….ハァ!!」「てやぁ!!」

 2人は今度、低級の炎魔法をそれぞれ別角度から放つ。敵の身体に炎が燃え移ったが、動きが少し鈍くなっただけだった。

「ガアァァ!!」

 ヤンドは燃えているのも御構い無しで背中に飛び移り、肉片を素手で掻き分けて行く。しかしその肉片も、地面に落ちた物から両足の足元から吸収され、元の形に戻って行く。

「オオォォォ….」

 低いうなり声を上げながら敵はヤンドを掴み遠くに投げ飛ばす。

「大丈夫か!?ヤンド!」

「ダメね、炎もあまり効いてない。ハック君ぐらいの上級者なら弱点に大ダメージを与えれたでしょうけど、私たちでは無理ね。」

「下がれ!攻撃が来る!」

 勇者は避けようとするも、ステータス的に圧倒的に低い勇者では避けきれない。真正面から叩き潰されてしまった。

「ユーシャ!」

「…大丈夫!すぐ復活出来るから!しばらく俺が攻撃を受ける!」

 そうやって勇者は攻撃を引きつける役を買って出た。しばらくは勇者にヘイトが集まるだろう。

「でも、このままじゃ埒が開かないわね。どうしましょ、アンジェラちゃん!」

「正直、打開策が見当たらない。」

 投げ飛ばされたヤンドがかえってきて、キングアンデッドコボルドの片膝を腕で締め潰した。

「うぅううぅぅぅあああ!!」

 敵は片膝をついて倒れそうになるが、ものの数秒で元の体勢に戻る。

「ちくしょう!いくら暴走したヤンドでもこれじゃ無理だ!何か神聖系の…回復魔法とか…あ!!」


 ふと何かを思い出した勇者が大きく息を吸い込み、大声で叫ぶ。

「ナユルメツゥーー!!助けてくれぇ〜〜!!」



「はぁ〜い、定命の者モータルのみんな。いつ声を掛けてくれるのかと待ちわびてた所だったぞ?」


 一際高い暮石の上に、ナユルメツが姿を現した。

「ナユルメツ!」「ナユさーん!!」

「さてブレイブハート。私の究極の回復魔法がお望みかえ??」

「頼む!今の俺達じゃ相手にならない!お前じゃなきゃコイツは無理だ!」

「じゃあちょっと離れて見てな、狂戦士も下がらせて。」

 アンジェラとサイカは2人でヤンドを誘導する。勇者達とは反対方向に逃げて行った。

「本当はモータルの人達に頑張って欲しかったんだけどね。まぁ仕方無いか。『フレッシュヒール』」

 ナユルメツが指を弾くと、明るく心地よい緑色の輝きがキングアンデッドコボルドの全身を包み込む。すると次々に肉体が再生され、キングアンデッドコボルドはバラバラに分解しアンデッドコボルドの群れに戻った。

「よしやったぞ!?…あれ?アンデッドなのに回復してないか??」

「そりゃモチロン。誰の回復魔法だと思ってるのさ。私の究極に極めた回復魔法は相手が何であろうと回復するよ。」

 全回復しアンデッドとは思えない程にハツラツとした動きになって、アンデッドコボルドの群れは襲い掛かってくる。

「でぇぇ!?それじゃー意味無いだろ!回復魔法でダメージを与えて欲しかったんだよ!!」

「アンデッドにダメージを与えてるようじゃ、まだまだ回復魔法の深淵を理解してないって証拠よ。」

「いやそりゃそうかもしれないけど、どーすんだよこの状況!」

 アンデッドコボルドの大群は全速力で勇者達に迫って来ている。


「まぁまぁ焦らない。もういっちょ『フレッシュヒール』」

 ナユルメツがまた同じ回復魔法を唱え、アンデッドコボルドの群れは癒しの光に包まれた。



「も、もうダメだ!このままじゃ全滅しちまう!」

 勇者は弱腰で這いずりながら少しでも距離を取ろうとするが、急に静かになった辺りの様子に驚く。




「んあ?誰も動いてない??」

 アンデッドコボルドの大群は突如灰になり、風に吹かれて消滅してしまった。

「ど、どーなったの??」

「あたしの回復魔法を連続で食らうと灰になるのさ。…たとえ『死者でも生者でも』ね。」

 ナユルメツはとても恐ろしい笑みを浮かべて、灰を手に掴み空に舞わせた。その灰が空に飛んでいく様を見て笑っている。

「ど、どうやらとんでもねー切り札をパーティに入れちまったみたいだな…」


「おーい、ユーシャ!」

 正気に戻ったヤンドの肩を抱いてアンジェラとサイカが戻ってくる。


「やったな!」

「さすがナユ姐さん。頼りになるわぁ」

「どうなったのか決着つける所見てないんですけど、ナユルメツさんが退治してくれたんですね!ありがとうございます!」

「なーに、いいって事さね。それよりブレイブハート、お代を頂くよ。」

「え?お代?金なんか欲しいの…ムグゥ!!」

 ナユルメツは突然勇者にキスをした。正確には勇者の生命エネルギーを吸い取ったのだが。

「うわ」「わーお!」「な!なんてうらやま…いや、けしからん!」

 勇者はパタンとその場に座り込んでしまった。

「てめぇ…またやりやがったなぁ〜うぁ〜めっちゃ具合悪い…」

「あーら失礼しちゃうねぇブレイブハート。こんな美人にキスされてそんなリアクションするのかい?」

「この…死神めぇ…グハァ」

「この死に続ける身体を維持するにはアンタの命が必要なのさ。さて、他に誰か回復してもらいたい奴はいるかい??」

「「「結構です!」」」

「そう、それは残念。また困った事があったらいつでも呼んでいいからね?」

 そう言うとナユルメツは勇者の影の中に溶けるように入って行った。こうしてダンジョン攻略並びにボス討伐は無事に終了した。


Aパート終了→

「NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く