第5話A　勇者はどうしても復活したい。みたい！

　あれから何度もログアウトを試したが一向にログアウトは出来ない。運営本部からのメール返信も確認したが返事は返って来ない。一応考えられる原因としてこの草刈りクエストを受注していて、クエスト達成していないからログアウト出来ないんじゃないかと推察し取りあえず終わらせる事にした。一定の範囲を選択し、決定すると草が抜ける。ただそれだけをひたすら繰り返す。

「なんでこんなクソつまらんクエストを用意したのかまるでわからん。しかもわざわざ受注出来るギルドを別に用意して受ける窓口を変えるだなんて。確かに『サウタナ』っぽい演出ではあるけれど、生産者プレイなんて誰が体感型のMMORPGでやるんだ？」

『サウザンドオルタナティヴ２』

　タイトルの意味は幾千の二者択一。このゲームは資金さえあればゲーム内で何でも可能というのが売りのゲームだ。

　最初は外から来たただのヨソ者冒険者でも、資金を集め、町人からの評価を得て、それ相応の地位があればマップ内に土地が買える。手に入れたらまた資金を集め、そこに建物を建設し自分の家を建てる。そこから更に発展して家を改造し店舗を構えたり中には宿屋を営んだり、自分の回復魔法で治療する施設を作ったりなどおおよそ考え付くありとあらゆる事が資金さえあれば可能。

　そこまで『やる』のか『やらない』のかの選択は、自らがその時選択する。それが『サウザンドオルタナティヴ』だ。だが、『２』になってまさか冒険者になることすら諦められる選択肢を用意するとはね。

　･･･しかしつまらない。この草刈り。これをひたすらやって一日２G。誰がこんな縛りプレイやる？２Gじゃ一日分の食もままならないぞ？

　だらだらと作業を進めていると、草を刈った瞬間に、そこからモンスターが現れた。

「お！？街中でもイベントでモンスターが出るのか？」

　そういえば受付のおじいさんも出るって言ってたけど、てっきり外壁の向こう側の事だと思ってたから意識してなかった。受注の要項に書いてあった＊注の文字はこういう事だったんだな。

\ エンカウント /　むし　系　モンスター　のむれ！

　メニューボードが接近戦闘の開始を伝える。群れと言っても目の前の２体だけ、種類が違う２体だからこんな表示になる。これもモンスターを倒し経験を重ねると最初から敵の情報が開示されるが、『２』では初戦闘だからな。

「しかしどう見ても大バッタとビーラット。張り合いないねぇ。」

　最初の街近くに現れる初歩でしか戦わない低級モンスター。大バッタはただの大きい虫で直線的な体当たり攻撃、ビーラットとは子猫より一回りぐらい大きいだけのネズミで、こっちはもっと範囲の狭いかみつき攻撃のみ。まぁ前作と違いコマンドを選んで戦闘する訳ではなく、実際に自分が避けて攻撃を当てなきゃいけない訳だが、ただの動物虐待みたいで気が滅入る。

　大バッタとビーラットの頭を数発けいぼうで殴る。一桁代の数字が表示されているが、これがダメージだろう。あっという間に２匹は動かなくなる。

「もうちょっとこう･･･　ゴブリンとかコボルドみたいなモンスター感ある奴だったら戦闘してるって感じするけど、コイツらじゃ動物の域をでないもんなぁ。あーあ」

　今の戦闘じゃLV２にも到達してないぐらいの経験値しか入ってないだろう。その証拠にレベルアップのお知らせが来てないし。でもフィールドに出れないんじゃこんな奴らで経験値稼ぎしなきゃならないのか？うわ～～ダル～～。

　なんて事を考えながら武器を腰にしまう。そして気づく。大事な事に。


「アレ？戦闘終了のお知らせって来たか？？」

「ゴアアァァ！！」「ひっっ！？」

　もの凄い鳴き声がすぐ後ろでして思わず飛び退く。すぐ後ろにいたのは低レベルではまともに渡りあえないモンスター、『人食いグリズリー』が立ち上がっていた。どうやらさっきのモンスターの群れの一部だったらしい。

「いやいやむし系モンスターの群れって言ったじゃん！どう見たってコイツがリーダーでしょ！！」

　気が狂ったかのように牙むき出しの表情、絶え間なく口から垂れるよだれ、高く構える前足からは鋭い爪がギラギラと死の輝きを放っている。

「しょ、所見殺しの死にイベントかコレ！たかだか草むしりで！」

　たった２Gの為に命を落とす事もある。それが『サウタナ２』だ！と、運営陣ががそう言いながら笑ってこっちを見ているような幻覚を見る。でも次に見るのは走馬燈だ。何故なら、その鋭い爪が今にも振り落とされようとしていたからだ。

「ちくしょー！！」

　おもわず両手で頭をかばうが、なんの意味もなさず簡単に人食いグリズリーの攻撃は両手をへし折る．それだけではとどまらずにその勢いで頭をかち割られる。不思議と痛みは最初に触れた一瞬のチクリとした痛みしか無かった。目の前が真っ赤に染まった後、景色が戻ってきた。




　勇者は死亡し、リスポーンしたのだ。ゆっくりと目を開ける


「･･まあ最初なんてこんなもんか？そーいやリスポーン位置ってどこになるのかな？」

　辺りを見回そうとしたのだが、目の前の大きな陰に阻まれる。人食いグリズリーだ。




「へ？」




　今度は強烈な横なぎの一撃をもろ顔面に食らう。耳からあごの下辺りに掛けてチクリと熱いような感覚があった。そして目の前が真っ赤に染まった後、景色が戻ってきた。

「なんかいま、2回死んで無かった？」

　今度は右肩から首筋辺りにかみつかれて、大きく振り回される。人食いグリズリーだ。目の前が真っ赤に染まった後、景色が戻ってきた。

「あれちょっ」

　左の前足の爪で腹部を貫かれる。下っ腹まで熱い感覚が走る。やっぱり人食いグリズリーだ。目の前が真っ赤に染まった後、景色が戻ってきた。

「ちょいちょいタンマタンマ！！」

　大きく後ろに逃げる事で一撃を回避する事に成功、ただ、ゆっくり考えてる時間はない。

「どーなってんだ！？死･･リスポーンしてる？その場で！？」

　あわてて横転し、足首を噛みつかれて振り回され、地面に体を叩きつけられる。鼻の奥にツーンと血の香がした。目の前が真っ赤に染まった後、景色がまた戻ってきた。

「やばい！多分またデバッグメニューが発動してる！けど、ここにいたら永遠に死に続ける！」

　死ぬ度にポケットの中が激しく振動しているが、いちいち確認している暇は無い。何かしようとする度にグリズリーの攻撃をもらう。

「ッッく！いい加減にしろやァッ！！」

　目の前にいるグリズリーへの恐怖よりも何回も死に戻しをさせられた怒りのパワーが上回ったとき、初めて反撃できた。鼻っ柱を思いっきりけいぼうでひっぱたいてやったのだ。

「ぶごッ！？ガアあぁ！！」

　でも相手が怯んだのは一瞬だけ。又すぐ次の攻撃をまともに食らい、目の前が真っ赤に染まる。

「なんとか逃げ出す方法を･･何！？」

　またグリズリーの前にリスポーンし、奴から距離を取る。しかし前とは結果が違う。

「あいつの顔、負傷してる？」

　グリズリーは鼻血を流していた。見とれていたせいでまた攻撃を食らうが、次に戻ってもグリズリーの鼻血はそのままだ。

「こいつはひょっとして･･おらぁ！」

　グリズリーの右の耳に向かってけいぼうを叩きつけ、そのカウンターを受け即死する。死ぬ度に少しだけ痛みはあったが、小さな針を刺された程度のものだった。次に戻った時、グリズリーを見て確信する。

「これはリスポ－ンじゃない！復活だ！戦闘は続いているからダメージは蓄積されてる！」

　グリズリーは耳と鼻から血を流していた。これなら『いつか』勝てるッッ！！そう確信した。
そこからは復活してはけいぼうを全力でたたき込み、距離が離れた場合は投げつけ、噛みつかれては相手の負傷した部位にけいぼうを突き刺し、一桁台のダメージの蓄積を何十回と繰り返した。やがて･･



ドサッ

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\ エンカウント終了 /　てきの　むれ　をたおした
１７０G　２７６４exp獲得　　LV　１　→　LV　３　UP
アイテム：　薬草（生）　　を手に入れた

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「はぁ～～リザルト画面、やっとたおせたぁ～」

　思わずその場にへたり込む。多分２０回以上は死んだと思うが、痛みは無くともその光景おぼえてるのが地味にくるぞこれ。あーつかれた。
ステータスも確認したいがまずはこっちを先に調べる。デバッグメニューだ。

「あーやっぱり増えてる。てか、このメニューはアレだ、実績解除みたいな？そんな感じでオープンされてくんだな」

　2行目の所に新たな項目が読めるようになっている。そこに書いているのは即時復活の文字だ。

「しかしなあ、すげーなこのデバッグメニュー。ここまで来るとこれ使ってんのばれたらメーカーに訴えられても文句言えんな」

　資金無限で即時復活。とりあえず現段階でゲーム内の神確定だわ俺。海に落ちるとか火山の火口の中に突き落とされるとかでもしない限り、なんでも出来る。よし、先ずはある程度の装備を調えよう。100Gで買い揃えるには『あの手段』しか無い。

　先程までウダウダと文句をいい、ログアウトを必死にしようとしていた人物とは思えない程に軽い動きでさっさと草刈りを終え報酬を受け取ると、勇者は鑑定局に向かった。その様、まさに『死線を越えて一皮むけた』？みたい？？



Aパート終了→