ドラゴン好きな人いる? 〜災竜の異世界紀行〜

兎鼡槻

第61話

「なぁ、もうちょっと速く走れないのか?」
「こ、これ以上速くすると、風に煽られた時に横転してしまうかもしれないので……。」
「でも、もう前の引き車とかかなり先を行ってるぞ?」
「あれ等は引き車が私達程大きくないので速度を多少上げても問題ないのでしょう。」
「ふーん……。」


すれ違う他の引き車や、空を飛んで渡る生き物達、そして、下には大小様々な船。景色は賑やかだし、荷台は揺れるし、車輪はガタガタうるせぇしで寝れたモンじゃない。にしても、国境とか言ってる割には意外と沢山の人が出入りしてるんだなぁ。


「こんなに人が行ったり来たりしてたら、こっそり隠れて入国する奴なんて沢山いそうだな。」
「何故こっそり隠れて入国するんですか?」
「何故って、そりゃあ、通行料を払わない為とか……。」
「通行料を何処に払うのですか。」
「そりゃ王国だろ。」


その答えを聞いて少し納得するような顔をするマレフィムだったが、そこに口を挟んだのはルウィアだった。


「つ、通行料というか入国料という事ですね。そんな制度はないですよ。入出国する人達を全員管理するなんて、で、出来ませんから。」
「え? でもオクルスを出る時に出国料を払わされただろ?」
「えっと、あれはただの通行料です。オクルスを出入りする時に支払うお金ですね。」
「な、なんだよそれ!? じゃあ金が無ければ街の外にも出られないのかよ!?」


もしマレフィムがいなかったら、オクルスに入れなかったって事じゃねえか。


「その、そんな制度がまかり通ってるのは、それだけ、オクルスが人々にとって必要とされてるからなんです。」
「そうですね。ロクでもない街なら誰も近寄らず自壊してしまうというのに、オクルスの統治者はとても優秀な方なのかもしれないですね。」
「ど、どうでしょうか。えっと、通行料の制度は大戦時に作られた制度がそのまま残っているだけで、偉い人にとって都合が良いから放って置かれているだけだとも言われてます……。」


政治とかはよく解らないけど、街に住んでる人からすれば良い迷惑だと思うんだが……。だからって自分がどうこう出来ないが政治なんだよなぁ。


「でもそうか。魔法を使ってこんだけ陸海空と好きな手段で行き来出来るんだもんな。小人族は姿を隠せる魔法も使えるって言ってたし、そりゃ管理は無理かぁ。でも、だからって橋の入り口に関所みたいに街作んなくてもさぁ……。」
「そ、そうじゃないんです。オクルスは帝国の侵攻を見張る為に作られた街で、橋はその後、不変種が楽に大河を渡れるように王国が作ったんですよ。な、なのでこの『戦禍の骨』は王国が管理しているんです。」
「あぁー……つまりこの橋の使用料みたいなのも兼ねてる訳か。」
「えっと、そうですね。」


俺は後ろを振り返ってもう一度オクルスを見返す。あの城壁は増改築を繰り返しているせいで綺麗な円形じゃないんだろうな。戦時中はとりあえず基地を広げてけ! って感じで狭くなった側から継ぎ足していったんだろう。だけど、今は休戦となって拡がった空間だけが残り、西通りみたいな掃き溜めが出来てしまったって感じなのかな。


「……入るのも有料じゃオクルスから出た後、帰れないなんてのもいるんじゃないか?」
「え、えぇ、いますよ。オクルスの外の西側や南側には零し街と呼ばれる貧民街があります。その、そこは、オクルスの西通りで裏家業を営んでいる人達の下っ端とかが沢山住んでいるそうです。」
「真の掃き溜めはそこだったか……この橋を渡った先の街はオクルスより雰囲気の良い場所だといいんだけどな。」
「お、オクルスもそこまで悪くないと思うんですけどね……。」


不変種と可変種かぁ。ファイマンさんやアニーさん、ダロウ一家やパパド達。良い人に種類もなんも無いと思うけどな。そりゃキュヴィティみたいなのもいれば、この前裏路地で会ったような奴もいたけど……って今んとこ悪人らしい悪人は可変種だけ……いやいやイカンイカン。こういうので差別意識が生まれちまうんだよな。あのホビット族のロイとかリアンって奴も面倒な奴だったし種族は関係ないだろ。うん。


「まだまだ掛かりそうだな。飯でも買ってくりゃ良かった。橋を降りたとこの街で何か美味しい物を買ってくれよ。」
「私も少しお腹が空いてきていますが、少しは節約する事を考えないといけません。もし、そこで高い通行料を取られたらどうするのですか?」
「まーた金取られんの? 金が足りなかったらどうすんだよ。」
「だ、大丈夫ですよ。『テラ・トゥエルナ』に入る際に通行料は取られなかったはずです。」
「テラ……? それが橋を降りたとこにある街なのか?」
「え、えぇ?」
「ん?」


もしかして常識だったか? まずい質問をしちまったかな。


「すいません。ソーゴさんは完全なる王国育ちでして帝国の知識は殆ど持ち合わせていないのです。」
「ほ、本当に珍しい家の出なのですね。竜人種なら帝国の話をこれでもかという程親から聞かされるはずなのに……。」
「悪かったな。それで、そのなんとかってのは何なんだよ。」


このままだと馬鹿キャラの様な扱いになってしまうが、聞くは一時の恥だ。一般常識みたいだし、ここは恥を忍んでもしっかり聞いておいた方がいいだろう。


「『テラ・トゥエルナ』とは王国の名前ですよ。」
「は? 王国? 王国って今出たところだろ?」
「えぇ。そして『テラ・トゥエルナ』も王国です。」
「……? いや、橋の向こうが帝国なんだろ? あぁ! その『テラ・トゥエルナ』って国を挟んで向こうにあるって事か! 帝国って結構遠いんだな! ってか他にも国が――。」
「全然違います。『テラ・トゥエルナ』は王国であり帝国です。帝国は複数の王国の集まりという意味ですよ。」
「え、えぇ!? 複数の王国!? 複数って幾つだよ!?」
「4つ。獣人種の国、植人種の国、魚人種の国を束ねる竜人種の国。それが帝国です。」


4つの国!? そんなとこと戦争してるのに不変種の王国は負けてないのかよ!?


「(結構経ったのに帝国はまだ虫人種を引き入れられてないんだね。)」


急にそんな事を呟くミィ。そう言えば可変種って大きく分けて5種類いるんだっけ。なんで1種だけはぶられてんだろ。


「ホワルドフ王国出身とは言えど、これからは少しずつ帝国の知識を入れていった方がいいですね。」
「今から帝国に入るんだもんな。しかし、そんな幾つも国が分かれてたら一々通行料なんて取ってられないか。んで、そのテラなんとかって国はどの種族の国なんだ?」
「『テラ・トゥエルナ』です。見ての通り、植人種ですよ。」


そう言ってマレフィムが指差した先は橋の右側の大地である。そこには白銀竜の森と同じくらい広大な森が拡がっていた。また森かぁ……森はもうよくないか? せっかく帝国に来たんだからもっと違う景色が見てぇよ……。


「あ、あの森はとても迷い易くて危険なんです。父さんや母さんも気を張らせて方角を確かめていました。一応王宮までは道があるので安全なのですが、目的地の村の方角へは何も道標が無いので……。」


あぁ、そっか。王国なんだから街や道はあるよな。白銀竜みたいなただの森みたいなのを想像してたけど行って見れば案外違う感じなのかも。それに良く見たらなんか白銀竜の森と比べると生えてる木の種類が違うようにも見える。というか、ここまで来ると白銀竜の森も見えるな。そういや白銀竜の森からオクルスを挟んだ反対側はどうなってるんだろうか。左の後ろ側は……岩肌が目立つ山だな。殆ど草も生えちゃいない。運河を越えた帝国側は……こっちも余り草が生えてない凸凹した荒地だ。植人種の国とは正反対な地形だなぁ。でも、こう橋を挟んで違う地形があるのは白銀竜と森と渇望の丘陵に似ている感じにも見える。


「荷台の上でグルグル回ってると落ちてしまいますよ? 景色を見るのが楽しいのは理解できますが、落ち着いて座っていてください。」


マレフィムに子供を諭す様な注意をされ少し恥ずかしくなった俺は軽く咳払いをして座りなおす。


「(クロロ、今から帝国に行くけど不安はない?)」
「(寧ろワクワクしかない。)」
「(それならいいんだけど……私、クロロをどうにかしようとする人がいたら殺すから。)」


……最近、このミィの姿勢が少し理解できるようになってきた。最初は物騒だとか際どい冗談だなんて思ってたけど、オクルスで良くわかった。これは本気なんだって。でも、俺はそれを恐ろしいとは思わない。何故なら俺だって食いたい奴は食うという意味では同じだからである。


「(ありがとう。でも騒ぎを起こしたら逆にピンチになったりもするんだからな。)」
「(うん。それは気をつけるよ。)」
「は、橋の端が見えましたよ!」


ルウィアがそう叫んだので、俺も引き車の進む先を見る。そこには高い橋に合わせて石材の組まれた山があった。そして、その麓にはまたビルの様な建物が幾つか建っている。


「この橋はなんでこんな高く造ったんだ?」
「えっと、増水や高波の対策です。それに、下を沢山の種族が通りますからね。」


俺は橋の下の小さい船を見る。どう考えても大きい船を通らせるという理由にしては高すぎる橋だ。メインはやはり増水や高波の為なのかもな。なんて考えた瞬間だった。ガタッと荷車が大きく跳ねた。


「ぬおっ!?」


なんとか転ばずに済んだが、先程からこういった事が何度も起きている。橋の上は荒削りな感じでボコボコしていて車輪の乗り物にはあまり優しくない仕上げだ。大きさは凄いけどこういうとこもしっかり造ってくれよ……。


「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとか。」
「その、この橋は何度も崩落しているので、継ぎ接ぎの部分に段差があったりしているんです。」
「……は? 崩落?」
「え、えぇ。あまり丈夫な橋ではないので……。」
「そ、それを早く……!」


いいや、逆だ! 橋を渡り始めていた頃に言われていたら気が気じゃなかった! 何度も崩落って……魔法で簡単に直せるから造りも雑って事かよ! 勘弁してくれ!


「な、なぁちょっと、も、もう少しスピード出ないか?」
「だ、駄目です。ここまで来て横転してしまったら、ぼ、僕、立ち直れなくなっちゃいます……!」
「だーいじょうぶだって! もしもの時はこのアメリ先生がだな!」
「やめなさい。」


マレフィムが諌める口調で俺の脳天にマジカルスマッシュパンチ。こういうのも止めて欲しいなぁ……ミィ。


「ソーゴさんのその調子に乗る癖もこの旅で直したいものですね。」
「だって崩落したらこわいじゃんかぁ……。」
「ほ、崩落するのは大体天気が荒れてる時ですよ。し、心配させるような事を言ってしまってすみません。」
「謝る必要はございません。ソーゴさんの矮小な心が問題なのです。そこも鍛えながら旅をしましょう。」
「(ミィ! もし、橋が崩落したら守ってくれよ!)」
「(え? う、うん。)」


絶対的な味方はお前だけだ! ミィ!

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