神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と大男

  その後、いくつかの質問と魔具の方向性を話し合って店を出た。
  あれらのアイテムがどんな魔具に生まれ変わるか楽しみだ。
  携帯を預けたせいで時間は分からないが、もうじき昼であり、飯の時間だ。今日もカドムさんところで食べるのもいいが、久々にウリクさんの手料理も食べたい。


「いらっしゃい、圭介さん。どうぞ上がって」
「こんにちわ、ウリクさん。お邪魔します」
  勝手知ったる人の家。いつもの部屋に俺がよく使った椅子に座る。向かい側にウリクさんが座る。
「今日はウリクさんにプレゼントがあるんですよ」
「プレゼントですか?」
  少しだけ瞳に光が差した気がした。
「これですよ」
  鞄から一つの小瓶を取り出す。
「もしかして、香水ですか?」
「よく分かりましたね」
「私、鼻がよく効くんですよ」
(ああ、狗族の血を)
「なるほど。それだと、ウリクさんの鼻だと匂いがキツいんじゃ…」
「そういうわけでもないですよ。長時間匂いを嗅げばなれますから、刺激臭は別ですけどね」
  笑うウリクさん。やっぱりかわいいな。
「はいこれ、良かったらつけてみせてくださいよ」
  香水を手渡して要望を出してみる。
「そうですね。ちょっと待っててください」
  小瓶の蓋を取り、数滴だけ掌に落とす。華やかに甘い香りが部屋を満たす。
「あの頃はウリクさんに色々と面倒を見てもらって何かを恩返しがしたくて…それで少しでも疲れを緩和できるものって考えてそれを選んだんですよ」
「あら、そうだったんですか。確かに圭介さんにこんな素敵なものをいただけたら疲れなんてどこかに飛びますよ」
  嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。
「そうだ。せっかくだから一緒に昼食を摂りませんか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
  自然と笑みが溢れる。ウリクさんの手料理が食べられるからか、プレゼントした香水を身につけてくれたことのどちらか分からない。分からないけど嬉しかった。
(そういえば、自分で稼いでなにかをプレゼントってしたことなかったな…)


  つまりはそういうことだ。






  美味しい食事を終えて、ユニ邸を後にする。次に向かうのはギルド『ブルグス』だ。再会の喜びを分かち合いたい気持ちもあるが、人を探しているためだ。なんとなく街中を歩いているのはその一貫でもある。
「邪魔するでー」
「邪魔するんやったら帰ってー」
「あいよー」


  …。


「じゃなくて!」
「冗談よ。いらっしゃい野村さん久しぶりね」
  ルルさんが迎え入れてくれた。
「まぁ色々とありまして」
「そうね色々とあったみたいね。どんなことがあったのか聞いてみたいわ」
  クスクスと笑う。
「あー…それはまた今度ってことで、それよりもケアがこっちに来たと思うんすけど、知りませんか?」
  苦笑いをしつつも本題にはいる。
「ケア?彼なら一昨日にクエストを受けて少し出ているはずよ?たぶん、今日の夕方には戻ってくると思うんだけど」
「じゃあ、あいつが戻ってきたら引き留めておいてもらえませんか?」
「ええ、いいけど彼に何か用なの?」
「まぁ、一人の少女を救いにね。それより、夕方まででこなせそうなクエストってありますか?」
「あるわよ、ワーク種の依頼で内容、聞いてみる?」
「ええ是非」




  説明によると開墾をするための依頼、街の人間も手伝っているが今の調子では次の春までに種を蒔くことができない。そうすると地主は損をすることになる。そこで力自慢の人間がいそうなギルドの連中に依頼が来る。ようは派遣だ。今から手伝えば日給銀8枚の半分、4枚を貰えるらしい。働きぶり次第ではもっと貰えるとか。現場は南西の林。木を切って、石を運んだり、色々とするみたい。


「じゃあ、それ受けます」
「分かったわ」
  サラサラと紙に何かを書く。
「これを見せればギルドからの紹介と分かるわ。現場監督の人に見せてね」
「了解です」
「じゃあ、がんばってらっしゃいね」
  こうしてクエストを受注することになった。






「おめぇがギルドんとこで紹介された、えーっと、ノムランか?ちいさいなりだが邪魔だけはするなよ。おめぇは木材の伐採と運搬してろ。あそこだ」
  指差して指示する監督。「分かりました」
  言われたところに向かうとそこで指示している人間がいた。その人に指示を仰ぐと斧を持たされて一画の伐採を任された。そこにいってみると俺と同じぐらいの若い連中が一生懸命木材の運び出しをしていた。
「お前、見ない顔だな?新参か?」
  かなり体格のいい男が斧を肩に担いでやってきた。(こいつ、ジョーカーよりでかくね?)
  ジョーカーほど引き締まってはいないが、それでもいいなりをしている。
「ギルドのほうで依頼を受けて来ました」
「ああ、お前ワーカーか。新参ものはあっちで木の運搬でもやってろ。その斧は俺が使ってやるよ」
  俺の持っている斧に手を伸ばすが、それを避ける。「ああん?いっちょ前に伐採したがってんのか?」
  何故かこの大男は木を斬り倒す=力自慢とでも思ってるのか他の人間に切りたがらせなかった。
「まぁ、俺が任せられた仕事なんで」
  無視して人気のないそこらへんの木を斧で切り倒そうとする。
「ほう。俺と勝負したがってんだな?新参」
(なんでそうなる)
「先に木を5本だ。5本先に切った方が勝ちだ」
(なんでそうなる)
「いくぞ?いっせーの!」
「「せ!」」
(あ、釣られた)
  こうなったら引けない。お互いに駆けて木を切る。
<バキッ!>
(やべっ!?)
  斧の先端が木に食い込み、持ち手だけが手中に残った。
「はは、どうした?不良品でも渡されたか?安心しろ。木を切るのは俺一人で十分だ!」
  こうなったら少し卑怯だけど…。『森の雫』で折れた斧を直して更に強度を高める。そうこうしているうちに大男が一本切り倒す。どうにかこうにか木にめり込んだ斧を救出する。そのタイミングで大男が二本目を切り倒す。
「どうしたヒョロイの?こっちはもう三本目だぜ」
「うるさい、これから先はワンサイドゲームだ」
  斧を下段に構えて斬り倒し損ねた木と対峙する。樹齢5、60年ほどの太い木を、


切る!


「躑躅!」


  一・刀・両・断!


「なんだよ…今の…」
  俺の掛け声に反応したのかこっちを振り向いて呆けている。そんな大男のすぐ側に木が倒れる。


「小野桜!」
  幹の半分ほどまで抉り、その勢いで木に向かって跳躍。足のバネを利用して今えぐった木に思いっきり飛び蹴りをかます。木の葉が鳴きながらドスンと倒れる。


「薔薇!」
  浅い連続切りを全体的に降り下ろす。どんどん幹が痩せ細り自重に耐えきれず折れる。


「蒲公英!」
  斧を思いっきり投擲して突き刺さった斧を思いっきり蹴る!細目の木を狙ったためそれだけで折れる。


「朝顔!昼顔!夕顔!」
  突き、左逆袈裟、左袈裟の三連コンボ!
  十字の傷は徐々に大きくなり倒れる。


「どうだい大男?ヒョロくてもこれぐらいできるぜ?」






「なんだ、あんたソルバーだったのか。それじゃあ俺が勝てる分けねぇゃ」
  何故か一緒に木を切ることになった。
  こうやって話してみると色々と分かることがあった。大男―――カウザンが伐採に拘るのは端的に言うと報酬が多いからだ。それにカウザンを見ていると分かるが修行を受けていないにもかかわらず体内魔素が充実している。もって生まれた体格に恵まれていることと修行代わりにこういった仕事で自然と培われたのだろう。
「まぁソルバーといってもまだまだアマチュアだよ。それにカウザンだって凄い力じゃないか。魔素の充足感は並みじゃないよ。誰かに師事してもらって鍛えればきっと優れた戦士になるぜ俺なんかよりもな」
「そ、そうかな」
  照れながらも動かす斧の勢いは凄まじい。
「ああ、たぶん鍛えたカウザンと純粋に力比べをしたらたぶん負けるな」
  最後に今は勝てるけどなと添える。そんな
「俺な、将来はソルバーになるのが夢なんだよ」
「へぇ…そりゃまたなんで?」
「俺の親父がソルバーだったんだよ。そんな親父の話をガキの頃から聞いたせいからか憧れてたわけさ」
  カウザンの手が止まる。「?」
  カウザンは何か思い詰めたように斧を握った手をじっと見つめる。
「なぁ…圭介、ソルバーってどんな仕事だ?」
  おっと…。
「どんな仕事って、ギルドでクエストを受けて解決するのがソルバーだろ?」
「そういうことじゃなくてだな…。圭介はソルバーになって良かったと思うか?」
  …。
「なぁ?どうなんだ?」
  …。
「圭介?」
「俺がソルバーになった最初の動機はソルバーがカッコイイって思ったからなんだよね。カウザンはソルバーになるための試験の内容って知ってるか?」
「あれだろ?ピリスの討伐」
「そうなんだよね。ピリスの討伐。つまり殺すんだよ」
  少しだけ体感温度が下がる。殺すという単語にカウザンが緊張したためか、俺があのときの感触を思い出したせいか。
「あの一瞬だけはかなりキツかった。虫一匹殺しても罪悪感なんて覚えないのにな」
「でも、しょうがないだろ?」
「ああ、しょうがない。殺めたのは俺だからな」
「なんだ?圭介は殺しは良くないって言ってんのか?」
「いいや、そんなつもりはないよ。命を奪うことは手段だ。だけど決して目的ではない」
  カウザンは良く分からないといった顔をしている。
「つまり、どういうことだ?」
「どういうことだろうな」
  笑ってしまう。俺にとって殺すという行為がどんな位置付けなのか定まってない。ただ…。
「ただな、力を誇示するために命を奪うような無意味な殺生はしないにこしたことはない」
「そっか…。圭介にとってソルバーは命を奪うことなのか」
「それだけじゃないぜ」
「え?」
「依頼をこなしたら依頼主は喜ぶ。報酬が貰えて俺が喜ぶ。その報酬で大切な人にプレゼントでも買えば更に喜んでくれる」
「そっか」
「おう、期待に沿った解答だったかな?」
「いや、どうなんだろうな。聞いてみたかっただけだから、ただ…うーん…上手く口にできないけど…いや、やっぱよくわかんねぇや」
「まぁそんなもんだよ。俺だってよくわかんねぇや」
  互いに苦笑いをする。だけどどこかスッキリした顔してる。

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