神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)は久々の再開ができるのか?2

 リリスちゃんがいるという工房を訪れてみたが、リリスちゃんは不在とのこと。仕方ないので、また改めてくることとなった。
「仕方ないか」
 まだまだ昼になる手前。次に向かうは『ミクの祝福』。約束を果たすために行かなきゃならない場所がある。


「ちょっとココで待っててくれないかな?」
 店の前で3人に申し訳ないと思いつつも頼む。
「分かりました」
「カンナも中に入る!」
「カンナ様。あまり野村さんに迷惑をかけてはいけませんよ?」
 カンナのやつは少しだけ駄々をこねるがニーナちゃんに諌められながら頬をプクーっと膨らませてた。苦笑いをしつつも俺は店内に入る。
「…いらっしゃいませ」
 カウンターで伏せている少女がめんどくさそうに言葉を紡ぐ。
「久しぶりですね」
 俯せたジルちゃんに声をかける。ゆっくりと顔を上げるとボサボサとした前髪の向こう側の瞳がこちらを見つめる。
「!?」
 驚いたのか急に体を持ち上げ、髪を掻き揚げながらこちらをじっと見つめる。
「お久しぶりです」
 軽く会釈をしながらカウンターに近づく。久しぶりに訪れた店内の様子は変わらない。少しだけ薄暗く、いろいろなものが陳列されていた。陳列されたもののなかにアレを見つける。
「これ、お願いします」
 一つの小瓶とポケットにいれたままにしていた木片を取り出す。
「…野村さん?」
 ジルちゃんは不思議そうに垂れ目を真ん丸にしながらこちらを見つめる。
「そうだけど?」
 微笑みながらからかうように言う。
「幽霊にでも見えるかな」
「…お金を払ってくれるなら幽霊でもいいわ」
 少しだけ目線を逸らしながら素っ気なく言う。けれども、そんな仕草でも少しだけうれしかった。
「オーケー、お金ならここにあるよ」
 銀貨を7枚だけカウンター添える。
「…」
 ジルちゃんは無言でカウンターに置かれた銀貨を見つめる。
「…本当に帰ってきたんですね」
 暗がりの店内でもはっきりと分かるほどに透き通る白い手が銀貨を一枚ずつ数えるようにして引き寄せる。
「…どうぞ」
 代金と引き換えに香水の入った小瓶を差し出され、それを受け取る。薄く色づいた小瓶の中を透明な香水が揺れる。
「あなたはどこか不思議な人ですね」
 落ち着いた声が彼女の口元から発せられる。
「そう…かな?」
 地元の人間とばかり接していれば俺のような人間は変なところがあるのかもしれない。
「ええ」
 そう返事したところでジルちゃんの後ろから声が聞こえてきた。
「おーいジル、昼食だぞ」
 年配の男性が顔を出してきた。おそらくジルちゃんのお父さんだろう。細見で身なりは綺麗にしており、顎に髭を蓄えて貫禄がある。目元はジルちゃんと同じでやや垂れ目であり、優しそうな印象を与える。
「分かった。お父さん」
 ジルちゃんは傍に置いてあった杖を取り、立ち上がる。それは魔具ではなく歩くことを補助するための純粋な杖だった。
「おや、お客さんがいたのかい?」
「予約していた品物を受け取りに来ただけだから大丈夫よ」
 そういってジルちゃんは奥に引っ込む。
「すみません。お客さん。娘のジルは根はやさしいのですが、人と話をするのが苦手なのか少しぶっきらぼうな物言いをするんですよ」
「あ、いえ、気にしてませんから」
「そう言っていただけると助かります。ジルは足が不自由なせいであまり外に出ることがないので尚更人と関わる機会が少ないんです。良ければまたお店のほうに来ていただけませんか?」
「はい、またそのうち来ますよ」
「ありがとうございます。そうしていただけるとジルも喜びます」
「喜ぶんですか?」
「はい、さっきのジルの表情は少しだけうれしそうでしたから」
(え?とてもそうは見えなかったけど…)
 口に出しそうになったが口にはしなかった。
「不思議そうな顔をなさってますね。ジルは私の娘ですから分かるんですよ」
「そうなんですか」
「ええ」
 そのあと、少しだけジルちゃんのお父さんと話しをした。ジルちゃんについても。






 店を離れ、待っていた三人に詫びの意味を込めて皆が希望する料理を食べることにした。その結果が
「ガハハハ、あの時の坊主がこんな綺麗な女の子を連れてくるとはな」
 ココ『ネリウスの加護』に来ることとなった。俺が知っている食事処といえばココしかなかったからである。別に量のわりに安くつくという理由ではない。
「綺麗?カンナは綺麗?」
「はい、カンナ様はとても可愛らしく綺麗ですよ」
 席についたまま器用にはしゃぐカンナを隣にいるニーナ嬢が褒め殺す。俺の隣にいる凛ちゃんは涼しい顔をしながら水を飲んでいた。
「ちょっと待ってな。すぐに料理を作ってやるからな」
 そういって店主にして料理長のカドムさんはキッチンのほうへと行く。
「ここの料理は美味いぜ。あのおっさん、顔はコワモテだけど意外なことに腕は確かなんだよな」
 俺も机の上に並べられた水の入ったコップを手に取る。

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