神が遊んだ不完全な世界
主人公(仮)の一ヶ月後
  なんやかんやで色々とあった一月が経った。どんなことがあったかを簡単に振り返ろう。
  朝練では山田さんを訪れたり、近郊の森で恐竜と見間違えるような大型動物との戦闘。
  午前の鍛練では基礎体力作り。ランニングやらなんやら。
  午後は剣の鍛錬。若草流剣術の技の会得。これが一番楽しかった。サクラ以外にもキクやモミジ、ユリやバラといった技をたくさん会得した。正直な話、皆からは奇異な視線を向けられたが無視した。
  他にも分かったことがあった。
  魔素が体内に満ちているときは疲労回復や怪我の回復が早くなる。そのため俺は夜中にこっそりと屋敷を抜け出して魔素の還元をしていた。正直な話、魔術の練習もしたかったが師範に止められていたため剣術のみに集中していた。
  実力自体もかなりあがった。相変わらず、あの3人には勝てないけど、皐月ちゃんとは互角の勝負ができるようになった。
  そんなある日、道場にお客さんが来た。
「野村圭介さんはいらっしゃいますか?」
  道場にやってきた人物はそう言った。不気味なにやけ面をした中年の人物。服装からしてササニシキの住人ではない。
「あなたが野村圭介さんですね?」
  確認をしながらおっさんは杖を俺に向けて突き出した。
  よく見ると杖の先端から赤い光が見える。あれは…
(マズイ!)
「皆、伏せろ!」
  咄嗟に十夜を構えた。おっさんの杖から火球が生み出され俺に迫る。避けることは簡単だが、この火球が向かう先は道場の中で、門下生がまだいるのだ。ここで避けるわけにはいかない!
  魔素を腕を通して十夜に流す。そのとき、腕にしていたブレスレットが共鳴した。
  火球に向けて振るった十夜は、すさまじい蒸気を出して火球を薙ぎ払った。
  ポカーン
  ポカーン
  ポカーン
  俺とおっさんと道場内の人が同じ思いを抱いている。
  Why?
  当事者の俺だけがなんとなく分かる。十夜に魔素を流したとき、水の魔具が反応したのだ。つまり、森と水の親和性とでも言おうか。
  とにかく今がチャンスだ。
  一気に距離を詰めて!ツバキ!
  相手の眼前まで迫り、山なりに跳ね上がり、相手の頭上をとる。この技の特徴は奇襲にある。技の条件上、必ず宙に浮いてしまう。しかしリスクはあるがうまく決まれば相手の背中を取れ、体を捻れば滞空状態で頭に一発食らわせられる。
  相手の首に鋭い一振り。
「十夜が刃だったら、あんたは今頃首無しだぜ」
  気絶させたおっさんに一声かける。
  実際のところ、首に衝撃を与えても人間はなかなか意識を失わない。無理な力を込めれば簡単に首が折れる。
  打撃の瞬間、脛椎をを通る血液中の水分を一瞬だけ停止させた。
  人間は魔素の塊で敵対する人間に対する魔術はレジストされる。だからこそ物理的な接触、且つ相手が一瞬でも集中力を乱せばこの通り。
「あぶないから、この火の魔具はボッシュートです」
  赤い石が取り付けられた杖を取り上げる。
  次いで、麻縄で拘束した。
  とりあえず、これで一段落だ。
  そして思った。
(そろそろか…)
  居場所が割れてしまった。つまり、今後は安穏としてはいられない。剣術も十分鍛えた。今なら神威の塔も攻略できるだろう。そんな漠然とした楽観でいた。
「圭介、大丈夫?」
「ん?ああ、平気平気」
  凛ちゃんが声をかけてくれる。なんだかんだと一月も一緒にいると仲も良くなれるもんだ。それだけに、お別れが近いのが辛い。
「そろそろ旅立つ時かな…。うん、なんか主人公っぽいな」
  キシシと笑う俺。
「もう行くんですか?まだ半月残っていますよ?」
「んー、最初はその予定だったんだけどね~。なんか、居場所がバレちゃったみたいだからさ」
  もともと師範が大丈夫だろうと勝手に決めつけた期間だ。こういうこともある。
「そうですか…」
  そう残念がるなよ。俺も別れは辛いさ。
  正直な話、神威の塔のことなんてこの一月で半分は忘れていた。
  このマジでダラしないおっさんが喧嘩をふっかけなきゃそれもいいかなと思ってたのによ。
  マジでこのおっさんを炭化させてやろうか?都合がいいことに火の魔具を手に入れたことだし。
  …いや、やめよう。人の焦げた臭いなんて嗅ぎたくないからな。
  現在の状況を整理しよう。
  今日は師範が依頼のため空けており、ジョーカーは先週の問題の後処理のため呼ばれ、雪鷹は先々週の騒動の後片付けのため不在だ。皐月ちゃんは現在、門下生のための食事の準備中。そして、俺は凛ちゃんと鍛錬をしつつ、門下生達の面倒を見ていた。
  そしてこの騒動。
「みんなー、このおっさんは無視して練習を続けてくれ。サボったら皐月ちゃんの手料理は抜きだ」
  適当に門下生たちに指示を与える。おっさんの処理は俺がするべきだからな。
「氷川、あとはよろしく」
「…わかりました」
  そう面倒くさがるな。真の強者は弱い者を守るものだよ。まぁ一度も凛ちゃんに勝てたことはないけど…。いや、一回はあったか。
  おっさんを片手で持ち上げる。
  道場から退出し外に出る。さすがに冬ともなると寒いっすね。
「おーい、おっさん?生きてるかー?」
  何度か揺り動かすがおっさんは目覚めない。
  水を呼び出し顔面にぶっかける。大気中の水分はやはり、ここササニシキでも少なかった。
「!ん?う、んあ?あ!」
「目は覚めましたか?」
  慌てた様子で顔を背けながら現在の状況を把握しようとするおっさん。
パァン!
もういっちょ盛大に水をぶっかけた。
「な、なにをするんだ!」
「あー、喋らないでください。発言権はあなたにありません」
もう一度盛大に水をぶっかける。
「んーとね、話は簡潔に行こう。どうして、俺がココにいると分かった?」
「………」
ダンマリを決め込むおっさん。
「いや、質問したことには答えてもいいよ」
「………」
それでも沈黙を守るおっさん。
「あー、黙秘権?んー、まぁそれでもいいんだけどさ」
俺は水を呼び出し手の平で水球を形作る。
「さてと、これなーんだ?」
そして、もう一方の手で掴んでいた杖を見せつける。
「やっぱりさー、冬は寒いからさ~。あったかいほうがいいよね~」
杖に軽く魔素を流し込み火を灯す。
「こんな寒い日は熱い風呂に入って温まりたいと思いませんか?」
土のペンダントを使い、勝手ながら庭に大きめの穴をあける。もちろん、粘土を敷き詰めている。
「そういえば、人間っていうのはタンパク質の塊なんですよ~。そして温度が45度以上になるとタンパク質は固くなるんです。ゆで卵を食べたことがありますか?あれと同じことです。人間ももちるんツルツルのお肌になれますよ♪まぁ実際には人間はキレイにタンパク質の凝固が起きません。60度~80度でやっと凝固します。この意味、わかりますか?」
おっさんの顔が少しずつ青くなっている気がする。まぁこの意味が分からなければ、カナリの鈍感か危機管理能力の著しい欠如だろう。そこのところいくと、このおっさんは随分とまともだ。
「まぁそう心配しなくても大丈夫ですよ。ちょっとした心遣いです。遠路はるばるササニシキまでやってきてくださったんですから、昼間から露天風呂なんて贅沢の極みですよ~♪」
水を溜め、熱した石を水の中へ投じる。凄まじい蒸気が発生した。暖かい湯けむりが体を包み込む。
「いや~、ついつい湯加減を間違えちゃいました」
テヘペロ。
「まぁ、おじさんも早く暖まらないと風邪を引きますよ?」
まぁ茶番はコレぐらいにしようかな。
「ところでおじさん?誰から俺のことを聞きましたか?」
おっさんは身震いをしながら、口を開いた。
「巫女様の、、、巫女様の言です」
あら、あっさりと答えてくれるのね?それにしても、また巫女の言か…。
「それで?俺を襲おうとしたのは誰の指示なんだい?その巫女様って人かい?」
「…いいえ、巫女様の指示ではありません」
「それじゃあ誰が?」
「………」
また、だんまりを決め込むおっさん。そこまで言っておいて、なんで言わないかな?
「あー、今日はいい天気だな~。こんな日は露天風呂に入りたいとおもません?」
「答えます!私に指示したのは司教様です!」
「ふーん、司教ね~?偉いのそいつ?」
「司教様は神威の塔の中では攻信派のリーダーです」
「ん?攻信派ってことは他にも○○派ってのがあるん?」
「攻信派の他には守信派、保信派、改信派といったものがあります。他にも小さな集まりもあります。これだけ答えたんですから、縄を外してください!もうアナタを狙ったりしませんから!」
「んー、そう?んじゃま、よっと」
俺はおっさんを露天風呂に突き落とした。
まぁ、実際はいい湯加減なんだけどね。
「まぁ水ぶっかけたのは悪かったよ。十分あったまってから上がってきな」
ポカーン。
返事がない、ただの屍だ。
ってか、実際コイツ気絶してんじゃね?
やれやれだぜ。
  朝練では山田さんを訪れたり、近郊の森で恐竜と見間違えるような大型動物との戦闘。
  午前の鍛練では基礎体力作り。ランニングやらなんやら。
  午後は剣の鍛錬。若草流剣術の技の会得。これが一番楽しかった。サクラ以外にもキクやモミジ、ユリやバラといった技をたくさん会得した。正直な話、皆からは奇異な視線を向けられたが無視した。
  他にも分かったことがあった。
  魔素が体内に満ちているときは疲労回復や怪我の回復が早くなる。そのため俺は夜中にこっそりと屋敷を抜け出して魔素の還元をしていた。正直な話、魔術の練習もしたかったが師範に止められていたため剣術のみに集中していた。
  実力自体もかなりあがった。相変わらず、あの3人には勝てないけど、皐月ちゃんとは互角の勝負ができるようになった。
  そんなある日、道場にお客さんが来た。
「野村圭介さんはいらっしゃいますか?」
  道場にやってきた人物はそう言った。不気味なにやけ面をした中年の人物。服装からしてササニシキの住人ではない。
「あなたが野村圭介さんですね?」
  確認をしながらおっさんは杖を俺に向けて突き出した。
  よく見ると杖の先端から赤い光が見える。あれは…
(マズイ!)
「皆、伏せろ!」
  咄嗟に十夜を構えた。おっさんの杖から火球が生み出され俺に迫る。避けることは簡単だが、この火球が向かう先は道場の中で、門下生がまだいるのだ。ここで避けるわけにはいかない!
  魔素を腕を通して十夜に流す。そのとき、腕にしていたブレスレットが共鳴した。
  火球に向けて振るった十夜は、すさまじい蒸気を出して火球を薙ぎ払った。
  ポカーン
  ポカーン
  ポカーン
  俺とおっさんと道場内の人が同じ思いを抱いている。
  Why?
  当事者の俺だけがなんとなく分かる。十夜に魔素を流したとき、水の魔具が反応したのだ。つまり、森と水の親和性とでも言おうか。
  とにかく今がチャンスだ。
  一気に距離を詰めて!ツバキ!
  相手の眼前まで迫り、山なりに跳ね上がり、相手の頭上をとる。この技の特徴は奇襲にある。技の条件上、必ず宙に浮いてしまう。しかしリスクはあるがうまく決まれば相手の背中を取れ、体を捻れば滞空状態で頭に一発食らわせられる。
  相手の首に鋭い一振り。
「十夜が刃だったら、あんたは今頃首無しだぜ」
  気絶させたおっさんに一声かける。
  実際のところ、首に衝撃を与えても人間はなかなか意識を失わない。無理な力を込めれば簡単に首が折れる。
  打撃の瞬間、脛椎をを通る血液中の水分を一瞬だけ停止させた。
  人間は魔素の塊で敵対する人間に対する魔術はレジストされる。だからこそ物理的な接触、且つ相手が一瞬でも集中力を乱せばこの通り。
「あぶないから、この火の魔具はボッシュートです」
  赤い石が取り付けられた杖を取り上げる。
  次いで、麻縄で拘束した。
  とりあえず、これで一段落だ。
  そして思った。
(そろそろか…)
  居場所が割れてしまった。つまり、今後は安穏としてはいられない。剣術も十分鍛えた。今なら神威の塔も攻略できるだろう。そんな漠然とした楽観でいた。
「圭介、大丈夫?」
「ん?ああ、平気平気」
  凛ちゃんが声をかけてくれる。なんだかんだと一月も一緒にいると仲も良くなれるもんだ。それだけに、お別れが近いのが辛い。
「そろそろ旅立つ時かな…。うん、なんか主人公っぽいな」
  キシシと笑う俺。
「もう行くんですか?まだ半月残っていますよ?」
「んー、最初はその予定だったんだけどね~。なんか、居場所がバレちゃったみたいだからさ」
  もともと師範が大丈夫だろうと勝手に決めつけた期間だ。こういうこともある。
「そうですか…」
  そう残念がるなよ。俺も別れは辛いさ。
  正直な話、神威の塔のことなんてこの一月で半分は忘れていた。
  このマジでダラしないおっさんが喧嘩をふっかけなきゃそれもいいかなと思ってたのによ。
  マジでこのおっさんを炭化させてやろうか?都合がいいことに火の魔具を手に入れたことだし。
  …いや、やめよう。人の焦げた臭いなんて嗅ぎたくないからな。
  現在の状況を整理しよう。
  今日は師範が依頼のため空けており、ジョーカーは先週の問題の後処理のため呼ばれ、雪鷹は先々週の騒動の後片付けのため不在だ。皐月ちゃんは現在、門下生のための食事の準備中。そして、俺は凛ちゃんと鍛錬をしつつ、門下生達の面倒を見ていた。
  そしてこの騒動。
「みんなー、このおっさんは無視して練習を続けてくれ。サボったら皐月ちゃんの手料理は抜きだ」
  適当に門下生たちに指示を与える。おっさんの処理は俺がするべきだからな。
「氷川、あとはよろしく」
「…わかりました」
  そう面倒くさがるな。真の強者は弱い者を守るものだよ。まぁ一度も凛ちゃんに勝てたことはないけど…。いや、一回はあったか。
  おっさんを片手で持ち上げる。
  道場から退出し外に出る。さすがに冬ともなると寒いっすね。
「おーい、おっさん?生きてるかー?」
  何度か揺り動かすがおっさんは目覚めない。
  水を呼び出し顔面にぶっかける。大気中の水分はやはり、ここササニシキでも少なかった。
「!ん?う、んあ?あ!」
「目は覚めましたか?」
  慌てた様子で顔を背けながら現在の状況を把握しようとするおっさん。
パァン!
もういっちょ盛大に水をぶっかけた。
「な、なにをするんだ!」
「あー、喋らないでください。発言権はあなたにありません」
もう一度盛大に水をぶっかける。
「んーとね、話は簡潔に行こう。どうして、俺がココにいると分かった?」
「………」
ダンマリを決め込むおっさん。
「いや、質問したことには答えてもいいよ」
「………」
それでも沈黙を守るおっさん。
「あー、黙秘権?んー、まぁそれでもいいんだけどさ」
俺は水を呼び出し手の平で水球を形作る。
「さてと、これなーんだ?」
そして、もう一方の手で掴んでいた杖を見せつける。
「やっぱりさー、冬は寒いからさ~。あったかいほうがいいよね~」
杖に軽く魔素を流し込み火を灯す。
「こんな寒い日は熱い風呂に入って温まりたいと思いませんか?」
土のペンダントを使い、勝手ながら庭に大きめの穴をあける。もちろん、粘土を敷き詰めている。
「そういえば、人間っていうのはタンパク質の塊なんですよ~。そして温度が45度以上になるとタンパク質は固くなるんです。ゆで卵を食べたことがありますか?あれと同じことです。人間ももちるんツルツルのお肌になれますよ♪まぁ実際には人間はキレイにタンパク質の凝固が起きません。60度~80度でやっと凝固します。この意味、わかりますか?」
おっさんの顔が少しずつ青くなっている気がする。まぁこの意味が分からなければ、カナリの鈍感か危機管理能力の著しい欠如だろう。そこのところいくと、このおっさんは随分とまともだ。
「まぁそう心配しなくても大丈夫ですよ。ちょっとした心遣いです。遠路はるばるササニシキまでやってきてくださったんですから、昼間から露天風呂なんて贅沢の極みですよ~♪」
水を溜め、熱した石を水の中へ投じる。凄まじい蒸気が発生した。暖かい湯けむりが体を包み込む。
「いや~、ついつい湯加減を間違えちゃいました」
テヘペロ。
「まぁ、おじさんも早く暖まらないと風邪を引きますよ?」
まぁ茶番はコレぐらいにしようかな。
「ところでおじさん?誰から俺のことを聞きましたか?」
おっさんは身震いをしながら、口を開いた。
「巫女様の、、、巫女様の言です」
あら、あっさりと答えてくれるのね?それにしても、また巫女の言か…。
「それで?俺を襲おうとしたのは誰の指示なんだい?その巫女様って人かい?」
「…いいえ、巫女様の指示ではありません」
「それじゃあ誰が?」
「………」
また、だんまりを決め込むおっさん。そこまで言っておいて、なんで言わないかな?
「あー、今日はいい天気だな~。こんな日は露天風呂に入りたいとおもません?」
「答えます!私に指示したのは司教様です!」
「ふーん、司教ね~?偉いのそいつ?」
「司教様は神威の塔の中では攻信派のリーダーです」
「ん?攻信派ってことは他にも○○派ってのがあるん?」
「攻信派の他には守信派、保信派、改信派といったものがあります。他にも小さな集まりもあります。これだけ答えたんですから、縄を外してください!もうアナタを狙ったりしませんから!」
「んー、そう?んじゃま、よっと」
俺はおっさんを露天風呂に突き落とした。
まぁ、実際はいい湯加減なんだけどね。
「まぁ水ぶっかけたのは悪かったよ。十分あったまってから上がってきな」
ポカーン。
返事がない、ただの屍だ。
ってか、実際コイツ気絶してんじゃね?
やれやれだぜ。
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