神が遊んだ不完全な世界
キャストと主人公(仮)
 暗い部屋に少女はいた。
  少女の肌は、一度もこの暗い部屋を出たことがないように白く、少女の瞳は一度も光を見たことがないように暗く、穢れを知らないように澄んでおり、少女の髪の色は純潔を表すように白く、髪の長さは今までの生の長さを表していた。
  彼女に名前は無い。
  この少女に名前はないが記号はある。
  『神子』。
  転じて『巫女』。
  彼女には私の意思を受け取り、それを伝える。
  ただ、それだけのデバイスでしかない。
  よって自我などはなく、半ば監禁されているといっても過言ではない。
  しかし、自我がない彼女は自ら出る意思もなく、監禁されている自覚がないならば、それは監禁ではなく保存と言うべきかもしれない。
  少女の側には常に二人以上の『巫女遣え』がいる。
  寝食を必要としない彼女の側に常に控えている。
  彼女達の役割は巫女の発した言葉を塔の神官に伝えることだ。
  つまり、私が巫女に何かを伝えれば、それは巫女遣えから神官に伝わる。
  それは一種の伝言ゲーム。誰かしらの意思・思想が入ればそれは意図も容易く私の言葉はねじ曲げられる。
  なんとも神を恐れぬ行為のように思えるが、各々は神を敬い、畏れ、礼節を尽くし、その上で私の言葉を解釈する。
  つまり、どうしても私の言葉は歪曲されるのである。
  これもまた、神の意思か。
  つまりはそういうこと。
  私はそれでもいいと思っているため、正さない。
  神は創成神ではあるが、万能ではない。
  この世界は不可解な矛盾を抱えながら成り立っている。
  きっとそれは知恵の輪をただ無闇に扱って偶然にも外すことが出来たことに似ている。
  どうやって外したのか?どうやれば再び知恵の輪を戻すことができるのか?
  それが分からない。
  だから、私は観察する。
  どうすれば世界は幸福に回るか?
  私が介入すれば必ずどこかに皺寄せがくる。
  私はマクロ的な影響力がある。
  対して、主人公(仮)はミクロ的な影響力を持つ。
  例えば、彼女達。
「姉さん。どうしたの?最近おかしいよ?」
  小麦色の肌の少女はもう一人の少女に問いかける。
「別に気にしないで」
  問われた少女は投げやりに答える。
「あの騒動から、ずっとその調子。もしかして、野村圭介のこと知ってるの?」
  小麦肌の少女は姉を問い詰めようと顔を寄せる。
「…えっと、」
「姉さん、やっぱり何か知ってるのね?」
「…うん」
  一拍置いて、姉は話す。
「野村さん、ウチの店を利用したの」
「…やっぱりか」
  小麦色の妹は一度、椅子に深く腰かける。
「それで、野村さんからコレを預かったの」
  姉はポケットから、折り畳まれた上質な紙を妹に手渡した。
「姉さん、これ…」
「野村さんから預かったの。これをあなたに作って欲しいらしいの」
  妹は紙に描かれているものをじっくり見る。
「姉さん…コレ…」
「それをあなたに作って欲しいらしいの」
「…なるほど。うん。コレなら私にも作れそう」
  妹の方は鍛冶師見習いとしての好奇心を、その一枚の紙によって呼び起こされたらしい。
「お姉ちゃん!コレ、持ってくね!」
  先程の問答などなかったかのように駆け出す。
  姉は妹に打ち明けることを躊躇った末の重圧から、妹の楽しそうな姿を見て随分と体が軽くなった。
「………野村さん。本当に神威の塔と争う気なのかな」
  少女は少年ように楽しむ男性を想う。
  そしてもう一人。
  カウンターで客の相手をするため、常に少女はそこに座っていた。
  薬の調合は父母が務め、時折少女が手伝うこともある。
  今の少女はカウンターに座ったまま、木片を転がしながら、あの日、唐突に現れた青年を思い出していた。
  少し年上に見えた青年は、突然少女の部屋に訪れ少し話をした後、走り去っていった。
  そのあと、信徒達の行列が店の前を通る際、あの青年のことを少女に問いただしてきた。
  少女はその問いに対して、知らないと答えた。
  少女にとっては関係のないこと。それと、知っていると答えれば面倒事に巻き込まれると思ったからだ。
(それに、あの香水の代金を払って貰わないと)
  少女は調合屋の娘と同時に商売人の娘なのだった。
  彼女達は多少なりとも、野村圭介から影響を受けている。
  さりとてまだまだ若い。
  再び私は観察しよう。
  熟した時こそ最高のエンターテイメントをお見せしよう。
  私は一言、白き姫巫女に告げる。
「0624はササニシキにいる」
  少女は繰り返す。
「0624はササニシキにいる」
自らの使命を果たすために。
「0624はササニシキにいる」
自らの存在を確かめるように。
「0624はササニシキにいる」
  少女の肌は、一度もこの暗い部屋を出たことがないように白く、少女の瞳は一度も光を見たことがないように暗く、穢れを知らないように澄んでおり、少女の髪の色は純潔を表すように白く、髪の長さは今までの生の長さを表していた。
  彼女に名前は無い。
  この少女に名前はないが記号はある。
  『神子』。
  転じて『巫女』。
  彼女には私の意思を受け取り、それを伝える。
  ただ、それだけのデバイスでしかない。
  よって自我などはなく、半ば監禁されているといっても過言ではない。
  しかし、自我がない彼女は自ら出る意思もなく、監禁されている自覚がないならば、それは監禁ではなく保存と言うべきかもしれない。
  少女の側には常に二人以上の『巫女遣え』がいる。
  寝食を必要としない彼女の側に常に控えている。
  彼女達の役割は巫女の発した言葉を塔の神官に伝えることだ。
  つまり、私が巫女に何かを伝えれば、それは巫女遣えから神官に伝わる。
  それは一種の伝言ゲーム。誰かしらの意思・思想が入ればそれは意図も容易く私の言葉はねじ曲げられる。
  なんとも神を恐れぬ行為のように思えるが、各々は神を敬い、畏れ、礼節を尽くし、その上で私の言葉を解釈する。
  つまり、どうしても私の言葉は歪曲されるのである。
  これもまた、神の意思か。
  つまりはそういうこと。
  私はそれでもいいと思っているため、正さない。
  神は創成神ではあるが、万能ではない。
  この世界は不可解な矛盾を抱えながら成り立っている。
  きっとそれは知恵の輪をただ無闇に扱って偶然にも外すことが出来たことに似ている。
  どうやって外したのか?どうやれば再び知恵の輪を戻すことができるのか?
  それが分からない。
  だから、私は観察する。
  どうすれば世界は幸福に回るか?
  私が介入すれば必ずどこかに皺寄せがくる。
  私はマクロ的な影響力がある。
  対して、主人公(仮)はミクロ的な影響力を持つ。
  例えば、彼女達。
「姉さん。どうしたの?最近おかしいよ?」
  小麦色の肌の少女はもう一人の少女に問いかける。
「別に気にしないで」
  問われた少女は投げやりに答える。
「あの騒動から、ずっとその調子。もしかして、野村圭介のこと知ってるの?」
  小麦肌の少女は姉を問い詰めようと顔を寄せる。
「…えっと、」
「姉さん、やっぱり何か知ってるのね?」
「…うん」
  一拍置いて、姉は話す。
「野村さん、ウチの店を利用したの」
「…やっぱりか」
  小麦色の妹は一度、椅子に深く腰かける。
「それで、野村さんからコレを預かったの」
  姉はポケットから、折り畳まれた上質な紙を妹に手渡した。
「姉さん、これ…」
「野村さんから預かったの。これをあなたに作って欲しいらしいの」
  妹は紙に描かれているものをじっくり見る。
「姉さん…コレ…」
「それをあなたに作って欲しいらしいの」
「…なるほど。うん。コレなら私にも作れそう」
  妹の方は鍛冶師見習いとしての好奇心を、その一枚の紙によって呼び起こされたらしい。
「お姉ちゃん!コレ、持ってくね!」
  先程の問答などなかったかのように駆け出す。
  姉は妹に打ち明けることを躊躇った末の重圧から、妹の楽しそうな姿を見て随分と体が軽くなった。
「………野村さん。本当に神威の塔と争う気なのかな」
  少女は少年ように楽しむ男性を想う。
  そしてもう一人。
  カウンターで客の相手をするため、常に少女はそこに座っていた。
  薬の調合は父母が務め、時折少女が手伝うこともある。
  今の少女はカウンターに座ったまま、木片を転がしながら、あの日、唐突に現れた青年を思い出していた。
  少し年上に見えた青年は、突然少女の部屋に訪れ少し話をした後、走り去っていった。
  そのあと、信徒達の行列が店の前を通る際、あの青年のことを少女に問いただしてきた。
  少女はその問いに対して、知らないと答えた。
  少女にとっては関係のないこと。それと、知っていると答えれば面倒事に巻き込まれると思ったからだ。
(それに、あの香水の代金を払って貰わないと)
  少女は調合屋の娘と同時に商売人の娘なのだった。
  彼女達は多少なりとも、野村圭介から影響を受けている。
  さりとてまだまだ若い。
  再び私は観察しよう。
  熟した時こそ最高のエンターテイメントをお見せしよう。
  私は一言、白き姫巫女に告げる。
「0624はササニシキにいる」
  少女は繰り返す。
「0624はササニシキにいる」
自らの使命を果たすために。
「0624はササニシキにいる」
自らの存在を確かめるように。
「0624はササニシキにいる」
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