神が遊んだ不完全な世界
主人公(仮)と選択2
少年が言うにはココから更に南に向かうと異文化都市『ササニシキ』という場所があるらしい。
「その『ササニシキ』はどんな場所なんですか?」
話だけは聞いてみたい。俺にとって有益な場所ならば、『タユタユ』を後回しにしても構わない。
「『ササニシキ』は独自の文化形態を持ち、最近までは他国との国際的な交流はなく入国は交易商のみでした。今では多少なりとも入国は容易になったそうです」
なるほど。近似鎖国ってところかな。
「独自文化ってどんなものなんですか?」
「剣術という魔術形態を持ってることが冒険者にとっては特別でしょうか。本来魔術は杖や装飾品を媒介にするものですが、剣術は刀や剣を媒介にします。アチラでは幾重にも折られ鍛えられた鉄には魔が宿ると信じられています。野村さんにその気があるなら、アチラの道場を紹介しましょう」
なるほど、なかなかに面白い話だ。それに刀と聞いたら日本人として気にならないはずがない。
「そこは安全でしょうか?ココらへんは疎いんで治安なんかも気になるところです」
「そうですね。今の野村さんならそこは安全ですよ。もちろん『タユタユ』なんかよりもね」
少年が言うには今でこそ入国は容易になったが、最近までは半鎖国をしていたため信徒がおらず。追われる心配はないそうだ。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いできますか?」
「はいはい」
一枚の紙にサラサラと書く。
それを封に入れ、蝋で綴じる。
「コレを『若草道場』の主に渡したらいいよ。アルから預かったと言えばキチンと受け取ってもらえると思うよ」
そう言い、俺に手渡す。
「それで?圭介は『タユタユ』と『ササニシキ』のどちらにいくつもりなの?」
ユニさんは胸の下で腕を組みながら尋ねる。
「そうですね。少し『ササニシキ』という場所に興味が湧きました。この『ササニシキ』まで行こうかと思います」
「なら決まりだな」
「ああ、でも行くのは一人ですよ」
「「え?」」
あら、またもや呆れられた。
よっぽど意外だったのか?
まぁ理由は簡単で、異世界にも来て誰かの庇護下にいるのがなんか気に食わない。
俺が読んできた小説では最初の村では親切にしてもらって、村を発った後は自力で行動するんだ。
俺だって自由に生きたいよ。
「ああ、餞別として地図と鍋があったら嬉しいです」
自分で餞別といっちゃうあたり、自己中なのかも。
「ああ、それは別に構わないが」
ユニさんが言う。
「あと、ココで一晩居させてください」
「さすがにこんな夜にほっぽり出すつもりもないよ。それは安心していいよ」
っと…。さすがにキツい。
そういや、寝てるところを急に起こされて、あんま寝てないんだった。
追われたり、追っている連中と同行したり、あの二人に会ったり、森で秘密基地を見つけたり…。
あー、さすがに疲れたや。
どうやら、俺はココで寝ていいらしい。
正直立って話しながらも、目蓋がさっきからピクピクしてはアクビを噛み殺し、平静を保っていたんだったな。無意識だから、今更気づく。
他の5人にも先に休み頂くことを断り、ユニさんが寝床を案内してくれる。
手荷物やらなんやらを全て床に置き、横になる。
地下だから窓なんかもない。ただただ暗い部屋。
ユニさんは俺に何か声をかけてくる。
おそらく「おやすみ」やら「よい夢を」などを行ったのだろう。
そして俺は、モヤモヤした頭で寝る。
変に興奮して寝付けないかとも思ったが、横になればアッという間だ。
脱いだコートからブーン、ブーン、ブーンという音を意識が落ちる寸前に聞いた。
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