神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と喧騒

  夕暮れ。
  ユニ邸に帰りついた俺はさっさと部屋に戻る。


  コートと剣を下ろして、ベッドに倒れ込む。


  剣の柄にはいまだに錆びた鉄の臭いがした。


(あとで、手入れしないと…)


  軽く目を閉じ、考える。生き物を殺すこと。それによって自分が気落ちしたこと。それが当たり前と考える俺とここではあたりまえじゃないこと。


(慣れるしかないか…)


  やはり一度辿り着いた結論を胸に抱く。


  手にした結論を手放して、俺は同時に意識も手放した。








  ドンドンドン!ガッ!バタン!


「圭介!起きろ!」


「ん、あ、うん。」


  もぞもぞ。


  布団から顔だけだし、ひんやりした空気と光量の少ない室内がまだ深夜だということを分からせる。


  逆行で顔はよく見えないが、扉に手をかけているのはユニさんだと分かった。


「どうしたんすか?」


「圭介、よく聞け。一度しかいわないからな」


  とっさにワンタッチで携帯のボイスレコーダーをオンにする。


「街の南側の郊外を南に真っ直ぐに向かって、左右に森が見えてくるはずだ。左の森のどこかに隠れ家がある。この石を持っていけ。そこに近づいたら石が対応すると共鳴して光が徐々に強くなる」


  手渡されたのは黒紫色の握り拳ほどの石だ。


  俺は石をバックに入れ、私物を身につける。


「ところで、なにがあったんすか?」


  歯軋りをしながら、ユニさんは吐き捨てる。


「神威の塔のやつらが神の使いが遣わされたとかほざきやかった!それがお前だとさ!」


(あー…、ある意味合ってんのかな?)


「やつらは信仰を盾に武力行使でお前を捕まえる気だ。」


「え?なんで捕まえられるのさ?」


「ここ何十年、神の介入の記録はない。しかし、最近になって神の気配を巫女が感じたらしい。上のやつらはこれを破滅の前兆だと決めつけたんだ」


  外は徐々に騒がしくなり、火の灯りが窓の外に見える。


「今ならまだ、お前の顔までは明かされていない。だから、逃げる算段は立つんだ」


(逃げるか…。)


  ここで考えていたのは、逃げることと立ち向かうことのどっちが


"楽しい"


かだ。


  基本的に俺は人の思考を裏切るのが楽しいという悪癖がある。それも敵味方問わず。不利有利関係なく楽しむ。


  俺が選んだ選択肢は…


(顔がばれてないなら、街中の渦中に参加するのも楽しいだろう)


  自分を探す集団に自分も参加して自分を探す。


(滑稽すぎる)


  心の中で大爆笑。危険をリスクに笑いを欲する。俺はまるで道化だな。


「分かりました。その隠れ家に行けばいいんですね?」


「ああ、私も夜明けまでには合流できるようにしよう」


  彼女は部屋から出ていく。


(夜明けまでか…)


  タイムリミットは夜明け。『蓮』が使えるから、ギリギリまで俺を探す祭りに参加しよう。


  そうと決まれば鞄と剣を身につけるのはまずい。剣は入国者、あるいはソルバーの証。鞄はこの国にはない製法でつくられている。平時ならともかく今はマズイ。南郊外に隠してから祭りに参加しよう。


  決まれば後は行動するのみ。


  家を出て裏路地に入り城壁を還元して国を出る。


(不法入国はあるけど不法出国とかあるんかねぇ~)


  郊外の目印になりそうな巨大な岩の側にペンダントによりにもつが入るだけの空間を作り、入れる。


「うっし、準備完了」


  早歩きで南城壁から少し離れた場所に穴を開ける。


  ビクビクしていては怪しまれる。堂々と大通りに出る。


  老若男女、職種に限らず大通りを行進している。行進しながら、各住宅を訪問しながら俺のことを探しているようだ。


  各々腕にブレスレットをしているのが印象的だ。おそらく信仰の証か、魔具か。祭りに参加するためにはそれを念のためにてに入れる必要がありそうだ。


  身体能力も平凡で得意な能力を持っているだけの俺が道化となり身の危険というリスクを背負い、ただ面白そうというだけの理由で身を投じる。


  面白いじゃねぇか。


  口を歪めさせて笑う俺は第三者から見たら悪役だな。

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