神が遊んだ不完全な世界

田所舎人

主人公(仮)と物理

  昼ほどになり、後片付けが終わる。キリスさんが荒れた土地を沼化して適度な湿度を残して全部を気化させてしまった。そのおかげで草原の一部が校庭のグラウンドみたいになってる。
「まわりがこれだけ緑で湿度があれば1、2週間で元に戻りますよ。爆散した土以外は草自体もまだいきてるでしょうから」


  とキリスさんが言う。よくあることらしい。


  俺たちは今、ルゥさんのメンヘラな家に訪れている。キリスさんが勝手知ったる人の家なのか、勝手に紅茶を淹れて3つのティーカップを出す。


「あなたは結局実戦の形で魔術を見て使ったんだから何か感想と質問を言いなさい」


  かなり高圧的ではあるが、指示に従い感想と自分の意見を述べる。


・魔術を還元しても余裕が生まれたこと


・魔術の操作と創造の効率の話


・魔術の可能性


  この中で一番ルゥさんが食いついたのは3番目の話だ。


「あら、あなたならもっと自在に魔術使えるというのね?」


「可能性ですが、それに先人が既に発見していることかもしれません」


「なら、あなたの考える可能性を示してみせなさい」


  と言われましても、まだ魔具一つだけしかなく、この魔具では俺の考えた可能性を試せない。


「ルゥさん、水の魔具を貸してもらえませんか?」


「いいわ、ちょっと待ってなさい」


  そう言って身に付けたブレスレットの一つを渡す。


「もし、私を楽しませたらそれをあげましょう」


「ほんとうですか!?」


「ええ。審査は私とキリスがしてあげます」


「私としても興味深い話です。水を使うということは私の分野ですからね」


  乗り気なキリスさん。


「じゃあ、ひとつ前置きを」
  コホン。


「お二人は水で鉄の板を貫くことは可能だと思いますか?」


  まぁ俺が考えたというより、元の世界の知識の流用だから自慢できることではない。


「「無理ですね」」


  あらら、


「水を扱う魔術師は水に魔素を織り込むことによって、相手を飲み込むように使うのが一般的です。もしくは水に土や砂鉄を含ませて殺傷能力を高めるんですよ。水単体で鉄を貫くだなんて無理です」


  まぁこうまで、反論を持ち出されたら、楽しくなってくる。キリスさんがいってるのはこちらの一般的な考え方なのだろう。


「まぁ私の国での常識みたいなものなんですけど、今言ったことは可能です」


「試してみなさい、と言いたいところですけど少し説明してみなさい。私たちが納得できるようにね」


  んー、納得できるかどうかは二人しだいだけど…いっか。


「まず、水というのはキリスさんが言った通り柔軟性があります。そして水というのは圧力をかけると密度が高められ固くなります」


「水が固くなるのか?」


「まぁそう思ってもらって構いません。厳密には異なりますが、今から使う魔術にはその認識で構いません」


  俺はルゥさんから預かった魔具に魔素を込めて、水を紅茶を飲み干したカップに入れる。


「水はこのように流体です。力をかければ剛体、つまり鉄や角材と同様に圧縮されます」


「ようは水も同じ様に圧力をかければいいのね?」


「はい」


「分かったわ、続けてちょうだい」


 再び咳払い。


「例えば、水をこの部屋一杯に貯めて、それをこのカップに収まるほどに圧力ををかけます。するとどうなるでしょう?」


「このカップの大きさで部屋の水と同程度の重さになるということでしょうか?」


「その通りです。まぁ厳密には質量と私達は定義します。が、重さと考えてもらって構いません」


  万有引力定数やこの星の質量が変わらない限りはですけど。と付け足したかったが、やめた。


「それで、その話と鉄板を貫く話とどう繋がるのよ?」


  まぁ疑問に思うのは当然か。


「もう少しで結論なんで待ってください」


  苦笑いしつつも、話を続ける。


「もし、このティーカップに入った水が密封された状態を考えてください」


  少しの間を空けて続ける。


「その密封された状態の一ヶ所に極小の穴を開けるとどうなるでしょう?」


  さてと、このタイミングで実演できると嬉しいが、室内じゃまずい。


「実際にやってみたいんですが、いい場所はありませんか?」


「あら、それなら――――――」






 案内されたのはルゥさんの家の裏庭。


  壁の一角にレンガを置く。手近に鉄板がなかったから代用だ。


「まずは水を圧縮します。ただここは街中なのであまり目立たないように小規模で行います」


  そう断って、実演準備をする。水を集めて、圧縮しようとする。


  が、うまくいかない。はて、なぜだろう?


(ああ、さっきの模擬戦で使い果たしたのか)


「すいません、魔素が切れたみたいなんでキリスさん代わってもらっていいですか?」


「私がすればいいのかな?」


「はい。まずは水をこの体積の千分の一にしてくたさい」


「千、分の一…ですか…」


  少し驚いた様子のキリスさん。


「分かりました。やってみましょう!」


  何故か気合いを入れる。キリスさんは杖を前に掲げ、唱える。






「――――――巡れ巡れ巡れ。内なる指名を持ち、回れ回れ回れ。真を求め、流れ流れ流れ。言を五度唱する」






  キリスさんが唱えるとみるみる水が小さくなる。


「ルゥさん、魔術は魔具があれば詠唱は必要ないんじゃないんでしたっけ」


「ええ、ある程度なら魔術は魔具だけで十分ですよ。ただ、魔具だけでは難しい場合は詠唱することによって明確な魔素の流れを確立するの。そうすることによって難しい操作が可能になるわ」


  ルゥさんによると「巡る」や「流れ」というキーワードは魔素と水の流れを意味し二重の意味を持たせることを二重詠唱というらしい。「真」と「芯」つまり真ん中という意味を掛けたりすることも意味合いがつよくなり効果が高まるらしい。
  詠唱にはこれといった形はなく、詠唱は長時間詠唱することによって複雑な意味を持たせることもできるらしい。


「流れること変わらず、無形に型を強固な型を」


  そう結び、キリスさんが辛そうな顔でこちらを振り向く。


「つ、次は…(ハァハァ…)どうすれ、ば?」


  辛そうな顔をするも笑顔を忘れない辺り、この人には勝てなそうだ。


「次は水球の一部に極小の穴を開けて、その穴をレンガに向けてください」


  中断させることも考えたが、辛そうな顔には知的好奇心を含んだ笑顔に応えたい気持ちもあった。


  キリスさんは態勢を戻し再び詠唱を紡ぐ。


 ただ短く


「穿て」


と。


  水球からは一条の水が放射され、その水はレンガの上辺にあたり、欠けさせる。うまくレンガの真ん中に当たるようにキリスさんは試行錯誤しながらも調整する。水が放射され、庭に水が飛び散り。小さな虹が見えた。


  放水が終わり、レンガを見ると見事なまでに穴が開いており、立て掛けた壁にもうっすらと穴が穿たれていた。


「おお、本当に穴が空いたな」


  ルゥさんがまじまじと穴の開いたレンガと壁を見比べる。


「これで水が破壊力を持つことが証明できました。キリスさん、ご協力感謝します」


  言葉と共に頭を下げ礼を言う。


「ふぅ…、どういたしまして」


  キリスさんはそう言いつつ腰を下ろす。


「ちょっと失礼するよ。さすがに魔力を使いすぎた」


「今の魔術はどれぐらいの魔素の消耗なんですか?」


  キリスさんの疲れようは尋常じゃない。


「そうだね、ルゥさんとの戦闘試験に匹敵するぐらいかな」


  その表現は分かりにくいようで、わかりやすい。一度アレを見てしまうと。


「あの魔術は確かに今まで誰もやったことがない手法ね」
  

「満足していただけましたか?」


「ええ、楽しめはしたけれど、アレは一般の魔術師には難しいわね、実戦で使える人は少ないでしょうね」


  確かに、ギルド屈指の魔術師であるキリスさんでもこの疲労だ。たとえ、ルゥさんとの模擬戦の後でということを加味しても、魔具を補助として使い、詠唱を必要とするのは確かに実戦向けではない。


「上等な魔具なら、もしかしたら無詠唱で発動できるかもしれないわね」


  そうルゥさんは言うと家に入り何かを持ち出してきた。


  それは白い珠のついたピアスだった。


「なんですか、それは?」


「ああ、これね。これは湖の主と賭けをして買ったときに巻き上げた魔具よ」


  そういって、ルゥさんは長い髪をかきあげ、身に付ける。


  そして、先程とほぼ同じ現象が発現した。


  キリスさんが開けた壁の穴に向かって、さらに追い打ちをするように穴を開けた。


「あら!すごいわ!魔素の消費も凄いけれど、水で壁に穴を開けれるわ!」


  実際に自分でやってみてお気に召したようだ。


「うん、こんな使い方が水にはあったのね。凄いね圭介は」


  褒められた。照れるじゃねぇか。


「圭介、約束通りその魔具をあげましょう。合格よ」


やった!魔具二個目だ!これで水と土を無詠唱で使えるな。




  こうして、俺の魔術と魔具についての知識を深め、魔具を二つ手に入れました。





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