十億分の一の魔女 ~ナノウィッチ~ 農家の息子が魔女になる

田所舎人

種族とだご汁

 講義の前半は座学。今日のテーマは種族について。
 壇上にはクローネが立ち、ナノ、ミリ、マイ、テラが着席している。
「この世界には人の形をした種族が大きく分けて四種類います」
 クローネは黒板に四つの種族を書き記した。
『普通種』
『長寿種』
『混血種』
『奇蹟種』
「普通種は私達のような存在です。数としては最も多く、特殊な所は何もありません。
長寿種は普通種から稀に生まれる種です。不老長寿で決して老衰で死ぬことはありません。この種は人間からではなく、犬や猫といった動物からも生まれ、動物の長寿種は人間並みの知性を獲得します。見た目は普通種と変わりませんが、ある年齢を境に容姿の老化が止まります。
混血種は先程説明した動物の長寿種と普通種、または長寿種と交わることで双方の特徴を獲得した種です。例えば、犬の耳を持つ人、猫の目を持つ人、豚の鼻を持つ人、熊の腕を持つ人。その総称を混血種と言います。
奇蹟種は神の手によって直接創られた存在です。例えば、神の審判を下すネメシス、王の選定をする三皇、人の形をしていませんが、カンデラ家が守る神木もこの奇蹟種に分類されます」
 クローネは各種の特徴を簡単に説明する。
 ナノは一度だけ混血種を見たことがあることを思い出した。犬か猫の耳を生やした女の子が奴隷商に連れられていた。それも遠い昔のことで、当時はそういうものだと思っていたが、今にして思うとあまり気持ちのいいものではない。
長寿種と奇蹟種には心当たりがない。
「クローネ、長寿種ってこの学校にもいるのか?」
 三百人もいる魔女学校。一人ぐらいいてもおかしくない、気がする。
「人の形ではありませんが、動物の長寿種がいます」
 動物の長寿種。ナノは強い興味を覚えた。
「そいつはどんなやつなんだ?」
 動物の長寿種、そんな存在が学生や研究生、研究員をやっているともなれば一度は見てみたい。
「フラン先生の使い魔として働いていますよ」
 ――使い魔?
「使い魔ってなんだ?」
 次から次に聞きなれない単語が出てくる度に聞き返すことが日常になってきているが、知らない事を知ろうとすることは学生の姿勢とは正しいかもしれない。
「使い魔というのは人並みの知性を獲得しながら人権を持たない彼らが魔女と契約することで、身分の保証をしてもらい社会に適合するシステムです。契約者は対価として髪や血、あるいは金銭を支払い、使い魔は自身の能力を主のために使うということです」
 話だけを聞いた限りでは小間使いのようなものという印象。ただし、対価が髪や血というあたりに特殊性を感じる。
「じゃあ、フランもそうやって契約してるのか?」
「はい。使い魔の数少ない人的社会への適合方法です」
 ――数少ないってことは他にもあるのか。
 湧き上がる疑問は尽きないがそれを隅にやる。
「フランの使い魔ってどんなやつなんだ?」
 それこそ一番気になることだ。
「とても綺麗なからすですよ。今も外で飛んでるんじゃないでしょうか」
 そう言って窓から外を眺めようと近寄り、窓を開くとバサバサと翼を羽ばたかせながら一羽の烏が飛んで入ってきた。
腹部が白く、羽先が青い綺麗な烏。
「こんにちはカササギさん。急にやってくるなんて、どうかしたんですか?」
 教卓の上に立ち、じっとクローネを見つめるが、返答はない。
「カササギさん。私の教え子たちですよ」
返事をしないカササギの気を悪くしないクローネはナノ達四人を紹介する。
カササギの黒く丸い目が四人を見据える。
「どいつもこいつもちんちくりんじゃねぇか」
 ――烏が喋った!?
 カササギの黒い嘴が開閉すると共に人語を発している。
「お前、喋れるのか?」
「当たり前だろ。こう見えてもお前らの倍以上生きてんだ。話せない方がどうかしてる」
 倍とはつまり、三十路過ぎの烏ということだ。
「おお!」
 ナノは席を立ち、机を飛び越え、無造作にカササギを掴み取る。
「てめぇ! 何しやがる! 羽が乱れるだろうが!」
 バサバサと翼を羽ばたかせるが、ナノの手中から逃れることはできない。
「本当に喋ってる。喉もちゃんと動いてる。すげぇ!」
 カササギが罵声を飛ばすたびに本当に喉が動いている。それは音魔術や腹話術ではなく、正真正銘カササギ自身が喋っているということだ。
「ナノ君。カササギさんを放してあげてください」
 嫌がるカササギをナノの手から救うようにクローネは止める。
「ああ、悪いな。カササギ」
 本当に悪気はないナノは素直に謝った。
「謝るぐらいなら最初からするな! 羽が乱れちまったじゃねぇか!」
 カササギは普通の鳥がそうするように嘴で羽を整える。口さえ開かなければ普通の動物となんら変わりないように見える。
「カササギさん。今日はなんでまたこちらに?」
 クローネがホルダーから油瓶を取り出してカササギに差し出しながら聞く。普段から携帯しているのか慣れた動きだ。そして、何故に油瓶を持っているのだろう。
「ああ、フランのやつが今日のお前の講義予定表を読んでて実際に見たほうが早いだろうってことで俺を遣ったんだよ」
 差し出された油瓶から油を掬い、羽に塗りつけながら答える。
「なるほど、ありがとうございます。後でフラン先生にもお礼をしないと」
 どうもクローネの口調から察するにクローネよりもカササギの方が立場は上のようだ。フランとカササギは同じぐらい。
「では、よろしくお願いします。カササギさん」
 そう言ってクローネがカササギに手を差し出すと、それを握り返す代わりに、カササギは羽ばたきクローネの片に留まる。
「てめぇらも俺みたいな優雅で華麗な使い魔と契約しろよ」
 随分とナルシストな烏もいたものだ。
 ナノはふと隣の三人を見る。
 テラは少しだけ不機嫌そうだ。カササギの口調が気に入らないようだ。
 マイはいつもと変わらない。愛想も無く、表情は仏頂面だ。
 ミリは興味津々といった様子。前傾姿勢で胸が机で潰れている。
 やはり、三者三様にカササギの話を聞いているようだ。
 ナノは再びカササギに向き直った。
「カササギは何ができるんだ?」
「俺のことはカササギ先生と呼べ。俺は専ら情報を集めることが主だな。フランはもう歳だから遠出もできやしねぇ。その代わりが俺ってわけだ」
 飛べて意思伝達ができるというのはそれだけで重宝されるものらしい。
「カササギは伝書鳩みたいなもんか」
「お前、鳥頭とりあたまか? カササギ先生と呼べ」
 学校に来てから今までの誰よりも口が悪い。それがカササギだ。しかし、ナノはカササギのことを気に入っていた。
「カササギはフランとどんな契約してるんだ?」
 契約と一言で言っても、ナノが知っている契約といえば行商人との米の買取契約ぐらいだ。もちろん、使い魔の契約なんてよく知らない。
「俺の場合は最初にフランの血を貰って、その後は毎月金をもらってる。それとカササギ先生と呼べ」
 大の大人が戯れつく子供に言い聞かせるようなやり取り。だが、三十を過ぎても烏ということもあり、あまり威厳は感じられない。五十過ぎのゼプトが傍にいるせいだろうか。
「ナノ君だけじゃなく、他の三人も訊いてみたいことはないですか?」
 クローネはナノだけではなく三人にも質問の機会を与えてみる。
「……私はありません」
 しかし、マイは特に興味を示さなかった。
「カンデラ家は確か数百年と生きる使い魔が仕えているんでしたわね」
 テラが思い出したように言う。
「マイも使い魔がいるのか?」
 質問の矛先はカササギからマイへと移り変わった。
「マイじゃなくてカンデラ家、現当主のマイのお母さんの使い魔なの」
 答えたのはマイではなくミリ。このことにマイは否定しない。
「ミリは知ってるのか? その使い魔」
「うん。うちもお話したことあるの。とっても大きな亀さん」
 ミリの話し方はまだ辿たどたどしいが、前に感じた距離感は縮まっている気がした。
「数百年生きる亀か。じゃあ、昔のことにも詳しいんだろうな」
 鶴は千年、亀は万年。長生きにも程がある。長寿種であるがため仕方がない。
「……生き字引」
 生き字引、昔の事をよく知っていること。ナノの疑問に答えてくれたようだ。
「俺も使い魔が欲しいぜ。テラとミリはいないのか? 使い魔」
 今度の矛先は両者に移り変わる。
「私は居ませんが、お姉様達は契約をしていますわ」
 テラは少しだけ無表情を装う。こういうのを表情が曇るというのかもしれない。
「うちもいないの」
 ミリはなんともなしに答える。
テラの表情の機微が気にかかった。
「長寿種自体が少ねぇんだ。そう簡単に使い魔にできると思わねぇこったな。大概の長寿種は周囲の環境に慣れねぇで子供の頃に死んじまうらしい」
 まるで経験してきたかのように語るカササギ。それが実体験なのか伝聞なのか判断しかねる。ナノは鳥の表情の読み取り方を知らない。
「普通種ってのと長寿種ってどう見分けるんだ?」
 クローネも言ってたとおり、カササギは口さえ開かなければ普通の烏となんら変わりない。
「簡単だよ。そいつが人語を理解できるかどうかだ。ただ、喋れねぇし、そもそも人間を警戒するから近付くこと自体が難しいな」
「カササギもそうだったのか?」
 他人事のように話すカササギにさらに踏み入る。
「カササギ先生な。俺もそうだったぞ。フランに出会うまでは人語も喋れねぇし、人間に食われるかと思ってたさ」
 実体験だったらしい。
「カササギはどうやって喋れるようになったんだ?」
「カササギ先生な。長寿種が人語を喋るにはまず、声を出す喉を変えるこった。人の肉を食うか血を飲むかして、自分の身体を作り変えるんだ。少しコツがいるがな。俺はフランの血を飲んで条件をクリアした」
 人の肉を食う。物騒な話だ。
「身体を作り変えるってそんなことができるのか?」
「ああ、時間がかかるが数日から数週間で人間の身体に作り変えることもできるぞ。ただ疲れるし、足りない分食わなきゃいけねぇ。それに、作り変えることで昔の身体を忘れちまうこともある。だから全身人化は本来の自分の姿を捨てるぐらいの覚悟と人間一人分の身体を食う覚悟がなきゃできねぇ」
 長寿種は難しい種らしい。
「そっか。長寿種と使い魔については大体わかったけど、じゃあ混血種ってなんだ? 長寿種から生まれるって言ってたし、俺も見たことだけならあるんだけど」
「混血種ってのは俺みたいな長寿種が全身人化をして人間と交わることで生まれる子供の事だ」
 この質問に答えたのはカササギだ。
「例えば、俺が自分の身体を捨てて全身人化してどっかの娘と交わる。すると生まれる子供は羽が生えてたり、嘴があったり、鳥足を持つ子供が生まれるってわけだ」
「カササギはそういうことをするつもりはないのか?」
「ねぇな。俺は誰とも交わらねぇし、子供を作るつもりもねぇ」
 そもそも興味がないらしいが、それが本心かどうか分からない。
「それに混血種ってのは何かと生きづらいんだよ。九割人間の姿をしていても一割は人間じゃねぇんだ。それだけで迫害を受けるんだ」
 ナノはうまく想像ができない。
「大概のやつは自分が混血種ってことを隠すんだ。翼があるなら翼を折る、耳が生えてるなら耳を切り落とす、そうやって人的社会に必死に溶け込もうとするんだよ」
 やっぱり想像がつかない。
それはナノ自身がまだ人的社会とやらに溶け込んでいないせいかもしれない。
「それに、混血種は長寿種のように人化ができるわけじゃねぇ。だから周囲がそいつのことを受け入れるか、そいつが周囲に認めてもらうかって話だよ」
「大体分かった。混血種ってのはそれ以外に特徴はないのか?」
「そうだな。俺も聞き齧りだ。この先はクローネが話したほうがいいだろう」
 カササギはそう言ってクローネの肩から離れ、ナノの頭の上に留まる。どうやらカササギもクローネの授業を受けるつもりらしい。
「では、私が続きをお話しましょう。
 混血種は長寿種の直系だけではなく、その子供の子供にも遺伝します。そして、その因子が発露し獣の特徴を持つことを先祖返りと言います。両親が普通の人間のように見えてもその子供が偶然にも因子が強く働くことで混血種であることが発覚することもあります」
「じゃあ、自分が混血種だって知らない場合もあるのか?」
「はい。特徴が発露しない場合、その人は普通種として扱われます。なので、普通種と普通種の子供が混血種ということも十分ありえることです。悲しい話ですが、そうやって生まれた子供は全うには育てられずに捨てられることがあるようですね」
 耳が痛くなる話だ。理解も追いついていないが、心も追いついていない気がする。
「じゃあ、奇蹟種ってのはなんなんだ? 普通種、長寿種、混血種は分かったけど」
 これ以上、混血種のことを聞いても頭に残りそうにない。だったらと次の種について訊いてみた。
「奇蹟種は神によって創られた存在であり、世界の秩序を守る存在です。例えば、罪人を裁くネメシスや王の選定をし、国民の不平不満に耳を傾ける三皇がいることで戦時の混乱を平定することができました」
「三皇ってのはどんな奴なんだ?」
「三皇は天皇、人皇、地皇といった三人がいます。天皇は神の声を聞き、人皇は人の声を聞き、地皇は世界の声を聞き、世界の秩序を守るという使命を与えられ忠実に従っています」
「なんか凄い奴らなんだな」
 おおざっぱな感想だ。
「ええ、アズサという国は神の遣いである三皇を軸として成り立っています」
 ここで午前の講義の終わりを告げる鐘の音が響き渡った。
「では、午前の座学はこれで終わりましょう。午後は基本魔術の練習をすることにしましょうか」
 クローネがそういうとナノの頭の上に留まっていたカササギは飛び上がり、窓際に留まった。
「俺の仕事は終わったから帰るぞ。お前らは勉強頑張れよ」
 捨て台詞を残して飛び去っていってしまった。
「カササギっておっさんみたいだな」
「そうかもしれませんわね」
 テラが苦笑して相槌を打ってくれた。
「……羽」
 マイが背伸びをしてナノの頭に手を伸ばし、何かを掴んだ。それはカササギの綺麗な濃藍の羽だった。
「へぇー、カササギって口は汚いけど羽は綺麗だよな」
 マイはジーッとその羽を見つめる。
「欲しいのか?」
「……」
 表情こそ変わらないが瞳はもの欲し気である。
「まぁ俺のものでもないしな。貰っとけよ」
「……」
 マイはその羽を大切そうにホルダーの中に仕舞った。
「マイ、良かったね」
「……うん」
 マイはミリに対してだけは素直なようだ。もしかしたら人見知りが激しいのかもしれない。


 その後、全員で食堂で食事をして午後の授業を経て放課後となる。
 授業の内容はいつもと変わらない。
 ナノは五キロの石を動かせるようになり、テラは楽器の音や自分の声を再現しており、マイは光と闇を操り明滅の訓練をして、ミリは二つの鉄をくっつけたりはがしたりを繰り返していた。
 クローネはしきりに反復の重要性を訴えていた。口癖は一度できても、二度できても、三度目にできるとは限らないだった。
 授業の最後に
「日曜日に街に行くので、今日中に街出届を出しておいてください。それと、戦士組との顔合わせは月曜日の予定でしたが、急遽日曜日となったので忘れないでください」
 かなり事務的に説明を終えて講義は終わった。
「さーてと、何をするかな」
 図書室で本を借りるも良し、ミリの研究室に遊びに行くも良し、一度帰ってリリスの様子を見るも良し。
 ナノは一度寮に戻ってから考えることにした。


 寮に戻ればゼプトがなにやらお菓子を作っていた。例のかりんとうだ。
「ただいま。ゼプト、かりんとう作ってたのか」
「ああ、リリスに何か美味いもんでも食わせてやろうと思ってな」
 ――餌付けか。
「俺も食っていいか?」
 テーブルに着く。
「おう、食え食え。リリスも気に入ったみたいでリスのように頬張ってやがったぜ」
 リリスはお茶とかりんとうを前にして満喫しているようだ。
「そういえば、リリスの昼飯ってゼプトが用意したのか?」
 すっかり忘れていたが、リリスだって人間だ。腹も減る。
「そりゃあ、リリスは一応、お前の客ってことになるからな。もてなすのは俺の仕事だ」
 ――リリスは俺の客なのか。
「そんなこと言って、雑務の方はどうなんだよ? 草木の手入れもゼプトの仕事だろ?」
 手入れされていた綺麗な庭木を思い出した。あれが荒れるというのはあまり見たくない。
「それはあれだ、お前の身の回りの世話をするって名目で俺も随分と時間に余裕が出来たからな。力仕事以外はほとんど別の奴らがやってくれることになってるぜ」
 ナノは体の良い口実にされているらしい。
「まぁそれならいいんだけど。今日の夕食はなんなんだ?」
「そうだな……肉も魚も野菜もあるからどれでもいいんだが」
「足が早いのはどれだ?」
「そりゃあ魚だな。肉は多少加工してあるから二日、三日は保つ」
「じゃあ、魚にしよう。リリスも魚でいいよな?」
『構いません』
 かりんとうを頬張りながら尚食べようとする姿勢。嫌いじゃない。
「魚は煮付けと焼き、どっちがいい?」
「リリスはどっちがいい?」
『煮付け』
「じゃあ煮付けだな。そういえば、食堂のおばちゃんからきのこを貰ってたな……。中途半端に残った小麦粉もある……。じゃあだご汁でも作るか」
 今日の夕飯は魚の煮付けとだご汁らしい。
 夕飯の決定権が徐々にナノからリリスに移り変わっている気もするが、これもまた良い傾向だろう。
 ナノは自室に戻り、着替え、夕飯ができるまでリリスと遊んでいた。
 リリスはパントマイムと呼ばれる無言劇を趣味としており、非常に面白いものだった。リリスは様々なパントマイムをナノに見せ、ナノは大いに笑っていた。
「リリス、上手いな。本当にそこに何かがあるみたいに見えるぞ」
 リリスが見せた様々な演目はどれも面白く愉快だった。
『施設で私達は勉強し、訓練をする以外は自由に時間を使うことができました』
 リリス自身も久々に演じたことで昔を思い出したのだろうか、施設の生活を話してくれた。
「じゃあ、リリス以外のやつらもパントマイムみたいなことするのか?」
『そうですね。カードで遊んだり、人形で遊んだり、色んなことをしていました』
「やっぱり施設って変わってるな。孤児院ってわけでもないんだろ?」
『そうですね。戦闘の技術を学ぶといった点で言えば普通ではないと思います』
 戦闘の技術。
「リリスも学んだんだろ?」
『はい。私は身体が小さいので素手や短剣の技術を磨きました。斧や剣は私の身体のほうが振り回されますから』
 確かにリリスの身体は小さい。一四○センチ前後といったところだろう。
「やっぱり自分の身体にあった武器を使えってことなんだろうな」
 ナノは武器の扱いがあまり得意ではない。並の武器ではナノの力に耐えられないという事もある。剣ならば曲がり、槍ならば柄が折れ、斧や鎚ならば身体が振り回される。
 その先に行き着くのは己の肉体であることは収束した結果なのだろう。
『それにしても、貴方は頑丈ですね。情報では魔女とのことでしたので、肉体的には劣っているものとばかり思っていました』
「そうなのか?」
『はい。一般人でも魔女でもない頑丈さです』
 あまり意識をしたことはないが、リリスがそういうならそうなのだろう。
『毒の耐性も高く、短剣も浅くしか刺さりませんでした』
「そんなの頑丈さと関係あるのか?」
『頑丈さとは健常状態を保つ能力のことです。鍛えれば鍛えるだけ打撃、斬撃に強くなり、毒の耐性も持ちます。ただ身体が頑丈というだけで強い人もいます』
「なんか化物みたいな話だな」
『そういう人の遺体を材料として剣や盾を作れば並の鉄より頑丈な武器が作れるんですよ』
「なんでもかんでも材料にできるんだな」
 まるで家畜である。
『人間は傷を負えば負うほど回復した後は強くなります』
「そんなもんかね」
『そういうものです』
 いまいちしっくりしない話をしているとゼプトが料理ができたと呼んだ。
「さてと、夕飯だ」
『ゼプトの料理は美味しいです』
 二人は一緒にテーブルに着いた。



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