繋がりのその先で

Bolthedgefox

2-10無意識の意識


…。

場が膠着し、まるで、時が止まったかのように、その場の空気が重たく、そして冷たくなった気がした。僕の脳は、彼の口から発せられた言葉を正確に聞き取ったかどうかを判断することに全力を尽くしているようだ。全くもって、僕の周りの状況を確認することさえ出来なかった。

…今なんて言った?
子孫を、作る?

僕の頭の中は、ついにタリュウスから発せられた言葉が本当にそうだったのか、わからなくなった。僕は聞き間違いをしたのかもしれない。そう思って今まで見聞きしたあらゆる情報を思い出す。確かあの部屋に呼ばれていたのは、最初にいたティマ、メイレル、バルシナ、キュモロの四人、そして僕とタリュウスとシーカ。そして僕の脳は自然と男女比を計算してしまう。男が3人、女が4人。

ここまで考えた所で、僕は息を飲む。
ありえなくは、ないか…。
…何がありえなくないんだ?
とりあえず、僕は思考を止めた。

ふと我に返る。目の前には言葉を言い終わったタリュウスの顔が見えた。今までの思考が、コンマ何秒かで行われたものだと改めて自覚する。そしてその後、僕は周りの状況を確認するぐらいの余裕が自分に出来たことを実感し、すぐさま無意識にシーカの方を見る。すると、そこには。

そこには、少し困ったような、曖昧な表情をしている彼女がいた。

反射的に僕は、少しのダメージを負う。
こんな話、まだ彼女には早いんじゃないか?僕はそうやって、タリュウスを責めようと彼の方向を向きながら口を開きかけた時、彼女の方からこんな言葉が聞こえてきた。

「子孫を作るって、どう作るの?」

僕はまた、体が膠着する。
脳だけが活動を許されているかのように、ひたすら思考を続けていた。先程の彼女の表情は、単純にそれらの知識・・・・・・が無かったからか。僕は少しの安堵を覚えながらも、これから繰り広げられるであろう地獄のような会話に、ただ絶句した。彼女の質問は僕の中では禁忌だ。だが、こればっかりは禁忌を侵させる方が悪いのではなかろうか、と最早ショート寸前の頭で考える。

僕がどう説明をすればいいものか必死に考えているとも知らず、タリュウスは声色軽くこう言った。

「僕が教えてあげよっか?」

その言葉に、僕は酷く反応した。

な、なんだこれ、急に胸の辺りが痛い。僕は2人に気づかれないように痛みを堪える。何だこの痛みは?病的な痛みじゃない、もっと根幹から響いてくるような鋭い痛み。僕はシーカの方を向こうとするが、またしても体が動かない。
この痛みは何だ?何に反応して出てきたんだ?今までに感じたことの無い痛みに、僕は少し困惑と恐怖を覚える。

もしかして、僕は僕の事を何も分かってないんじゃないか?急にそんな疑問が僕の中に浮かび上がる。僕の中でずっと動いていた『何か』が、初めて僕に意見した。違う、何も分かってないんじゃない。そう僕は否定する。分かってないんじゃなくて、目を背けてるだけだ。

「とりあえず今は部屋に向かおう。皆を待たせるのも悪いしね。」

そう言ってタリュウスは僕とシーカの間を通り、僕達が来た道を戻って行った。シーカもそれに続こうとしたが、僕が少し固まっていることに気づいたのか、僕の方を見て止まった。

「大丈夫?」

その一言によって僕は何らかの拘束から解き放たれた気がした。

「…大丈夫だよ。僕達も行こうか。」

僕は半ば無意識に返答すると、シーカと目を合わせることなくタリュウスの後をおった。







「ユキト、大丈夫?」

103号室に着く少し前、シーカはもう一度僕に声をかけた。僕は平然を装い、「大丈夫だよ」ともう一度返す。

「でも、さっきから様子が変。それに…」

シーカは少し言葉に詰まり、口を噤んだ。

「…それに?」

僕は彼女の様子を伺う。少し顔が赤いようにも見える。

「…言葉で凄く言い表しにくい物。」

急にシーカがそう言ったので、僕はドキッとした。心の中を言い当てられたような気になったからだ。彼女ははっとした顔をしてから、僕の方を見つめる。…まさか、表に出していないつもりだったが、今の一連の僕の動きで僕の心を読んだのか?確かに先程のタリュウスの発言には固まってしまったが、それ以外は完璧に感情を殺すことに成功していたはずだ。

「…ごめん。」

そうこう考えていると、今度は急に謝られた。何がごめんなのかわからなかったが、「人の心を推測したあげく、当ててしまった」という「ごめん」なのかもしれない、と僕はそれに理由を付けておくことにした。

「あぁ、いや別に謝られることでもないよ。こっちこそごめんね、ちょっと考え事をしてたんだ。心配させちゃったね。」

そう言って僕はシーカの頭を撫でる。するとシーカは少し嬉しそうな顔をしながら、少し寂しそうな目をした。タリュウスが「さて、着いたね」と僕達に声をかける。僕はシーカのそれを見なかった振りをして、103号室に入った。


「…何してたのよ。遅いぞ。」

薄暗い部屋の中から声だけが聞こえてくる。さっき来た時よりも部屋が暗くなっている ような気がする。…いや、これは単なる僕の勘違いか??

「別に遅くはないよ〜、バルシナはなにかとせっかちさんだからねぇ。」

「あんたにだけは言われたくねぇな。」

中に入っていきなり、タリュウスとバルシナが挨拶がわりに言葉を放つ。…この2人、仲が悪いのか??そう思っていると、ティマが僕の方に近づいてくる。が、動作がいつもよりぎこちないような…。

「…あの二人、いつもあんな感じなので気にしないでくださいね。ほら、その、能力の方向性が正反対じゃないですか?私たちの生き方は、やはり自らの能力に影響されるので、考え方も能力の方に偏ります。だからあの二人はいつも意見が噛み合わないんですよ。」

僕の心の声が聞こえたのか、今度はティマが僕にそう言った。「なるほどな。」と表では落ち着いた態度で返したが、心の中ではそれとは違う疑問が広がっていった。

「なっっ!?」

タリュウスと言い合いをしていたバルシナが急に声を上げる。その声に驚きつつ、そちらを向くと、何やらタリュウスがニヤニヤしている。声を発した張本人であるバルシナはというと、下を向きながら顔を赤らめている。
どうしたんだ?と心の中で僕は不思議に思う。するとバルシナは急に顔を上げ、僕の方に近づいてきた。

「…わりぃ、ちょっと借りる。」

誰に言ったのかもわからない言葉(この場合はシーカに言ったのだろうか)を残し、バルシナは僕の首根っこを掴むと、出口の方へ引っ張っていく。

「っちょっ!?」

僕は抵抗する暇もなく、部屋の外まで引きずられていった。

「痛い痛い!どうしたんだよ!?」

必死に抵抗するがバルシナの力は強く、僕じゃ歯が立たなかった。バルシナは部屋から少し離れた所まで僕を引きずると手を離した。バルシナの奥で103号室の扉が閉まる音が聞こえた。

「…どうしたんだ、か。それはこっちが聞きたいよ。」

いつもとは違って少し弱々しく、顔を赤らめながら何かを警戒するようにバルシナは言った。

「どういう事だ?」

僕は本当に今の状況が掴めない。何故バルシナは僕をここまで引っ張ってきたのか。必死に考えるが全く見当もつかない。 

「そりゃあんたにはわからないだろうよ。どうせまた心の中で「何故僕が引きずられてきたのか見当もつかない」とか思ってるんじゃないか?」

言い当てられ、言葉に詰まるが、ここは素直にそういった方が良いと思い、首を縦に振った。

はぁ。とバルシナはため息をついた。

「…あんたって、本当に賢いのかバカなのかわからないわね。そりゃ私の様子だっておかしいかもしれないけど、1番様子のおかしい人物がいるでしょう?」

「1番様子のおかしい…、君か?」

僕はバルシナの方を指差す。その動作にバルシナはまたため息をつき、急に僕の手を掴んだ。

「えっ」

拍子の抜けた声が出る。
バルシナは僕の指を反対側に曲げようとしながらこう言った。

「あんたでしょ?」



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