繋がりのその先で

Bolthedgefox

2-8互いの居場所

「ちょっと、手が止まってるよ?」

シーカに声をかけられ、僕はハッと我に帰る。
昨日、僕は今後の方針について考えた後、疲れていたのかその場で寝てしまっていた。気がつくともう今日の朝だった。僕は朝食を終えた後、ルヌフガとある話をし、そして午後になるのを待った。そして今、僕はついに待っていたものを手に入れ、こうして作業に取り掛かっているのだ。

「ご、ごめん、ちょっと考えながら作業していて、ボーっとしてた。ありがとうな。」

呆れ顔のシーカに、本日何度目かの謝罪の言葉を言う。これをやろうと言ったのは僕で、あくまでもシーカには手伝ってもらっているだけなのに、頑張らなきゃいけない僕がボーッとしていてどうするんだ、と心の中で自分にツッコミを入れる。だが、ただ単にボーッとしているわけでもない。僕には考えることがあったのだ。






「...また来たのか。本当にお主は話をするのが好きみたいじゃのう。」

「部屋に入っていきなり嫌味を言わないでくれ。昨日考えていたこと、それが少し頭の中でまとまって、いい案が思いついたんだ。それを相談しに来たんだが、聞いてくれるか?」

「別にいいじゃろう?かなり前にお前さんに言いたい放題言われたからのう。」

「あれは...本当にごめんなさい。つい、感情に身を委ねてしまった。反省してる。」

「...冗談じゃ、気にするでない。」

僕はルヌフガに一応謝罪の言葉を述べたものの、部屋に入り、いつもの席に座った。
全く動じない僕をかなり呆れた顔で見つめるルヌフガ。しばらくすると「はぁ。少しは休ませてくれんかのう。」というため息交じりの言葉とともに、ルヌフガは重い腰を持ち上げ、僕の近くにある椅子に座った。こんなやりとりには僕ももう慣れっこなのである。

「単刀直入に言う。ロボットを作ろう。」

その言葉に大きなリアクションを取らなかったものの、数秒間ルヌフガは僕の顔を見つめた。
そして口を開く。

「お主、正気か?そもそも機械化もあまり進んでいないこの世界でタイムマシンを作るのは現段階で不可能じゃと昨日の話でも意見が一致したばかりじゃろう。それなのに、今回はロボットじゃと?一体、どうやって作る気なんじゃ?」

僕は少し深呼吸をしてから話し始める。

「僕がティマ達の話を聞いた時、ルヌフガは確か、『ルヌフガ含め、50人はエルフィーとの共存に賛成している』って言っていたよな?だがいつもここで生活していて気づいたが、この施設病院にはルヌフガ以外の人間の気配がないように思える。しかもこの数ヶ月、ルヌフガ以外の人間にまだ一度も出会ったことがない。そんなことってありえるか?そこで僕は考えた。他の人たちは町に潜伏してるんじゃないか?」

ルヌフガは静かに、首を縦に振った。

「...その通りじゃ。狂ったワシの仲間が今後どういう動きをするのかわかったもんじゃないからのう。予め、潜入させているのじゃ。じゃが、なんじゃ?それがどうかしたのか?」

ここで僕は少し笑みを浮かべた。ルヌフガの顔が、だんだんひきつっていくのがわかった。

「まさか、お主...」

「そうだよ、町から今ある最新の機械の部品を闇取引でもなんでもいいから買ってきてくれ。確か町の奴らはエルフィー達を殺したと言っていたが、それは生身で戦ったわけじゃないんだろ?研究職の人間が能力持ちのエルフィーと普通に戦ったら普通に負けるのは目に見えているからな。だから奴らは機械を使って殺したんじゃないのか?なら、そこまでの機械化に成功しているなら、こちらにも手はある。」

「...何を作るつもりじゃ?」

そこで僕は、昨日まとめた考えをもう一度頭に浮かべる。この選択肢が間違っているか間違っていないかは、すぐにわかる。僕は心を決めて言った。

「僕は、無人戦闘機を作る。もうこれ以上エルフィー達を傷つけさせはしない。向こうが機械を使ってくるなら、こっちだって機械を使って自分の身の安全を守るのみだ。僕があんたの仲間の作る機械の性能を軽く超える代物を作ってやるよ。」

少しドキッとしたかのようにルヌフガの口角が反応する。裏切られてなお、仲間の研究者に危害が加わってしまうことを気にしているのだ。そこまでは僕もわかっていた。

「多分、あんたは芯のところは誰よりもみんなのことを考えている、優しい人だと僕は思う。だからそうやって、裏切られてもなお、仲間だった町の人間の心配をするんだろ?」

ルヌフガはこちらを見つめているだけで、返答はない。だが、僕にはその沈黙だけで十分だった。

「だから、約束するよ。僕はロボットを作るけど人は殺さない。相手が作った機械やらロボットやらを破壊するだけのロボットを作る。そして、町のあんたの仲間だった人たちを降伏させるよ。そしておそらく、あんたらはタイムマシンの研究はしていたが、ロボットの研究はしてこなかったんじゃないか?今のあんたでも、ロボットを作るのは難しいことなんじゃないのか?もしそうなんだとしたら、僕が作る。僕がやるよ。」

僕の言葉を聞き、やっとルヌフガは口を開いた。

「...お主一人でやるつもりか?」

不安げなルヌフガに、僕は一言、言ってやった。

「今、この世の中で一番機械に詳しく、また技術を持っているのは僕だ。機械を作るのも、僕一人で十分まかなえる。だから、ルヌフガは町に潜伏している仲間に、機械の部品などを調達してもらえるよう頼んでくれないか?」

ルヌフガはもう何も言うつもりはないらしかった。静かに俺を見ながら頷くと、ゆっくり立ち上がり、部屋の奥へと消えて行った。






「ちょっと!!何回言ったらわかるのよ?」

頭に軽い衝撃が走る。シーカが僕の頭をスリッパのようなもので叩いたらしい。おかげで頭の中で迷っていたあれこれが、綺麗に収束していく。やっと自らの視界に意識が戻り、僕の顔を覗き込んでいるシーカの顔が見えた。シーカは座っている僕の膝の上に正座をして座っていたのだ。

「「あっ。」」

そこで僕は思わず、彼女の瞳に見入ってしまった。綺麗なスカイブルーの目。多分これはお母さんかお父さんから受け継いだものなのだろう。僕は彼女に起こったであろう辛い出来事を半ば勝手に想像しながら、彼女の瞳の奥にある世界を見ようと瞳を見つめた。彼女がどんな人生を歩んできたのか、知りたい。記憶が何回消えたとしても、何か一つぐらいは残ってるかもしれない。彼女の中にいる、消えていった無数の彼女と、話がしてみたい。そんなことを思いながら、僕はシーカの宝石のような目に釘付けになっていた。

一方、シーカは、ユキトの顔がこんなにも至近距離にあることは滅多になく、さらにはユキトが自分のことを一心に見つめているため、少し頬を赤らめていた。恥ずかしさのあまり、手で自分の顔を覆いたくなる気持ちを必死に抑え、自分もユキトの顔に見入る。私はもう、忘れたくない。これから幾度となく能力を使う時が来ようとも、私は、せめてユキトだけは覚えていたい。そう思いながら、彼女は顔の細部まで眼球を動かさずに観察する。脳内に、彼のイメージを完全にコピーする。

わずか数秒の出来事だったが、二人はそこで多くの情報を交換しあった。我に返った僕は、彼女が顔を赤らめているのを見て、ハッと思い、そこで急に体を動かそうとした。

「っあ。」

だが自分が椅子に座っていたのを忘れていた。結果的には動けずに、元の位置にいた。同時に彼女も「っあ。」っと声を漏らし、後ろに下がろうとした。彼女は勢い余って後ろに仰け反る。僕は半ば無意識に自分の手を彼女の背中に引っ掛け、引っ張っていた。そのまま、彼女は僕の手によって、僕の方へと近づいてくる。彼女は体を縮ませ、びっくりして目を閉じる。僕は彼女の体を前で受け止めた。

「だ、大丈夫?」

彼女はゆっくり目を開ける。そしてさっきよりも近いユキトの顔を見て、顔がさらに赤くなる。さらに、自分がユキトに抱きかかえられていることがわかった途端、彼女の頭はその場で沸騰した。僕はどうしていいかわからず、彼女の反応を待っていたが、次第に彼女の体から力が抜けていき、僕に倒れかかってきた。

「ちょっ、えっ」

少々の戸惑いの声とともに、自分の顔が熱くなっていくのを感じた。慌てて彼女の顔から目をそらす。え、この状況、どうしたらいいんだ?もしかして、シーカ、気を失った??え、でも無理に動かすのも悪いしな、そんな類の幾つもの思考が、僕の頭の中で瞬時に飛び交う。

「だ、大丈夫?」

とりあえず声をかけてみるも、何の反応も返ってこない。これは、ベットに移動させた方がいいな、と僕は心の中で思い、立ち上がろうと手を少しだけ動かした。すると、彼女の手が僕の服を強く握っていることに気がつき、僕は立ち上がるのを中断する。再び椅子に座り、彼女をじっと見つめた。
僕はふと思った。この子は、いつぶりにこうして人の温もりを感じて眠っているのだろう。そもそも、人の温もりを感じたことが、今まで何回あったんだろうか。彼女は自分の能力に苦悩し、ささやかな幸せを感じる余裕などなかったんじゃないか?僕の中で、だんだんと思考が広がっていく。でも、それなら。僕はそこで思考をやめ、彼女をみる。最初は顔が引きつった状態で気を失っているように見えたが、今は安心した顔つきになり、すやすやと眠っているように見えた。僕は少し微笑んだ。彼女が望むのなら少しだけこのままでいよう。自然とそう思えた。彼女が目覚めるまで、
僕はこうして待っていよう。そして、彼女が目覚めた時、僕が一番最初におはようを伝えよう。自然と僕はそう思った。

過去は辛く、悲しいものかもしれない。でも、だからこそ僕はこの子の今を幸せにしてあげよう。僕はそっと彼女の頭を撫でる。いつのまにかシーカの体温に僕も眠気を誘われていた。僕はそれに抗おうとは思わなかった。それはここに来てから、一番心地のいいものだった。




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