繋がりのその先で

Bolthedgefox

1-13誰かの思惑

暗い部屋の中。少し暖かい空気。時刻はまだ朝の4時ぐらいだろうか。
無意識に俺の体は起きる体制へと準備を始める。だが脳はまだ睡眠を貪りたいようで、体と脳の動きが合わず、チグハグな状態になっている。俺はマフィーさんが起こしにきてくれるまで起きずに粘ることにした。
約10分後、コンコン、とドアがノックされる。その音で俺の意識は瞬時に覚醒する。

「はい、どうぞ。」

俺はノックに対して返事をしながら、重い体を起こす。
ギィィっとドアが開かれる。俺は一瞬、何を思ったのだろうか、何の確証もなくそこには時雨が立ってるんじゃないかと思った。だが、やはりそこに時雨はいなかった。

「春樹!!」

部屋に飛び込んで来たのは昴だった。昴を見た瞬間俺は安堵するとともに少しの罪悪感を感じたが、表には出さずに飛び込んでくる昴を受け止めた。

「あの人一体何者?なんか急に助けてもらって、気がついたら家にいてあの人に看病してもらってたんだけど、あの人、全く気配がないし、音もしない。正直言っちゃ悪いかもだけど気味が悪いよ。」

ドアの方を指差しながら焦った様子で話す昴。明らかにこの状況に動揺している。そうか、昴はマフィーさんのことを知らないのか。そう理解するとともに、昴の発言にちょっとした違和感を覚える。

「大丈夫、マフィーさんは昔からここのマンションの管理人さんなんだよ。たまに俺の面倒も見てくれてた。...昴はマフィーさんと一回も会ったことなかったっけ?」

「はい、私は春樹様のお友達に昴様というロボットがいらっしゃるのは存じておりましたが、こうやってお会いするのは初めてでございます。」

ビクッと昴の体が反応する。なるほど、確かに言われてみれば気配も音もない。
いつの間に入って来たのだろうか、マフィーさんは部屋の入り口のところに立っていた。

「おはようございます。春樹様。」

「おはようございます、マフィーさん。」

俺が挨拶を促すと昴は恐る恐るマフィーさんに挨拶をした。

「お、おはようございます。」

「はい、おはようございます、昴様。」

自分の名前に「様」をつけられて変な感じがしたのか、昴は少し不快そうな顔をしていた。
それにしてもさっきの話、俺も昴につられて「管理人さん・・・・・」と言ってしまったが、マフィーさんは人ではなく、ロボットだ。だが昴は「人」だと言っていた。昴なら人とロボットの識別など、いつも通り簡単にやってのけるはずなのに。なぜか今はマフィーさんを人間だと認識している。
俺はそのことを考えながらマフィーさんを見る。...本当にこの人は一体何者なのだろうか。そう考えていると不意にマフィーさんと目が合い、ウィンクをされた。
これは、昴にマフィーさんがロボットであることを黙っていてほしいということだろうか?
俺は瞬きを瞬時に二回することによって、マフィーさんに了解の合図を送る。
そして俺は話を切り出すことにした。

「えっとすみません、いきなりですが本題に入ります。昨日は何があったんですか?」

今度も反応が早かったのは昴だった。昴は思い出したかのように焦りを取り戻す。

「そ、そうだ!春樹、僕、見つけたんだよ!時雨ちゃんがいる場所!」

俺は昴の言葉を聞いた途端、目を見開いた。すぐにマフィーさんの方を見る。彼女は静かに頷いた。

「...ただ、僕が見つけたのは敵の本拠地みたいなところだったんだよ。時雨ちゃんを連れて行った二人を偶然見つけて、尾行したらそこについたんだ。多分あいつら、大きな組織か何かの一員だよ。」

「...。」

俺は昴の言葉を聞いて、言葉も出なかった。もちろん自分を責め、自分なんかが発言する資格はあるのか。また自分に時雨を助けに行く権利はあるのか、そんなことを考えていたからというのもある。
でも、俺が黙ったのにはもう一つ理由がある。
俺はマフィーさんの方を見る。マフィーさんはいつものように相変わらず笑顔で俺たちを見ている。と、マフィーさんは何かに気がついたように口を開いた。

「春樹様、いつまでそうやってご自身を責めているおつもりですか?恐れ入りますが今はそんな時では無いように私は思います。春樹様のその知恵と行動力を今発揮せずにいつ発揮するというのですか?」

「...。」

マフィーさんにしては的外れな発言だと俺は思ったが、己の思考を信じ、今は話を合わせておくことにした。

「...そうですね。程々にしておきますね。」

マフィーさんは少しニコッと俺に微笑みかけた。

「それじゃあ昴、もう少し詳しく時雨の居場所について教えてくれないか?その後、作戦を考える。」

心の中にある疑問を自分の胸に留めておこう。俺はマフィーさんの様子を伺いながら思う。 

「えっとね、場所は...」

昴は急ぐように話し始めた。その声で発せられる言葉一つ一つを聞き漏らさないよう、俺は全力で集中し、昴の話に思考をのめり込ませていった。まだ外は暗かった。






薄暗い室内。何も無い部屋。ここが一体どこで、今は一体何時なのか、何もわからない。ただ一つ確かなのは、私は手と足を壁に鎖で繋がれ、拘束されていること。時々、少しひんやりとした空気が睡魔に負けそうになった自分を現実に繋ぎ止めてくれる。

「私は、どうなったんだっけ。」

意識を取り戻してからずっと私はその事を考え続けている。けど、何も思い出せない。

「早く、ここから出ないと。」

もう何度目かもわからない言葉と共に僅かな望みをかけて腕に力を込める。が、鎖が解けることは無かった。

状況は何度か整理した。確か、春樹くんと昴と一緒に海を見に出かけていて、そこで何者かに襲われたのだろう。そこまでは容易に察しがついた。

...いや、正しくは「記憶」に残っていたんだ。ロボットは普通、見たものや聞いたものはすぐに脳に記録され保存される。だから今回もいつものように「誰か」に会って襲われた記憶があるんだ。でも、その「誰か」の部分がわからない。

「でも、誰かに会ってから襲われている、なんてそんなこと有り得るのかな?」

ふと私はそう思った。多分私なら、襲ってくるような誰かに『会った』、つまりはその相手を認識した段階で、警戒をとくようなことはしない。いつ攻撃を仕掛けられても良いように、身構えているはずだ。

「...と、いうことは。」

頭の中で行われている思考が、つい口に出てしまう。こういう一人の空間で考え事をする時は、よく声に出して頭の中を整理しながらするのが一番なんだ。

「犯人は、私の知っている人物か。」

私が警戒しない人。それはつまり、私の知人。私は思い出せるだけの知人を脳の記憶ファイルから呼び起こしていく。それと同時に私は考えられる可能性を全て並べた。が、誰が犯人なのか検討もつかない。いつもの私ならこんな簡単な問題、すぐに解決出来るのに。今回は何故だか、解答に近付く「過程」となるものがわからない。

はぁ、と私は溜息をつく。多分『あの人』ならこんな簡単な問題、すぐにでも解いちゃうんだろうな。私は心の中で呟いた。が、その直後、私の脳は悲鳴をあげ、目の前、つまりは私の視界内の領域にエラーが表示された。

「えっ。」

思わず声が漏れる。私自身、驚いている。心の中で思っていた『あの人』が誰なのかわからない。でも、確かに私は知ってたんだ、そんな確信だけが脳の記憶ファイルではなく、私の『心』にある。忘れてはいけない、忘れられないような色々なことを私に与えてくれた人。そんな人がいたはずだ。

「あれ、思い出せない...」

初めての感覚に私はゾッとする。私はロボットだから「思い出せない」という現象がない。「忘れる」なんて現象は起きないはずなのに、とそこまで考えた私はハッと気が付く。

「うん、こう、こうで、こうだから...」

私は突然私の頭に浮かんだ仮説を整理する。私がここに「わざわざ意識を奪って」連れてこられたこと、近頃の私の状態、そして何よりも今、私は一部の記憶を「失って」いる。その事が、この仮説の正しさを物語っている。

「なら、もう少し待っていようかな。」

多分春樹くんと昴なら、私を助けに来てくれるはずだ。実質、私はこうやって拘束されている。でも、私は身の危険を感じることはなかった。

「ったく、あいつ、私の一番忘れたくない記憶を奪ったな。」

そんなことしたら、春樹くんと昴に会いに行った意味がなくなるじゃない。

彼女は静かに心の中でそう呟いた。




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