繋がりのその先で

Bolthedgefox

1-10あらぬ疑い


「ただいまー」

バタンと大きな音をたてながら、昴は飛ぶようにして家の中に入ってきた。リビングに座っていた俺と時雨を見て、不満げな顔で吐き捨てるように言う。

「ねーねー、二人とも僕を置いて行っちゃうなんて酷くない??いくらなんでも、声ぐらいはかけて欲しかったよー。」

ブツブツ文句を言いながら、昴は俺の方へと近付いてくる。俺は何も言わず下を向いている。

「ねぇねぇ、ちゃんと人の話を聞いてる??なんで返事してくれな...」

昴が俺の顔を見た瞬間、昴は言葉を発することをやめた。代わりに、違う質問を投げ掛けてきた。

「...これは、一体どういう状況??」

俺の顔を見て、昴はある程度のことを察したみたいだった。

俺は昴に、時雨が怪我をしていたこと、その印が出ていて修理する話になったこと、家に帰ってから時雨が妙な発言をしたこと、その他ある程度のことを話した。

「...状況はわかったよ。んでも、何でこんなに雰囲気が暗いのさ??修理すれば良い話なんじゃないの??」

昴は戸惑いながらも、明確に疑問に思う部分を聞いてくる。まぁ別に空気が暗いとかではないんだが。

「それはな...」

俺は横にいる時雨の心臓の位置を指差した。昴は俺の指差す方に移動し、その部分を見るやいなや、「っっえ??」という驚きの声を漏らす。

「...この構造って」

流石に昴も察したようだ。小さい頃、雪人がまだいた頃に昴は助手として参加させてもらっていたらしい。それだけのことはある。

「まさか、時雨ちゃんの生みの親は雪人なの??」

困惑した表情で昴が俺に問いかける。

「いや、まだわからない。ひょっとすると構造がよく似ているだけかもしれない。」

と言ってすぐ、俺は意見を覆した。

「...でもやっぱりこの構造は雪人にしか作れない。ほとんどの可能性で、雪人が時雨を作ったということで間違いないだろうな。」

広いリビングが重い空気に包まれる。二人とも押し黙り、それぞれが自分の世界を展開し、思考を始める。まず、『時雨が雪人に作られた』という点について考えてみよう。時雨が雪人に作られたということは、少なくとも雪人がこの世界から消え、どこかに行ってしまう前に作られたということ。だが、雪人はタイムマシンの開発に忙しかったはずだ。とてもじゃないがこんな複雑かつ精密なロボットを作っている暇はなかっただろう。となると、考えられるのはタイムマシンの開発に携わる前に作ったということになるが、それもおかしい。雪人は小さい頃から飛び抜けて優秀であったため、かなり小さい頃からタイムマシン研究をしていた。もちろん、それまではロボット作りを行っていたのは確かだ。だが、いくら雪人でも、こんな複雑な構造を小さい頃に作ることは出来なかったはずだ。...全て聞いた話だが。

俺は時雨をじっと見つめる。
時雨、お前は本当に何者なんだ??

「...納得いかない。春樹、ちょっとだけ調べさせてよ。」

「あぁ。俺もお前に見てもらおうと思ってたんだ。」

そう言うと、昴はさっそく時雨を調べ始める。昴の邪魔になっては悪いと思い、俺はそれを少し離れた位置から見守ることにした。

昴は俺がロボットの点検をしている時などもいつも隣にいて、その作業を見ているため、普段はそのロボットを数秒見ただけで「あぁ、原因は...」とすぐに原因を突き止めてしまう。だが、今回は違った。昴は20分かけ、あらゆる所を隅から隅まで調べ尽くしたが、最後に昴の口から出てきた言葉は「わからない」の一言だけだった。

少し落ち込んでいる昴に、俺はかける言葉が見つからず、ただ黙っていた。しばらくして昴は口を開いた。

「今後もさ、定期的に時雨ちゃんのことを調べさせてもらってもいいかな??」

「あ、あぁ。俺もそうしてくれると助かる。」

「とりあえず今は何もわからない。今はどうやってもわからないんだから、時雨ちゃんを起こしてあげないと可哀想だよね。」

「そうだな。」

俺は昴の意見に賛同し、時雨のメンテナンスを終える方向へと進める。傷だらけのパーツを新しいものに変えれるだけ変えて、治していく。どのみち、これだけの怪我をしているなら時雨には定期的にメンテナンスを受けてもらわなければならない。その時に俺と昴で調べれば良い、そう思った。

最後のパーツをはめる時、俺は不意に時雨と雪人はどこかで繋がっているのではないか、と思った。時雨が、俺と雪人を繋いでくれるのではないか。そう思った。

時雨と雪人の関係性。
雪人と俺の関係性。
時雨と俺の関係性。

「時雨と、俺の、共通点。」

無意識的に自分の口から出た言葉を聞き、俺はハッと目が覚めたかのように顔をあげる。隣にいた昴は、「っうぇ!?」と変な声を出して驚いていた。

「俺と時雨の共通点。それは多分、前に受けたテスト。そのテストは俺と全て同じ回答。同点。」

ブツブツと言い始めた俺に、昴は少し呆れた表情を浮かべながら、「僕にもわかるように説明してよ」と言った。

「あっごめん、だから、前回受けたテスト、皆で勝負したテストがあっただろ??その成績発表の時に、俺だけ放課後に呼び出しがあって先生のところに行ったんだ。今回は何の話だと思ってたら、そのテストで『俺と時雨の解答が全て同じだった』って言われた。俺も自分の目で確認したけど、確かに解答は同じだった。こんな偶然ありえないって思ってたけど、今確信した。やっぱり偶然じゃなかったんだ。これはもしかすると、雪人はどこかで生きていて、俺に送った何かしらのメッセージなのかもしれない。」

昴はまず、俺と時雨の解答が同じだったという事実に驚愕し、口を開いたまま固まっていた。

「...いやまぁ、そりゃ全部のテストが満点だったら全て同じ解答だったってのはわかるけど、間違ってたところまで解答が同じだなんて信じられないよ。まぁ、春樹が言うんなら嘘じゃないんだろうけど。」

キーィィィンという音と共に、時雨は起動を始めた。それと共に俺達はこの話題について話すのをやめた。やがて、時雨の目が青く染まる。胸の所に青いマークが点灯する。

「ハロー、時雨。」

青い光に手を少し触れ俺がそう言うと、時雨の目は普段の目の色に戻っていく。だんだんと時雨の目のピントが合ってきたみたいだ。ポカンとしていた時雨の顔が徐々にいつもの表情へと戻っていく。瞬きを2、3回した後時雨はこちらを見た。

「...おはようござい、ます??」

時雨はまだあまり状況を把握出来ていないみたいだ。多分、修理する少し前の記憶がなくなっているのだろうか。俺はそう思っていた。

「ん。」

しばらくして時雨が自分の体を見て顔を赤くしていることに気が付き、自分がどんなミスをしたのかを自覚する。ハッと昴の方を見るといつの間にか昴はこの部屋からいなくなっていた。

「...えええ、ええと、この状況って、ど、どういう状況でしょうか??」

時雨が涙目になりながら俺に聞いてくる。ただし、目線は合わせてくれない。

「違うんだ、ほら、思い出せないか??みんなでショッピングモールに行って、服買って、時雨の怪我に気がついて、二人で先に帰ってきて、修理を...」

慌てて俺は時雨の誤解を解こうと必死に説明する。だが、一番大切なところに差し掛かった時に事件が起こる。

「たっだいまー。もー二人とも僕をおいて二人で家に先に帰っちゃうなんてどうし...」

昴は今帰ってきた風を装い、そして演技を続ける。まぁこれが演技だということは多分俺しかわからないのだろうが。

「あ、っえと、お、お邪魔だったかな??ぼ、僕はちょっとお茶でも買ってくるよ!!」

そう言って昴は勢いよく部屋から飛び出した。あぁ。完全にやられた。俺は誰もいなくなったドアの方を睨み付ける。この間も時雨は目に涙を浮かべ、おどおどしながらこっちを見つめている。これは多分誤解を解くのに相当な時間が必要になりそうだ。

誰が見てもこの状況、つまりは『時雨の上半身の服を俺が(時雨を起動させるために)脱がしている』この状況は、どこからどう見てもヤバイものだった。









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