繋がりのその先で
2-2少女の名前
それは妙な感覚だった。
目の前の少女は幸せそうに笑っている。
だが、その少女から発せられた言葉に僕は今、恐怖している。
おいおい、待ってくれ。『NO.717』が名前だって?それじゃあまるで、『人』じゃないみたいじゃないか。
「...それはコードネームとかではなくて?」
 
僕は少しの願いを込め、少女に質問する。が、彼女は僕の言葉に反応することはなく、ポカンとこっちを見ていた。...『コードネーム』という言葉の意味がわからないのか。僕は少し、根本について考えてみる。...今はいつなんだ?
「ねぇ、今は何年の何月かわかるかい?」
すると、少女は僕の言葉に反応し、返答した。
「...ごめんなさい、私もわからないの。」
「そっか...。いや、良いんだ。ありがとう。」
僕は少女に聞こえないよう、溜め息をつく。...ここは、あの時間じゃないのか??いや、そう判断するには情報が少なすぎる。もう少し情報を集めてからじゃないと、確実性に欠ける。ここは慎重に行こうと心に誓う。まずは現状を正確に把握すること。それが今の僕のやることだ。そんなことを考えていると、急に僕の左腕に力が加わった。少女が僕の左腕を引っ張ったのだ。
「...誰か来る。」
そう少女は言う。だが、足音ひとつ僕の耳には入ってこない。ましてや、『気配』を読むことが昔から得意だった僕が、『気配』も感じない。...本当に来るのか?
「...あ、多分おじいちゃんかもしれない。」
彼女は指を差し、少し歩くペースを上げる。僕は言われるがまま、その少女についていくことにした。しばらく歩いていくと、ここで僕はやっと前の方から何かがやって来るのを感じる。...この少女は僕の何十秒も前にそのことを察知していた。この子、一体何者だ?
「...そこにいるのは誰じゃ?」
相手はまだ僕を見ていないのにも関わらず、話しかけてきた。この声、この喋り方は60代後半の男性、つまりは少女の言う「おじいちゃん」に当てはまる。...何故あの時点でわかったんだ?
そんなことを考えながら、僕は相手に警戒されないよう、自然に嘘をついた。
「あ、えっと、すみません。僕、記憶がなくて...。気付いたらこの山奥で倒れていたみたいで、彼女に助けてもらったんです。」
僕の言葉を聞いた彼女は少し驚きながらも、その「おじいちゃん」に駆け寄ると
「この人は悪い人じゃないよ。この人、本当に倒れてたの。」
と説明してくれた。少女がおじいちゃんに説明をしてくれている間に、僕は彼を観察する。よく見ると、彼の隙の無さがわかる。いつでもこの少女を守れるようにと、僕の行動一つ一つを気にしているようだ。
「おじいちゃん!本当にこの人は悪い人じゃないの!わかった?」
少女は強く念を押した。僕は警戒してほしくない反面、『...そんなにすぐに他人を信用しても大丈夫なのか?』と心の中で思った。
...信じてもらえるのはありがたいことだ。だが、僕は少し嘘をついてしまったことに罪悪感を覚える。状況をある程度確認出来て、自身に余裕が出来てからこの人たちに話をしよう。僕は心の中でそう思う。
「お主がそう言うんなら、そうなんじゃろうな。よし。わかった。」
彼は僕をじっと見つめてから、軽く頷いた。どうやら信用してくれたみたいだ。...隙は全く無いのに、そこはすぐに信用するんだな。と僕は思う。よくわからない人だ。
「すまんかったな、少年。わしはこの子を探していたんじゃ。見つかったのもお主のお蔭なのかもしれないな。感謝する。」
「いえいえ、僕のお蔭じゃないですよ。彼女があなたの気配を感じとって、見つけたんです。あなたがこんな山奥まで来てくれたから見つかったんですよ。」
僕は首を横に振りながら彼に言う。僕は話が切れないように続けざまに質問する。
「えっと、町ってどっちにありますか?」
一瞬、彼は「は?」という顔をしたが、すぐに平常を取り戻した。
「...そうか、記憶をなくしておったんじゃったな。よし。ならばわしについてくるがいい。 わしはここから一番近い町に住んでおるからな。案内してやる。」
「ほ、本当ですか!?」
僕は心の中でガッツポーズをする。ルヌフガはこっちをチラリと見てからニヤッと笑い、歩き出した。僕はその後ろを少女と共に歩いていく。
僕はもう少しルヌフガを驚かせようと、気付かれないように観察する。
「...ルヌフガさん、あなた、この子以外にもたくさんの子供と一緒に住んでいますよね?」
「...何故それがわかったんじゃ?」
あくまでも予想だったものが当たってよかった。
「いや、ルヌフガさんの着てる服はボロボロなのに、この少女が着ている服は凄く新しいなーと。さっき一緒に住んでいると言っていたので、ということはたくさんの子供と生活していて、自分にお金を使うよりも子供に使うことを優先しているのかな、と思いました。まぁ、あくまでも想像でしたけどね。」
僕は改めてルヌフガを見る。ルヌフガは表情一つ変えず、同じペースで歩いていく。
「そうじゃよ。ワシは親がいない小さな子供達を引き取って一緒に暮らしているのじゃ。...それにしてもお主のその観察力、なかなか鋭いのぉ。良い目をしておる。」
「子供の頃から、親から『常に周りを観察しておけ』と耳が痛くなるほど言われていたので。」
僕は中学生の頃から、洞察力で人の職業や性格を見抜くことが上手かった。...まぁそれをやりすぎていたからか、周りの人からは「...気持ち悪ー」「そんなことして何が楽しいの?」と嫌われていたのだ。だが、そんな僕の特技も意外なところで役に立つ。僕は心の中で静かに喜んだ。
ふと、少女が視界に入る。同時に僕の体が不意に反応し、あることを思い出す。...何を呑気に僕は喜んでいるんだ。もっと他にやるべきことがあるだろう。僕はルヌフガに近づくと、少女に聞こえないように話しかける。
「...あの、失礼かもしれませんが、彼女は引き取った子なんですか?」
「...まぁそうじゃな。何じゃ?気になることでもあるのか?」
ルヌフガは歩くスピードを緩めずに聞いてくる。僕は少し躊躇しつつ、彼女の『名前』について聞いてみる。
「あの、彼女の名前なんですが...。いくらなんでも番号っていうのは可哀相じゃないですか?このご時世に...」
と言いかけて、言葉を改める。
「とにかく、番号以外で彼女の名前ってないんですか?」
「うむ。確かにな。あの子は...まぁ事情があってな。名前を持っておらんのじゃよ。」
ルヌフガは少し言葉に詰まった様子で返してくる。...何かあるみたいだな。ルヌフガは表情一つ変えずに歩き続けているが、彼のまとっている『雰囲気』が少し暗いことを僕は感じ取っていた。
チラリと少女の方を見る。ルヌフガと手を繋ぎながら前を真っ直ぐに見つめ、歩いている少女。一見、無心に歩いているように見えるが、僕はそこに何か悲しいものを感じた。
僕は少し考える。何か、何かこの子にしてあげられることはないのか??僕に出来ることはないのか?
...考えに考えた結果、僕は一つの答えを出した。僕は少女の隣にまわりこみ、少女に話しかける。
「...あの、君、名前ないって言ってたよね?」
少女は顔を上げ、首を静かにコクっと縦にふり、またすぐに顔を前に戻す。
「...あの、こんなことは僕がやるべきことじゃないかもしれないけど。もし、良かったらさ、僕が君の名前、考えてあげようか?」
バっとこちらを向く少女。それに驚く僕。一瞬、嫌なのかなと思ったが、彼女の目を見て僕の頭からその考えが消える。
彼女の目は凄く光っていた。
文字通り、綺麗に光っていた。
「...え、良いの?」
少女の言葉は、期待で満ちていた。
「もちろん。君が見つけてくれたから僕は助かったわけだし、君のお陰で僕は町に行くことが出来るんだ。」
僕の言葉を聞き、彼女は満面の笑みを浮かべる。そんな少女を見て僕は少し幸せな気持ちになった。
「ねぇ、いつぐらいにその『なまえ』ってものを貰えるの?」
「え、そんなすぐには無理だよ。ちゃんと『君らしい名前』を考えるから。」
期待を膨らませる彼女を見て、僕は少し気合いを入れる。まずは彼女を観察してみよう。僕はそう思って少女を見る。
すると、少女の髪が月明かりに照らされて光る。今まで服装の方に意識がいっていったのか、僕が見落としていたのか。僕はその髪の色に衝撃を受ける。
いや、こんな特徴的な物、僕が見落とすか?
そう思っていると不意に横から
「おい、717!」
とルヌフガが叫ぶ。
すると、少女の髪色は少し栗色の髪色に戻る。
...な、なんてこった。
髪色が変わった?
ルヌフガが声をかける前の少女の髪色は。
綺麗な、凄く綺麗な白銀色の髪だった。
驚いている僕に、ルヌフガは静かに言う。
「...町に戻ったら、おぬしに話がある。」
こうして僕は一人の少女『No.717』と一人の老人『ルヌフガ』と出逢ったのだった。
目の前の少女は幸せそうに笑っている。
だが、その少女から発せられた言葉に僕は今、恐怖している。
おいおい、待ってくれ。『NO.717』が名前だって?それじゃあまるで、『人』じゃないみたいじゃないか。
「...それはコードネームとかではなくて?」
 
僕は少しの願いを込め、少女に質問する。が、彼女は僕の言葉に反応することはなく、ポカンとこっちを見ていた。...『コードネーム』という言葉の意味がわからないのか。僕は少し、根本について考えてみる。...今はいつなんだ?
「ねぇ、今は何年の何月かわかるかい?」
すると、少女は僕の言葉に反応し、返答した。
「...ごめんなさい、私もわからないの。」
「そっか...。いや、良いんだ。ありがとう。」
僕は少女に聞こえないよう、溜め息をつく。...ここは、あの時間じゃないのか??いや、そう判断するには情報が少なすぎる。もう少し情報を集めてからじゃないと、確実性に欠ける。ここは慎重に行こうと心に誓う。まずは現状を正確に把握すること。それが今の僕のやることだ。そんなことを考えていると、急に僕の左腕に力が加わった。少女が僕の左腕を引っ張ったのだ。
「...誰か来る。」
そう少女は言う。だが、足音ひとつ僕の耳には入ってこない。ましてや、『気配』を読むことが昔から得意だった僕が、『気配』も感じない。...本当に来るのか?
「...あ、多分おじいちゃんかもしれない。」
彼女は指を差し、少し歩くペースを上げる。僕は言われるがまま、その少女についていくことにした。しばらく歩いていくと、ここで僕はやっと前の方から何かがやって来るのを感じる。...この少女は僕の何十秒も前にそのことを察知していた。この子、一体何者だ?
「...そこにいるのは誰じゃ?」
相手はまだ僕を見ていないのにも関わらず、話しかけてきた。この声、この喋り方は60代後半の男性、つまりは少女の言う「おじいちゃん」に当てはまる。...何故あの時点でわかったんだ?
そんなことを考えながら、僕は相手に警戒されないよう、自然に嘘をついた。
「あ、えっと、すみません。僕、記憶がなくて...。気付いたらこの山奥で倒れていたみたいで、彼女に助けてもらったんです。」
僕の言葉を聞いた彼女は少し驚きながらも、その「おじいちゃん」に駆け寄ると
「この人は悪い人じゃないよ。この人、本当に倒れてたの。」
と説明してくれた。少女がおじいちゃんに説明をしてくれている間に、僕は彼を観察する。よく見ると、彼の隙の無さがわかる。いつでもこの少女を守れるようにと、僕の行動一つ一つを気にしているようだ。
「おじいちゃん!本当にこの人は悪い人じゃないの!わかった?」
少女は強く念を押した。僕は警戒してほしくない反面、『...そんなにすぐに他人を信用しても大丈夫なのか?』と心の中で思った。
...信じてもらえるのはありがたいことだ。だが、僕は少し嘘をついてしまったことに罪悪感を覚える。状況をある程度確認出来て、自身に余裕が出来てからこの人たちに話をしよう。僕は心の中でそう思う。
「お主がそう言うんなら、そうなんじゃろうな。よし。わかった。」
彼は僕をじっと見つめてから、軽く頷いた。どうやら信用してくれたみたいだ。...隙は全く無いのに、そこはすぐに信用するんだな。と僕は思う。よくわからない人だ。
「すまんかったな、少年。わしはこの子を探していたんじゃ。見つかったのもお主のお蔭なのかもしれないな。感謝する。」
「いえいえ、僕のお蔭じゃないですよ。彼女があなたの気配を感じとって、見つけたんです。あなたがこんな山奥まで来てくれたから見つかったんですよ。」
僕は首を横に振りながら彼に言う。僕は話が切れないように続けざまに質問する。
「えっと、町ってどっちにありますか?」
一瞬、彼は「は?」という顔をしたが、すぐに平常を取り戻した。
「...そうか、記憶をなくしておったんじゃったな。よし。ならばわしについてくるがいい。 わしはここから一番近い町に住んでおるからな。案内してやる。」
「ほ、本当ですか!?」
僕は心の中でガッツポーズをする。ルヌフガはこっちをチラリと見てからニヤッと笑い、歩き出した。僕はその後ろを少女と共に歩いていく。
僕はもう少しルヌフガを驚かせようと、気付かれないように観察する。
「...ルヌフガさん、あなた、この子以外にもたくさんの子供と一緒に住んでいますよね?」
「...何故それがわかったんじゃ?」
あくまでも予想だったものが当たってよかった。
「いや、ルヌフガさんの着てる服はボロボロなのに、この少女が着ている服は凄く新しいなーと。さっき一緒に住んでいると言っていたので、ということはたくさんの子供と生活していて、自分にお金を使うよりも子供に使うことを優先しているのかな、と思いました。まぁ、あくまでも想像でしたけどね。」
僕は改めてルヌフガを見る。ルヌフガは表情一つ変えず、同じペースで歩いていく。
「そうじゃよ。ワシは親がいない小さな子供達を引き取って一緒に暮らしているのじゃ。...それにしてもお主のその観察力、なかなか鋭いのぉ。良い目をしておる。」
「子供の頃から、親から『常に周りを観察しておけ』と耳が痛くなるほど言われていたので。」
僕は中学生の頃から、洞察力で人の職業や性格を見抜くことが上手かった。...まぁそれをやりすぎていたからか、周りの人からは「...気持ち悪ー」「そんなことして何が楽しいの?」と嫌われていたのだ。だが、そんな僕の特技も意外なところで役に立つ。僕は心の中で静かに喜んだ。
ふと、少女が視界に入る。同時に僕の体が不意に反応し、あることを思い出す。...何を呑気に僕は喜んでいるんだ。もっと他にやるべきことがあるだろう。僕はルヌフガに近づくと、少女に聞こえないように話しかける。
「...あの、失礼かもしれませんが、彼女は引き取った子なんですか?」
「...まぁそうじゃな。何じゃ?気になることでもあるのか?」
ルヌフガは歩くスピードを緩めずに聞いてくる。僕は少し躊躇しつつ、彼女の『名前』について聞いてみる。
「あの、彼女の名前なんですが...。いくらなんでも番号っていうのは可哀相じゃないですか?このご時世に...」
と言いかけて、言葉を改める。
「とにかく、番号以外で彼女の名前ってないんですか?」
「うむ。確かにな。あの子は...まぁ事情があってな。名前を持っておらんのじゃよ。」
ルヌフガは少し言葉に詰まった様子で返してくる。...何かあるみたいだな。ルヌフガは表情一つ変えずに歩き続けているが、彼のまとっている『雰囲気』が少し暗いことを僕は感じ取っていた。
チラリと少女の方を見る。ルヌフガと手を繋ぎながら前を真っ直ぐに見つめ、歩いている少女。一見、無心に歩いているように見えるが、僕はそこに何か悲しいものを感じた。
僕は少し考える。何か、何かこの子にしてあげられることはないのか??僕に出来ることはないのか?
...考えに考えた結果、僕は一つの答えを出した。僕は少女の隣にまわりこみ、少女に話しかける。
「...あの、君、名前ないって言ってたよね?」
少女は顔を上げ、首を静かにコクっと縦にふり、またすぐに顔を前に戻す。
「...あの、こんなことは僕がやるべきことじゃないかもしれないけど。もし、良かったらさ、僕が君の名前、考えてあげようか?」
バっとこちらを向く少女。それに驚く僕。一瞬、嫌なのかなと思ったが、彼女の目を見て僕の頭からその考えが消える。
彼女の目は凄く光っていた。
文字通り、綺麗に光っていた。
「...え、良いの?」
少女の言葉は、期待で満ちていた。
「もちろん。君が見つけてくれたから僕は助かったわけだし、君のお陰で僕は町に行くことが出来るんだ。」
僕の言葉を聞き、彼女は満面の笑みを浮かべる。そんな少女を見て僕は少し幸せな気持ちになった。
「ねぇ、いつぐらいにその『なまえ』ってものを貰えるの?」
「え、そんなすぐには無理だよ。ちゃんと『君らしい名前』を考えるから。」
期待を膨らませる彼女を見て、僕は少し気合いを入れる。まずは彼女を観察してみよう。僕はそう思って少女を見る。
すると、少女の髪が月明かりに照らされて光る。今まで服装の方に意識がいっていったのか、僕が見落としていたのか。僕はその髪の色に衝撃を受ける。
いや、こんな特徴的な物、僕が見落とすか?
そう思っていると不意に横から
「おい、717!」
とルヌフガが叫ぶ。
すると、少女の髪色は少し栗色の髪色に戻る。
...な、なんてこった。
髪色が変わった?
ルヌフガが声をかける前の少女の髪色は。
綺麗な、凄く綺麗な白銀色の髪だった。
驚いている僕に、ルヌフガは静かに言う。
「...町に戻ったら、おぬしに話がある。」
こうして僕は一人の少女『No.717』と一人の老人『ルヌフガ』と出逢ったのだった。
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