繋がりのその先で

Bolthedgefox

2-1実験の成果


時間というものは実に不思議だ。それは何に縛られるわけでもなく、ただ一定に過ぎていく。そんな『時』という考え方を生み出したのもまた人間だが、その感覚は大昔からあったらしく、今を生きる動物でさえ、『明るくなれば起き、暗くなれば寝る』という風に『時』を知らず知らずの内に、無意識に意識している。現代では『時刻』、つまり『時』を『刻』むことが当たり前になっており、『時間』、つまり『時』の『間』を意識するようになっている。だが、その『時刻』や『時間』という概念もまた、人間が生み出したものであり、不確かなものだと僕は思っていた。『時』という概念がある、だからこそ全ての生命は『動く』ことが可能になっているのか。また、『動く』ことが出来るから、『時』という概念が生まれたのか。僕はいつもそんなことを考え、毎日を過ごしていた。

ある日、父親が死んだ。

僕が小さな頃に母親が死んだっきり、僕の面倒を見てくれていた父親が、急に交通事故でなくなった。

その時にはもう僕は一人で生活していて、自宅のニュースを見て知った。電話をかけてくれるような知人もいなければ、親戚もいない。ましてや友人なんて、僕にはハードルが高すぎた。
その時、初めて僕は死を実感した。自分の死ではなく、他人の死によって。
あ、死ぬってこういう感覚なのか。
死ぬって本当、怖いんだな。
テレビを見ていた僕の頬に、いつの間にか冷たい液体が流れていた。

『父の研究を未来に繋げよう。
そしていつか、両親を助けに行こう。』

僕はそう心に決め、タイムマシンの開発グループのトップとして、この瞬間までやってきた。必ずタイムマシンは完成すると。誰もがタイムスリップは不可能だと思っている中で、僕は必ず成功させると心に誓いながら、日々、努力を重ねてきた。すると、僕の周りにはいつの間にか仲間がいて。僕を応援してくれる人がいて。そして。ついに。

「今日、この最終実験をもって、タイムマシンは完成します。皆さん、今までよく頑張ってくれました。ありがとう。」

数十人の選ばれた研究者たちが今、僕の目の前で泣いたり抱き合ったりしている。それもそのはず、『不可能』とされてきたタイムスリップは、理論上可能だということがこの実験で証明されるだろうからだ。この研究に関わった研究者全てが納得せざるを得ない理論。それを僕は見つけ出したのだ。

「...雪人さん、本当にあなたが最終実験の被験者となるんですか??何もあなた自身が実験体にならなくても、あなたはこの研究チームの大切なリーダーなんですから。」


研究員のある一人が僕にそう言ってくれた。だが、僕は静かに首を横に振る。

「これは僕がやりたい事なんです。僕はこの為だけに生きてきたようなものなんです。だから、僕にやらせてくれませんか??」

僕がそういうと、その研究員は少し寂しげな顔をしたが、すぐに笑顔になり「わかりました。」と言ってくれた。

「それに、このタイムマシンの技術はこの研究に関わった皆さんに伝えてあります。この実験がもし失敗しても、今後の国の発展には影響がない。しかも、ここにいる皆さんは優秀です。それは僕が保障します。」

研究室の皆は、僕の話を反論することなく聞いてくれている。これは僕のわがままであることは間違いない。でもこれは僕がすべきことなんだ。

「それでは、タイムマシンの準備を。君、行き先は、『あの時間』でお願いします。」

僕は研究員の一人に行き先を告げる。

目に涙を浮かべている研究員たちが一斉に「はいっ!!」と気合いの籠った返事を聞き、僕は転移システムの機械の中へと移動する。
中は狭く、人一人がギリギリ入れるほどの広さだ。僕は入ってきた扉が閉まったのを確認し、心のなかでカウントダウンを始める。研究員の皆が、色々な行程をチェックし、素早く進行してくれている。僕は心の中で「今までありがとう。僕は本当に恵まれていたよ。」と呟いた。研究員が最後の行程をチェックし終えたようだ。いつでもいけるという合図を僕に送ってくれた。

「よしっ。それでは、開始っ!!」

僕は外に向かって大声で叫びながら、作戦開始の合図を送る。それをみた研究員がボタンを押した。あぁ。ついに。この瞬間が来た。
僕の意識は時間の中に溶けていくように、いつのまにか無くなっていた。








っ!!
僕はとっさに目を開ける。が、まぶたの感覚がない。なのに、暗い空間だけは見えている。僕はゾッとしながら周りを眺め続ける。ま、まさか、タイムスリップに失敗したのか??僕は自身の体を見るが、体らしきものはなく、僕自体がふわふわと浮いているみたいだった。...これは夢であって欲しい。しばらく僕は僕を包んでいる闇を眺めることにした。何もない、静かな場所だった。

すると、いきなりパッと光る物が現れた。僕は少し体がピクッと反応したであろう感覚を体のない状態で感じる。...正直気持ち悪い。
その光のようなものを、目で追う。ん、よく見ると人の形をしていないか??そこで僕は、少し勇気を出してみることにした。

「...あの、君は一体誰ですか??」

そう聞くと、光は何も言わず、手を差し伸べてきた。僕はそれがごく当たり前かのようにその手を掴んだ。

「私の名前は...」

光は今にも消えそうなギリギリの大きさの音を発したが、何故か肝心の名前の部分が聞き取れない。...もしかして、日本語じゃないのか??そう僕が考えてると、光は俺の手を離し、闇の方へと遠ざかっていく。

「お、おい!!ちょっと、どこに行くんだ??」

そう僕が聞くと、光は一瞬止まり、その場で振り返り、ニコッと笑顔を見せた。その笑顔をみた僕は、僕の意識が遠くなる感覚を覚える。僕は最後の力を振り絞り、その光に聞いてみる。

「...また、会えるよね??」

すると、光は少し悲しそうな顔で、

「また会えるけど、すぐに私...」

と言った。最後の言葉は聞き取れなかったが、目であろう部分からいっそう輝きが強い物が下に落ちていくのが見えた。僕はそれを見ながら、ゆっくりと意識を奪われていった。








それからどれくらい時間が経ったのだろうか。僕は微かに自分の意識があることに気付いた。僕はそのままじっと動かずにいた。しだいに体はゆっくりと色々な感覚を取り戻していく。冷たい風、木々や草の臭い、土の感触。そして聴力が戻ろうとした時、

「...!!」

僕は誰かに呼ばれていることに気が付いた。
だが、まだ完全に聴力は回復していないので、何を言われているのかわからない。

「...ん」

僕は何も考えることなく、起き上がる。

「...あ、あわ、だ、大丈夫ですかっ!?」

...女の子の声??僕の頭は混乱する。
『あの時間』にタイムスリップしたんじゃなかったのか??僕は慌てて全身を見る。が、特に目立った変化はない。やはり、タイムスリップに失敗したわけではないみたいだ。じゃあ、ここは一体...??
急に起き上がるなり、あたふたしている僕を見つめながら、彼女はキョトンとしていた。そして、彼女自身もどうすれば良いのかわからなくなり、涙目になる。それを見つけた僕はあわてて話しかける。

「あ、ありがとうございます!!僕はこの通り、大丈夫です。」

僕は立ち上がって一周くるりと回って見せ、少女に手を差し伸べた。何とか安心してもらえたようで、涙目の少女は俺の手を掴み、起き上がるとニコッと笑った。僕はその笑顔に吸い込まれるかのように少女を見る。身長は僕の肩ぐらいだから約160cm前後、どちらかと言うと細身で、上は灰色のパーカーのようなものを、下は白い長ズボンを着ていた。
一見清楚な雰囲気だが、両手に数ヶ所ある切り傷や、目の下のくま、何よりもこんな暗い場所や時間帯(辺りを見るかぎり、今は夜なのだろう)に出歩くという行動が、少女の活発さを物語っている。
じーっと少女を分析していると、少女の顔が少し赤くなっていっていることに気付き、僕は見るのをやめることにした。

僕は改めて辺りを見渡す。辺り一面には暗闇が広がっていた。闇と闇の間から木々が生えているみたいだ。...この暗闇のなかであの子が僕を見つけたということは、僕の目がまだ暗闇に慣れていないだけなのだろうか。
一通り考えたあと、僕は改めて少女に声をかける。

「えっと、君、町はどこにあるのかわかるかな??」

「...町は、あっち。」

僕は少女が指差した方向を一瞥する。

「わかった。ありがとう。」

そう言って、町へと向かおうと体の向きを変えようとしたとき、ふと僕は思い付く。

「君、どこから来たの??」

すると、少女はまた指を指した。
さっき指差した方向と完全に一致している。

「...町から来たんだね。なら、一緒に町に行きませんか??」

そう聞くと、少女はコクッと首を縦に振った。

「よし。じゃー決まりね。」

僕が歩き出すと、自然に少女は横に並ぶようにして歩いた。

少し歩いたところで、僕は思い付いたことを聞いてみる。

「ねぇ、君、名前何ていうの??」

すると、少女はキョトンとした顔になり、僕を見つめている。

「...ナ、マエ?」

少女の言い方は、まるで今まで発したことのない、慣れていない言葉のようだった。僕はもう一度聞いてみることにする。

「えっと、名前だよ??君の名前。ほら、唯一自分自身を表す...」

そこまで言うと、少女はハッとした様子で僕を見た。自分の名前を忘れていたのか??

「あ、私を表すものならあるよ。」

少女は次の言葉をにこやかに告げる。





「私はね、『No.717』っていうんだよ。」























コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品