繋がりのその先で

Bolthedgefox

1-5予測不可能な願い


「...では。私のお願い、聞いてもらっても良いですか??」

テスト返却が今日で、テストをしたのが先週だから...俺たちが出会ってからもう一週間が経とうとしているのか。と内心感心しつつ、俺は時雨さんの方を見る。この噴水の近くでみんなでお弁当を食べることも、いつしか習慣づいていた。はぁ。お願いか。俺に願いなんてほとんどないのに、ましてやこのロボット二人に叶えてもらう願いときたら、全く俺の頭に浮かんでこないのに、どうしろと言うのだろう。

「時雨さんから先に言ってくれるんですか??」

と聞いてみる。すると時雨さんが「先に言いたいです!!」と凄く嬉しそうな顔をするので、俺は「どうぞ」と先を譲ることにする。まぁ、最悪時雨さんのお願いを聞いたあと、それを参考にして俺も答えれば良いだろうと結論づける。...少しの罪悪感は残るが。

「...僕は負けた身だからね~。まぁ時雨ちゃんの言うことなら僕は頑張って叶えるよ☆」

昴はいつものテンションに戻ったらしく、『早く早く!!』と言わんばかりに時雨さんのお願いを待っている。昴は多分、『願いを叶える側』でも楽しめるのだろう。最初からこうなることはわかっていて、この勝負を仕掛けたのではないかと思ってしまうぐらい、昴の性格は明るいのだ。

「わかりました。それでは、発表します。」

...いざ発表されるとなると、急に不安になってくる。この学校に非常識人がいないのは周知の事実であり、俺も疑ったことはない。流石に時雨さんだって、常識はわきまえているはずなので、『お金をください』とか『一週間、女装して学校に通ってください』とか『死んでください☆』とかそういうお願いはないはず、と思っていたのに、何故か凄く嫌な予感がする。隣の昴をチラッと確認すると、さっきの状態と何ら変わりのない様子で時雨さんの方を見ている。...そんな昴を見て、俺は改心する。そうだよな、時雨さんなんだからそんなことは絶対ないよなと心に言い聞かせる。


「...私の願いは」

次に来る言葉を聞いて、俺と昴は唖然とした。時雨さんの言葉は、俺の予想の斜め上を行ったどころではない。そもそも、考えの次元が、元の思考回路が違うのだろう。彼女はこう言ったのだ。

「...この三人で、時間跳躍の研究がしたいです。」





...。


...時間跳躍。


要するに、タイムスリップ。今この機械化が進んだ時代で、唯一、全く進んでいないと言っても間違いではない分野だ。今まで『時間跳躍は不可能』という類いの説を覆したものは誰一人としていない。さらにいえば、ここ百年で日本以外の世界各国での研究チームなどが次々と断念し、解散していき、ついには数十年前、すべての国々が『時間跳躍』を研究することをやめた。つまり、『時間跳躍』は不可能だと結論づけられたようなものだった。研究には莫大な資金と、壮大な資源、さらには大きなリスクや犠牲が必要とされる。そんなことを、彼女はやろうと言っているのだ。

「...えっと、それは新しいキャラか何かですか??」

俺は冗談であることを信じようとする。正直そんな馬鹿げた話に、俺は巻き込まれたくはなかった。『時間跳躍』??一度は誰だって子どもの頃などに夢見たものだろう。が、俺達はもう高校生だ。流石に現実を受け止めなければならない。

「いいえ。私は本気です。」

彼女は力強くそう言った。...冗談ではないのか。と、俺は少し驚く。俺と同じ点数をとった時雨さんだ。少くとも何か、『根拠』があるのかもしれない。俺だって、出来るのなら時間跳躍とやらをしてみたい。そう思ってしまうほどの力強さだった。


「...まぁそれは良いとして、本当に僕たちにそんなことが出来るんですか??...例えば、研究をどう進めて行くかなどの方針とかはあるんですか??」

俺の隣で昴がうんうんと頷く。時雨さんがそこまで言える根拠を知りたい。

「はい。もちろんあります。...少し長くなりますが、良いですか??」

時雨さんはにっこりと笑い、俺達は聞く体制を整える。

「そうですね、根拠というかこれは持論になりますが、説明していきますね。まず時間跳躍ですが、今までの理論上、ブラックホールが作れる環境があるのなら一応の見通しはついていたわけです。ただ、『危険性が高い』という一点で研究がストップされてしまいました。そう、あの事件があって以来、世界は時間跳躍の研究をやめてしまいました。」

...『事件』。兄さん。

「...兄さん、か。」

俺は無意識に言葉を発していた。

「っ!?」

突然、時雨さんは驚愕の事実を知ったかのようにあからさまに驚く。

「あなたの...兄??」

時雨さんがそう呟いた瞬間、世界が固まった。

「え...」

俺は今自分が見ている景色が現実なのかどうかわからなくなった。

時雨さんと昴が、突如無数の数字へと次々に変わっていく。

せ、世界が数値化されている!?

「な、何がどうなってんだ!?」

俺は反射的にその場を動こうとする、が、体が鉛にでもなったかのように全く動かない。
昴と時雨さんは数秒前の状態から1つも動かなくなり、段々と足の方から数字に包まれていく。

こ、このままじゃヤバイ。瞬時に何かを感じた俺は、すぐさま時雨さんに話しかける。

「だ、大丈夫ですか!?」

しかし返答はない。彼女はじっと地面を見つめながら、数値化されるのを待っているかのようだ。

「す、昴!!!お前も何か言えよ!!」

しかし彼女同様、昴も全く動く気配がない。
...クッソ。またあの悲劇が起こるのか。俺はそんなことを考えながら、自分の体を見る。
そこで俺は気づく。

「...は??」

意味がわからなかった。今まで理解出来なかったことなんて数えるほどしかなかったのに。何故か、俺の体だけ数値化されていないのだ。
俺は必死に考える。が、その理由はどこにも見つからない。...まさか、俺だけが記憶を保持したまま元に戻るのだろうか。そんなのまるで、俺だけが取り残されたみたいじゃないか。

「...ざっけんな」

俺は下を向きながら、歯を食い縛る。...何でこんなことになってるのか。手がかりになるようなことは何一つわからない。そんな自分の無力さに、俺は心底絶望する。叫びたい気持ちを俺は必死に圧し殺す。

「...ァ、ォル」

俺は何かの音が聞こえた瞬間、跳ね上がるように音の方向に顔を向ける。その方向には彼女がいた。何と、時雨さんが何かを言おうとしていた。

「...何て言ってるんだよ!?」

俺は必死に聞き返す。が、数値化はもう肩の位地まで来ていた。

「...ユゥ、きっトォ...ィイ、ギィィテェ...」

俺は心のなかで復唱する。
...ユ、キ、トォ、イ、ギ、テェ。
...。
『雪人、生きて。』。
そう言い残して、ついに彼女の全てが数字と化した。
俺はその言葉の意味を考える余裕もなかった。俺は無力感に押し潰される。
ふと、俺は自分の頬に冷たいものが流れるのを感じた。最後の時雨さんの言葉を聞いてから、それはずっと流れているようだ。

なんで。なんで俺が泣いてるんだよ。

なんで。なんで俺が言われたように感じてるんだよ。

俺は自分の体から力が抜けていくのを感じる。俺はすぐにその場に倒れこむ。

結局、俺はまた何も出来ないんだな。
その言葉が頭のなかをぐるぐると回っている。

「バヂッ」

突然、俺の頭に電流のような衝撃が走る。
...あぁ。もういいや。どうでもいい。
俺はその衝撃に身を任せ、気を失った。















「繋がりのその先で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く