繋がりのその先で

Bolthedgefox

1-3不思議な出会い

「えっと...」

俺は目の前の光景を見て、固まる。流石にこんな展開は予想できなかった。状況の整理が追いつかない。俺の頭の中はもともと疑問で埋め尽くされていたが、今は一斉にどこかに消えたかのように真っ白になっていた。

何故だ??何故彼女は泣いている??
確かに俺の対応が無愛想過ぎたのもあるが、流石に泣くことはないだろう。別に無視をしたわけでもない。...だか、冷静になって考えてみると、他に理由らしき理由は見当たらない。

...俺はどうすればいい??と心の中で自分に問いかける。

「...えっと、大丈夫ですか??」

とりあえず声をかけてみる。

「...あっ、すみません。少し取り乱してしまいました。」

彼女はあわてる様子で頬に伝った涙を拭う。

「その...『ある人』と凄く『似ていた』ものですから。」

「...そうですか。」

泣いていた理由が自分ではないことに俺は思わずホッとしたのと同時に、何故か彼女のいう「ある人」について気になった。が、今聞いてしまってはまた泣き出してしまうかもしれないと思い、俺はギリギリのところで言いとどまった。

彼女は落ち着いたのか、「ごめんなさいね。」とお辞儀をした。そしてそのまま彼女はくるりと反転し自分の席についた。

彼女が泣いていたことに慌てていたせいで忘れそうになっていたが、俺は彼女の発言に対して疑問があった。俺はそれをいつ聞こうか迷っていたが、今聞いておかないと一時間目の授業に軽く支障が出るだろうなと思い、改めて俺は彼女に声をかけた。

「あの、細川さん??」

すると彼女は一瞬悲しそうな表情になったあと、すぐににこやかな表情に戻り、

「私のことは『時雨』と呼んでください。」

と言った。俺は「あぁ、はい。」と適当な声をもらし、話を続けた。

「えっと...じゃあ時雨さん。何で俺の名前を知っていたんですか??」

予想外の質問だったのだろう。彼女は凄くキョトンとしている。

「え、ええと、先生が私の席を指したときに『重谷君の横の席』と言ったので...」

「あぁ、そうじゃなくて」

俺の発言は彼女、ではなく時雨さんの話を半ば遮る形になった。時雨さんはなおもキョトンとした様子だ。

「...そうじゃなくて、何で俺の下の名前を知っていたんですか??」

俺のこの発言を聞いた瞬間、時雨さんの顔が青くなり、そして少し慌てるような素振りを見せた。チラチラとこちらを見たり見なかったりと、少し挙動不審になっている。...この人、案外感情が表に出やすいタイプの人なのかな、と思ったところで、自分の考えが甘かったことに気がつく。

「...あ、もしかして、以前時雨さんとお会いしましたっけ??」

もし会ったことを俺が一方的に忘れているとなると、それはもう大罪級の失敗だ。しかもロボットとなると、もしかすると以前にメンテナンスで自宅に来てくれていたかもしれない。それを忘れているのは流石に悪いなと思い、俺は謝るべく立ち上がろうとすると、

「あっ、いえ、会ってないです。」

と、彼女は慌てて返した。
...会ってないのか。なら、考えられるのは、『ロボット関係』の雑誌か何かで見かけたのだろうか??自分で言うのも何だが、俺は何回か記事に取り上げられた事がある。だからそれを見て俺のことを知っているのかもしれない。が、それだと時雨さんのこの反応が凄く気になる...と、危うく無限ループに陥りそうになっていた俺を現実に引き戻したのは、昴だった。

「どうせ学力優秀者の表で目に入ったんじゃないの??何せ一番上に載ってるもんね、春樹は。」

昴は自分の席から身を乗り出した状態で話しかけてくる。それを聞いた時雨さんは「...そ、そうです!」といかにもな返事を返してきた。

「ほらね~、春樹。ダメだよ??転校初日の女の子を困らせたら。まだ慣れてないんだからさ。」

俺は時雨さんの反応が気がかりだったが、昴の言う通り、彼女は転校してきたばかりだ。

「何か、困らせてしまってすみませんでした。」

俺はとりあえず謝っておくことにした。まぁ、これから話していくうちに後々わかるだろう。...にしても、昴があからさまに時雨さんを庇ったようにも見えた。ん、もしかして二人は知り合いなのか??などと何の根拠もないことを考えている内に一時間目の始まりを告げるチャイムがなった。

「それでは、また後でお話ししましょう。」

時雨さんはそう言って、黒板の方に体を向けた。昴も「また後でね~。」と言って、静かに自分の席に座る。俺も「はい。」とだけ返事を返し、自分のかばんから一時間目の授業の準備を始める。が、俺の頭の中は俺の右隣の謎の多き女性、細川時雨のことでいっぱいだった。






薄ピンク色の花弁をつけた木々が中央に位置する噴水を円上に囲み、さらさらと心地よい音をたてて枝が揺れている。少し冷たい空気が、俺の脳を活性化させるように刺激する。現在は昼休み。授業終わりの休憩は時間が短く、あまり話せないという共通認識が三人の中にあったのか、誰も話しかけようとはしなかった。そのまま時間が過ぎ、昼休みの始めごろに時雨さんが「お弁当、一緒に食べませんか??」と声をかけてくれたので、俺たちは学校の外にある庭に来ているのだった。ちなみに、先程昴に「時雨さんと知り合いなのか??」と聞くと、「え、何言ってるの??時雨ちゃんは今日この学校に来たばっかりじゃん??」と言われた。...多分知り合いではないのだろう。そんなことを考えてると、不意に昴の声が耳に入ってきた。

「ってかさ~、何で時雨ちゃんは僕と春樹を誘うの??特に何でこんな冴えない男子を選んだの??」

昴は俺を指差しながら言う。...本当、こいつってやつは話すのは上手いんだが、人のことを何とも思ってないよな。何が冴えてないだよ。そんなこと自分でもわかってるんだよ!!と、半ば昴の発言を認めてしまう俺がいた。

「...確かに、それは言えてるかもしれませんね。」

少し小悪魔的な笑みを浮かべ、時雨さんは俺を容赦なく攻撃する。

「...あれ??いつの間にか、昴と時雨さん仲良くなってません??」

昴と時雨さんの発言を否定できず、話を少し変えることしか出来ない自分にショックを受けながら、俺は言葉を返す。

「そんなことないですよ。冗談ですって。そんなにショック受けないで下さい。」

時雨さんは面白そうに笑った。俺の周りには悪魔的なロボットが『二人』に増えていた。
これから先のことを思うと、俺は少し胸が痛くなった。

「...でも、本当に何で俺たちを誘うんですか??」

俺は新しい出会いがあった時、いつもこんなことを考えてしまう。『何故自分はこの人を選んだのか。何故相手は自分を選んだのか。』そこにはいつも明確な理由があるわけではない。例えば相手が男子なら、『面白い』とか『趣味が同じ』とか『ノリが良い』とかで、逆に女子なら、『可愛い』とか『話が合う』とかだろう。俺は基本的に友達がいないので、あまり『相手を選ぶ』ことがない。だが時雨さんは自分を選んで話しかけてくれたのだ。そこに『ある人と似ていたから』という理由があったからなのか、他に理由があるのか。それを俺は知りたかった。あのクラスの中には40人近くの人とロボットがいた。その中で彼女は俺達と話し、俺たちを誘った。それには一体どんな意味があるのだろうか。
すると彼女はごく自然に、少し笑みを浮かべながら言った。

「えっと、お二人は凄く楽しそうじゃないですか??クラスの皆さんは何というか、少し固いような気がしたんです。私はお二人を見ているだけで楽しいんです。だから誘ったんですよ。」

確かに、クラスの奴らは少し固いような印象を俺も持っている。

「それに春樹さん、考えすぎてすよ??『誰が何のためにその人を選んだのか』なんて、凄く些細なことなんですから。しかも、これから友達になる人に対して『自分が選んだ人』と言ってしまっては、少し上から物を言っているように聞こえませんか??出会いというものは、偶然やタイミングが重なって起きたりもしますし、もしかすると『運命』というもので先に決められているかもしれません。だから、そこまで深く考えなくても良いと私は思いますよ。」

そこまで彼女は言い終えると、お弁当のおかずを口に入れた。俺は彼女の話に聞き入ってしまっていた。成る程、そういうものなのかと感心する。自分にはそんな考え方がなかったから、今まで友達が出来なかったのかもしれない、と心の中で自分につぶやいた。俺は「そうですね。ありがとうございます。」と時雨さんに返し、良い話を聞いたと満足感に浸ることにした。少し経ってから、「そういえば昴が静かだな」と思い、横を向くと、昴は絶句していた。

「ん、昴、どうした??何固まってんだよ。」

俺は小声で昴に話しかける。すると昴はハッと我に返り、慌てるような仕草で俺に言ってきた。

「いや、実はさ、僕がいつもやってる『春樹の考えを読んで話す』っていうのは、長年春樹と一緒にいたから出来るようになったものなんだよ。ほら、自分で言うのも何だけど僕ってロボットじゃん??今までの経験と春樹の表情や状態とかを色々機械的に判断して返答してたわけ。でも時雨ちゃんは今日会ったばっかりなんでしょ??なのにもう春樹の心の中を読んで喋ってる。本当、時雨ちゃんっでどこまで賢いんだろうと思って絶句してたんだよ。」

俺は事の重大さに言われてから気付く。昴との会話で慣れていたから、今回も違和感なく話してしまっていたが、これはかなり凄いことなのだ。人間はある程度のパターンからしか推測しないが、ロボットは無限に近いパターンの中から推測し、行動にうつしている。それなのに、初対面であの対応が出来るのはかなり高性能なロボットだ。俺と昴は二人揃って時雨さんを見る。時雨さんは不思議そうにこっちを見ている。時雨さん、恐るべし。
すると昴は何かを思い付いたように俺と時雨さんを交互に見ながら言った。

「そういえば、時雨ちゃんってこの学校の入学試験に受かったんだよね??」

「あ、はい。そうですね。」

「でもあれってこの学校の通常の入試の2倍の難易度だったらしいよ。よく受かったよね。」

時雨さんは少し照れながら「いえ。」とだけ言った。昴はニヤリとして今度は俺に向かって言った。

「ならさ、こうしない??明日のテスト、この三人で勝負しようよ。で、一番点数を取った人が何か一つこの三人にお願いできる、みたいな。」

それを聞いた俺は一瞬ほけっとした表情になったが、すぐに反論する。

「...いや、それはいくらなんでも時雨さんが不利だろ。俺らは今日の今日までテストの範囲を勉強してるけど、時雨さんは今日入ってきたばかりなんだから。」

俺は半ば呆れながら、「時雨さんもそう思いますよね??」と時雨さんに話を振る。

「良いですよ。やりましょう。」

時雨さんの声が聞こえた。...ん、俺の空耳か??

「え、今なんて...」

すると彼女はきっぱりと言った。

「やりましょう。面白そうですし。それにお二人はこの学校の1位と2位なんですよね??そんなお二人と勝負出来るなんて光栄です。」

彼女の目を見る。それは間違いなく本気の目だった。「そうこなくっちゃ。」とやる気に満ちた声で昴が言った。...もう、これは決定事項なのだろうか。すると、時雨さんが「怖いんですか??」と少し挑発を仕掛けてきた。俺は大きくため息をついた後、「わかりました。やりましょう。」と言った。ったく、俺が挑発と女性からのお願いに弱いことを理解して言っているのか、そうでないのかはわからなかったが、俺はやむなく了承した。

そんなこんなで俺たちは明日のテストで勝負することになった。まぁ俺自身は学力には自信があるので、この時点では明日のテストは何事もなくいつものように1位を取るだろうと思っていた。

そう。この時点では。


















 

「繋がりのその先で」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く