運命には抗えない

あぶそーぶ

ep.if 15話 偽りの天使

 それは完璧な一撃だった。殺気を殺した背後からの攻撃。標的は攻撃されてから首を落とされるまでの一連の流れにおいて気づくまもなく死ぬ。

 はずだった。

「ガアアア!!」

 地に落ちるはずの首は未だ彼の元にあり、変わりに落とされたのは左腕だった。

 彼が防御出来たのは一重に経験から来る勘に他ならない。獣のような感覚を研ぎ澄ませる彼こそ此度の襲撃の首謀者、海賊かいぞく海賊かいぞくだ。彼率いる宇宙賊の長であり、右手に持つサーベルを実践的な極地にまで扱うことが出来る。

 海賊を仕留め損なった彼は彼女にアイコンタクトをした。内容は謝罪だ。

 彼女は気にするなということと次で決めるという意味を込めてアイコンタクトを彼に返した。

 彼は了解と心の中で呟き海賊の方へ向いた。彼はアネモニーという名で夜桜、雪月花という二本の神器を持つ唯一の人間。鬼滅団の新人ながら今回の海岸守護任務において人並み以上の成果をあげている。

 彼に続いて海賊に剣先を向ける彼女はヴァルキリー。最年少で鬼滅団第十師団団長にまで上り詰めた神童。彼女の最大の武器は神器から放たれる風による速さ。自身もまた身軽なことからあらゆる戦況に対応出来る。

 彼女が海賊へと踏み出そうとしたその瞬間海賊は奇っ怪な行動をとった。彼は右手に持つそれで地に落ちた左腕を突き刺し、そのまま自らの胸にサーベルを突き刺した。

 次の瞬間左腕が彼の体に吸収されて行った。完全に消滅した後彼の体に変化が起きた。

 ヴァルキリーは嫌な予感を感じ、全身全霊の突きを放った。それを拒絶するように彼を中心にした周囲に衝撃が起きた。

 全身が焼けただれたように赤黒く変色し、至る所から血が流れ、背中には二対四枚の真っ黒な羽、禍々しい天使の輪。

 その姿はまるで、いや誰もか堕天使だと言うだろう。そして海賊は言った。

「ハハ、遂に成った。俺の願い。これぞいにしえに聞きし天使の姿!もう誰にも止めることは出来ない。ハハハハハ!!」

 その笑い声は酷く醜くやたらと長く耳の中に残るようだった。

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