運命には抗えない

あぶそーぶ

外伝 少女の経緯

 タイトルの「経緯けいい」。

 これって、経緯いきさつとも読めるんですね。

 ちなみに今回のタイトルの読み方は「いきさつ」の方です。








   ーゆうきsideー



「歓迎するよ、ゆうき君」

 そこからの記憶はない。だからこれはそれまでに生きた私の経緯。

 私はただの人間。良く言えば善良な民、悪く言えば凡人。

 通っていた学校には欠陥品なんて呼ばれていた機械化すら出来ない人がいたらしいけど、私はもちろん出来た。

 出来たけど、それだけ。

 試験の結果は可もなく不可もなく、ただただ平凡。家も何一つ不自由は無かったけど、完全な自由がある訳でもない。

 私はそのことに不満を感じることこそ無く、むしろ満足していた。

 両親はやりたいことは基本的にやらせてくれたし、友達にだって恵まれていた。

 全体評価でいえば「幸せ」な暮らしだった。

「お母さん行ってきまーす!」

「気をつけてねー」

 今日この日も元気に玄関を飛び出した私は家の前の道を右側に進み、二つ目の交差点を左へ。そして、しばらく言った先の横断歩道を渡った先で友達と合流した。

「おまたせー」

「お、遅かったね〜」

「今日の奢りはゆうきに決まりね」

「え〜なんでよー」

 いつもと変わらない日常。そうして、学校に行って、勉強して、お昼ご飯を食べて、、、。

 あ、そう言えば今日はお昼に全員分と言っても二人分のいちごオレを買わされたな。私は嫌いだけど、、、。

 その後眠気に抗いながら午後の授業を受けて一日の労働を終え、放課後。

「ねぇ、昼休みの話の続きしようよ」

「何その話って」

「あー、そっかゆうきはちょうどいちごオレ買いに行ってたから知らないか」

 話を聞いた所、今から十二時間前隣町で殺人事件が起こったらしい。遺体は身元が分からなくなるくらいぐちゃぐちゃにされていたらしく、凄惨な現場となったらしい。

「てかよくそんな話お昼ごはんの前に出来たよね」

「あはー、実はそれで気分が悪くなったから午後から保健室行きだったんだよねー」

「それで今そんなに元気なら問題ないね」

 そんなたわいも無い話をしていた。しかし、噂をすれば、、、。

「きゃー!」

ーーグサッ、、、

「痛い痛い痛いイダイイダィィダイィィ、、、」

ーードサッ、、、

 あまりに自然に起きたせいで頭の中で何も考えられなくなった。

「、、、き、、、ゆ、、、ゆうき!逃げるよ!」

 友達に言われ、逃げ出そうとしたけど、遅かった。

 なぜなら既に殺人鬼は目の前に迫ってきていて、包丁を振りかざしていたからだ。

 死んだことを悟った私はそこで意識を手放した。

 再び意識を回復した時私は手術台のような場所の上で目を覚ました。

「ここは、、、」

「ようこそ、宇宙特別探索隊その医務室へ」

 意図しない返事に体を強ばらせながら振り向いた。そこには黒髪黒目の男性が椅子に腰かけていた。

「ああ、驚かせて済まない。横たわっているモノへの気遣いが足りていなかったね」

 言われた通り今私は横たわっている。故に首だけを男性に向けているような状況だ。

「あなたは?それにここはどこですか?どうして私はこんな所に、、、」

「落ち着いてくれたまえ。別に危害を加えるようなことはしない」

 どうやら、私の知りたいことは分かっているみたいだ。

「私は、、、まあ誰でもいいだろう。ここはさっきも言ったが、医務室だ。そして、君の治療はここでしか行えないんだ」

 ここまで聞いてどうしてこんなことになったのか思い返していると、男は言った。

「、、、君は今はまだ私の話だけに集中するといい。あまり過去を思い出そうとすると脳に負荷がかかってしまう。そうなると本格的に治療・・が困難になってしまうからね」

「あの、、、そんなに悪いんですか?」

「ああ、とても、、、ね。だから、今から君にはこれから行う手術への了承を行って欲しいんだ」

「どんな手術なんですか?」

 幾つか疑問はあった。その中でも気がかりなのが何故、手術の了承を両親から取らなかったのかということ。

 本人が再び目覚めるかどうか分からないのにも関わらずずっと待っていたこと。でも、そんなことを考える余裕なんて無かった。

 男から発せられる声は半ば強制的なものがあったからだと思う。

「、、、いいかい?」

「、、、はい」

 だから手術を了承してしまった。

 手術が終わった後、私は目覚めた。

 しかし、不思議なことに私が私でないような感覚に陥っていた。

 そして、あの手術台から病室のベットに自分が移動していることにも気づいた。また、肌や髪の色にも違いが見受けられた。

 しばらく感傷に浸っていると病院の扉が開かれた。私は何故か二人の少女が現れることを期待した。

 だけど、実際現れたのは男性だった。この事に嬉しさを感じながら疑問を抱いていた。

 そんな迷いも次に発せられる男性の言葉によって完全になくなった。

「歓迎するよ、ゆうき君」

 これが、私の生き様

 私が私でなくなった、最悪の経緯。

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