五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

夕日の似合うあいつ 12







「栄養を…栄養をくれ……」
「はいお箸。ちゃんと持ちなさい」
跪くように地面にへたりこんだ亮太の手に美空が小さな弁当箱から取り出した猫耳のお箸を渡す
傍らでリムが踊るように大剣を振り回しながら迫る触手を斬って弾き、由美が当たらない水の球を放ち牽制を続けている
「早くしてね〜!」
「すいません全然攻撃当たりません!」
「大丈夫よ〜!」
語尾が伸びる特徴的な喋り方は崩していないが表情は幾分苦しそうに見える
「亮太くん!あなたに打開策があると信じて守ってあげるわ〜!だから急いでね〜?」
「はいこれ食べて!」
「いただきます!!」
パチンと拍手を打って美空が広げた弁当に手をつける
可愛らしいおにぎりと卵焼き、プチトマトを脇目も振らず一心不乱に口に運ぶ
冷凍食品のポテトサラダをひと口で平らげ、鰹節と梅干しが混ぜられたおにぎりもひと口で食べ終わる
「ひふぁひふりほほはん…んっ!!」
「黙って食べなさい!お茶いる!?」
急ぎすぎて喉に詰まってしまい、涙が目に浮かんだのを見て美空が車へと走り出す
「美空ちゃん!?危ないわよ〜!」
「大丈夫ッ!」
夕立のように降り注ぐ触手の攻撃を回避しながら後部座席のドアを開け、座席の端に置いてある水筒を手に取る
開けっぱなしのまま振り返り約30メートル程の距離にいる喉を詰まらせた阿呆を目指す
「亮太!」
「ん〜!!」
手を伸ばしても勿論届かない位置なので走るより早いと思い切って投げてみようかとも考えるが降り注ぐ触手に弾かれるのが見えたのでボツ
再び走って持って行くことにする
「ちょっと待ってなさい!」
「……!!(モグモグ)」
「だから食べるのやめなさいよ!」
喉に詰まらせているにも関わらず更に頬張る亮太にツッコミを入れながら足を踏み出す
姿勢を低く抱きかかえるようにしながら亮太めがけて走る
「美空!上!」
由美が叫ぶ通り真後ろの頭上から3本攻撃が迫ってくる
思わず足を止め振り返った時にはもう反撃も回避も許されない程近くまで来ていた魔族の触手に、ダメージを覚悟で全身を強張らせて目を瞑り衝撃に備える






「ソラ!!」
美空に当たる直前
間一髪でタックルをしかけて軌道上から弾き飛ばす
美空が瞑っていた目を開くと抱き着くようにしているミリアが自分を助けてくれた事に気付く
追撃を狙ってきていた触手は健治が大剣を振り下ろし切断している
「ミリー!」
安心からミリアを抱き締め返すが大事な事を思い出しハッと立ち上がる
水分を欲してた亮太が立ち上がり少しでも下に落ちろと小刻みにジャンプをしているのが目に入り、慌てて水筒を手渡す
「んぐ!」
腰に手を当て一気に中身のお茶を飲み干し、亮太は深く息を吸い込む
「生き返ったーーー!!」
大声を張り上げご馳走様でしたと呟き、水筒を空っぽになった弁当箱の横に置く
「さてさて、落ち着いてみりゃ健治もいるしミリアもいるじゃねぇか。もしかしてここは人間界か?」
「へ?」
キョロキョロと周りを見渡し、美空を助けた時にミリアが投げ捨てた大太刀を見つけるとそれを拾い上げ、柄の土を払う
「ほいミリア、よく頑張ったな」
地面にへたりこんだままのミリアの前にそっと大太刀を置いてポンポンと頭を撫でる
何が起きたのか分からないと言った表情のまま柄を手にはするも声も発さずただ呆然としている
特に気にも留めず踵を返し今しがた食事を済ませた場所へと戻り、ひと振りの剣を手に取る
「この剣アレじゃん、前にオレが最後使ってたやつ」
RPGの最初の街で買えそうな凝った作りでも何でもない刃渡り60センチ程のただの剣をズボッと引き抜くと腹の部分の埃を払う
ブンブンと振って汚れを落とそうにも錆び付いてしまってどうする事も出来ないため諦めのため息を吐く
「うーわドロドロのサビサビ。あいたっ」
「ん」
後ろから健治に尻を蹴られつんのめる
「よう!久しぶり!」
精一杯爽やかに右手を挙げ笑顔を見せるが健治は表情一つ変えず前のタコを見ろと顎で促す
「あーアレね?何とかなるっしょ。てか久しぶりの再会なのに冷たくない?」
「後でいい」
「せやな…よし!」
夕日色に染めた漆黒の前髪をかきあげて視界を広げる
2年という歳月で幾分大人びた、と言うより大人の顔となった魔術師の側までフラフラとミリアがやってくる




「亮太さん…?」
「はいミリア。…え」


振り向いた亮太の目には未だに信じられないと言った表情のミリアが名前を呼び、返事が来る
思わず泣いてしまいそうになるがぐっと堪えてその場に跪いて頭を垂れる
「お待ちしておりました主様。今度こそ命尽きるまで貴方をお守りします」
「やーめーろーよー。前から言ってんじゃんよーって力強っ!?」
綺麗に揃えて地につけた指先と同様に頭を地面に押し付けるミリアの頭を無理やり持ち上げようとするが頑なに頭を上げようとしない
「分かった分かった!後で!後でいくらでも聞くからな!とりあえずこの場、乗り切ろ!な!?」
「はい!」
汚れたシャツを脱ぎ捨て更に身軽になると傍らに置いた大太刀を手に取り亮太の隣に並ぶ




「今度こそたこ焼きのために!行くぜ!」

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