五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

夕日の似合うあいつ 10

「まぁとりあえずさ、腹減ったから食い物探したいんだけど…」
丸出しのお腹をさすりながらキョロキョロと辺りを見回す
「いやいやいや、ちょっと待ちましょ?今それどころじゃ無いから」
おーい、美空ちゃ〜ん?
亮太の手を引きながら美空たちの逃げていった方向に駆け出すが、亮太が転倒してしまう
「いたたたた!待ってホントに!動けないぐらいお腹空いてるから!ホントに!」
おかまいなしにズリズリと引きづられていくが10メートルほど進んだところで手を離される。と同時に亮太の頭上30センチほどのところを青い塊が通り過ぎた
「違う違う、私よ〜?」
「リムさん⁉︎ごめんなさい!」
ガサガサと茂みから由美が飛び出してくる
「ううん、ちゃんと自衛しようとしたんだから偉いわ〜じゃなくて!大変なのよ〜」
間延びした声で由美を手招く
「何ですか?」
「お?その声は片瀬ちゃん?ぐえっ」
枝をかき分けて近付いてくる由美を一目見ようと精一杯の腕力で上半身を持ち上げようとするがその上に何かが落ちてきた
次の瞬間拳が首の真横に降りてくる。美空である
「新しい魔族⁉︎」
「あ〜ダメダメ。本当に死んじゃうわよ〜?」
振り向きながらリムが慌てて美空を制止する
「え…」
自分が跨っている者を良く見る
奇襲をしかけるため木の上から見ていた感じでは黒いボロボロの雑巾のような魔族で、リムが追いかけられているのかと思っていたが至近距離で見て人間であることに気付き、跨った時どこか懐かしい感覚すら覚えた
「今度は美空か…?頼むからもうちょい優しく…」
「りょ、亮太…?」
「そうそうそうだよ頼むから早くどけ……」
握っていた拳を解きそっと亮太の肌に触れる
埃と潮水でドロドロに汚れてはいるが間違いなく人間の体温を感じる
「あ〜、脳みそが追いついてない感じかしら〜?」
「うそ…川元君?」
「よう片瀬ちゃん。んで美空も」
ただいま、と言いかけたところで美空が覆いかぶさるように抱き付いてくる
「今までどこ行ってたこの馬鹿‼︎」
「ヒィ⁉︎」
耳元で大声を出され思わず情けない声で怯む
声にならない声をあげて美空が大粒の涙を流していることに気付く
「あーその…悪かった」
「グス……そうよあんたが全て悪いのよ……」
顔を背中にくっつけるように泣きながらしがみついてくるこの燃えるような赤い髪の少女を最後の力で押しのけ持ち上げながら態勢を整える
離れようとしない美空を胸の中に収めるように抱きしめながら地面に座り込む
「ちょっと痩せすぎじゃねぇか?」
「同じ事ミリーにも言ってあげなさいよ……」
精一杯へ衛星を装った声で返事をするがその声はまだうわずっている
「まぁ太るまで食わせてやりたいのは山々だが今は自分が空腹の限界なんでな」
そう言いながら少しだけ力を込め美空を引き剥がす
真っ赤に腫れた目を擦りながら来た道を指差す
「あんたのお墓にお弁当、あるわよ」
「いや死んでねえし!でも弁当はいただく」
「2年も消えてたくせに!」
「それはごめん‼︎てか2年だと?」
改めて亮太を見つめるとあることに気付く
「あんた、背伸びた?」
美空の記憶では170センチ位だと思っていたが今現在の亮太の身長は明らかに10センチ以上伸びている
「もう何年経ったか分かんねえしそりゃ身長も伸びてるだろうさ」
あっけらかんと言う亮太の声も以前より低くなっている
顔つきも父親の良樹を女性らしさ9割増した位に大人びている
「まぁ成長期だったんだろ、気にすんなよ。そんなことよりご飯くれ!」
早く早くと身を揺すってみせる
「お楽しみのところごめんね〜?今それどころじゃないのよ。タコ倒さなきゃ」
パンと手を合わせたリムがしゃがみこんでくる
「そういやいたなそんなヤツ」
ハァ、と大きなため息を吐いて美空の髪の毛をクシャクシャと撫でる
「ちょちょ、ちょっと待ってください!状況が読めません!」
「あ〜そうだよね片瀬ちゃん、悪い悪い。でも今はあっちが大事でしょ?話は全部済んでからだ。腹も減ったし」
ブンブンと手を振って意義を申し立てる由美だが些細なことだよと言わんばかりにヒラヒラと手を振り返す


リムに差し伸べられた手を取ってほとんどリムの力で立ち上がると美空とリムに支えられながら歩みを進める
「さて、今日はたこ焼きパーティでもするかい?」

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