五つの世界の端々で

とっとこクソ太郎

学校のマドンナ 4

数名の男子生徒が端っこに集まって「何でバレた?」「多分サクセンも使ってたんじゃ…」「あー煙草吸いてぇ〜」などコソコソと話しているのを他所にミリアは今日のスケジュールを確認する
確認と言ってもこの後は一般の高校と同様に授業で使う教科書をもらって帰るだけなのだが。
「ん。」
とミリア達の前に現れたのは小柄な金髪 上井健治
普段からあまり口を開かないため存在感が極めて薄いが昨日関根達の見送りにもいたし教室にもずっといる
その彼が手に持っている折りたたまれた紙には大きく『招集 全員』と極太のマジックで書かれている
これを見せられたからには学校には居られない。ミリア、美空、由美の3人は鞄を持つと教室を後にする
「岩村、行くよ」
「…」
「岩村さん行きますよ。良樹さんが集まれって」
机をガンガン叩いて美空が岩村を起こそうとするが静かに寝息を立てているだけで起き上がる気配は無い
「携帯にメッセージだけ入れておきましょう。」
髪の毛を掴んで毟ろうとする美空に制止をかけ、ミリアが袖を引く
ハァとため息を吐いた美空に後頭部へ鞄を全力で叩き付けられても起きる気配が無い所を見ると最早仮眠などではなく気絶に近いのかも知れない
他の生徒達はいつもの事だと特に気にせず自分達もさっさと帰りたいがため鞄を手に教室を出て行く
クラスメイト達に混ざりながら途中の階段ですっと抜け出した4人は校内に一ヶ所だけある一階の「保健室」へと向かう








扉を開けると煙草の匂いが鼻をくすぐる
まず目に入るのは正面右側の換気扇の下にいる男性
根元から毛先まで真っ青に染まった青い髪を短く刈り上げた男性は紫煙をくゆらせながらこちらを振り向いてくる
「おう、おはよう」
女子高生3人におはようございますと丁寧に返され満足した男は再び換気扇の方を向いてしまう
名は川元良樹
5人(1名を除く)を呼び出した張本人である
「みんなおはよ〜。今日も可愛いわね〜」
挨拶が終わると左側から薬棚の前にいた長髪の女性が健治に抱きついてくる
されるがままで特に無反応の健治
「リム、おはようです」
「昨日はごめんねぇ?一緒に行けなくて」
ここの用事が片付かなくて〜と言いながら続いてミリアにも抱きつく
長身のミリアと並んでも頭一つ大きいリムと呼ばれた女性はその豊満な胸にミリアの頭を埋める
鋭い視線でリムの胸を睨みつけながらチッと舌打ちをする
「まだ岩村は学校来てないか?」
「いえ、教室で寝てます」
なら良いかと呟いた良樹は恐る恐る薄型タブレットを操作していく
「悪いな。2年になってすぐのこのタイミングで」
「いえ、全然、大丈夫です」
ミリアの返答に美空、由美の2人も頷く
それを見た良樹が画面をミリア達に見せてくる
画面には
地図が映し出されており、場所は昨日の海辺のように見える
「また魔族が出た。個体の強さは大した事無いがちょっと数が多い」
「時間」
「ざっと見積もって夕方の4時ぐらいだな」
それだけ聞いて頷くと健治はさっさと保健室を出て行ってしまう
「分かりました。準備しておきます」
コクコクと3人も了解の意を伝える
「今日はわたしも行くからねぇ〜」
暴れちゃうぞ〜と言いながら肩をパキパキと鳴らすリム
「今回は学校のガキのおつかいレベルの戦いとは違うからな。怪我する可能性もあるから片瀬由美さんは見学。ミリアは笠木美空を守りながら戦え」
「はい」
「分かりました」
じゃあよろしくと付け加えて良樹は再び煙草を吸い始める
「今日は関根がいないからな」
「でも早ければ今日帰ってくるんじゃないでしょうか?時間の流れもありますし」
「間に合えば手伝ってもらってもかまわねぇな。けど基本的には自力で解決するように。今後のためだぞ」
「分かってますってば。それよりこれだけのためにわざわざここまで来たんですか?」
「ん?そうだけど?」
やはり煙草を吸いながらサラリと答える良樹
「まぁちょっと様子見に来たってのもあるがな。ちゃんと飯食ってるか?お前ら」
ひょいひょいと煙草をミリア、美空に向けてくる
「はい、もう死んだりしようなんて考えませんよ」
「心配しなくても私らはもう大丈夫。」
「なら、いい」
力なく笑ってみせるミリアに一抹の不安を覚えたが側にいる由美の力強い頷きに安心して良樹は微笑む
故人 川元亮太の父にあたるこの良樹ももちろん辛いのは間違いないが大人と子供で思うことも違う
いつまでも嘆いていないのが大人だと言わんばかりに仕事と向き合っている
「でも言ってたんだろ?『絶対帰ってくる』って」
「はい。私とミリアはハッキリそう聞きました。」
「なら信じて待てば良い」
そらだけ言うと換気扇を止め灰皿に煙草を押し込む
火が消えたのを確認した後ポンポンと左右の手でミリア、美空の頭を叩く
「お前らは俺の子供も同然だ。困った事があればいつでも言ってこい。後由美ちゃんも、魔術学校の授業だけじゃ教えきれないところもあるから関根の阿保経由でも良いから質問とかあったらいつでもしてきな」
返事を待たず良樹は保健室を後にする






「お昼どうしよっか?」
「ソラ、お弁当作ってましたよね?」
「時間もあるし外で食べようよ。お弁当は亮太にでも持っていけば良いし」


良樹が見えなくなった後、女子高生3人は時間の潰し方を相談し始める
「お姉さんはもうちょっと仕事していくね〜」
「リムさんは現地集合?」
「そうするわ〜」
手をひらひらと振りながら薬棚のチェックを始める
邪魔したら悪いから、と足早に保健室を後にする

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