最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?

若鷺(わかさぎ)

危機意識

 異世界召喚の儀は成功したという報が世間へと広まり、大きな反響を呼んでいた。

 異世界から呼び出されたのは約四十名ほどの少年少女達。高校の同じクラスだという彼らは呼び出された当初は戸惑っていたものの、説明などもあり次第に落ち着きを取り戻していく。
 事態を把握していくにつれ、これが異世界召喚だと気付くと歓喜の声を上げる者も現れる始末だった。

 そして召喚された中の一人である杉山優人は自身にあてがわれた部屋のベッドにて、召喚されてからのことを振り返っていた。

 突如教室を眩い光が覆い思わず目を瞑り、やっと光が収まったと思い目を開ければ優人は見知らぬ場所にいた。RPGゲームで見たことあるような、西洋風の広大な部屋。足元にはこれまたゲームで見たことあるような魔方陣に、周りには急な事態にフリーズしてしまっているクラスメイト達。

「ようこそいらっしゃいました」

 広い室内に透き通るような声が響き渡る。その出どころへ目を向けると、そこには一人の女の子がいた。見るからにサラサラの金髪に、少し幼さを残しながらも確かに美を感じさせる綺麗な顔立ち。立派なドレスを身に纏う彼女はまさにお姫様という言葉が相応しいだろう。先程まではフリーズしていたにもかかわらず、今度はお姫様に見惚れている連中すらいるほどだ。

 そしてそのお姫様から告げられた内容は驚きの連続だった。

 ここがどこで今がどのような状況か。
 自分達は世界の平和を脅かす魔王を倒す勇者として異世界に召喚された。
 帰るには魔王を倒さなければいけない。
 自分達を国賓級の待遇でもてなしてくれる。
 戦う術を身につけるために訓練をしてもらう。
 最後に、こちらの我が儘につきあわせてしまって申し訳ない。

 どうにかして内容を理解した一行は食堂へと連れていかれ、食事と今後について話し合う時間を設けられた。出された料理のレベルからこの世界の文化水準の高さを感じつつ、話し合いが始まる。

 まずは未知の世界で過ごすにあたり、男女一名ずつ代表者を決めることとなった。男子からは成績優秀スポーツ万能でクラスメイトから信頼されている湊紫苑と、女子からは学園のマドンナと呼ばれている前島歌穂が選ばれた。

 代表者を中心に話し合いが進み、最終決定としては『やれるだけやってみる』ことになった。

 そして終わった頃を見計らって案内の者が現れ、自室へと辿り着いたのだ。

「なんか、現実じゃないみたいだ」

 振り返ってみると、今の不思議な状況を改めて実感する。

「もう寝よ……」

 早速明日から訓練は始まるらしい。優人は早めに眠りについた

 ※※※

 朝食のため食堂に集まったところで本日のスケジュールが告げられた。

 午前はこの世界の普通の人なら・・・・・・誰でも知っている常識についての授業。昼食を挟み、休憩をした後戦闘技術の訓練だそうだ。

 授業に訓練。学生なら嫌がりそうなものだが、魔法などを習えると聞くとほとんどの者が目を輝かせていた。

 そして授業が始まる。

 最初はこの世界の地理から始まり、歴史、イクリード王国についてが内容のほとんどであった。

「では午後の訓練についても説明しよう。この世界では大きく分けて主に三つの戦い方に分かれている。前衛にて武と魔法を用いて戦う者、武に特化した者、後衛にて多種多様な魔法で援護する者。一つ目はどちらも修めなければいけないために器用貧乏になりかねない。二つ目はやることを絞ったことで学びやすくはなる。三つ目は前衛と違い命の危険性は下がるが素早い状況判断と正確性が重要だ」
「おすすめなどはありますか?」
「どれも一長一短だ。好きにするといい。午後はそれぞれのスタイルに対応した指導員が指導に当たってくれる。誰に教わりたいか決めてもらうことになる」

 そして授業は終わり、昼食の時間となった。多くはどの戦闘スタイルにするか友人と話し合っており、「魔法をバンバン撃ってみたい」やら「剣で敵を薙ぎ倒したい」やら「誰を選ぶかに俺のチーレム生活が懸かっている!」という声が聞こえてくる。

「ねぇねぇ、理沙はどうするん?」
「あ~、痛いのはやだし後ろで適当にしてりゃいいっしょ」

 着崩した制服の少女、足立理沙の気だるそうな声。優人は心の中で同意した。

 ――――確かに痛いのは嫌だなぁ。

 ファンタジー世界にやってきたことで浮かれている者が多いが、少しばかり危機意識が足りないように思える。

 自分は後衛として頑張ろうと決めた瞬間だった。

 ※※※

「午後の訓練を始める前に一つお知らせがあります」

 城内にある訓練場にてシルフィーナが説明を始めていた。

「指導員の内の一人が、教え子は自分で決めさせてほしいとのことです」

 本来なら優人達が教わりたい人を好きなように選ぶはずが、あちら側から選ばせてほしいとの要望に誰もが疑問符を浮かべる。

「あの、それにはどのような意図が?」
「それは私にも分かりかねます。が、信じてよいかと」

 シルフィーナの綺麗な笑みが、その人物への信頼を表していた。

「それではご紹介します」

 シルフィーナの言葉を合図に訓練場の扉が開き――――


 瞬間、優人達は地面へと叩き伏せられた。


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