最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
不安と未来
最早何も言うまい。
「ようこそ、我が2-Cへ」
学園祭が終わった日の夜、レンヤはミクルーアを教室へと招き入れていた。窓から見下ろせるグラウンドでは後夜祭として、生徒主催のキャンプファイヤーが行われている。
「ここで普段、レンヤくんが勉強をしてるんですね」
「……まぁな」
勉強ではなく睡眠が正しい。だからこそレンヤは答えるまでに間が空いてしまった。
くすくすと笑うミクルーアの反応からして、嘘だということは既にバレてはいそうだが。
「ひとまずは落ち着いたといったところでしょうか?」
「ひとまずは、な」
ミクルーアが確かめたのは訓練場で起こった事件のことだ。
ロゼッタがエドガーを倒したことで落ち着きを取り戻した頃に、学園長である姐さんが後始末を担ってくれることとなった。
その後はどうなったかレンヤ達には分からないが、こうして後夜祭を開けているということは上手くやってくれたということだろう。
生徒達のほとんどが後夜祭に参加している為か、校内は物音一つない。月明かりが教室を照らしていた。
「ミアも気付いているんだろう?」
「裏で何かが動いていることですよね?」
「そうだ」
『亡国の騎士』やエドガーを扇動した何か。組織規模で考えた方が良いだろう。
「目的は分からないが、これで終わりということはないだろう」
今のままでは何がしたかったのか判断が難しい。愉快犯にしては規模が大きすぎるし、何か一つの目的に向かってるにしても今のところやっていることに一貫性はない。
「いや、違うな」
レンヤはふと気付いた。共通する点はあると。
「実験なのかもな」
「実験……あぁ、なるほど」
たった一言でレンヤが何を言いたいのかをミクルーアは把握した。
「この場合は『操る』ことに何かあるのかもしれない、ということですね?」
「そうだ。魔物を操り帝都を襲わせる。人を操り掻き乱す」
外側と内側から帝都を襲った。相手は近い未来に何かを大きな出来事を起こす、その為の実験だったのか。
「ま、深く考えても仕方ないな。こういうのは国の仕事だ」
『機関』はあくまでも手を貸すだけ。まず最初に対処しなければいけないのは国だ。
レンヤは窓側に寄り、外を眺める。上を見れば星空が、下を見れば元気に騒ぐ生徒達の姿がある。丁度今は火を囲んでダンスを踊っているようだ。
それを見てレンヤはミクルーアの前で片膝をつき頭を下げてから手を差し伸べる。
「一曲いかがですか、お嬢さん?」
「私は厳しいですよ?」
ミクルーアは笑みを浮かべながらレンヤの手を取る。
片付けの為か机などは端に寄せてあり、踊るスペースは充分にあった。グラウンドから聴こえる曲に合わせるように踊る。
元とはいえ王子とご令嬢。問題なく踊りきった。
その後は星を見たいというミクルーアの要望を受け、二人で屋上へと足を運んだ。
空を見上げるミクルーアを、レンヤは後ろから優しく包み込む。少し冷え込む空気のせいか、くっついた時の暖かさがとても心地よかった。
「これからもずっと一緒ですよね?」
「? もちろんだ」
急な質問に不思議に思いながらもレンヤは答えた。正真正銘本当の思いだ。ミクルーアと離れるなど考えたくもなかった。
ミクルーアは不安を感じていた。何かが動き出している。それはいつしか世界をも揺るがすような出来事を起こすかもしれない。その時、レンヤはどうなっているのか。
世界が、時代が、英雄を求める。救世主を求める。それは歴史が証明している。
贔屓目無しに、レンヤはその器を持っている。全てを率いる王の器だとミクルーアは考えていた。
レンヤは本来なら表舞台で輝く存在だと『機関』の誰しもが認めていた。本人がそれを望んでいないからこそそうなってはいないが。
「レンヤくん」
愛しい人の名を呼び、唇を重ねる。それだけで胸が幸せで満たされる。
だから、支えよう。例えレンヤがこの先どうなろうとも、自分は味方で居続けよう。
そんな想いを胸に、幸せな一時は過ぎてゆく。
※※※
後夜祭で盛り上がるグラウンド。そこから少し離れた場所で、学園の教師達は酒を飲み交わし、談笑していた。
『機関』の一員であり、学園の教師でもあるコーデリアも当然参加している。
そこに一人の少年が現れた。
「コーデリアさん。少しいいですか?」
「む、リオンか」
リオンはやたらとダンスに誘ってくるアンネを振り切り、コーデリアの元を訪ねた。
リオンの提案により誰の目も届かない校舎の裏へと来た。
「そ、その、ですね」
「なんだ、珍しく固くなってしまって」
普段は飄々としているリオンの緊張ぶりに、コーデリアはおかしくてくすっと笑う。
美人だがキツい印象をよく持たれるコーデリアの微笑みに、リオンの心臓はうるさい程に拍動していた。
緊張するのも当然だ。なぜならリオンは今から告白しようとしているのだから。
だが緊張して何も言えないようでは後押ししてくれたレンヤに申し訳が立たない。
覚悟を決めて、言葉を口にする。
「コーデリアさん」
「なんだ?」
「――好きです!!!」
言った。言ってしまった。
ここまできたらもう止められないと、リオンの口は忙しなく動き続けた。
「僕が初めて『機関』で貴方と会った時、貴方は言ってくれました。『ここがお前の新しい居場所だ。何があっても、ここに帰ってくれば私達は暖かく迎え入れてやる』と。それが嬉しかったんです」
リオンの顔から自然と笑みがこぼれていた。
「それから貴方と接していくうちに、僕の気持ちはより強いものになっていきました。貴方は優しくて、頼もしくて、とても素敵な人だ。それこそ、僕には勿体無いぐらいに。でも、せめて踏ん切りはつけておきたいんです。だから――」
頭を下げ、片手を伸ばす。
「僕と付き合ってください!」
普段はレンヤをからかったり、飄々としていたり、どこか余裕があったリオンが今は年頃の少年に戻っている。
最初は驚きのあまり目を見開いていたコーデリアだったが、今は考えるように指を顎に添え、真剣な顔をしている。
答えを待つ時間がこれほど苦しいものだとは。リオンは手に汗が出ているのを感じた。
そんな中、ついにコーデリアが口を開いた。
「リオン、私は――――」
「ようこそ、我が2-Cへ」
学園祭が終わった日の夜、レンヤはミクルーアを教室へと招き入れていた。窓から見下ろせるグラウンドでは後夜祭として、生徒主催のキャンプファイヤーが行われている。
「ここで普段、レンヤくんが勉強をしてるんですね」
「……まぁな」
勉強ではなく睡眠が正しい。だからこそレンヤは答えるまでに間が空いてしまった。
くすくすと笑うミクルーアの反応からして、嘘だということは既にバレてはいそうだが。
「ひとまずは落ち着いたといったところでしょうか?」
「ひとまずは、な」
ミクルーアが確かめたのは訓練場で起こった事件のことだ。
ロゼッタがエドガーを倒したことで落ち着きを取り戻した頃に、学園長である姐さんが後始末を担ってくれることとなった。
その後はどうなったかレンヤ達には分からないが、こうして後夜祭を開けているということは上手くやってくれたということだろう。
生徒達のほとんどが後夜祭に参加している為か、校内は物音一つない。月明かりが教室を照らしていた。
「ミアも気付いているんだろう?」
「裏で何かが動いていることですよね?」
「そうだ」
『亡国の騎士』やエドガーを扇動した何か。組織規模で考えた方が良いだろう。
「目的は分からないが、これで終わりということはないだろう」
今のままでは何がしたかったのか判断が難しい。愉快犯にしては規模が大きすぎるし、何か一つの目的に向かってるにしても今のところやっていることに一貫性はない。
「いや、違うな」
レンヤはふと気付いた。共通する点はあると。
「実験なのかもな」
「実験……あぁ、なるほど」
たった一言でレンヤが何を言いたいのかをミクルーアは把握した。
「この場合は『操る』ことに何かあるのかもしれない、ということですね?」
「そうだ。魔物を操り帝都を襲わせる。人を操り掻き乱す」
外側と内側から帝都を襲った。相手は近い未来に何かを大きな出来事を起こす、その為の実験だったのか。
「ま、深く考えても仕方ないな。こういうのは国の仕事だ」
『機関』はあくまでも手を貸すだけ。まず最初に対処しなければいけないのは国だ。
レンヤは窓側に寄り、外を眺める。上を見れば星空が、下を見れば元気に騒ぐ生徒達の姿がある。丁度今は火を囲んでダンスを踊っているようだ。
それを見てレンヤはミクルーアの前で片膝をつき頭を下げてから手を差し伸べる。
「一曲いかがですか、お嬢さん?」
「私は厳しいですよ?」
ミクルーアは笑みを浮かべながらレンヤの手を取る。
片付けの為か机などは端に寄せてあり、踊るスペースは充分にあった。グラウンドから聴こえる曲に合わせるように踊る。
元とはいえ王子とご令嬢。問題なく踊りきった。
その後は星を見たいというミクルーアの要望を受け、二人で屋上へと足を運んだ。
空を見上げるミクルーアを、レンヤは後ろから優しく包み込む。少し冷え込む空気のせいか、くっついた時の暖かさがとても心地よかった。
「これからもずっと一緒ですよね?」
「? もちろんだ」
急な質問に不思議に思いながらもレンヤは答えた。正真正銘本当の思いだ。ミクルーアと離れるなど考えたくもなかった。
ミクルーアは不安を感じていた。何かが動き出している。それはいつしか世界をも揺るがすような出来事を起こすかもしれない。その時、レンヤはどうなっているのか。
世界が、時代が、英雄を求める。救世主を求める。それは歴史が証明している。
贔屓目無しに、レンヤはその器を持っている。全てを率いる王の器だとミクルーアは考えていた。
レンヤは本来なら表舞台で輝く存在だと『機関』の誰しもが認めていた。本人がそれを望んでいないからこそそうなってはいないが。
「レンヤくん」
愛しい人の名を呼び、唇を重ねる。それだけで胸が幸せで満たされる。
だから、支えよう。例えレンヤがこの先どうなろうとも、自分は味方で居続けよう。
そんな想いを胸に、幸せな一時は過ぎてゆく。
※※※
後夜祭で盛り上がるグラウンド。そこから少し離れた場所で、学園の教師達は酒を飲み交わし、談笑していた。
『機関』の一員であり、学園の教師でもあるコーデリアも当然参加している。
そこに一人の少年が現れた。
「コーデリアさん。少しいいですか?」
「む、リオンか」
リオンはやたらとダンスに誘ってくるアンネを振り切り、コーデリアの元を訪ねた。
リオンの提案により誰の目も届かない校舎の裏へと来た。
「そ、その、ですね」
「なんだ、珍しく固くなってしまって」
普段は飄々としているリオンの緊張ぶりに、コーデリアはおかしくてくすっと笑う。
美人だがキツい印象をよく持たれるコーデリアの微笑みに、リオンの心臓はうるさい程に拍動していた。
緊張するのも当然だ。なぜならリオンは今から告白しようとしているのだから。
だが緊張して何も言えないようでは後押ししてくれたレンヤに申し訳が立たない。
覚悟を決めて、言葉を口にする。
「コーデリアさん」
「なんだ?」
「――好きです!!!」
言った。言ってしまった。
ここまできたらもう止められないと、リオンの口は忙しなく動き続けた。
「僕が初めて『機関』で貴方と会った時、貴方は言ってくれました。『ここがお前の新しい居場所だ。何があっても、ここに帰ってくれば私達は暖かく迎え入れてやる』と。それが嬉しかったんです」
リオンの顔から自然と笑みがこぼれていた。
「それから貴方と接していくうちに、僕の気持ちはより強いものになっていきました。貴方は優しくて、頼もしくて、とても素敵な人だ。それこそ、僕には勿体無いぐらいに。でも、せめて踏ん切りはつけておきたいんです。だから――」
頭を下げ、片手を伸ばす。
「僕と付き合ってください!」
普段はレンヤをからかったり、飄々としていたり、どこか余裕があったリオンが今は年頃の少年に戻っている。
最初は驚きのあまり目を見開いていたコーデリアだったが、今は考えるように指を顎に添え、真剣な顔をしている。
答えを待つ時間がこれほど苦しいものだとは。リオンは手に汗が出ているのを感じた。
そんな中、ついにコーデリアが口を開いた。
「リオン、私は――――」
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