最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
学園長室で
『亡国の騎士』と名乗る武装集団の襲来に、力を持たない2-Cの生徒達は怯えて動けずにいた。先程までレンヤと仲睦まじく(?)話していたメルも同様にだ。助けが来るまでは逆らわずに従うのが最善であるのは考えるまでもない状況。
だからこそメルは、目の前で広がる光景を理解するのに時間がかかった。
レンヤが突然立ち上がった。当然【亡国の騎士】の連中が不審に思い声をかけると、それに対しレンヤは臆することなく応じる。
そして会話が終わると事態はあっという間に急変した。レンヤが教室を乗っ取っていた『亡国の騎士』を無力化したのだ。
するとそのまま教室を出ていこうとする。ただ成り行きをぼーっと見守っていたメルは扉の開く音で我を取り戻した。
「レンヤ!!」
メルは大声を出すがレンヤは止まらなかった。
安全を取り戻した教室には、様々な反応を示す生徒達が残された。
ほっとする者、緊迫した空気から解放され涙を流す者、『亡国の騎士』に勇敢に立ち向かった少年の勇姿を思い出し熱に浮かされた目をする者。
その中で、メルは考え事をしていた。『亡国の騎士』が襲来した時はレンヤはノーリアクションで全く動く気配がなかった。なのに急にやる気を出したのは何故か。思い返してみれば、あの放送を聞いてからだった。
《我々は今は亡き国、アルフォンス王国の王子がこの学園に通っているとの情報を手に入れた。その者を差し出せば全員を解放すると誓おう!》
この放送を聞いてレンヤが動きを見せた。つまりレンヤを動かすような内容だったということ。
まだ付き合いは二日間と短すぎるが、レンヤは極度の面倒臭がりであるのは分かっている。『亡国の騎士』をいとも簡単に無力化したということは、最初からそれが出来たということでもある。なのに動かなかったのはその面倒臭がりが発揮されたのだろう。その面倒臭がりを突き動かす何かがあの放送にはあった。
ーーーーアルフォンス王国の王子が関係してる……?
過去に滅びたとされる国の王子。それが平民であるレンヤと何の関係があるのか。そこでメルはあり得ないとは思いつつも、一つの可能性に辿り着いた。
ーーーーもしかしてレンヤが……?
必死に授業で習った内容を思い出す。確かアルフォンス王国の王子の遺体が見つかっていないという情報はあった。アルフォンス王国の王族には独特のしきたりがあり、王家の子は十歳になるまで親にも国民にも顔を見せることは無い。生まれたという報だけが出され、軟禁状態にされ、十歳になって『異能』の確認と一緒に顔を見せるのだ。名前も公表されるのもその時だ。
そして、当時の王家の人間で名を公表されていなかったのは第三王子だけだったはずだ。
パズルのピースがカチリとはまった気がした。だけどまだ足りない。
仮にレンヤがその第三王子だとしても、動き出す理由には少し弱い。幸い自分の他に気付いている者は様子からしていないようだが、自分がアルフォンス王国の王子と関係があると教えてしまうようなものだ。最も、レンヤがそこまで考えて行動しているか定かではないが。
結局はどれもが推測だ。今度直接本人に聞けばいい。
とりあえず今はレンヤを追わなければ。そう思いメルは立ち上がったが、ここでふと気になった。
ーーーーなんで私はレンヤを追おうと思ったの?
『亡国の騎士』がいるかもしれないというのに自ら教室を出るのは自滅行為だ。なのにさも当たり前のようにレンヤの後を追おうと思った。追わなければと思った。
「どうした、メル?」
兄の声は耳に入ってはこないほど、深い思考に嵌っていた。
そもそも不思議だった。なぜレンヤを呼び止めようとしたのか。昨日の決闘、今日の鎮圧を見ていればレンヤなら大丈夫。もしかしたらこの事態を解決するのではとすら考えられる。
しかしメルがレンヤを呼び止めた時に何か得体の知れない感情に襲われていた。
――――それはなに?どうしてそうなった?
脳裏に浮かぶのはミクルーアの姿。あの愛する人をひたすらに想う健気な少女に対する心配だ。いくら実力があっても、この世に絶対なんてものは無い。あの少女の愛しの少年の命にもしものことがあったらと思うと、レンヤを行かせるわけにはいかないと自然と口が動いたのではないか。
――――――いや、違う。
薄々だが気付きつつあった。これはきっと不安だ。こんな誰もが恐れ慌てふためく状況下で、いたって冷静に判断を下し行動に移したレンヤを、メルは遠い存在のように無意識に感じてしまい咄嗟に呼んでしまったのだ。このまま離れていってしまうのではないか。どうしてそんな不安に駆られたかなんて、鈍感ではないからすぐに察しがついた。
――――参ったなあ。
メルの理想の相手は、兄とは違ってしっかりとしていて頼りがいのある男だ。そこに更に付け加えるならそれなりに収入も良くて顔が良ければ、と理想を追い求めてしまうのは女の子の愛嬌だ。
それがどうだろうか。現実で見つけた相手は授業もまともに受けずに常に寝ているようなだらしない男だ。そして戦闘科の生徒や武装したテロリストに勝てる程の実力を持ち、顔も良い。収入は学生だから仕方ないが、授業で当てられた時にスラスラと答えていたから頭もそれなりに良い。
――――――割と優良物件なのでは?
妻帯者でなければ、だが。
まさか自分の初恋が会ってたった二日目の男だと分かると苦笑してしまう。気持ちの整理がつくと、体が軽くなった気がした。
「私、レンヤを追いかける!」
メルは駆け出した。
※※※
メルは後悔していた。
無事レンヤを見つけることが出来た。だが知らぬ誰かの声が聞こえ、思わず曲がり角に身を隠してしまった。
レンヤとその誰かが会話しているのをこっそりと覗き見る。内容までははっきりと聞こえないが、雰囲気からして知り合いのようだ。
そしてなんといっても誰もが容姿が整っている。ミクルーアといい、レンヤの知り合いにはそんな人しかいないのではないかと疑うほどだ。
だがそんなことより今はもっと重要なことがある。どうしてその知り合いがここに平然といるのか。メルは自分が何か危険な領域に足を踏み込んでいってるような気がして、少しだけ後悔していた。
しばらくするとレンヤ以外が散り散りとなっていく。ほっと息を吐き、声をかけようとすると逆にレンヤから声をかけられた。
とっくにメルの存在に気付いていたと聞き、なんだそれはと心の中でツッコミを入れる。
レンヤはメルを帰そうとしたが必死に縋り付く。ここで帰るようであれば来た意味がない。許しを得ると嬉しくなる。これが恋する乙女への変化の証か。
学園長室へと辿り着くとレンヤが扉を蹴破り中へと入っていく。
中にいたのは予想通り学園長であろう初老の男と『亡国の騎士』のトップであろう若い男。
「なるほどな……」
レンヤは二人を見て納得した。学園にはしっかりと警備の兵が付いているにも関わらず何も騒ぎが起きずに敵が侵入してきた。警備がザルなのかと考えはしたがそうではなかった。
普通であれば学園の重要人物である学園長の手足を縛ったりなど行動の制限を設けるはずだ。
だが実際は来客用であろうソファーにテーブルを挟んで向かい合って座っていた。テーブルの上には酒が置いてあり、仲良く飲んでいたようだ。
「学園長が手引きしたってことか。そりゃ簡単に学園内に入れるわけだ」
突然現れたレンヤ達を見て固まっていた二人だったが、やっとのことで口を開く。
「君はどうしてこんなところにいるんだい?」
「黙れ。お前は後で騎士団に突き出すとして、今はそっちの男に用がある」
「何を言って……がっ!?」
学園長は優しく話しかけながらも目は笑っていなかった。恐らくレンヤを黙らせようと近付いてきたのだろうが、これ幸いとレンヤは容赦なく腹に蹴りを叩き込む。
「さて侵入者さん? 話をしようか」
「……そうだな」
無闇に手を出すべきでは無いと判断したのか、素直に従ってくる。
先程まで学園長が座っていた場所に腰掛けると、隣にメルもやってくる。縮こまり、レンヤの袖をきゅっと掴んでいる。
「まずは学園を乗っ取った目的を話してもらおうか」
「放送でも言ったはずだ。アルフォンス王国の王子を探していると」
「なぜ学園にいると?」
「…………」
「黙秘、ね」
重要な情報は渡ぬようにしているあたり、思ったより冷静に判断はできるようだ。男はポーカーフェイスを貫いている。
「ならお前達が喉から手が出るほど欲してる情報をやるよ。それと引き換えに教えろ」
「……その情報とは?」
「王子の居場所」
「っ!?」
流石に予想してなかったのか、驚きの表情を見せる。メルも同様だ。
「どうだ、乗るか?」
「……乗った。ただしそちらから話せ」
「はいはい。王子はどこにいるかというとな……
レンヤは自身を指差す。
「ここだよ」
訪れる沈黙。それは何分にも何十分にも感じる程の深いものだった。
「はぁ?」
「……やっぱり」
男は不快感を露わにし、メルは納得といった表情をする。
レンヤは後でメルに詳しい話を聞くことにして、話を続ける。
「納得出来ないならそれでもいいが、お前も話せよ?」
「待て、本当にお前が目的の人物なら『異能』を持ってるはずだ。それで証明しろ」
「めんどくさ……だったら俺に魔法を撃て」
「ちょっ!」
メルは無視しつつ、視線で早くしろと訴えると男はレンヤに向けて手をかざした。
「どうなっても知らんぞ。『火球《ファイアボール》』」
小さな火の玉がレンヤに向かって飛んでいく。だがレンヤはじっと座っていただけだ。
そして当たる。だがレンヤには何一つ外傷はなかった。
「これが俺の『異能』だ。俺を魔法で傷付けることは出来ない」
魔法の無効化。レンヤには何一つ魔法は効かない。
「なるほど、どうやら本当のようだ」
「信じてくれたか?」
「ああ、よく分かった……よ!」
男がレンヤに迫り来る。だが直後に床に叩き伏せられる。
「やっぱこうなったか……疲れるからあまりやりたくなかったんだがな.....」
レンヤが本物の王子だと分かり、相手が選んだ行動は力づくでも連れていくことだ。魔法が効かないとはいえ物理は効く。不意打ちだからといってレンヤに勝てる可能性は最初から微塵もなかった。
「あまりうるさくするなよ」
うつ伏せになっている男の右腕を掴み、あらぬ方向に曲げる。
「があああぁぁぁぁああ!!!」
「うるさい」
残りの腕とさらに足も同じようにする。これで男は抵抗出来なくなった。
レンヤは男の頭に手をかざす。
「大人しくしてろよ……『記憶闇喰《ゲニス・イーター》』」
黒いモヤが男の顔全体を包む。男の体がピクンピクンと痙攣している。
「うわ……これはまた面倒臭い事に……」
レンヤが行っているのは記憶の強奪。目的の記憶を喰らい、自身のものとする。多大な魔力を必要とし体がだるくなる為、あまり使いたくはなかった闇属性の魔法。読み取った内容に顔をしかめると、レンヤは耳に何かを付ける。
「全員ラスクに集合だ。思ったより事は大きいぞ」
顔をメルへと向ける。
「レンヤ、あなたは一体……」
「後で教えてやる。お前も俺が王子だってどうして気付いたか話してもらうぞ」
二人は学園長室を後にした。
だからこそメルは、目の前で広がる光景を理解するのに時間がかかった。
レンヤが突然立ち上がった。当然【亡国の騎士】の連中が不審に思い声をかけると、それに対しレンヤは臆することなく応じる。
そして会話が終わると事態はあっという間に急変した。レンヤが教室を乗っ取っていた『亡国の騎士』を無力化したのだ。
するとそのまま教室を出ていこうとする。ただ成り行きをぼーっと見守っていたメルは扉の開く音で我を取り戻した。
「レンヤ!!」
メルは大声を出すがレンヤは止まらなかった。
安全を取り戻した教室には、様々な反応を示す生徒達が残された。
ほっとする者、緊迫した空気から解放され涙を流す者、『亡国の騎士』に勇敢に立ち向かった少年の勇姿を思い出し熱に浮かされた目をする者。
その中で、メルは考え事をしていた。『亡国の騎士』が襲来した時はレンヤはノーリアクションで全く動く気配がなかった。なのに急にやる気を出したのは何故か。思い返してみれば、あの放送を聞いてからだった。
《我々は今は亡き国、アルフォンス王国の王子がこの学園に通っているとの情報を手に入れた。その者を差し出せば全員を解放すると誓おう!》
この放送を聞いてレンヤが動きを見せた。つまりレンヤを動かすような内容だったということ。
まだ付き合いは二日間と短すぎるが、レンヤは極度の面倒臭がりであるのは分かっている。『亡国の騎士』をいとも簡単に無力化したということは、最初からそれが出来たということでもある。なのに動かなかったのはその面倒臭がりが発揮されたのだろう。その面倒臭がりを突き動かす何かがあの放送にはあった。
ーーーーアルフォンス王国の王子が関係してる……?
過去に滅びたとされる国の王子。それが平民であるレンヤと何の関係があるのか。そこでメルはあり得ないとは思いつつも、一つの可能性に辿り着いた。
ーーーーもしかしてレンヤが……?
必死に授業で習った内容を思い出す。確かアルフォンス王国の王子の遺体が見つかっていないという情報はあった。アルフォンス王国の王族には独特のしきたりがあり、王家の子は十歳になるまで親にも国民にも顔を見せることは無い。生まれたという報だけが出され、軟禁状態にされ、十歳になって『異能』の確認と一緒に顔を見せるのだ。名前も公表されるのもその時だ。
そして、当時の王家の人間で名を公表されていなかったのは第三王子だけだったはずだ。
パズルのピースがカチリとはまった気がした。だけどまだ足りない。
仮にレンヤがその第三王子だとしても、動き出す理由には少し弱い。幸い自分の他に気付いている者は様子からしていないようだが、自分がアルフォンス王国の王子と関係があると教えてしまうようなものだ。最も、レンヤがそこまで考えて行動しているか定かではないが。
結局はどれもが推測だ。今度直接本人に聞けばいい。
とりあえず今はレンヤを追わなければ。そう思いメルは立ち上がったが、ここでふと気になった。
ーーーーなんで私はレンヤを追おうと思ったの?
『亡国の騎士』がいるかもしれないというのに自ら教室を出るのは自滅行為だ。なのにさも当たり前のようにレンヤの後を追おうと思った。追わなければと思った。
「どうした、メル?」
兄の声は耳に入ってはこないほど、深い思考に嵌っていた。
そもそも不思議だった。なぜレンヤを呼び止めようとしたのか。昨日の決闘、今日の鎮圧を見ていればレンヤなら大丈夫。もしかしたらこの事態を解決するのではとすら考えられる。
しかしメルがレンヤを呼び止めた時に何か得体の知れない感情に襲われていた。
――――それはなに?どうしてそうなった?
脳裏に浮かぶのはミクルーアの姿。あの愛する人をひたすらに想う健気な少女に対する心配だ。いくら実力があっても、この世に絶対なんてものは無い。あの少女の愛しの少年の命にもしものことがあったらと思うと、レンヤを行かせるわけにはいかないと自然と口が動いたのではないか。
――――――いや、違う。
薄々だが気付きつつあった。これはきっと不安だ。こんな誰もが恐れ慌てふためく状況下で、いたって冷静に判断を下し行動に移したレンヤを、メルは遠い存在のように無意識に感じてしまい咄嗟に呼んでしまったのだ。このまま離れていってしまうのではないか。どうしてそんな不安に駆られたかなんて、鈍感ではないからすぐに察しがついた。
――――参ったなあ。
メルの理想の相手は、兄とは違ってしっかりとしていて頼りがいのある男だ。そこに更に付け加えるならそれなりに収入も良くて顔が良ければ、と理想を追い求めてしまうのは女の子の愛嬌だ。
それがどうだろうか。現実で見つけた相手は授業もまともに受けずに常に寝ているようなだらしない男だ。そして戦闘科の生徒や武装したテロリストに勝てる程の実力を持ち、顔も良い。収入は学生だから仕方ないが、授業で当てられた時にスラスラと答えていたから頭もそれなりに良い。
――――――割と優良物件なのでは?
妻帯者でなければ、だが。
まさか自分の初恋が会ってたった二日目の男だと分かると苦笑してしまう。気持ちの整理がつくと、体が軽くなった気がした。
「私、レンヤを追いかける!」
メルは駆け出した。
※※※
メルは後悔していた。
無事レンヤを見つけることが出来た。だが知らぬ誰かの声が聞こえ、思わず曲がり角に身を隠してしまった。
レンヤとその誰かが会話しているのをこっそりと覗き見る。内容までははっきりと聞こえないが、雰囲気からして知り合いのようだ。
そしてなんといっても誰もが容姿が整っている。ミクルーアといい、レンヤの知り合いにはそんな人しかいないのではないかと疑うほどだ。
だがそんなことより今はもっと重要なことがある。どうしてその知り合いがここに平然といるのか。メルは自分が何か危険な領域に足を踏み込んでいってるような気がして、少しだけ後悔していた。
しばらくするとレンヤ以外が散り散りとなっていく。ほっと息を吐き、声をかけようとすると逆にレンヤから声をかけられた。
とっくにメルの存在に気付いていたと聞き、なんだそれはと心の中でツッコミを入れる。
レンヤはメルを帰そうとしたが必死に縋り付く。ここで帰るようであれば来た意味がない。許しを得ると嬉しくなる。これが恋する乙女への変化の証か。
学園長室へと辿り着くとレンヤが扉を蹴破り中へと入っていく。
中にいたのは予想通り学園長であろう初老の男と『亡国の騎士』のトップであろう若い男。
「なるほどな……」
レンヤは二人を見て納得した。学園にはしっかりと警備の兵が付いているにも関わらず何も騒ぎが起きずに敵が侵入してきた。警備がザルなのかと考えはしたがそうではなかった。
普通であれば学園の重要人物である学園長の手足を縛ったりなど行動の制限を設けるはずだ。
だが実際は来客用であろうソファーにテーブルを挟んで向かい合って座っていた。テーブルの上には酒が置いてあり、仲良く飲んでいたようだ。
「学園長が手引きしたってことか。そりゃ簡単に学園内に入れるわけだ」
突然現れたレンヤ達を見て固まっていた二人だったが、やっとのことで口を開く。
「君はどうしてこんなところにいるんだい?」
「黙れ。お前は後で騎士団に突き出すとして、今はそっちの男に用がある」
「何を言って……がっ!?」
学園長は優しく話しかけながらも目は笑っていなかった。恐らくレンヤを黙らせようと近付いてきたのだろうが、これ幸いとレンヤは容赦なく腹に蹴りを叩き込む。
「さて侵入者さん? 話をしようか」
「……そうだな」
無闇に手を出すべきでは無いと判断したのか、素直に従ってくる。
先程まで学園長が座っていた場所に腰掛けると、隣にメルもやってくる。縮こまり、レンヤの袖をきゅっと掴んでいる。
「まずは学園を乗っ取った目的を話してもらおうか」
「放送でも言ったはずだ。アルフォンス王国の王子を探していると」
「なぜ学園にいると?」
「…………」
「黙秘、ね」
重要な情報は渡ぬようにしているあたり、思ったより冷静に判断はできるようだ。男はポーカーフェイスを貫いている。
「ならお前達が喉から手が出るほど欲してる情報をやるよ。それと引き換えに教えろ」
「……その情報とは?」
「王子の居場所」
「っ!?」
流石に予想してなかったのか、驚きの表情を見せる。メルも同様だ。
「どうだ、乗るか?」
「……乗った。ただしそちらから話せ」
「はいはい。王子はどこにいるかというとな……
レンヤは自身を指差す。
「ここだよ」
訪れる沈黙。それは何分にも何十分にも感じる程の深いものだった。
「はぁ?」
「……やっぱり」
男は不快感を露わにし、メルは納得といった表情をする。
レンヤは後でメルに詳しい話を聞くことにして、話を続ける。
「納得出来ないならそれでもいいが、お前も話せよ?」
「待て、本当にお前が目的の人物なら『異能』を持ってるはずだ。それで証明しろ」
「めんどくさ……だったら俺に魔法を撃て」
「ちょっ!」
メルは無視しつつ、視線で早くしろと訴えると男はレンヤに向けて手をかざした。
「どうなっても知らんぞ。『火球《ファイアボール》』」
小さな火の玉がレンヤに向かって飛んでいく。だがレンヤはじっと座っていただけだ。
そして当たる。だがレンヤには何一つ外傷はなかった。
「これが俺の『異能』だ。俺を魔法で傷付けることは出来ない」
魔法の無効化。レンヤには何一つ魔法は効かない。
「なるほど、どうやら本当のようだ」
「信じてくれたか?」
「ああ、よく分かった……よ!」
男がレンヤに迫り来る。だが直後に床に叩き伏せられる。
「やっぱこうなったか……疲れるからあまりやりたくなかったんだがな.....」
レンヤが本物の王子だと分かり、相手が選んだ行動は力づくでも連れていくことだ。魔法が効かないとはいえ物理は効く。不意打ちだからといってレンヤに勝てる可能性は最初から微塵もなかった。
「あまりうるさくするなよ」
うつ伏せになっている男の右腕を掴み、あらぬ方向に曲げる。
「があああぁぁぁぁああ!!!」
「うるさい」
残りの腕とさらに足も同じようにする。これで男は抵抗出来なくなった。
レンヤは男の頭に手をかざす。
「大人しくしてろよ……『記憶闇喰《ゲニス・イーター》』」
黒いモヤが男の顔全体を包む。男の体がピクンピクンと痙攣している。
「うわ……これはまた面倒臭い事に……」
レンヤが行っているのは記憶の強奪。目的の記憶を喰らい、自身のものとする。多大な魔力を必要とし体がだるくなる為、あまり使いたくはなかった闇属性の魔法。読み取った内容に顔をしかめると、レンヤは耳に何かを付ける。
「全員ラスクに集合だ。思ったより事は大きいぞ」
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