異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)
28話
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矢が魔族をとらえた。
それを感じとった北郷が駆け出そうとした時、北郷たちが入ってきた方角とは正反対の方向、ソラメク王国側から微かに何かが聞こえてきた気がした。
「…何だ?」
気のせいかもしれないが、なぜか呼び止められているような後ろ髪を引っ張られる思いがしたので、その場にて足を止めて耳を澄ましてみる。
しかし、聞こえてくるのは戦場の喧騒ばかり。
やはり、気のせいなのだろうか。
そう判断した北郷だったが、どうにも無視できない気がする。
本当にそんな気がする程度なのだが、それでもなぜか気のせいだと割り切り無視することができない。
まるで、無視したら一生後悔するぞと警告されているような感覚があった。
「……………」
後ろ髪を引かれるような感覚がするのは、渓谷の反対側を向く城壁のさらに向こう側、ソラメク王国の方からだった。
今、北郷が追っている魔族は別の方向に向かっている。
なにやら遅れて駆けつけた能面は謎の悲鳴を最後に崖から落ちていったようだが、その方向の城壁ともまた別の方角である。
 
「…ッ。なんなんだ、全く」
北郷は悪態つきながらも、迷う。
魔族を追うか、このわけのわからない感覚を追うか。
選択肢は2つ。
普段ならば迷いなく前者を選んでいた北郷だったが、その場合だと今は協力してくれているネスティアント帝国が、リズが離れていってしまうような気がした。
根拠も何もない。そんなことに惑わされるなどどうかしている。
そう切り捨てたい。
だが、北郷はどうしてもこの感覚が拭えなかった。
〔…ダメだ。これでは戦闘に集中できない〕
魔族は強い個体もいる。
先ほど対峙した翼の生えた虎のような魔族も、勇者補正を受けながらもかなり手こずった。
それに、北郷が追っている海藤に重傷を負わせた魔族はそれ以上の強さを持っていると思われる。
集中していなければ、足をいつ掬われるかも分からない。
〔ええい、鬱陶しい!〕
心中で悪態つきながら、北郷は方針を決めた。
このわけのわからない根拠のない感覚の元を突き止めることを優先する。
その感覚を拭う前にあの魔族に挑んでも、返り討ちにあう可能性が高いと判断したためである。
どういうわけか、回復を担う湯垣は崖から転落していった。
どうせろくなことをしない普段のツケが回ったのだろうが、湯垣の支援がない状態で戦える相手だと北郷には思えなかった。
ならば、先にこの鬱陶しく張り付いてくる未知の感覚の原因を探ってからの方がいい。
北郷はソラメク王国の方角へと足を向けた。
渓谷を抜けた先に広がるのが、ソラメク王国の子爵領、現在魔族に完全に占領されてしまっている地帯である。
渓谷にはまるで門番のようにサイクロプスと呼ばれる1つ目の巨人型の魔族が立ち塞がっていた。
そのサイクロプスは人語を喋ることができたが、発せられた言葉といえば人族を侮蔑するものばかりであった。
化け物風情に畜生呼ばわりされて我慢できるほど、北郷の気は長くはない。
即座に切れた北郷は、空間を切り裂いて、それにより生じる断層に相手の肉体の一部、または相手そのものを引きずり込むという科学文明では解析できない摩訶不思議な特性を持つ太刀を振り回し、渓谷にマッターホルン以上の急な斜面を作り上げるなど、地形を変えるという過剰な被害を出してそのサイクロプスを葬り去った。
渓谷が広がり、城塞都市が蓋の役割を果たせなくなり戦略的な価値を失いかけているが、今の北郷はその辺りのことなどまるで気にしていない。気にしていればもう少し被害が食い止められたのかもしれないが、サイクロプスの挑発にブチ切れてしまったことでここまで無駄な被害が生まれてしまった。今回転移されてきた魔族軍が大暴れしても、数分で地形を変えるなどという芸当をやってのけることは難しいだろう。
そんな北郷だが、到着した子爵領の城塞都市とは打って変わって静かな町並みに、街に足を踏み入れる前に立ち止まってしまった。
静かだ。静かすぎる。
〔…どういうことだ?〕
ネスティアント帝国の集めた情報によれば、今回の魔族侵入の場所、事件の発端となっている場所はこの子爵領である。つまり、魔族にとってはここが最前線基地のはずだ。
それに、ここには1ヶ月前にネスティアント帝国から情報提供を受けたソラメク王国の魔族討伐軍500名がいた筈である。
城塞都市に魔族が攻めてきていたということはすでに全滅していたのだろうが、その痕跡すらない。
子爵領はとても静かだが、それがかえって不気味だった。
街から人だけが消えた廃墟の並ぶ地。北郷は子爵領に対してそんな印象を抱いた。
この状況では、いつ敵がどこから現れるかわかったものではない。
不気味な静けさに包まれた町並みに、警戒を最大にする。
音を耳で、景色を目で、風の流れを肌で感じ取れるように集中する。
建物の居並ぶ街中で、太刀のような長物は適さない。
例え何もかも切り裂くような刃があろうとも、奇襲を受けやすい街中では小回りの効く獲物の方が有効である。
そう判断した北郷は、太刀を納刀し新たに60センチ程度の刃の短刀を魔法により創造して、それを手に街中へと足を踏み入れた。
静かな街中は、いつ奇襲があってもおかしくない不気味な雰囲気が漂っている。
普段であれば根拠を第一とする北郷だが、この場では感覚頼みも捨て置けないという印象を抱く。
子爵の領地を占領するならば、まずは領主の館を抑える。ネスティアント帝国もソラメク王国も子爵領の占領には気付けなかったことを考えると、あの城塞都市にいる大規模な軍勢は最初から持ってきていたわけではない筈。数万単位の軍勢を隠すことなどできないだろう。
そう考えると、初手は少人数による攻略となる。ならばまず子爵領の頭である領主邸宅を占領することから始める筈である。あとは半年の間に気づかれないように軍勢を送り込む。北郷は魔族たちの戦術をそう仮定していた。
その際、城塞都市攻略の軍勢が揃っていない中で魔族は城塞都市に勤務していた帝国兵であるアンネローゼに見つかった。知られないようにアンネローゼを攫った。誘拐に関しては、北郷はこのような結論を出していた。
城塞都市は占領した直後かもしれない。
ならば、魔族軍の基点は子爵領に当たる。
果たしてその予測が正しいという表れなのか、北郷をここまで突き動かしてきた謎の感覚が来てくれと訴えてくる元は、子爵領の中心に聳える領主の邸宅だった。
街中を警戒しながら、領主の邸宅に向かう。
街中は無傷だというのに何故か邸宅の天井に派手な穴が空いているが、その領主の邸宅もまた物音ひとつしない静かで不気味な建物だった。
何が出るかわからない。
窓はカーテンが閉め切ってあり、内部の様子はわからない。
警戒を最大にしつつ、扉のノブに手をかける。
領主というだけあり、邸宅の玄関の扉は人丈を優に超える大きなものである。
その無駄に重そうな扉をひと息に開けるべく、北郷はドアノブを回すと思いっきり扉を引いた。
バキ!
確かに2人で力を合わせて開く重い扉ではある。
だが、超人的な身体能力のある勇者補正を受けた勇者が力強く仕舞えば、ドアは外れてしまう。
開くのではなく、壊してしまった。
「しまった…」
気づいたときには既に遅い。
立派な子爵の邸宅のドアは外れてしまい、ドアが1つ外れてしまっているという貧乏貴族の館みたいな外見に様変わりしてしまった。
やってしまったと数秒の間、その場でフリーズしてしまう北郷。
だが、すぐに立ち直る。
今更遅いが、邸宅内から攻撃がある場合に備えて、即座にドアを捨てて刀を構えた。
今更遅い。全くもってそうである。
しかも投げ捨てたドアが、投げた先で角をぶつけ窓を割ってしまい、静かな子爵領に破壊音を響かせている。
なんともしまらない事態に、やってしまった本人は頭を抱えたくなる気分を押さえつけ、あくまでもシリアスな空気を保とうと奇襲がないかを警戒した。
…誰もこなかった。
「…拍子抜だな」
短刀の刃を下す。
北郷の推測ではここが魔族の最前線の拠点だと思っていたのだが、ここにはもう魔族は残っておらず放棄されているのかもしれないという憶測が浮かぶ。
それだけ、子爵領が静かなのである。
だが、それでも謎の感覚は拭えない。
子爵邸の奥の方から、来いと呼ばれているような、行けと背中を押されるような感覚がする。
何かあるのだろうか。
「…解決しない限り、戦闘にはとても集中できない。行くとするか」
北郷は、この感覚を抱かせる正体が子爵邸内にいるのかもしれないという根拠の無い勘を頼みに、子爵邸の奥へと足を向けた。
無人のいかにもな貴族の館というのは、幽霊屋敷を連想しています不気味なものである。
その中を警戒しながら、北郷は呼ばれるような感覚がする邸宅の奥を目指して歩く。
そして、重厚な扉の前に到着した。
「…ここか」
北郷を呼ぶ謎の感覚は、その扉の奥からしている。
結局わけもわからぬままにここまで来てしまったが、扉を前にしてふと思った。
ここは自分たちの世界とはまるで異なる異世界である。魔法なんてものも存在するし、それにより自分たちの知る世界とは全く異なる文明が発展している。
そう思えば、この感覚がなんらかの罠であるという可能性もある。
魔法という不思議な存在に関しては、今の敵である魔族たちの方が扱いも見識も、魔法を行使するために必要な魔力も人族をはるかにしのぐ。
勇者補正のおかげで異世界からの勇者である北郷達にも魔力はあるが、人族にはそもそも一部の例外を除いて魔法を行使するに必要な魔力そのものが備わっていないほどである。
魔族ならば人族の知らないような例えば相手の気をひいたり誘惑したり、下手をすれば意のままに操ったりする魔法を扱える魔族がいたとしてもおかしくは無い。
扉を開けた瞬間に罠が発動する。
もしかしたら自分はおびき寄せられたのかもしれない。
そんな不安が、北郷の脳裏をよぎった。
「…無策で開けるのは早計か」
扉にかけていた手を引く。
ここに至るまでに魔族の姿が一切なかったことも、北郷の不安を加速させる1つの要因となっている。
やはり城塞都市に戻るべきという方向に方針を転換させようとした。
–––––その時だった。
子爵領に建つ領主の邸宅。
その天井に何故か空いていた穴から、奴がやってきた。
忘れもしない。
矢に追わせていたあの魔族。
海藤を刺した、あの魔族である。
それが、扉一枚を隔てた先に降り立ってきた。
「–––––ッ!」
その瞬間、罠も何も考えが吹き飛んだ。
短刀を振るい、その重厚な扉を開くのではなく、切って壊して道を開ける。
何故かと問われれば、北郷は頭に血が上ってしまっていたと答えるだろう。
…そんなことで済む話では無いのだが。
それはともかく、北郷は開くことをためらっていた扉を壊して、中に突入した。
見えた影に、何も考えずただ刀を振り下ろす。
「貴様ぁ!」
「–––––ッ!?」
刀を通じて響いてきたのは、硬い何かに刃が弾かれる音。
構うことなく、刀の切っ先を魔族に向けて突きを繰り出す。
だが、刀が届く前に北郷の腹を強烈な衝撃が貫いた。
「グハッ!?」
吹き飛ばされて背中から子爵邸の部屋にあった棚にぶつかり、棚を破壊して中身をぶちまける。
魔族に蹴り飛ばされたというのが理解できたのは、棚に叩きつけられた後だった。
「うっ…」
あれだけ激しく叩きつけられた背中は大したことが無い。
だが、蹴られた腹に受けた衝撃は、勇者補正の身体強化を通り越して、重い衝撃を北郷の腹に与えていた。
一瞬だが、受けた際に体がちぎれるかもしれないという幻覚を感じたほどである。
今も腹は激痛が走り、立ち上がるのさえやっとだった。
それでも、北郷は海藤が富山を守るために受けたあの怪我に比べれば、穴も開いていないのだから比べるまでもない。
そう己に言い聞かせて、なんとか立ち上がった。
足にまともに力が入らない。
腹が悲鳴をあげている。
臓器が潰れていないか心配になるほどである。
土師とはよく喧嘩を繰り広げていたし、堅物すぎる面から不良に絡まれるクラスメイトを放置できず喧嘩になったこともある。学級委員長を務めている加賀見というクラスメイトとは、彼が同級生の中井をいじめていた現場を目撃したことで殴り合いに発展したことがある。
だが、平和大国日本で培った痛みなんぞとは比べ物にならない衝撃を、北郷は受けていた。
勇者補正がなければ、確実に死んでいただろう。
それでも、海藤が富山を守るために躊躇いもなく受けた傷を思えば、耐えられないことなど無い。
〔さもなくば、あいつに顔向けなどできないからな〕
北郷は堅物で理詰め思考が強いと言われているが、本人にはそのような自覚はなく、むしろ根性論を好む思考が強いと北郷自身は考えている。
たった一撃でここまで追い込む相手に立ち上がって向かったところで勝てるわけが無い。
勝てるわけがないが、それでも北郷は立ち向かわずにはいられなかった。
そして、そこに来て初めてまともにその魔族の姿を見た。
重厚な黒一色に染まった甲冑。
兜から見える白磁の様な神秘的な印象を抱かせる、まるで作り物の様な白く美しく、そして生気という者を一切宿していない肌。
甲冑には青白い稲妻が走っており、背中に宿す黒くて大きな翼と相成り、その姿は現実味の薄い神話を描いた絵画から飛び出してきた戦乙女を連想させる。
そして、その魔族の兜に収まる顔は、まるで爬虫類の様な縦長の感情を灯さない橙色の瞳孔と、幼さをまだ残す少女の風貌があった。
その魔族は、一言で表すならば『神秘的』という表現がふさわしい外見をしていた。
「…女、か」
北郷自身はこれでも男としてもプライドくらいはある。
土師以外であれば、女性に暴力を振るう行為を良しとはしない。
土師は例外。あれをレディとして扱うつもりなど、北郷には微塵も無い。もちろん暴力を振るうことに関して、チンピラ以上に抵抗を抱いていない。
だが、そんな北郷でも、外見に反してその魔族に対してはためらいなく刀を振り回すことができるという確信がある。
というよりも、躊躇えばむしろこちらの命が消し飛ぶという確信がある。
魔族は、静かに冷たい瞳を向ける。
纏う雰囲気全てが、冷たい。目の前の魔族はそんな印象を抱かせる。
幼さを少し湛えるその顔でさえ、美しくでありながら、どちらかというと精巧というイメージを受けるとても冷たいものである。
短刀の刃を弾いたのは、おそらくはあの甲冑。
この短刀には物理的要因をなんでも切れるという特性を与えていたはずなのだが、それが効いていない。
その点から、北郷は魔族の纏う鎧が何らかの魔法によるものであると推測していた。
魔法を深く理解できていない北郷には、魔法的要因をなんでも切れるという武器をイメージして想像することはまだ難しい。
北郷の魔法はあくまでも北郷の創造性に依存して様々な道具を創り上げる魔法である。勇者補正の影響から幾度使おうとも魔力が枯れ果てることは無いものの、北郷自身が想像できないものを創造することはできない。それがこの『武士』の扱う『造型魔法』の大きな弱点である。
だが、それでも北郷に引く気は無かった。
ここでこの魔族を仕留めてみせる。
海藤は湯垣がどうにかしてくれるはずだ。
ならば、前線に立ち戦うことを想定されている職種を授けられた自分の領分は目の前の敵を叩き切るのみ。
「フウゥ…」
呼吸整える。
痛みが少し緩和され、まともに動ける様に落ち着いてきた。
刀を青眼に構え直し、魔族と対峙する。
無機質で神秘的。その外見は見た多くの者の心を惑わし、困惑の渦に叩き落とす。
その魔族が携える1つの特性は、外見などただの一面であり本質では無いと割り切っている堅物の北郷にはまるで効いていない。
その様子に、魔族はかすかに表情を動かした。
〔…笑った?〕
北郷の目には、魔族の表情の微かな変化がそう映った。
だが、それ決して相手を見下したり馬鹿にするような感じではない。
どちらかというと、嬉しげなものである。
その表情の変化に北郷は一瞬眉をしかめるも、すぐに気を取り直して魔族へと刀を向けて床を蹴った。
〔相手の底が知れないな。とにかく、速攻で仕留める!〕
次に一撃を受けては、北郷は2度と立ち上がれないという確信がある。
そのため、動けるうちに何としても致命傷を叩き込むべく、魔族に刀を突き出した。
突き技は威力が高く、剣が速いため躱し難い技である。
攻め箇所が少ないために、むしろ交わされやすいともいえる攻撃だが、北郷には斬撃がまともにあの魔族に通るという予感はしなかった。
間合いを詰め、一息に鎧の隙間である顔面へ刃を突き出す。
だが…
「なっ!?」
それを、魔族は、平然と人差し指と中指で突き出されてきた刀身をつまむ様に受け止めた。
人間の常識ならばありえない様な真剣白刃取りをして見せた魔族に、北郷は思わず驚愕に言葉を失い動きが止まってしまう。
頭が真っ白になった。
今の一撃は北郷にとって必殺の一撃だったはず。
それを、あの様な手段で受け止めてしまう相手。
そんな相手に、どうやって勝てというのだろうか。
だが、戦闘中に動きを止めてしまうなど、一瞬でも致命的なものである。
魔族は唖然とした北郷の隙を見逃さず、掴んだ刀身を自ら引き寄せて北郷の体制を大きく崩す。
〔しまっ–––––〕
しまったとその失態に気づく頃には、北郷の顔面に魔族の籠手に覆われた拳が直撃した。
意識が彼方に吹き飛ぶ様な衝撃が頬骨に直撃する。
声を上げる間などなく、北郷は子爵邸の壁を突き破り庭へと殴り飛ばされた。
〔ま、マズイ…!〕
脳震盪を起こした様だ。
意識はなんとか失わずに済んだものの、頭が朦朧とし、視界は定まらず、体は脳の命令を受け付けなくなっている。
〔ここまでか…〕
魔族がこちらに歩いてくる足音を聞きながら、結局一矢報いることもできなかったという事実に落胆しながら、殺されるという現実に向き合うことになった現象に、北郷はただここで終わるのか、という感情だけを思い浮かべていた。
魔族が迫る。
辿り着けば、それで終わるだろう。
薄れていく意識の中で、せめてあの女神にだけでも謝りたかったという謝意を思い浮かべていた北郷だった。
だが、そこに突然音が響いてきた。
「!?」
飛来するミサイルの山。
爆音が鳴り響き、子爵の邸宅を含めた町全体に物量に物を言わせた飽和攻撃が落ちてくる。
北郷にとどめを刺そうとしていた魔族は、その突然の飽和攻撃に驚き、その場を飛ぶ。
だが、それを狙っていたと言わんばかりに、無数の光線が魔族に直撃した。
「うっ!?」
ミサイル程度、最初の襲撃時に受けながらも無傷であったその魔族に、光線とミサイルはダメージを与えた。
鎧が壊れ、爆音の中からその黒い欠片を散らせる。
地面に落ちる魔族に対しては正面に、北郷には背中を向ける様にして、乱入者は舞い降りた。
「…借り、返しに来た」
突然北郷を守る様に現れたその人物の声は、一気に北郷の意識を引きずり戻した。
現れたのは、その魔族に一度は完敗したはずの『狙撃手』の職種を授かる勇者、土師 若菜だった。
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