異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

24話

 まるで大砲が発射されたようです。
 それしか表現しようのない音とともに、サラトガ氏の落ちたあたりから何かがとんでもない速さで打ち出されて空の彼方に飛んで行きました。
 はて、なんでしょうか?
 まあ、少なくともボカスカなっている戦闘音と気配から察するに、カクさんか副委員長でないことは確かです。おそらく魔族の誰かでしょう。


 …ひょっとしたらサラトガ氏でしょうか?
 なんだか、あの魔族の方に申し訳ないという感情が浮かんできました。
 負傷者なのに、自分とは比べ物にならない地獄の釜に放り込んでしまったという根拠のない予感がします。
 ヨホホホホ。…冥福をお祈りいたします。


 さて、2人を探しましょう。
 2人を探せば自ずと海藤氏に重傷を負わせた魔族にたどり着くはずです。


 2人はかなり離れているようですが。
 だ、大丈夫ですよね? なんか不安になってきました。


 と言いますか…すごい破壊行為ですね。
 爆撃されているのでは?と錯覚するほどに瓦礫が飛んで飛んで飛び荒れて、城塞都市の中に広がる町並みを破壊しています。
 これで離れているのですから、喧嘩している暁には城塞都市がどこぞの皇宮の塔見たく完全に破壊されてしまうことになりかねませんね。
 ヨホホホホ。なんか面白そうなので、そのように誘導してみるのもありでしょうか?
 やめろ!と? やめろと言われたらやりたくなるのが人のサガというやつでしょう。ヨホホホホ。


 まずはカクさんが暴れている方向に向かってみます。
 カクさんは城塞都市の西側で暴れていますね。サラトガ氏との戦闘中に見えた都市の西側にそびえ立つ大きな教会が音を立てて崩れていくのが見えました。
 そのサラトガ氏を吹っ飛ばした方に、副委員長の暴れる爆発が見えます。


「おっと」


 飛来した巨大物体が目の前に墜落してきたので、それを防護魔法で受け止めました。
 すると、それはカクさんが崩したと思われる教会の大きな鐘でした。中には目をクルクルパーにした二足歩行の狼のような姿をした魔族が2人ほど詰められています。


「ヨホホホホ。中々に暴れている様子ですね〜」


 2人の魔族はまだ息があるようですね。
 とりあえず、鐘はそこらへんの通路に置いておきますか。


「なんなんだよ…あいつ…」


「人族の、皮被った、化け、もの…」


 2人が何かを呟いています。
 カクさんに対する悪口のようですね。
 …自分たちの目線だと外見はあなた方の方がより化け物なのですが。
 そんな感想を抱きつつ、その哀れな魔族を安全な場所に避難させることにします。
 要するに、鐘の中ですね。
 ドン、と鐘を置きます。
 ふたりの魔族を閉じ込めるように。


「た、助けてくれ!」


「いやだあ! くらい、何も見えない!」


 中からわめき声がしてきました。
 ふむ。暗い中で地響きと爆発音はさぞ恐ろしい体験でしょうな。
 安心させるために、声をかけてみます。
 ヨホホホホ。中から彼らが叫ぶことから、声は鐘を通るようですので。


「イシシシシシシシシシシシシ…ヒョッヒョッヒョッ…ヒョーッヒョッヒョッヒョッ…」


 安心させるように、笑い声をば。


「「ヒイャアアアアアア!?」」


 おや? 何やらより怯えてしまった様子ですね。
 それもすぐに途絶えました。
 よし、落ち着いたようです。
 ヨホホホホ。魔族の方にも哀れな場合は手を差し伸べるのが、治癒師の本領ですね。
 ヨホホホホ。
 …もちろん、わざとやってますよ。どうせ敵ですから。


 魔族2名を閉じ込めてから、爆発音のする方向に向かいます。
 通路のど真ん中に巨大な鐘を置いたことは…まあ、それはそれです。
 邪魔だ、と? その、緊急事態といいますか、戦時中はなんでも許されるという特権でどうにかならないでしょうか?
 なりませんよね。ヨホホホホ。


 またも何かがこちらめがけて飛来してきました。
 右にそれてその飛来してきた何かを交わすと、横をカエル頭の魔族が通り過ぎて激突し、家を1つ壊しました。
 いえいえ、自分ではないです。これは、自分の責任ではないはずですよね?
 …ですよね?


 ボロボロと、家の無残な残骸を押しのけてカエル頭の魔族が起き上がってきました。
 なかなか、耐久がありますね、この魔族。見た目カエルなのに。
 その目はクリクリとして愛らしいと取れるはずなのですが…何故でしょうか? すごく醜く感じてしまいます。こう、視線にこもる感情のようなものが醜いと言いましょうか。
 とにかく、醜いですね、このカエルさん。
 醜いのはアヒルの子でしょう。…よくよく考えたら、ハクチョウの子どもは毛並みこそ地味な色をしていますがとても可愛いと思いますよ、自分は。ヨホホホホ。
 子供は種族、生命問わず可愛いものです。愛らしいものです。何より慈しみ愛するものだと思います。万族共通の認識で相違ありますまい。
 お前の感性がまともなのがおかしい、ですか? ヨホホホホ。全くもってその通りですね。


 しかし、目の前のカエルの魔族には話し合いの余地があるとは思えません。
 サラトガ氏の時もそうでしたが、魔族の纏う気と言いますか、その存在感は人族と対面するときとは段違いの重圧を感じます。
 空気が重く感じますね。それだけ強大な敵ということなのでしょう。
 …カエルの魔族さんは既にボロボロですけど。
 ヨホホホホ。カクさんもこんな連中相手によく善戦します。さすがですね。被害がバカにならないのでネスティアント帝国の財務大臣が頭をかかえる様が目に浮かびますが。
 アルブレヒト氏、禿げたりしないでしょうか? 胃薬か育毛剤を製薬魔法で作成してお土産としましょう。
 お前も一役買ってるだろが!と?
 た、確かに…。お詫びの品と呼んだ方が良いですね、これは。
 そういう問題じゃない!と?
 いえいえ、自分はあのお二人がいかほど暴れようとも面白ければ構いません。
 そして、止めるなどという勿体無い真似はいたしませんよ。ヨホホホホ。


 取り敢えず、カエル頭のボロボロとなっている魔族に近づいていきます。
 せめてもの情け、一撃で楽にいたしましょう。


「クソ…人族め…!」


 カエル頭の魔族が口を開いて毒の塊を打ち出します。
 紫色の液体の玉ですね。バシャッとかかかると溶ける気がしたので、防護魔法を展開して弾きます。
 はい、不発ですね。


「ヨホホホホ」


「何ィ…!? こ、こいつも…化物の仲間かよ!」


「ヨホホホホ。今日はいい天気ですね〜」


 世間話に天気の話題はあまりいいチョイスではない気がしますが。
 まあ、晴れてはいます。なかなかの晴天。土煙がありますが、天気は良いでしょう。
 御手杵を振り上げます。


「この、バカにしやがって、畜生の分際で!」


 もう1発毒の球体が発射されました。
 それを防護魔法で再び弾きます。


「クソが!」


 切れたらしいカエル頭の魔族が、飛びかかってきました。
 それを御手杵で叩きつけます。


「ぐえ!?」


 一撃で叩きつけられたカエル頭の魔族は、なかなか良いリアクションをして潰されました。
 カエルがよく車にひかれるような惨状ですね。
 文字通りのカエル潰しです。
 ヨホホホホ。一撃必殺成功です。


「秘技、『カエル潰し』ですね。副委員長のナイチチと同じくらいの厚さになったでしょうか?」


 副委員長の耳に届いたら確実に報復を受けるだろうセリフを吐きつつ、力尽きたカエル頭の魔族の屍の横を通り過ぎ、再びカクさんの暴れる方向へ歩き始めます。
 カエル頭の魔族さんは満身創痍だったのでなんとか(?)倒せましたが、この先にも魔族がいます。次はこうは行かないでしょう。


 すると、突き当たりの家がいきなりぶっ壊れました。
 気配が乱暴なショートカットをしてきた魔族の存在を知らせます。
 …次は満足に戦える魔族が相手のようですね。気を引き締めなければ。


「ウオオオオオオオオォォォォォォォ!!」


 今度は謎のチャリオットに乗った頭のない騎士風の魔族が出てきました。
 いえ、頭はあります。小脇に抱えていますね。
 声も頭が発した様子です。
 ヨホホホホ。今度は世に言う『デュラハン』ですな。
 気配的には先のカエル頭より数段上を行っています。
 これは強敵かもしれません。
 頭がなくとも身長2メートルはあろうかという屈強な体は、重厚な鎧に覆われています。
 片方の手は首を抱えており、もう片方の手は骸骨の巨大な馬の手綱を握っています。腰に剣がさがっていますが、どうやって持つつもりでしょうか?
 …おそらく、チャリオットでひきころす戦い方と、剣を用いた戦い方の2つのパターンがあるのでしょう。
 頭が本来ある場所には、青白い炎が揺らめいていました。
 なんというか、あの首が在るべき場所に手を突っ込みたくなります。
 火傷するか飲み込まれるかのオチが待ってますけど、別にいいのではないでしょうか? それならそれで面白くなりそうですし、自分は治癒師なので火傷なんぞ瞬き1つの間に直せますから。


 とはいえ、そんな軽口を叩いていい相手でもなさそうです。
 さっきのカエル頭の魔族よりもはるかに強いでしょう。満身創痍だったカエル頭の状態を考慮したとしても、このデュラハンの方が確実に強いと思います。


 というか、あれは倒せるのでしょうか? すでに死んでいるように見えますが。
 いえいえ。ファンタジー感あふれるこの異世界ではゴーストやリッチといった我々の世界の尺度では理解不能な魔族も多数いると女神様も言っていたではありませんか。不死身(もう死んでいるとも言う)もまたひとつの特徴と捕らえるしかないでしょうね。魔族に我々の生物学を押し付けてもクルクルパーになって処理機能が故障するのがオチですから。


 取り敢えず、肩に担いでいた御手杵を構え直します。
 普通ならば勇者補正ありきでも振り回すではなく振り回されるほどの重量を持つ槍ですが、自分には強化魔法という手段があります。多少重いものの、戦闘に際して振り回すことになんら支障はないと断言できます。
 ヨホホホホ。それでもおそらく足りないでしょうが。


 そもそも槍で魔族に挑むということ自体が、魔族側にしてみれば自殺願望にまみれたやつか、はたまた魔族を人族の分際でバカにしているという認識を持つようです。特に後者の推測をされては、短気な魔族はたちまち怒りくるうでしょう。


 では目の前のデュラハンはどう動いたのか。
 それは、敵意をむき出しにしてあげた巨大な咆哮が物語っていました。


「ウアアアアアアアァァァァァァァァ!」


 黒い巨大な騎士が小脇に抱える兜をかぶった頭が大声をあげながら手綱を唸らせるというのはなかなかに面白い光景ではありますが、そんな悠長なことを考えてなどいられません。
 ヨホホホホ。
 突撃の命令をうけた巨大な骸骨の馬さんが、大きく前足を振り上げてから、一気に駆け出してきました。
 デカイですね。馬も大型トラックくらいあります。骨ですけど。
 まあ、魔族という存在に自分たちの常識が当てはまるわけもありません。
 その巨体に似合わないとんでもない急発進をして突撃してきました。
 家屋を破壊した様を見るに、まともにあたっては確実に全身骨折で骸と化すでしょう。
 とは言っても避けられるような速さと大きさではないので、上に逃亡することにします。
 何をするのかと言いますと、要するに高い塔みたく防護魔法を足元に伸ばして自分自身を押し上げてやり過ごします。


 防護魔法に激突した馬は、対戦車ライフルでも貫通できない頑強さを誇る自分の防護魔法を、まるで発泡スチロールの壁を打ち破るようにいともたやすく減速することもなくぶち抜きました。
 とんでもない威力ですね。防護魔法で受け止めようとせずにいたことが幸いしました。ろくに調べもせずに受けていたら、確実にひき殺されていましたからね。
 道路で歩行者がいたら避けましょう。危ないですから。


 さて、命は守り抜きましたが、自分は足場を失ってしまいました。
 すぐ下を馬が通り過ぎますが、そんなの構っていられません。
 なぜなら、その馬に引かれている車の上で、デュラハンが頭を特等席みたいな車の上にある椅子において、腰に下げていた剣を抜いています。
 それを自分に狙いを定めて振り回してきました。


「ウオオオオオオオオォォォォォォォ!」


 巨大な咆哮とともに、巨大な剣が巨大なデュラハンによって振り下ろされます。
 空中なので回避できないとでもお考えでしょうか? 大ぶりなのは確実に仕留められるうちに仕留めるということでしょうな。


 しかしですね〜、自分には空中で回避する術があるのですよ。
 防護魔法を足場扱いするのは用途が違うと突っ込まれるかもしれませんが、何事も応用するのが人間というものでしょう。ヨホホホホ。使える手段は何でも使います。
 というわけで、足場となる壁を空中に防護魔法で展開し、それを足場に横に回避しました。
 その直後に、巨大なデュラハンの大剣が振り下ろされ、馬車の床に突き刺さりました。


「ウオ!?」


 抜けなくなったことに驚いたのか、躱されたことに驚いたのか。自分はデュラハンさんではないのでそれは分かりかねますが、若干間抜けな顔で驚きの声を上げたその様は滑稽ともとれます。
 自分はといえば、御手杵を馬車に引っ掛けてなんとか乗り込みに成功しました。


「ヨホホホホ。デュラハンさん、隙だらけですよ〜」


 剣を必死に抜こうとするデュラハンさんの体に茶々を入れつつ、動けないのに置いてけぼりを被っているデュラハンさんの首の乗った椅子を持ち上げます。
 よいしょとな。


「ウオオッ!?」


 デュラハンさんの頭が異常事態に気づきました。
 自分が茶々を入れた際はなんの反応もなかったのですので、デュラハンさんは馬みたいにほとんど目に頼りきっている魔族なのでしょう。
 デュラハンさんが急いでに指示をして剣を抜こうとしている手に力を込めます。
 しかし、到底間に合いません。


「では、良い旅を♪」


「ウオオオオオオオオォォォォォォォ!?」


 デュラハンさんの頭を椅子ごと馬車から放り出しました。
 大慌てとなる体に対して、チャリオットを引いている巨大な骨馬は全く速度を緩めることなく道路を壊しまくりながら突き進んでいます。
 その先には、城壁が見えてきました。


 …あ、あれ? カクさんからは遠ざかっているし、この先の壁は確か外が川になっているはずです。おかげで突き抜ければ真っ逆さまは確実の状況ですね。
 しかし、馬はまるで速度を緩めません。


「いえいえ、ま、待ってくださいまし! 止まってくださいまし!」


 必死で願いますが、馬さんは聞き入れません。
 むしろ止めようとするデュラハンさんの体の手綱を伝わる命令を完全に無視しています。
 ヨホホホホ。マズイですね…。


「た、助けてください〜!」


 逃げ場などないので、何もできません。
 デュラハンさんの体とむさ苦しい男同士で抱き合って、顔を青ざめながら壁に激突する瞬間を迎えました。
 …デュラハンさん、馬くらい制御してくださいよ〜。ヨホホホホ。

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