異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

10話

「意外だったな」


 部屋に着いて、豪奢なベッドに腰を下ろした自分。
 対してソファに座ったカクさんは、向きを変えて自分と向かい合うのようにして座ると、そんなことを言ってきました。
 はて?なんのことやら?


「何がです?」


「ケイと海藤だ。あいつら、付き合っているんじゃなかったのか、と」


 カクさんになんのことかと尋ねると、意外な事に堅物で有名なこの人の口からまさかの恋話が出てきました。
 カクさんはそういうのに興味ないと思っていたのですが。
 いえ、興味がなくてもすぐに気づきますよね、あの二人がどういう関係であるのかは。はたから見れば一目瞭然ですから。
 なんだかんだ言っても、カクさんも多感な高校生ですしね。自覚ないなら、まあ彼のことも温かく見守って差し上げましょう。下手なことしてこじらせたら、自分は面白いですがケイさんに何をされるのか分かったものではありませんから。


 しかし、なるほど。察していたから、この組み合わせに対しては一切反論しなかったというわけですか。


「カクさんも分かっていましたか」


「当たり前だ。あいつの視線を辿れば、ほとんどの場合で海藤に行き着く。海藤も海藤でまんざらではない様子だしな」


「ヨホホホホ。確かに」
  
 思い返してみればありありと出てくるその情景に、自分もまた頷きます。
 海藤氏の方はまだ気付いていないみたいですが、口出しせずともいずれ気づくはずでしょう。ケイさんが奥手でツンデレでも、海藤氏はそこまで鈍感ではありませんから。…若干ネガティヴをこじらせすぎているだけで。


 と言いますか、カクさんも人のことを言えないのでは?
 …今言っても無駄ですね。わかってますとも。ヨホホホホ。


 すると、カクさんの雰囲気が真面目なものに変わりました。
 普段から堅物ですけど、大体はやや抜けたところがと言いますか、空回り感があるので残念な堅物モードといった感じの雰囲気なのですが、今の表情は真剣です。
 自分もまた、するべき議題がありましたし。多分同じことを考えていると思いましたので、顎髭をいじってきた手を下ろして向かい合いました。
 付き合いの長いカクさんは、それだけで自分が話し合いに応じる構えだということを察したようです。ヨホホホホ。流石ですね。


「湯垣、今日の出来事に関して整理したい。付き合ってくれるか?」


「ヨホホホホ。勿論ですとも。鬼崎さんたちは明日以降としまして、とりあえず我々だけで知り得ている現状を整理してみますか」


 小説や空想の中の物語でしかないと思っていた、異世界転移という事態。
 皇女様から話を聞いて、ひとまず先延ばしということで返事を保留しにてあるものの、自分たちはまだ情報の共有もできていません。
 女神様を責めることは当然ありませんが。個別に話を聞いていたところ。ここの情報を照らし合わせて、自分たちの現状なども把握する必要があります。
 あと、職種の件ですね。カクさん、まさか受け取り拒否とかしていないですよね?
 話し合いの話題に挙げるとすれば、これらでしょうか? 今のところは。


 カクさんはポケットからスマホを取り出しました。
 電源を入れると、日時はまさに召喚されることとなった日の、23:15を示していました。
 ただし、スマホの電波状況は当然のことながら圏外のままとなっています。


「湯垣、貴様のスマホは?」


「…教室でしょうな。自分の手持ちにはありません」


「ならいい」


 カクさんはスマホの画面を見せてきました。


「日付は変わっていない。俺たちが異世界に召喚されたとして、気を失った時の記憶はあるか?」


「気を失った時、ですか…?」


 カクさんが言っているのは、おそらく放課後の際の突然床が光り出した時のことでしょう。
 担任が解散を言い渡し、まだ終業のチャイムの1分前だったということで、日直に資料を運ぶのを手伝ってもらい教室を出て、残った自分たちには終業のチャイムが鳴るまで待機を命じました。
 担任もまさかこんな事になるなんて想像つかないでしょうし、さすがにこれに関しては責められません。
 終業のチャイムが鳴るまでの短い間を各々で過ごしていた時、突然床が光り輝き、突然の強烈な光に思わず目を瞑ったところ、何が起きているのかというのをまともに把握する間もなく唐突に目の前が真っ暗になって、気を失ってしまい倒れこんで、気づいたら女神様の元にいました。


「ヨホホホホ。情けないことですが、自分が知っているのはこれだけです」


「俺も似たようなものだな。何が起きたのかを調べる間もなくいきなり意識を失った」


 自分の報告と照らし合わせながら、カクさんもまた同じような状況だったとのことです。
 となると、全員このパターンに当てはまっていてもおかしくありませんね。


「カクさんが意識を取り戻したときは、どのような状況で?」


「おそらく貴様と同じだぞ。床も天井も壁もない白一色の空間に寝転んでいて、誰もいなかったと思ったらいつの間にか女神を名乗る女がいて、突然『あなたは勇者に選ばれました』などと訳のわからんことを言われた。頭が沸騰した変態に誘拐されたのかと思ったが、実際はあいつの言った言葉どおり異世界に飛ばされている」


「ヨホホホホ。自分も目が覚めた際には白一面の空間でしたね」


 この辺りも一緒のようです。
 ただ、カクさんは女神様のことをこじらせちゃった誘拐犯みたいな認識で見ていたのですね。
 うーん、気持ちはわからなくもないです。むしろすんなり受け入れた自分の方が異常だとは思いましたが、自分には現実であると確証を持てる事柄もありましたし。
 事実は小説並みに奇なりというやつですね。…あれ?微妙に違いましたか?
 ともあれ、現実では異世界にこうして召喚されて、目の前に現実に異世界が広がる事になりました。


 胡散臭いと言っていることですし、カクさんはどうやらほとんど女神様に対して事情を聞いていなかったそうです。


「一応、女神から送還と帰還に関しては安全を確約するということと、職種とかいうものについての説明は聞いている。一方的に言われただけだがな。今にして思えば、彼女なりに俺たちが1人でも多く生き残れるようにしてくれたのだということだったのだろうが…俺は見す見す貴重な機会をふいにした。今更になって、もう少し詳しく聞いておけばよかったと思っている」


 カクさんなりに、今日の出来事を思い直して、女神様への評価を改めてくれたようです。
 自分たちを危険な地へ送り出すのだから、せめて1人でも多く生き残れるよう取り計らってくださった女神様を疑い、今更になって後悔しているのが情けないと思っているのでしょう。
 過ぎてしまったことは仕方ありません。少しくらいは慰めるとしましょう。
 カクさんの肩を軽く叩いて手をおきます。


「ヨホホホホ。後悔先に立たずと言いますけど、悔いるべきことだと気づくのが非常に重要なことであり本質であると自分は思いますよ。悩んだときは、解決できるよう、見て、聞いて、調べて、考え直せばいいんです。ちょうど今日の時のように、ね。ヨホホホホ。帰還の時にもきっと会えるでしょうから、謝罪はその時でもいいでしょう。女神様は慣れていると言っていましたし、カクさんのことをきっと許してくれます。なら、気づいた以上、謝れないとなれば次善の策を進めればいい。女神様が1人でも多く生き残って欲しいと思っていると気づいたならば、そうなれるようにこれもまた方法を模索して調べて実行していけばいい。最後に、『これだけ生き残れました、女神様のおかげです』と報告できれば、謝罪しやすくなるものでしょう。カクさんなりのやり方があるとは思いますけど、自分ならそういう方針もいいのでは?と思いますよ。ヨホホホホ」


 後悔したなら、悩んで押し潰れるのも人なのですからあるでしょう。
 後悔というのはそういうものです。
 ですが、そうして動けなくなったとしても、悔いたことに気づくのは人の成長でしょう。
 それを巻き返せるだけのことを、学んだ後悔から改めて活かす。
 失敗から立ち直るとはそういうものであり、後悔している仲間を支えたり、立ち上がれなくなった時には引っ張り起こしたり、失敗した分を一緒になって学んで改める。それが仲間というものだと、自分は考えます。ヨホホホホ。
 辛気臭いことずらずらと並べてますね。ヨホホホホ。
 柄ではない、と? ヨホホホホ。確かにそうですよね。自分がこんなこと考えたりしているのは明らかに似合いませんよね。ヨホホホホ。
 お前は変態だろうが!と? 照れるじゃないですか〜。ヨホホホホ。


 カクさんは、少し慰めてやれば1人で立ち上がるくらいに強くてまっすぐで、何より堅物で不器用な方です。
 もう回復できた様子で、自分の肩に置いた手を払いのけて不敵な笑みを浮かべました。


「フン。言われなくても分かっている。柄にもないことはするなよ、気持ち悪い奇術師め」


「ヨホホホホ。確かにそうですよね〜、自分でも鳥肌立つような台詞言ってましたから。ヨホホホホ。立ち直ったようで何よりです」


「貴様にそこまで言われるのは屈辱だがな」


 カクさん、吹っ切れたと言いますか、この件に関しては立ち直ったようです。
 あとは忘れずにいればいいですが、カクさんにその心配は無用でしょう。


 というわけで、立ち直ったのであれば早速実行するのみでしょう。この様子だと、自分の案をまるまる採用するつもりのようですし。


「ヨホホホホ。差し当り、早速情報の交換から参りましょう。自分はある程度女神様からこの世界の成り立ち、魔法という存在、勇者を召喚した他の国、魔族や天族という存在について、職種に関する事柄とその利用などなど、多数情報を仕入れていますので。聞きたいことがあれば、お答えしますとも。ヨホホホホ。どうしましょう?」


「ったく、抜け目のないやつだ…」


 ため息まじりに悪態ついたカクさんは、早速情報を求めてきました。


「よくそんなに仕入れたよな。女神と打ち解けたのか、貴様?」


「いや〜、それが為せれば悲願成就でこの世に未練なく逝けるのですが…」


「ならさっさと逝け。それが世界平和に繋がる一歩だ」


「ヨホホホホ。ありがたい評価ですね、ヨホホホホ」


「…阿呆か貴様は?」


 冗談交じりの談笑をしつつ、カクさんに女神様から聞いてきた情報を提供していきます。
 魔法という存在、職種に関して…。


「原理はわかりませんが、女神様から頂いた術はまるで呼吸と同じように理屈の理解も経験も一切ない中で、当然のように扱えるものです。魔法もその1つですね。職種により扱える魔法は違いますし、その職種にしたって個人ごとにより違うと聞いています」


「職種に関しては俺の方もそう聞いている。実感はわかないがな。どうせ貴様に至っては『奇術師』だろ」


「いえいえ、『治癒師』ですよ。自分は回復役ですね。ヨホホホホ」


「貴様にだけは治療されたくない」


「ヨホホホホ」


 魔法はこの世界に深く浸透しており、技術先進国であるネスティアント帝国もまたその例外ではない様子です。
 魔法という存在が技術の進歩を自分たちの世界と異なる方向に伸ばしているのがその一例、つまり航空戦艦というやつでしょうな。
 飛行機作るよりも先に船を飛ばすというのは、我々の世界では考えつかない発想と言えるでしょう。…飛行船の方が後ですよね?


 人族の多くは魔法を自らでは使えないため、魔力を魔法に変換する道具や、魔力のこもっている鉱物などを使う必要があるといいます。
 天族や魔族は、逆に体内に魔力を生成できるため、魔法を自在に操れるといいます。
 魔法を扱える者と扱えない者。この差が、今もなお続いている人族に対する激しい偏見や差別思考の原点なのでしょう。


「職種によって違う、か。では俺はどうだ?」


「それは、カクさんの職種によるでしょうな。何です?」


「『武士』」


 カクさんの答えは、何というか魔法と縁遠いとしか思えないものでした。


「サムライ、ですか…。魔法に縁あります?」


「俺が聞きたいわ!」


 何も浮かばなければ仕方ありません。
 自分はカクさんに少し失敗する確率が高く、何もなかったらイタい人になるであろう提案をしてみることにしました。


「では、とりあえず何でもいいから魔法発動しろ〜、っといった感覚でやってみて下さい。何か起きるかもしれません」


「何かって…」


「自信ないなら、ついでに掛け声もつけます? こう、『ククク…暗黒の神よ、我が右手にその悪しき力を集い、世界を討ち滅ぼす力を…いでよ、魔剣クラレント!』みたいな感じでどうですか?」


「そんなイタい真似できるか!」


 こうなるのであれば女神様に他の職種に関しても聞いておけばよかったと思います。
 すると、おもむろにカクさんが手を前に出して呼吸を整えてから、何かを発動させました。


 するとどうでしょう。
 何もないはずの空間から赤く光る金属が棒状に伸びて、カクさんの手元に集い、次々と形を形成していきます。
 そして、1分程度で一振りの立派な日本刀が鞘に収まった状態でカクさんの手に現れました。


「…使えるな」


「…使えましたね」


 何気なく試してみたら、使えたらしいです。
 しかし、なるほど。これが武士の魔法ですか。すごいですね〜。


「呼吸をするように、か…。実感はわかないが、当てはまる表現だな」


 一度使えて仕舞えば、よりしっくりとくる感覚ですね。
 自分も体験したので、よくわかります。


 カクさんが刀に手をかけて、鞘から少しだけ刀身を覗かせます。
 きらめく刃が、光を反射して銀の輝きを見せました。
 素人目にもわかるほどの、模造刀なんぞとは明らかに違う本物の刃のきらめきを湛えています。


「自分には他に何ができるのかとかはわかりませんが、それらについてはおいおい調べていけばいいのでは? 自分も似たようなものですしね」


「そう、だな…」


 刀を鞘に収めたカクさんは、とりあえず出来上がったばかりの刀を自身の右脇において、改めて自分に向き直りました。
 人を殺せる本物の武器というものを手にして、色々と思うことがあるのでしょう。
 カクさんの場合、振り回した武器は大抵『凶器』ではなく『工具』でしたし。


 次に、自分はこの世界の仕組み、巨神クロノスの背中に広がる広大な世界であるということや、世界が平面であり球状ではないこと、海の水は『4柱』と呼ばれるクロノス神の眷属が補給しているということ、天族もまたクロノス神の眷属であるということや、人族や魔族がどこにどういう存在としてあるのかということ、そして人族は人間のようで人間ではなく、魔族や天族とも子をなせる存在であること、魔族も同様だが天族は少し違うということなどについて話しました。


「まったく、よく聞き出したな」


「特に時間制限もありませんでしたし、女神様とお話ができる機会がまたあるとは限りませんでしたので。聞きたいことは聞いておきたかったのです。後、女神様が本当に御美して…ああ、どうか御目にかかる光栄に浴したいであります。女神様…」


「…そ、そうか」


 カクさんが若干引きましたが、自分は特に気にしません。
 実際、女神様のあまりの美しさに悩殺されてしまいましたし。完全に虜となってしまっています。ヨホホホホ。


 そういえば、と。思い出したようにカクさんが話題を変えてきました。


「そういえば、貴様。さっき、他の勇者を召喚した国とか言っていたな」


「はい。何です?聞きますか?」


「いや、少し確認を…」


「遠慮せずともよろしいですよ。ヨホホホホ。ではお話いたしましょう」


「話聞け」


「皇女様の出した地図は覚えていますか?」


「話を…もういい。ああ、覚えている」


 そう言うと、カクさんはポンッとどこからともなく地図を作り出してしまいました。
 どうやらカクさんは、望んだ物を自在に生成できる魔法を扱えるようですね。制限があるかどうかは不明ですが、かなりのチートであることは間違えないでしょう。


「武士というのは、召喚魔導師か何かでしょうか…?」


「俺に聞くな。あと、そこまで便利なものではないらしい。理由はともかくとして、確信できる事柄だが、水や食料の類は生成できそうにない。それと電子機器などの複雑な構造のものもダメなようだな。スマホやカメラといったものは念じてみたが何も起きていない。医薬品も無理だな」


「ヨホホホホ。肩身狭い思いをせずに済みそうです」


 カクさんに危うく回復役というポジションを取られかねませんでしたが、カクさんの魔法には制限があるようで、取られることなく済みました。
 自分の方は、まだ試していないことが多いので、どのような制限があるかはまだわかりません。


「感覚としては、『扱うことはできても作ることはできない』といった感じか。何となくだが、念じた際にその差がはっきりと分かる。作れるか、作れないかということが」


「ヨホホホホ。上手い例えですね。実際は作っていますけど」


「やかましい」


 カクさんに制限の有無について聞いてみると、感覚的に判断がつくとのことでした。
 それならば、と。1つ頼むとしましょう。
 少なくとも刀が可能であったのであれば、他の武器も可能かもしれません。物騒な世界ということですし、カクさんの魔法はかなり都合のいい当たりくじですね。


「カクさん、1つ自分にも作ってもらえませんか?」


「…何を企んでいる?」


 あからさまに警戒されてしまっています。
 まあ、仕方のないことといえば仕方のないことなのですが。
 自覚はありますよ。自分、本当にろくなことしませんから。ヨホホホホ。


「単に武器を1つ作ってもらいたいのですよ」


「…貴様、本当に何を企んでいる?」


「槍がいいですね〜。魔族と戦争になることも考えられますので、少なくとも自己防衛の力が欲しいと思いまして。というわけで、槍を1つお願いします」


「人の話を聞け」


「情報提供料ということで」


「…わかった」


 カクさんは真面目な人なので、こう言えば作ってくれるのです。
 情報提供料を事前に告知していないじゃないか、と? ないとも言ってませんよ、一言も。ヨホホホホ。
 詐欺師、ですか? いえいえ、セコいを頭につけてください。セコい仮面奇術師ですよ。ヨホホホホ。
 屁理屈こねるな、ですか? 自分、セコいので屁理屈くらいいくらでも並べ立てますよ。ヨホホホホ。
 卑怯者、ですか? 褒め言葉ですね〜。ヨホホホホ。


 カクさんはため息をついてから、仕方ないやつだな…などとと愚痴りつつ、手を出すように指示をします。
 ヨホホホホ。意趣返しというやつですね。考えが見え見えですよ、ヨホホホホ。
 というわけで、自分もカクさんに手を出しつつも強化魔法で力を大幅に底上げしておきました。
 そうとは知らず、カクさんは自分の掌の上に手をかざして、魔法を発動させました。


 赤い金属が生まれ、集まり、棒状のカクさんの刀よりも長い形状に固まっていきます。
 形状は、槍というよりも薙刀のようになる様相を示しています。柄も相応の長さがありますが、刃に当たる箇所が非常に大きく作られ、石突きもバランスをとるためでしょうか、少し大きく作られていきます。
 形状から察するに、かなり重たい槍を作るつもりのようですね。バレバレですよ、ヨホホホホ。


 しかし、ここはある程度乗っかるのが面白くなるコツです。
 少しカマをかけてみることにしました。


「ヨホホ…カクさん? 何でしょうか? 槍、ですよね? 軽くて扱いやすい槍…ですよね?」


 不安げな声を演じでみます。
 するとカクさんはわかりやすいくらいに顔をニヤつかせて、してやったりという笑みを浮かべました。
 はい、カマかけ成功。
 カクさん…駆け引きもう少し上手くなりましょう?


「槍に決まっているだろう。軽いかどうかは知らんがな」


 やっぱり思い槍ですな。


「ヨホホ〜…なんですか、それ?」


「できたぞ」


 自分の問を無視して、カクさんは自分の手の上に巨大な大身槍を作り上げました。
 大身槍とは、また面白いものを持ち出してきましたね。
 しかも、形状といい、完全に国宝ではないですか。しかも第二次世界大戦で焼かれて現存品がない唯一の日本三大名槍の1つ。


「大身槍、『御手杵おてきね』だ。軽いだろ」


 そう言って、自分の手の上に人が持てる重さでない巨大な槍を落としました。
 ドン!
 やけに大きな音がなりましたが、残念です。自分も対策をしているので、まったく効果はありません。しっかりと受け止めることができました。


「…ん?」


 勝ち誇っていた笑みを浮かべていたカクさんは、自分の顔色(見えてないですけど)が一切変わっていない事に、その表情が変わりました。
 それに対して、自分は飄々としながら御手杵を上下に動かしてみます。


「なるほど。ヨホホホホ。これはいい槍ですね、扱いやすい。ヨホホホホ。感謝しますよ、カクさん」


「あ、ああ…」


 企みがご破算になったカクさんは、呆然としながらから返事をしています。
 その肩をポンポンと叩いて、自分は言いました。


「治癒師ならば、ドーピングくらいお手の物です。自分をだまそうなど、カクさんには百年早いですよ〜。ヨホホホホ」


「…貴様!?」


「ヨホホホホ。ヨホホホホ。ヨホホ、ヨホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ」


「ヨホヨホやかましい!」


 カクさんの悔しがる顔は、何とも見ものでした。
 趣味が悪い、と? 褒め言葉ですよ、ヨホホホホ。照れますな〜。ヨホホホホ。

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