異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

5話

 とりあえず皇女様を助けるとして、何をすればいいのでしょう?
 いきなり喧嘩を始めた2人の起こす余波が、周囲に被害をもたらし始めています。
 カクさん、もう器物損壊を気にしていない、というか忘れてますね。惨状みたらどうなるか、見ものですな〜。ヨホホホホ。
 すると、2人の喧嘩の余波に先に耐えきれなくなった窓が盛大な音を立てて割れました。
 破片が周囲に飛び散り、ネスティアント帝国の皆さんにも降り注ごうとしています。
 それは海藤君たちも同じようですな。
 女神様に授かった職種の恩恵。『治癒師』にさせて頂いたことにより、自分はすでにある程度の魔法を扱うことができるようになっています。過程飛ばしていきなりできるようになっているとは、面白い仕様ですな。未知の体験。
 幸い、治癒師の職種には防護魔法、味方を守る防壁を展開する魔法があります。
 やはり回復役は需要ありますな。
 というわけで、まずは海藤君の元に出ると致しましょう。
 それ、ポンッ、とな。


「うわあ!? あ、湯垣くんか…」


「嬉しい反応ありがとうございます。ヨホホホホ」


 流石というべきでしょう。
 海藤氏は、突然現れる能面被った変態に、期待通りのリアクションを取ってくれました。
 ヨホホホホ。嬉しいですね、こういう反応して下さるのは。ヨホホホホ。
 余韻に浸りたいところですが、あの人間離れした喧嘩を繰り広げる2人の巻き添えを周囲が食らいそうになってしまっているので、急ぎますよ〜。
 動体視力含め、身体能力が桁違いに上がっています。ガラスの破片が飛び散る中でも、その速度は地球と大差ないというのにスローモーションに感じ、自分たちは少しの会話をするくらいの余裕があるのです。
 しかし、勇者補正も万能ではありません。
 時間が押しています。急いで行動に移りましょう。


「2人を安全な場所に避難させましょう。危ないですからね」


「あ、うん! 急ごう」


 海藤氏、普段は根暗で消極的な性格の持ち主なのですが、他人が、特に幼馴染であるケイさんが本当に危ない目に合いそうになっているときなど、ここぞというときには普段と違い即断即決、出来る人モードになるのです。自分が退避を提案した時点で、すぐに動きました。
 自分が鬼崎さんを、海藤氏がケイさんを抱え上げます。
 早速避難しましょう。
 海藤氏、無意識とはいえカッコよくお姫様抱っこをしていますな。ケイさんはツンデレで口ではあれこれ言いますがこの幼馴染にすっかり惚れ込んでいらっしゃいますので、起きていたら顔が真っ赤になっていたことでしょう。
 面白い展開なので見てみたかったですな。ヨホホホホ。
 趣味が悪いと? 褒め言葉ですな、ヨホホホホ。


「こちらへ」


「どうする気!?」


 そのままそれぞれ寝ている人を抱えて、自分と海藤氏はネスティアント帝国の方々の元に向かいます。
 ちなみに、自分は鬼崎さんのことを浪漫もへったくれもない、米俵担ぐ要領で肩にわっしょいして運んでいます。
 え〜、一応意味はありますから。お姫様抱っこは、ね…。このあとのことをするにあたり色々と問題になりますので。
 何をするかといえば、当然。
 女神様に授かりし、防護魔法で完全シャットアウトするのですよ。
 帝国の人たちは見捨てる理由もないですし、何より迷惑かけているのがあの2人ですから。話はあの二人にと退場したからには、責任くらい取らなければならないでしょう、人として。何か企んでいるようで気持ち悪い、ですか? 照れますな〜、ヨホホホホ。
 自分にとってはそれも褒め言葉ですよ、ヨホホホホ。
 駆けつけたときには、双子の騎士が皇女様を既に保護し、備えていました。
 とはいえ、ガラスの破片をあの手段で防ぐのはね…。あまりお勧めできませんな、ヨホホホホ。
 というわけで、ここは自分にお任せ下さい。ヨホホホホ。
 雪風のごとき活躍してみせますと女神様に大見得切った手前、最初からつまづくわけには行かないのですよ。


「自分にお任せを」


 海藤氏も自分の後ろに入ったことを確認した自分は、舞い散るガラスの破片の大群を見据え、冷静に、そして素早く防護魔法を構築しました。
 片手を対象へ向ければ、狙いがより正確に定まります。お姫様抱っこしなかった理由ですな。
 まるで呼吸をするように、まるで瞬きをするように。
 誰に教わるもないのに、いつの間にか生まれてから使用可能で当然!というような感覚で、魔法を構築していきます。
 不思議な感覚ですが、緊急事態につき今は魔法の構築が最優先です。
 これらに関してはあとからじっくり調べるとしましょう。
 魔法を構築するのに、より強く明確に発動できる手段として呪文もありますが、スピード優先の今は無詠唱で行います。勇者補正なければ難しいと女神様は評していましたが、そんなの気にしている暇はありません。


「!」


 防護魔法は…無事、発動しました。


 ガラスの破片は魔法により構築された見えない防壁に跳ね返され、自分や海藤氏、後ろにいた帝国の方々にも一切気が気を加えることはできませんでした。
 ヨホホホホ。初めてですが、使い方があまりにもすんなり入ってきたために失敗することもなく発動できましたね。
 治癒師、なかなかの当たりではないでしょうか。


 海藤氏は、自分が防壁を展開したことに一瞬驚いたものの、そんなことよりもと言わんばかりの切り替えで皇女一行の方を確認しました。
 ヨホホホホ。海藤氏…寂しいですよ、自分…ヨホホホホ。


「皇女様、大丈夫…?」


 皇女様どころか、他の皆様にも怪我一つ与えませんよ。ヨホホホホ。
 石飛礫まで飛んできました。床や壁の破片でしょうが、どんどん悪化していますな。
 帝国の方々は傷一つありません。大成功ですな、ヨホホホホ。


「やっぱりこうなりましたね〜、ヨホホホホ」


 期待を裏切らないお2人には感謝しなければなりません。
 ほんの少し席を外しただけで、また喧嘩に走っているのですから。しかもカクさん、器物損壊せぬようという配慮も頭から抜け落ちていますし。副委員長なんか、最初から御構い無しですね。ナイチチを言われたことに完全に切れてますな。ヨホホホホ。
 カクさんとの喧嘩だけは怠けないですよね、あの人は。他のことは怠けるのに。
 面白いからいいですけどね、ヨホホホホ。


 ガラスに石飛礫、2人の喧嘩が起こす流れ弾を防ぐ自分の展開している防護魔法。
 その見えない壁を呆然と見ていた兵士の1人が、ふと呟きました。


「あれは…魔法…?」


 魔法を見慣れていない様子ですね。
 それは帝国の面々共通のようです。
 そして、使えるくせに使っていないから実感ないのでしょう。海藤さんも驚きの表情を防護魔法に向けていました。


 しかし、お二人とも抱え上げられてもまだ起きないのでしょうか?
 鬼崎さん、温かくて柔らかいので…細いですし…む、胸が…ヨホホホホ。
 も、持っていると、その…感触がと言いますか? 困りますね〜。これは、海藤氏に2人とも任せた方がよかったでしょうか?


 そういえば、女神様は魔法が使える人間に限りがあると言っていました。
 帝国の方々は、エルフ…には見えませんね。そうなると、魔法を使えない側の人たちということになるのでしょう。
 でも、ネスティアント帝国の軍事力は強大と聞いています。
 つまり、魔法をしのぐほどの力を技術を改良していき築き上げた側の国、カメさんタイプの国家ということになるのでしょうな。
 ウサギさんタイプの国家は、停滞期真っ只中と聞きますしね。ヨホホホホ。


 しかしまあ、魔法を使えない側の人から見れば自分のやってる防護魔法はそれこそ奇跡の産物のように映るのでしょうな。自分の知る地球においても、こんな何にもない場所にドドンと見えない壁構築する術なんでありませんから。ヨホホホホ。
 見られると緊張しますな、ヨホホホホ。


「オラオラァ!」


「怠け者風情が、調子にのるな!」


 2人の喧嘩は、激化の一途を辿っています。
 どんどん礫も大きくなっていますな。防壁の向こう側の石壁に囲われた部屋、どえらい惨事になっていますよ。ヨホホホホ。派手ですね。
 それでも、防護魔法から先には礫の類は行かせませんけどね。ヨホホホホ。


「……………」


 後ろにいる皆さん、無言になっています。
 目を奪われている様子ですね。
 自分の肩ではなく、面でもなく、発動させている魔法に対して開いた口が塞がらないといった感じなのでしょうな。
 面に対してあれこれといった視線を向けられていないのは残念ですが、驚かれているならばこの催しにも意味はあるでしょうな。ヨホホホホ。
 実際な無意味な喧嘩ですけどね! ヨホホホホ。


「さっさと逝けよ!」


「だまれ猿女! 今日という今日は許さん!」


 2人の武器が激しくぶつかり合い、火花と風圧を周囲に与えます。
 踏ん張る足からは地揺れが届いてきますね。部屋が崩壊するよと悲鳴を上げているような不吉な音もきしみとともに聞こえてきますが、防護魔法の中にいればそれは対岸の火事ですみます。この防護魔法、床や壁を伝う衝撃などもシャットアウトする高性能ぶりですからね。
 女神様、過分な力を本当にありがとうございます。自分は女神さまを信仰いたします。世界になければ、女神さまを信奉する宗教を作りましょう! ヨホホホホ。
 悩殺されたのは、伊達ではありませんよ。ヨホホホホ。


 2人の喧嘩もかなり白熱しています。
 どうせ対岸の火事ですし、観戦するからにはやはり煽らなければなりますまいて。
 仲裁などしません。大いに扇動します。


「ヨホホホホ。面白いですな〜」


 顎に手を当てながら、呑気な観戦に勤しみ始めます。
 結果この部屋が崩壊しようが、自分が楽しめればそれでいいのですよ。ヨホホホホ。
 いや〜、楽しいですな。面白いですな。ヨホホホホ。


 するとどうでしょう。
 背後からの視線が自分に対して魔法への驚きから微妙なものに変わりました。
 ヨホホホホ。なるほど、呆れているのですな!
 煽るのがおかしいと感じているのでしょう。何言ってんだこいつと言いたいのでしょう。止めてよ頼むからと言いたいのでしょう。
 ヨホホホホ。できません。喧嘩を見るのは楽しいですし、煽るのは面白いですが、止めに入るのはとばっちり受けるだけですので。
 被害を考えろ!ですか。
 ヨホホホホ。細かいことは気にしなくていいのです。ヨホホホホ。


 しかし、本格的に持っているのが引けてきましたね。
 変態能面奇術師と隠れイケメン好青年。どちらに抱えてもらっているか選べと言われたならば、誰でも答えは一つでしょう。
 隠れイケメン好青年、海藤氏一択。
 ヨホホホホ。鬼崎さんもそれを望んでいるでしょうな。ケイさんが目を覚ましてからの修羅場展開があれば、自分はなお面白いです。鬼崎さんの方は海藤氏をどう見ているのかまでは把握していませんけどね。本当に修羅場になるかまではやってみないとわからないですけど。
 それは夢物語。今回は諦めましょう。
 そんなことよりも、こうなれば選択は一つとなりましょう。ヨホホホホ。


「海藤氏、鬼崎さんもお願いできますか? 観戦、もとい防壁維持に集中しますので」


「…本音が漏れてるよ。でも、わかったよ」


「ヨホホホホ。ありがとうございます」


「君には、いつも助けられているからね」


 さすが海藤氏です。広い心をお持ちですね。
 自分のだだ漏れの本音を拾いつつも、ちゃんと鬼崎さんを受け取ってくれました。
 肩の荷がおります。物理的に。精神的にも。
 というわけで、期待に応えて防壁に集中しましょう。ヨホホホホ。


 海藤氏はその場に腰を下ろして、ケイさんをゆっくりと寝かせます。
 それから自分のそばに寄り、鬼崎さんを受け取りました。
 お姫様抱っこしてます。やりますな、海藤氏。
 鬼崎さんは海藤氏よりも背が高いので、バランスとるのが難しいと思われましたが、杞憂でした。
 海藤氏、お姫様抱っこ上手いです。慣れてますな、あれは。


「いい加減くたばれ!」


「耳痛い。とっとと消えろ」


 2人の喧嘩は、どんどんエスカレートしていきます。
 防壁に守られているとはいえ、少々危ないですな。
 壊れないとは思いますが、皇女様たちには避難していただいた方がいいかもしれません。
 自分は野次馬してますので、海藤氏に皆さんを避難させてもらいます。


「海藤氏。皇女様たちを安全なところに避難させてもらえますかね? 多分大丈夫だと思うのですが、念には念を入れてです。ヨホホホホ。その間に、お2人の介抱もお願いしますね。自分は何とか2人の喧嘩を扇動、もとい仲裁してみますので」


「うん、本音がだだ漏れだよ。でも、わかった。みんなは任せて」


「感謝します、海藤氏。借り一つとして、いつか清算しますのでお楽しみに。ヨホホホホ」


 本音だだ漏れでしたな〜。
 海藤氏が帝国の皆さんに避難するよう言います。
 幸い、通路側ですから。この部屋からは出られますな。


「あの、す、スミマセン…」


「は、はい…?」


 しかし、途中で双子の一人に海藤氏が話しかけました。
 もう一人は、皇女様を守りながら移動しています。
 さて。どうしてかと言いますと?


「か、彼女を…運ぶのを…手伝ってもらえませんか…?」


 鬼崎さん、運べなかったようです。
 …そういえば、海藤氏、運動神経は自慢できるものではなかったそうですな。
 いえ、それ以前に2人同時にお姫様抱っこでは運べないということでしょうな。紳士の海藤氏には小脇に抱えてとか肩に担いで女性を運ぶという発想は生まれないと思われますし。ヨホホホホ。


「押し付けて申し訳ありません」


「いいよ。気にしないで」


「お任せ下さい」


 海藤氏はケイさんを、双子騎士の1人は鬼崎さんを抱えて通路の方へと向かいました。


 さて、ヨホホホホ。
 残ったからには…楽しまなければいけませんよね。ヨホホホホ。


「さあさあ! お2人とも存分に喧嘩してください、自分は決して邪魔も仲裁もせず、煽りまくりますので! さあ、遠慮なく! ヨホホホホ」


「「言われなくても!」」


 お2人の超人の喧嘩は、建物を壊すまでヒートアップしました。
 ヨホホホホ。喧嘩の余波で壊れる建物。欠陥工事で建っているわけでもないのに、すごい光景になりましたね。ヨホホホホ。






 余談ですが、建物を崩された音を聞いて駆けつけた一行は、もう唖然とするしかなかったようです。
 帝国の方々は、喧嘩だけで建物を崩壊させてしまう2人の異世界人に戦慄し、この時は呼び出した手前口には出せなかったものの、『帰ってくれ頼むから!』と全員が共通の認識を強く抱いたと言います。


 そして、駆けつけた中には目が覚めたらしい鬼崎さんがいました。目立った外傷もないようで、何よりです。
 2人も、一応目が覚めなかった人たちのことは心配していましたので。怠慢な土師さんも、鬼崎さんの性格には相性がいいらしく、カクさん見たく喧嘩するような仲ではないそうです。


「な、なな…何をしているんですか!」


 但し、鬼崎さんは帝国の方々にはすでに事情を聴いているらしく、ここが異世界であることは知っている様子でした。
 ですが、崩壊した建物を見て、普段の穏やかな性格からは離れた動揺した大声をあげました。


 普段はお優しいのですが、さすがに看過できませんでしたね。ヨホホホホ。建物一つ壊したのですから。


 で、しっかり者である鬼崎さんは、こういう時、禁句ワードを口にせずとも、逆鱗に触れてしまっているのです。
 普段が普段なだけに、鬼崎さんは怒らせると本当に怖い人です。ヨホホホホ。


「何が、あったんですか…?」


 唖然としながらも、何とか平静を保ちつつ、鬼崎さんは海藤氏に尋ねる。


「そ、それは…」


 海藤氏が何というべきかを迷っている様子。言いたくないけど、言わなければならないという板挟みから、自分たちに視線を向けてきました。
 絶対に逃してはならない好機です。2人は肩で呼吸しながら建物が壊れたことにも気づいていない様子で未だににらみ合っています。気づいているのは自分のみですな。
 ここで海藤氏に暴露されては、自分たちはとんでもない目にあうと、本能が警鐘を鳴らしていました。


 わ、藁にもすがる思いで!
 止めて止めて! 海藤氏に必死で首を横に振り、言ってはなりませんという意思を伝えようと試みます。
 海藤氏ならば、わかってくださるはず。
 その祈りが通じたのか、海藤氏は意を決したように頷いた。
 助かりました!


「これは–––––」


「…海藤くん?」


「…彼らがやりました」


 助かりませんでした!
 海藤氏は鬼崎さんの滅多に聞けない迫力を帯びた声に屈し、自分たち3名を示して真実を伝えました。
 ひ、ひどいです! 海藤さ〜ん!?


 しかし、自分はすぐに覚悟を決めなければならなくなりました。
 何しろ、こちらを向いた鬼崎さんは、笑顔を浮かべていたからです。
 …何でしょうか。優しい鬼崎さんの浮かべる笑顔は、菩薩のような慈悲溢れるもののはずですが、今回はその背中から黒いオーラが立っています。
 目に見えないのに、なぜか見えます。オーラが。


 …本格的にまずいですね、これ。


「…湯垣くん?」


 名前呼ばれました。
 あ、雰囲気を察した2人も気づいたようです。
 鬼崎さんが無事で良かった、と安堵して。
 そして、あれ? と黒いオーラが見えたようで、様子がおかしいことに気づきました。


「湯垣くん、そこに座って」


 また呼ばれました。
 指示受けました。
 拒否権を認められない圧がかかっています。
 こ、ここは何とかごまかしましょう!


「鬼崎さん、怪我は無いようですね。避難させて正解でした。ヨホホホホ」


「ええ、その節はありがとう。それより座って」


 有無を言わせません。
 しかし、自分も簡単にはおれません。折れるわけにはいかないのです。


「目が覚めたばかりでしょうから…」


「そこに座って」


「もう少し休んでも…」


「座って」


「…はい」


 はい、速攻で折れました。
 まず自分が撃沈。鬼崎さんの前に正座します。


 鬼崎さんの目は、そろそろとその場を去ろうとする二人に向けられました。
 どうやら、逃げられないようです。
 時間稼ぎできず、面目ないです。ヨホホホホ…。


「北郷くん、土師さん、君たちもこっちに座って」


「そ、その、起きたんだな! 良かった」


「…心配した」


 2人もなんとか誤魔化そうと試みました。
 しかし…


「ご迷惑をおかけしましたね。心配してくれてありがとう。それより座って」


「「い、いや…」」


「座って」


「「は、はい…」」


 拒否権発動せず。
 3人とも、結局捕まりました。


「私が何を考えているか、皆は分かる?」


 正座した3人に向かい合う形で立っている鬼崎さんから、そう問われました。
 相変わらずの笑顔ですが…こ、怖いです。


「…ねえ、分かる?」


 圧力が…圧力が凄まじいです。
 だ、誰かお助けを…!


「……………」


 海藤氏、目を逸らしました。
 た、助けてくださいよ! 殺生な!


 鬼崎さんが、カクさんの方に目を向けました。
 ロックオンされたカクさん。顔が青ざめています。


「北郷くん? 君が、喧嘩を売ったんだよね?」


「いや、それは土師こいつが–––––」


「売ったんだよね?」


「は、はい…」


 カクさん速攻で折れました!
 鬼崎さんはすでに副委員長を向いています。


「土師さん? 貴女は、喧嘩を買ったんだよね?」


「ち、ちが…」


「買ったんだよね?」


「は、はい…」


 はい、副委員長も折れました!
 おっと、次は自分に標的が移りました。
 背筋に寒気が!? これは、逆らってはいけませんね…。


「湯垣くん? 煽ったよね?」


「ヨホホ––––––」


「煽ったよね?」


「は、はい…」


 笑わせてさえもらえませんでした。
 有無を言わせぬ圧力。
 これは、屈するしかありません。
 確認した鬼崎さんは、ゆっくりと自分たちを見渡したから、その形相を一変させた。


「あなた達は何をしたのかわかっているのですか!」


 雷が落ちました〜!


「い、いや、コレは…」


「口答え禁止です、北郷君! あなたが付いていながら、何をしているのですか!」


「…フッ」


「土師さん、お説教がよほど欲しいのですね?」


「…いや、その…ご、ごめんなさい」


「ヨホホホホ」


「湯垣君。君も同罪ですよ」


「ヨホッ!?」


 説教は、延々1時間続きました。


 えーと、ですね…。
 鬼崎さんは、その…怒らせるととても怖いです。
 ヨホホホホ…。

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