異世界から勇者を呼んだら、とんでもない迷惑集団が来た件(前編)

ドラゴンフライ山口(トンボじゃねえか!?)

3話

「ご無事ですか、勇者様!?」


 先頭で部屋に入ってきたのは、欧州系の金髪の美女でした。
 歳は、たぶん十代後半から二十代前半でしょう。若いですね。
 そのすぐ後ろからは二人の瓜二つの顔の青年。甲冑に身を包み、剣をすでに鞘から抜いた状態にあります。
 足音が重なっていたの、この2人でしょうな。
 なお、先頭の美女は自分の面を見るなり焦っていた表情が一変しました。


「ヒャアアアアァァァァ!?」


「「な、何者だ貴様!?」」


 いきなり悲鳴とは…慣れた反応を。面白くない、もっと新鮮な反応が良かったです。
 なんてふざけた思考を巡らした自分の前に、2人の全く同じ顔の騎士がさながら鏡合わせのような寸分違わない動きで美女の前に立ち、自分に向けて剣を構えました。
 そこまで来てから、続々と増援がやってきたのです。
 双子の騎士と違い、後から入ってきたのは派手な軍装に身を包んだ傭兵、とまでは行かずともナポレオン戦争ごろに流行っていた戦列歩兵用の服装に身を包みマスケット銃みたいな銃器を携えた多数の兵士たちでした。数は4人。
 ちなみに、服の柄は赤白ではなく黄黒です。蜂の色。
 彼らは瞬く間に姫様という方を守るように立ちふさがると、各々の武器をこちら…というか自分に対して向けてきました。
 そりゃ、悲鳴を聞いて入ってきてみれば翁面をしたやつが混じっているのです。起きている他の2人は相応の殺傷力のある品物を手にしていますし、自分の後ろにはさらに3名の方が寝ているのです。壁は壊されてますし、状況を一方的な解釈にすり替えた場合、大体の人はこの状況を自分が人質を取る誘拐犯で2人は仲間を取り返そうとしている勇者、でしょうな。
 自分、いきなり悪役認定受けましたぞ〜。ヨホホホホ。
 まあ、実際は単に先に起きている我々3名のうち2人が勝手に喧嘩始めたので、自分が寝ている人を喧嘩に巻き込まれないように遠ざけて喧嘩の観戦しながら煽っていただけなんですけどね。
 どっちにしたってロクでもねえな、と? 褒め言葉ですね、ヨホホホホホ。


「貴様、何者だ!?」


 双子騎士の片割れが自分に対して大声で問い詰める。
 尋ねられたからにはお答えしなければなりませんね〜。
 案外、異世界でいきなり偏見持たれたのに対して忌避感も抱くことなく、おまけに若干状況を楽しみつつ、自分は立ち上がって殺気立つ人たちに向き直りました。


「『何者だ!?』と聞かれたからにはお答えしましょう。と、その前に面がお騒がせしましたようで。まずはそれに対する謝罪を」


 片手を腰に、もう片方の手を大仰に回して肩まで動かしながら深くお辞儀をします。
 あっけらかんといった様子となった異世界の方々に対し、その姿勢のまま顔だけを上げます。
 一瞬、それに皆さんお揃いで驚かれましたが、声には出ませんでした。うーん、つまらない反応ですね。
 では、自己紹介を。


「紳士淑女の皆様、お初にお目にかかります。自分、名前を–––––」


「人に名を尋ねるなら、自分から名告れ」


「……………」


 名乗ろうとした矢先、喧嘩の手を姫様一行登場により止めていたカクさんの不満を滲み出しているように聞こえる鋭い声が響きました。
 おかげで、名乗れませんでした。ヨホホホホ。
 なーんて、言うと思いますか?


「き、貴様–––––」


 主君に無礼とも受け取れる態度を取られたことに、双子が激昂しました。
 剣に力がこもったと、そのタイミングですかさずテイク2!


「ネスティアント帝国の皆様、お初にお目にかかります」


「そこでまさかのテイク2!?」


「……………」


 また遮られましたね。
 見事なツッコミを入れてくださったのは、カクさんでした。
 今話しているのはこっちだ!という自己主張の表れですかね? ヨホホホホ。


「ヨホホホホ。カクさん、2度も遮るとはいい度胸ですね〜」


「待て待て! 貴様も遮っただろうが、堂々としたテイク2で!」


 ゆらりと体を起こして、カクさんにむけて苦情を笑いながら言うと、カクさんも反論してきた。


「「な…何なのだ…?」」


 剣を構えたまま、双子が困惑しつつもしらけた視線を向けていまず。
 つぶやきも全く寸分たがわず発せられています。本当に息の合う双子ですな。


 一方で、カクさんの背中を容赦なく狙うべく、忍び足で近づく女子高生が一人見えます。
 自分は気付いていますが、気づいていないふりをしつつカクさんに声をかけます。なぜか? 勿論、面白くなりそうですから。ヨホホホホ。


「先に遮ったのはカクさんですよね。それに、テイク2でも自分が遮ったのはあくまで仮称『双子』のセリフであり、カクさんのではないはずですが」


「何だよ、その仮称は…。それでも貴様の長い自己紹介なんぞ聞いている暇はない」


「ヨホホホホ。では尋ねますが、仮称『H氏』」


「俺まで仮称にする必要はない!」


「…仮称『エッチ氏』」


「しつこいわ! あと、誤解を招く発音に変えるな!」


「ヒャッヒャッヒャッ」


「何がおか–––––どわっ!?」


 指差しつつ笑ったところで、気づいていないと思っていたのだが、カクさんは背後からの攻撃に一瞬早く反応して見事かわして見せました。
 はい、副委員長、残念賞〜。


「チッ…避けんな」


「何をするか、この猿女!」


「…あ゛?」


 舌打ちする副委員長さんに、爆弾発言を平然とするカクさん。
 おかげで今度は副委員長さんがブチ切れました。
 こっちもテイク2ですな。いえ、ラウンド2ですな。
 よし、観戦に戻りましょう。


「お互い殺す気でやってくださいまし」


「「言われなくても!」」


 はい、喧嘩再開。
 工具と刃物が振り回され始めました。
 人間離れした身体能力だけど、喧嘩は面白いし別にいいでしょう。
 先ほどは目の前でいきなり見せつけられたので驚いたけど、よく考えてみれば先の異常な身体能力が女神様に授かった、というか上位互換による恩恵というものでしょう。そうでなければ、職種の異なる二人がこうして喧嘩に勤しむことができるはずがありませんから。


 煽る自分と喧嘩する2人と目を覚まさない3人。
 そんな端から見れば喜劇ともとれるおかしな事態に、異世界人の方々は呆然としています。
 どちらかというと喜劇のような展開というよりも、2人の喧嘩の常識はずれぶりにでしょう。これでも、カクさんは反省を踏まえてか力を抑え気味にしてこれ以上器物損壊の罪を重ねないようにしていますけど。


「バーカ!」


「貴様にだけは言われたくないわ、貧乳!」


「おいコラ、今何つった?」


「耳が悪いのか? それとも頭か? では貴様でも理解できるように言いかえよう」


 ちなみに、カクさんは怠ける人が大嫌いで、副委員長は鬼崎さんほどではないにしろ禁句ワードを言われると切れるという性格をしています。
 副委員長さんの禁句ワードは、主に『猿』とか『貧乳』ですね。


「言ってみろよ、ムッツリ」


「黙れ、まな板!」


 まな板とは、また古風な表現ですな。
 堅物なので、その手のボキャブラリーが少ないのでしょうな。
 そして、お互いに悪口言われたのでお互いに切れます。
 しかし、カクさんはムッツリですか…。


「変態仮面、貴様何を考えている!?」


「ヨホホホホ。バレましたね」


「貴様は顎に手を当てるとき、大抵ろくなこと考えていないからな!」


 見事にカクさんに言い当てられました。
 そういえば自分の場合、表情に出ないため仕草から感情を読み取られがちなのでしょう。


「何を考えてた? 言え」


「カクさん、ムッツリなんですね」


「ぶっ殺すぞ!」


 パイプレンチが飛んできました。
 ひらりと回避し、ついでにその場で一回転します。


「いちいち癪に触るな、貴様は!」


「二十面相ウザい。消えろよ」


 喧嘩を一時中断した2人からクレームが飛んできました。
 異世界人の方々も自分を警戒しているようですので、ここは御言葉通り消えるといたしましょう。


「ヨホホホホ。自分はよほど邪魔のようですな。では、帝国の方々。自分めはこれにて一度失礼いたしますので、事情に関しましてはそちらのカクさんと副委員長にお願い致します。夫婦喧嘩は犬も食わないと申します。お二人も程々にお願いいたしますね。ムッツリ氏にマッターホルン」


「てめえ!」


「貴様!」


「ヨホホホホ!」


 ポン、と自分はその場から消えて、2人からの攻撃は空を切りました。
 ヨホホ、ヨホ、ヨホホホホ、ヨホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ!


「ほんとムカつく…」


 無論、去り際に吐かれたマッターホルン氏の文句も聞き取った上で、ですが。













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