御手洗 兎

ハート

15時、いつもの時間に彼女が橋を渡る。

太陽の光を浴びた彼女のピアスが、キラキラ耳元で揺れ煌めいている。

毎日同じピアスの彼女。
同じ時間、同じ場所。

(今日はなんだか急いでる??)

僕はレジに立ちながらぼーっと外を見ていた。


彼女はたまに買い物にくる。
いつも、ハートの華奢なピアスをつけていて、でも、めっちゃキラキラしてるやつで…、
店のちゃっちい照明でも、彼女の耳元で、揺れるたびに華やかに煌めいた。

一度だけレジで話をしたことがある。
「そのハートは何でできてるんですか??」
商品を袋につめながら聞いてみた。

「え?あ、これはガラスのハートなの…」
ちょっと驚いた顔をした彼女だったが、ちゃんと答えてくれた。
まぁ一応、店員と客、何回も会う顔見知りだからか。

「へー、超キラキラしてていい感じですね」

「…ありがとう…」
ちょっと俯いて照れた様子がとても可愛くて、もっと彼女のことを知りたいと思った。


橋で見かけた日から数日して、久しぶりに彼女が買い物にきた。
「いらっしゃいませ〜」

あれ?ピアスをしていない。
あんなに毎日つけていたピアスをつけていないなんて…


「お願いします」
考えてるうちに彼女がレジに来てしまった。

「はい、お預かりします」
僕は気になって気になって…また質問することにした。

「あの…耳のいつものピアスどうしたんですか?」

「あ…
         ちょっと、どこかに失くしてしまって…」
彼女は少し苦い顔で答えた。

「そうですか…残念ですね、合計で800え、ちょ大丈夫ですか!?」
彼女の目から涙が溢れていた。

「ほんとは、壊れてしまったんです…」
小さく呟く彼女。

本当に落ち込んでいるのがわかった。

会計を済ませて
彼女は、重い足取りで店を後にした。

---数週間が過ぎた。

今日から僕の仕事着のエプロンには、【覚悟】が入っている。
彼女が次にレジに来たら渡すものだ。

(今日もいい天気だな〜)
僕はレジに立ちながらぼーっと外を見ていた。
そして今日も彼女は15時に橋を渡って行く。

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