Ghost crown ~普通、死霊の僕に子供を預けますか?~

鉄筋農家

第五話 ディスガイア王国事情

朝食に用意した小鬼ゴブリンをご馳走しながら、僕はアレミラが眠っている間の事を全て話した。


「追っ手はマーリン様が片付けてくれたと、そのお怪我はございませんでしたか?」
『ははっ、大丈夫です何ともございません。この通り僕は亡霊ですから、怪我などはしませんよ』
「そうなんですけど、追っ手が追っ手ですから」


確かに大烏レイブン相手に無傷で勝利する事は普通出来ない。名の知れた闇ギルドとあって、下っ端の奴らでさえなかなかの実力者と言える。心配するのは当たり前だ。


しかし、僕はもう普通では無くなっている。悲しいことながら。


「朝食までご馳走になって、ご迷惑をお掛けしました。とても美味しかったです、ですよね? アーシィ様?」
「………」


アレミラが話しかけるが少女は反応しない。美味しくなかったかな? その反応に困るような顔をしたアレミラに僕は咄嗟にフォローを入れた。


『いえいえ、お口に合ったのなら良かったです』
「……マーリン様は、その…… 私達の事は聞かないのですね」
『訳有り…… ってのは分かりますんで深くは聞かないですよ。まぁまだ僕が力になれる事があればお手伝いしますが……』
「どうやら夢で見たあの方の言ってた通りでした。マーリン様、私達の話を聞いてくださいますか?」


正直、聞きたくないんだけど―― この状況で僕は彼女にそう言うことなんて出来なかった。




******




彼女の話はこうだった。


彼女、アレミラはディスガイア城で働く侍女で、アーシィ(本名はアストレア・ディスガイア)はアレミラの主、つまりお姫様プリンセスだ。


そんな二人が何故追われながら、この森に逃げてきたのか。事の発端は一年前ディスガイア王、ロバート・ディスガイアが未知の病気で無くなったらしい。その状態異常はどんな鑑定士にも治療魔術師でも分からず、日に日に痩せこけていくディスガイア王は王位継承を長男のセミドラルに選んだ。


「しかし、セミドラル様はそれを拒んだのです。それに怒ったディスガイア王は自分の子供全員に王位継承の資格を与えたのです。内容はこうでした」


長女、エルヴァンジュ・ディスガイア
長男、セミドラル・ディスガイア
次男、レオード・ディスガイア
三男、リックタルド・ディスガイア
次女、アストレア・ディスガイア


我が子供達の中で殺しあい、残った一人を次の王とする。


『何故そんなことを……』
「私にも分かりません。以前お会いした時はディスガイア王はそんなこと言う形ではありませんでしたし、何より自分の子供を愛していらしました。この話と実筆の文章を見たとき、ディスガイア王本人かどうか疑ったものです」


その後は予想がつく通り、兄弟達の王位継承争いという名の殺しあいが始まったらしい。各貴族はそれぞれの兄弟の元に付き、場内はいがみ合い、兄弟達も誰一人顔を見せなくなり、戦争の準備をし始めたとか。


「私はアストレア様が生まれる前から、アストレア様のお母様イリシャ様にお仕えしていたため、アストレア様の成長を見守りつつもイリシャ様に戦争の準備をするようにとお伝えしました」
『お姫様の母と言うことは女王様ですか?』
「いえ、ディスガイア女王には子供は居ません。一人も授かることは無かったので、跡継ぎにと貴族の娘達を孕ませていました。勿論、娘達も了承の上です」
『でも、女王が居るのなら王位継承は女王に移るのでは?』
「勿論、ディスガイア王の文章があろうと女王様がディスガイアを治める話でした。しかし、女王様はディスガイア王が亡くなったその日にしたのです………」
『なっ!?』


それからは収まり効かなくなった兄弟達の戦争が始り、ディスガイア王国は内部分裂したらしい。そして、アストレアの母イリシャは娘と共に隠れたらしいが、とうとう隠れることが出来なくなり、アレミラにアストレアを預けて逃がしたのが一ヶ月前だとか。


『ディスガイア王国がそんな事になっていたとは』
「国中大騒ぎですよ、勿論国外もどう動くか考えてるみたいです」
『そらゃそうだろうね。何せ大陸一の王国だし、誰が王になるか、その王に貸しを作るかで迷ってるだろうね』
「五つの派閥に別れていますが、実質アストレア様の派閥はアストレア様がまだ幼い事もあって規模が小さく、無いようなものです」


アレミラは小さくため息を吐く。その横でアストレアはアレミラに寄りかかり、すぅすぅと寝息をたてていた。


『アレミラさん達はこれからどうするのですか? この話を聞いた以上、僕としては力になりたいのですが』
「そのー…… とても頼みづらいのですが…… 私達をしばらく匿ってくれませんか? アストレア様だけでも良いので、どうか!」
『匿うなんて、全然大丈夫ですけど。僕も行く宛も無く、ここで隠れているようなものなので、僕と生活することになりますが、見ての通り僕は魔物です。魔物と生活出来ますか?』
「そんな、私達がお邪魔しているんです! それにマーリン様なら問題ないですよ!」
『で、ではよろしくお願いします……』
「はい!」


こうして奇妙な、亡霊スローライフが終わり、三人?生活が始まった。先々不安しかないが、なるようになるか。


ああ、神よ。我らに不幸が降りかからんことを。



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