Ghost crown ~普通、死霊の僕に子供を預けますか?~

鉄筋農家

第三話 人族? もう関係ないね!

時間が経ち気が付けばもう日も沈み、辺りは真っ暗な夜に包まれていた。LV1の光魔法≪ライト≫を使って本を読むのにも疲れたし、魔力の無駄使いも良いとこだ。そろそろ小屋に戻るとしようかな。


本を閉じると上っていた屋根からフワフワと飛び降り、念力を使って静かに扉を開ける。中は用意していた火も付けずに外と同じ暗闇、少女にも満たない幼女のアーシィは椅子に座り、まだ目を開けない母を見つめていた。


僕の想像では安心して一緒に寝息についてると頃合いだと思ったのに。いや、普通は僕が小屋から居ない時点で安心するようなものじゃないか? まさかそれでも僕を警戒している? 三歳程の子供らしくもない。


僕はそっと気付かれないように、本を机に置いて再び小屋を出る。ふむ、どうしたものか。安心して休んで貰うには、こりゃゴーストらしく夜の森にでも一晩中いた方がいいかな。あの二人に小屋は預けて野宿だね、野宿。


小屋の外に立ち、一つ溜め息を吐いた。




*****


数々の星が空を多い尽くす中、紅い彗星が人一倍目立つ夜空はもうすぐ夏を示唆していた。もうすぐ冬が終わるとあって外の気温は暑くもなく寒くもない、丁度良い気温と言えるだろう。


ゴーストになった僕だが、何故か体がなくとも気温は感じるのだ。冬だったら深夜の森には居られない。何しろ裸同然の体だからね。真冬じゃなくて良かった。


野宿を決めたのは良いが、うっかり本を置いてきたので暇を潰せるものが無い。しょうがなく森の中をフラフラと彷徨っていた。


行く宛も無くただ森を漂う中、今日の出来事をふと考える。まず、頭の片隅に引っ掛かった事があった。アーシィを連れてきた母親の傷の事だ。最初は森で出会った時は、魔物に襲われて森の中を逃げていたと思った。しかし、傷をよく見ると切り傷もあるが打撲の方が多い事に気付いたのだ。


この森に生息していて、人を襲うのは灰色狼や小鬼ぐらいだ。だとしたら切り傷ばかりになるはずなのだが、違うとなると一体何から逃げていた? それにアーシィの警戒力の強さ。魔物に襲われて逃げてきたのなら僕にはまず近寄らない筈だ、だって僕は魔物だし、母親が近寄ったとしても必死に止めるはず。


そう考える中、思考は停止する。いや、せざる終えなかった。気配感知スキルが何かしらを感知したのだ。夜中の森に気配が五つ、その五つとも同一の動きのようだし群れを作っているのだろう。それにこの移動速度は小鬼だね。


そういえば、僕には必要ないがあの二人には食事が必要だったんだ。疲れきっているだろうし、小鬼も調理次第では美味しくもなる。五匹も要らないけど群れで行動してるならしょうがないか。


狩ることを決めると、気配がする方へゆっくりと近づいていった。




*****




気付かれないように近づいて、木の後ろから様子を窺う。


「ちっ、どこ行ったんだよあの女!」
「そう大声を出すな。女が聞けば逃げるし魔物なら寄ってくるだろう!」
「馬車を仕留めたまでは良かったんだがな、肝心の女と娘が森に逃げるとは運がねぇな」
「女子供を殺す簡単な仕事だと思ったのによ、どうしてこうなった」


五つの気配は人間だった。五人とも同じ剣を片手には持ち、そしてお揃いの黒装束にはある刺繍が施されている。


大烏レイブンの刺繍、闇ギルドか』


それに耳に入る話の内容は明らかにあの小屋で眠りにつく二人の事だった。なるほど、魔物では無く人間に、それも金さえ払えば何でもやる闇ギルドに追われていたのか。だとしたら、あの二人は訳ありってことだね。


謎は解けた、あの幼女の以上な警戒は魔物では無く人間。きっと長い間追われていたのだろう。それに母親のほうの打撲の後は馬車を止められたまたは破壊された時の怪我だったのか。


だとしても、あの二人にそこまでする必要がどこにあるのか。見た感じ普通の親子だったが。


嫌ーな感じがする。正直、面倒ごとには首を突っ込まずに平和に暮らしたいのだが、女子供を男五人が寄って集って殺すなんて流石に魔物になったとて、放っては置けない。


フヨフヨと静かに一人の背後を取ると念力で男の短剣を抜きとり、そのまま心臓を一突き。隠密も発動したかいあって、誰も気づかず刺された男だけが悲痛の叫びをあげた。まずは一人。


「何だ!?」


残り四人が気付いて振り向いた瞬間、強力な光を放つ魔法≪フラッシュバン≫を使い目を潰す。次に、視界が回復する前に光魔法≪ホーリーアロー≫で三人を瞬殺すると、残り一人は≪ホワイトループ≫を使い光の輪が男を拘束、バランスを崩した男は地べたに倒れた。


【levelが1→4に上がりました】
【スキル:隠密LV1→LV2up】
【スキル:闇魔法LV1→LV2up ≪シャドーウィップ≫を習得しました】
【称号:暗殺者を習得しました】


頭に神の御言葉が流れ込む、流石は初期levelだ。人を四人殺しただけで簡単にlevelが上がる。生前は一年に1つlevel上がればまだ良い方だったが、これほど簡単に上がりまだなお、成長に見込みがあることは何だか嬉しいものだね。神の御言葉も久しぶりに聞いたしテンションが上がる!


「何が起きたんだ、ん? あ? ゴーストだぁ?」


拘束した男の目が治り、僕の姿を見てごく普通のコメントを言う。


『もう少し驚くと思ったんだけど』
「ゴーストが喋った!?」


そこは驚くんだ。まぁそりゃそうだ、ゴーストは普通喋らない。


『君が他の皆と違って生きている理由は分かるかな?』
「何ぃ? お前が殺ったと言うのか? 俺達大烏レイヴンを光魔法で? バカを言え」
『………』


そりゃ信じないよね、亡霊であるゴーストが光魔法の素質を持っているはずがないし、奴ら大烏レイヴンの統一された黒装束は魔法耐性が付与されている。それをゴーストがLV2魔法セカンドマジックの≪ホーリーアロー≫で一撃貫通させる何て僕じゃなきゃ信じられない。


でも、奴が信じる信じないはどうでもいい。今話すことは僕の事ではない、あの二人の事。わざわざ一人だけ殺さずに残した理由は、あの二人を何故追っているのかを聞き出すためだ。


『君達は何故、あの二人を追っている?』
「あぁ? 知らねぇよ」
『なるほど』


どうやら口を割るつもりは無いらしい。そりゃそうだ、闇ギルドが簡単に依頼内容を話せるわけ無い。こういう時に使えるのが拷問スキル何だけど。同僚の審問官に人が素直になるコツを聞いたことがある。拷問スキルが無くても楽々簡単な事だと。確か、体に聞けば良い。だっけか? 


当たり前の事だし僕は好きじゃないけど。
ついでだ、新しく習得した闇魔法も試してみようか。


僕はまず、ゴーストになった時に覚えた闇のLV1魔法ファーストマジック≪シャウト≫を使い、男の顔を闇で覆った。


「なっなんだこれは!」


何の害もない闇だ。闇耐性を持ってない人は気持ち悪くなるらしいが。


『もう一度聞くよ? 何故あの二人を追っている?』
「し……知らねぇよ!」
『あっそ…… ≪シャドーウィップ≫』


僕の真下から伸び出た一本の細い闇は、うねりながら男に近づくと≪ホワイトループ≫に当たらないように横凪ぎに体を叩いた。鞭で叩かれたような破裂音と共に男は悲鳴をあげる。


なるほどね。闇のLV2魔法セカンドマジック≪シャドーウィップ≫、ここら一体は暗闇だが、多分僕の影から出現して敵を攻撃できる魔法か。操り方は今ので把握した、あとは練習あるのみだね。


僕は再び≪シャドーウィップ≫を発動させ、≪ホワイトループ≫の間を上手く狙うと、次にもう一本同時に発動し二本を操って別々の場所を叩いた。叩く度に男は悲痛な声をあげる。


「分かった! 分かったから止めてくれ!」
『かの有名な闇ギルド大烏レイヴンがこんな事で口を漏らすわけ無い。今コツを掴みだした所だから、もう少し手伝ってもらうよ』


もう一本、もう一本と追加し、計10本の蠢く触手じみた≪シャドーウィップ≫は適度なテンポで男を叩いた。男は叩かれた衝撃で宙に浮き、落ちると思いきやまた叩かれ空に飛ばされるの繰り返しで、まるで触手がボールで遊んでいるかのように見える。いや、遊んでいたのは僕か。


≪シャドーウィップ≫を止め、触手達は闇へ溶けるように消える。男は地面に叩きつけられると静かに悲鳴をあげた。


『話す気になったかな?』
「あぁ……… 話すからもう…… 止めてくれ……」
『それで、何故あの二人を追っていた? 依頼主は?』
「殺すためだ…… 殺して死体は…… 見つからない所で…… 処分するように言われた。依頼主は国の…… お偉いさんだ。名前までは…… 聞かされていない」
『どこの国?』
「ディスガイア王国だ……」
『なるほどね』


ディスガイア王国といえば僕が生まれ育ったアルトリア王国の隣国だ。そして、ここは両国を隔てる大森林の末端、国と国を結ぶ大通りはあるが、その道からはかけ離れた場所。なるほど、そりゃあの幼女も警戒心が強くなるわけだ。


「頼む…… 喋ったから…… 殺さないでくれ」
『うん、分かった。ありがとさん』


ホワイトループを極限まで引き締めると、まるで果実を握りつぶしたかのように男は血を撒き散らし三つに千切れた。



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