Ghost crown ~普通、死霊の僕に子供を預けますか?~

鉄筋農家

第二話 我が埋葬

あの日唐突に殺されて、一週間が経った。


死んだと言っても天界や地獄へと行ったわけではない。ただ肉体が死んでしまっただけだ。こう言ってるとゴーストらしいな、まぁゴーストになったからと言って特に思う事も無ければ、何かするわけでも無いのだけれども。


村に帰ってきてからも無職だったため、村の人とはあまり関わりが無く、こうして姿が変わった今でも昔と変わらず毎日を寝て過ごしてたまに外を散歩するスローライフを過ごしていた。良いことに食欲も無く、食事が必要無くなった身体になっただけ生活するのが楽だと言える。


でもこの時一つの問題が発生していた。


小屋で横たわる死体が腐り始めたのだ。臭いこそゴーストなので感じないものの、流石に元は自分だから見るに耐えない。


放置出来ないため、こっそり村へ忍び帰って自分の家からスコップを持ってくると、念力を器用に使って穴を掘った。


普通は、しっかり火葬でもして埋葬しないと死体が動きだしゾンビと言う魔物になる事があるという。それは昔に『不死王』と呼ばれる魔王に呪いをかけられたとかで全世界そうなったとか言い伝えがある。


特に生前、魔力を多く持つ魔法使いはゾンビになるのが速いとか。まぁ僕の場合、既にゾンビの弱点である頭部を一突きされているのでゾンビになる心配は無いのだけれども。


【スキル《掘削》を取得しました】


自分の墓掘っただけでスキル手に入れちゃったよ。




*****




死体を穴の中へと移動させ、いざ火を入れようとしたが忘れていたことを思い出した。僕の死因である剣を頭部から抜いていない。


この一週間、気にもせずそのままにしていたが最後は綺麗な姿で埋葬したいものだよな。だってこれ死んでるの僕なんだよ?


剣も同様、実体があるものには触れられない身体のため、念力で剣を抜く。良く見ていなかったけどこの剣、新品に近いな。とても盗賊が持ってたようには思えない。もし犯人が盗賊ならまず人を殺したとてこの剣は抜くはずだ。だとしたら一体誰が僕を。


フヨフヨと念力で浮く剣に、何気なく鑑定を使ってみる。


名称:鋼の剣 level:25
切れ味:200(+1000)耐久:300 魔力感度:200
付加スキル
大天使の加護《死滅》


昔はlev2で武器の名前ぐらいしか分からなかった鑑定もlevelが上がりここまで詳細が分かるようになるなんて、便利になったものだ。
ほうほう、付加スキルまで見えるなんて、えーと大天使の加護ねー…………。


『くぁwせdrftgyふじこlp』


何て加護付いてんだこの剣! 切れ味も良く見れば+1000されてるし、切れ味の数値だけじゃ『鍛冶王』の名剣や国の宝剣にも引けをとらない代物じゃないか。その装備の出来もlevelが25に跳ね上がってる、普通の鋼の剣ならlev5ぐらいなのに。


これ、貰って良いんだよね? 正直加護付きの剣なんて高額で取引される品だが、これはもう僕の物だろう。剣など必要ないけど持っていて損はないし、何かあれば売れば良い。とりあえずこの木屋に置いておこう。


『さて、燃やそう』


剣も抜いたことだし始めの作業に戻るとしよう。死体の上に枯れ木を山盛りに入れてそこに火を着ける。


『さようなら、俺の身体。これからはゴーストとして生きていきます』


炎は夜中の遅くまで燃え続け、次の日には炭と骨だけが残った。




*****




慣れた念力でスコップを使い、土で埋めて墓を作ると何気無しに近くの花を添える。どこからどう見ても墓になったな。まさか自分の墓を拝む日が来るとはね。


『……………帰るか』


死体の処分は完了したし、これで心置きなく小屋でゴロゴロ出来るというもんだ。扉を開けようとすると墓とは逆の方向から物音がする。はぁ、自分燃やして心が沈んでいる時に――――
火葬で魔物でも寄ってきたか? それともこの小屋の持ち主か?


もし雑魚魔物モンスターならゴーストになったとて瞬殺だけど、一応念のため小屋から先ほど片付けた鋼の剣を持ち出して音の方向へと構える。


先程より気配感知スキルが反応し徐々に近付いてきているのが分かる。敵の数は2、だとすへば群れからはぐれた灰色狼ハウンドウルフか、小鬼ゴブリン辺りか。姿が見えるほどの距離まできて更に身構えるが、姿をはっきりと確認した所で逆に警戒を解き、僕から近づいて行った。


敵の正体は人間の女性と子供だった。女性は全身傷だらけでステータスを見ないでも分かるような酷い怪我を負っていた。子供の方に怪我が見当たらない限り外敵から女性が身体を張って守ったのだろう。僕は今使える最大の回復魔法lev3魔法サードマジック《ハイヒール》をかける。


「どなたが知りませんがありがとうございます、私は良いのでこの子をどうか、アーシィをどうか」


彼女は目も良く見えないほど疲れきっていた。だってゴーストである僕を見ても何とも思わない所か、大事に抱える子供預けようとする程だったから、それほどに彼女は追い詰められていたんだろう。


アーシィと呼ばれた子供を俺に押し付けるかのように差し出す。その子は彼女と同じ綺麗な金髪をしていて、目の前にゴーストがいるこの状況でも泣き声一つ上げずに、丸く潤んだ目はしっかりと僕を見据えていた。


『…………大丈夫です。あなたもこの子も助けます、とりあえず小屋へ入りましょう。魔物が来ないとも限らないので』
「…………ありがとうございます…………見知らぬ方」


僕もその魔物なのだが細かいことは気にしない。


彼女を念力で支えて、小屋へと誘導すると使っていない古びたベットに寝かせる。回復魔法は掛けたが全快ではないし、ステータスでは見えない疲労が溜まっている筈だ。彼女は安心したのか寝ると否やスヤスヤと眠りに落ちてしまった。取り残された子供は未だに僕から目を離さない。


確か名前はアーシィだったかな? そりゃそうだよね、僕の見た目は白いもやに目と口のような窪みがある魔物だもんね。誰でも警戒するわ。逆にこの女性が凄いのか愚かなのか。


『お母さん? は大丈夫だから君も一緒に寝なさい。外は僕が見張るから』


そう伝えると、少女は首を横に降り僕を見つめる。


やはり駄目かー。正直この子も疲労が溜まっている筈だから寝てほしいんだけど、素直にうんとは言ってくれないよね。


やむやむ、アーシィは後にして僕は小屋から出ると屋根の上に上りぼんやりと空を眺めた。



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