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魔王に連れられ異世界転移〜魔神になった俺の敵は神と元カノ〜

龍鬼

湯治と昔話 後編

「優香はな、髪ロングで眼鏡かけてて、ちょっと地味な感じだったが、料理は美味かったし、趣味も一緒に楽しんでくれた。二年に上がる少し前に告白されてな、付き合うことになったんだ。付き合った期間は短かったが、楽しくて、幸せだったよ……」


 熱ある惚気から一転、最後の方は弱々しい声になる。
 仁にとって、優香は特別な存在だった。自分を怖がらないだけでなく、邪険に扱おうとも懲りることない子犬のような少女。


 そんな優香に約一年かけて絆された仁は、優香からの告白を断れずに付き合うことになった。
 仁にとって、初めての恋人である優香との時間は特別なものだった。むず痒く、戸惑ったり、気恥ずかしかったり……。初めて感じる温かな感情と、幸福な時間。


 仁も世の恋人達の例に漏れず、これが、この時間がずっと続けばいい、そんな風に思っていた。


「あの時、あの期間だけは、俺もそこらの学生と同じただのガキだったよ」
「こっちに来た時、あの世界に未練は無い、そう言ってましたよね? ならやはり、その女の子とは別れたんですか?」
「まぁ、別れたと言えば別れたな。死別だったけど」


 その言葉に、サタンは一瞬口を紡ぐ。これ以上深く掘り下げるか否か、迷う。
 そもそも話すことを渋っていた昔話、その中でも一番地雷臭の強い彼女の話に触れた今、仁が何時話を切ってもおかしくない。


 サタンとしては、このまま話を続けてほしい。それ故に、どういう言葉を投げれば、仁が不快になることなく話を続けてくれるかを考える。


「地雷を踏んだ、って顔してるな」
「あら、そんな顔をしてましたか?」
「誤魔化すな、あんな風に言や誰だってそんな顔をするだろうよ」


 さも当たり前のように言いながらも、仁はどこか寂しそうに遠くを見やった。仁は、一度気持ちをリセットするかのように湯で顔を洗うと、覇気のない笑顔を浮かべて続けるぞ、と話を進める。


「なんてことはない、俺に恨みを持つ奴らが集まって、拉致って、輪姦まわした。優香はその最中に死んだ、らしい。俺が行った時にはもう遅かった。着いた途端、言われたよ。悪いな、お前の女で遊んでたら死んじまったよ、てな」


 目を閉じれば、仁は今でもその光景を鮮明に思い出す。古びた廃工場と、そこに集まる五十人近いチンピラ達。そのグループを仕切る男と、その足元に転がる最愛の彼女の死体。


 その時感じた絶望、それは言葉に出来たものでは無い。心の内を大きく占めた想いを、幸福を、願いを、未来を失った。そう思う程に、そう感じる程に、優香の存在は大きなものになってしまっていた。


「そこから先は酷いものだったよ、足元に転がるバールを拾って、そこにいたクズを皆殺しにした。その時だよ、俺が初めて人を殺したのは。感情に任せて、憎悪のままに殺していった」


 仁の手には、今でもその感触が残ってる。肉を削ぐ感触、頭蓋を砕く音、視界を埋める血飛沫、野太い悲鳴、それらが全部、全部記憶に残っている。


 その殺人に後悔はなかった、罪悪感など無かった。何故ならそれは、仁が普段からやっていた事の延長線上にあったこと。砕くのが手足ではなく頭だった、ただそれだけの事に過ぎない。


 寧ろ、仁が後悔や罪悪感を抱いた相手は別に居た。
 優香だ。自分を好きだと言ってくれた人、自分を愛してくれた人、幸福を与えてくれた人。


 そんな彼女を守れなかった後悔、自分ならば守れるとという奢りへの憤怒。それらの感情は黒い炎となり、今も尚仁の中で燃え続けている。


「顔が分からなくなるぐらい殴った、バールで、何度も、何度もだ。辺りには骨や脳や血や目玉だなんだと散らかって、正に地獄絵図だったよ。その後、俺がどうやって帰ったのか、優香をどうしたのか、な〜んにも、覚えてねぇ……。気付いたら家のベッドで横たわってた。全部夢だと思いたくて廃工場に行ったら、血溜まりだけが残ってた。それだけで、全部現実だったんだって悟ったよ」


 夜空を見上げ、仁は重たい息を吐く。一息つくように、感傷に浸るように。
 少しの間を置いて、仁は独白を続ける。その独白に、サタンは静かに耳を傾ける。


「ククッ……。バカみてぇだよな、一回道踏み外して『悪』に成り下がったくせに、幸福を知って、守りたいものができて……、でも、守れ、なくて……」


 話の途中で、仁は、あ"……? と間抜けな声を出す。自分の頬を伝う雫に戸惑ったのだ。
 一粒、二粒と雫はこぼれ、目頭が熱を帯びる。こんなつもりなどなかった、こんな醜態を晒す気は無かった。そんな仁の思いとは裏腹に、流す涙は量を増す。


「なんで、俺は泣いてんだ……?」
「なんてことはありません、辛かったからでしょう。最愛の人を失った時、あなたは泣きましたか?」


 サタンは仁の頬を抑え、優しく自分の方を向かせると、その目を真っ直ぐに見つめる。


「わかん、ねぇ……。多分、泣かなかった、泣けなかった……。俺は、オレだから……、仕方ないって思って……。幸せになっちゃ、駄目だったんだって……」


 言葉は徐々に弱くなり、子供のように支離滅裂になっていく。サタンに見つめられることに耐えきれず、目を逸らす。それでも言葉は止まらない、止められない。


「俺は、間違えたんだ……。ほだされちゃいけなかった、突っぱね続ければ、よかったんだ……。俺は、幸せを知っちゃいけなかったんだ……」


 ひたすら吐き出される、後悔の言葉。大の男が泣きながら口にするそれは、酷くみっともない。
 そんな仁の頭を、サタンはそっと胸に抱く。慈しむように、愛するように。


「何を馬鹿なことを言っているのですか、あなたは間違っていません。私が保証します。あなたは愛を知らなかった、幸せを知らなかった、与えられなかった……。そんなあなたが、愛を、幸せを知ることの何が罪でしょう、なにが間違いでしょう。誰が否定しようとも、糾弾しようとも、私があなたを肯定します」


 その胸は柔らかく、その言葉は優しく、その温もりは心地良く。仁は恐る恐るサタンの腰に手を伸ばして、弱く抱いた。


 互いに裸一貫でありながら、その場にいやらしさが漂うことは無く、まるで母と子の戯れのような、穏やかな空気が二人を包み込む。


 少しだけ、このままでいさせてくれ……。サタンの胸で呟く仁に、彼女は言葉ではなく、抱きしめる手に力を込めるという行動を以て、了承を示した。


 数分後、ひとしきり涙を流した仁は、サタンにもう大丈夫だ、と伝えて優しく引き離す。その顔は、さっきまでの状況と醜態、羞恥によって赤く染まっている。


「らしくないと自分で思うよ……。でもなんでか知らねぇが、サタンには……、甘えてもいいかなって、思っちまうんだ……。変だよな、会ってまだ半月も経ってないはずなのに」
「ふふ、それはきっと私の魅力によるものでしょう。甘えたくなるような魅力があるんですよ、私には。なので仁様はもっと沢山甘えてください、私はいつでもウェルカムですから」


 巫山戯た調子でありながも、真摯に返すサタン。その返答に一瞬面食らうものの、仁は考えとくよ、と笑って答えた。


「長風呂が過ぎた、逆上せそうだから俺は先に上がるよ。サタンはちゃんとあの囲い、直しとけよ?」


 そう言って仁は湯船から上がり、戸口へと向かう。そしてその途中、何かを思い出したように立ち止まり、サタンの方へと向き直す。


 今からするのはただの確認で、小さな小さな疑問でしかない。だがその質問は後回しにも、胸に秘めることも出来ない大事な質問。
 質問すればなにかが動く、何かが変わる。そんな予感めいたものを胸に抱えて、仁は口を開く。


「なぁサタン、一つ、聞いていいか?」
「なんですかー、仁様?」


 少しの間を置いて、仁はゆっくり問いかける。


お前さん・・・・何を確認・・・・したかったんだ・・・・・・・・?」
「なんのことです?」


 軽く振り向きながら、なんのことか分からないと言った様子で返すサタンに、仁は自信の推測を語った。


「こう言うと上から目線になるが、俺はなサタン。お前さんを高く買っているんだ、用意周到で冷静沈着、残虐非道で隙がない。そんな女だと思ってる。そんな女が俺の過去を知らないわけがない、調べていないはずがない」


 自分のことを一年間見ていた、と聞いた時点でこのことについて疑問に思っていた。たったー年の評価だけで、本当に自分を魔神に選んだのか? もしかしたら自分の過去について調べた上で選んでいるんじゃないか、と。


「私を評価してくださるのは有難いですが、なにやら邪推しているご様子。本当は何が聞きたいんですか?」
「なら直球で聞こうか、お前さん、俺の過去に関わってるんじゃねぇのか?」


 これはサタンが以前言った、一年間見ていた、を否定する言葉。
 その言葉を聞いて、サタンも少しばかり不快そうな様子を見せる。


「仁様は、私が嘘をついていると、そう仰りたいので?」


 二人の間に訪れる沈黙。それは仁にとって、嫌に重苦しいものに思えた。
 暫くして、仁は大きなため息を吐くと、気まずそうに頭を掻く。


「悪かったな変なこと聞いて、今のは忘れてくれ」


 それだけ言うと、仁は静かに大浴場を後にした。残されたサタンは、一人、安堵したような息を漏らす。
 暗い闇と、輝く星。そんな夜空を見上げながら、サタンは呟く。


「はぁ……、流石に今回は強引過ぎましたね。次からはもう少し気を付けませんと……。それにしても優香、優香、優香と……、あんな人間、さっさと忘れてしまえばいいですのに」


 仁に見せたのとはまた違った、冷たく退屈そうな表情かお。そんな表情のサタンから出る言葉は、一人だからこそ安心して呟ける内容もの
 燈達にすら話さずに、自分の胸の内に仕舞った過去。それを、愚痴を零すかのように、小さく小さく呟いた。


「あぁ、やっぱり記憶を操作したのは、失敗でしたかね……」

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