魔王に連れられ異世界転移〜魔神になった俺の敵は神と元カノ〜
炎獄の蛇帝 後編
約束の十時が来ると、サタンが「仁様、お迎えに上がりました」と言って部屋の襖を開く。
「来たか、じゃあ早速行くか」
「はい、今回は私の転移で一旦移界門まで行き、地界に上がってから再度目的地に転移します」
「移界門?」
移界門。それは天界と地界、地界と下界を繋ぐ門である。それぞれの世界を行き来するにはこの門を通らなければならない。
そして地界から下界への門は数十とあるにも関わらず、地界から天界に繋がる門は一つしか存在しない。
そのうえ天界から下界、下界から天界に繋がる門は存在しないため、その2つを行き来する際は地界を経由する必要がある。
「サタンでもその門を使わずには上に行けないのか?」
「行けないこともないですが、魔力と体力を大きく消耗するうえ、天使共に気付かれますのでお勧めする手段ではないですね」
サタンが言うには、天使達は地界全域を監視しているため、移界門以外で上に上がればすぐに気付かれること。
気付かれれば当然討伐隊が派遣されるため、天使との戦闘を避ける意味でも魔法による移界は選択肢には入らないことを説明する。
「天使がこの世界に勇者を召喚するのか?」
「天使と言うよりはその上に存在する神、聖神ですね」
「成る程、なら勇者と戦うときにはそいつらとの戦闘も視野に入れなきゃなんねぇな」
「仁様、サタン様、お話はそこまでにしてそろそろ向かいませんか?」
燈がサタン達の話を切って地界に行くことを促す。燈は仕事中であったため、事を早く終わらせて仕事に戻りたいのだろう。
「そうだな、さっさと行こう。態々仕事中に呼び出してすまなかったな燈」
「気にしないでください。私達は仁様、サタン様に仕える身ですから、御用があればいつでもお呼びください」
「では行きましょうか、転移!」
サタンが二人の手を握って叫ぶと、三人の足元に魔法陣が浮かび、一瞬で移界門付近まで転移する。
移界門は魔法陣を下に敷いた高さ十メートル程の巨大な黒い門。扉には精美な装飾が施されており、髑髏と十字架が描かれている。扉は開いているものの、中は光に包まれていて見ることは出来ない。
仁達が転移したのは移界門の前ではなく、そこから少し離れた林の中。何故門の前ではなくここに転移したのか、それは移界門の前には関所があり、門番が二人立っているからだ。
「あれが移界門か。門番が立ってるのは悪魔が地界に行かないためか?」
「はい。ですが、魔王である私や、上級悪魔である燈達には意味を成しませんね。【睡落の子守歌】」
サタンが門番二人に向けて眠りの魔法を唱える。するとすぐにその効果は表れ、門番達は意識を失って眠りに落ちる。
サタンが先に行き、他に人がいないことを確かめると、待機していた仁達に合図して呼び寄せる。
「他に人はませんね。仁様、燈、こちらに」
「たった二人か、少ないな」
移界門の門番はSランク冒険者から選ばれる。当然、今倒れているこの二人もSランクの冒険者達なわけだが、そのSランク冒険者達も、燈一人だけで容易く殺すことができる。
それをしないのは単に騒ぎになるのを避け、魔神が現れたことを悟られる可能性を排除したいからに過ぎない。
「この門を通れば地界に上がれます。上がると同時にまた転移しますので、二人共手を」
サタンに手を伸ばされた二人はその手を掴み、門を潜る。門の中の光を抜け、地界に出ると同時に、サタンは転移魔法を発動して一瞬で目的地へと移動した。
 人間領メルエデス、そこにある村の一つが今回のサタン達の目的地である。
そこは数ヵ月前に盗賊の一団に占拠されて以来、領主にすら見放され荒くれ者共の拠点となっていた。
「あの村が現在、盗賊達が占拠している村になります。領主すら既に見放してますから私達が奪おうと問題は無いでしょう」
今のサタンの表情は、普段仁達に見せような明るく美しい笑顔ではなく、冷淡さを感じさせる無表情だ。
そしてサタンだけでなく、燈からも普段浮かべているような穏やかで暖かな笑み消えており、代わりに真面目な表情が浮かんでいる。
「さて、領主が見放す程ですからSランクが複数いるのは間違いないでしょう。今の仁様ではSランクに勝てません、ですから今回は燈に戦ってもらいます。仁様には燈の戦闘を見学してもらい、魔法の使い方を学んでもらいます」
「分かった」
「了解致しました。では早速……」
燈が紅い西洋剣を二本召喚し、盗賊の拠点に攻め入ろうとした瞬間、サタンが静止の声をかける。
「待ちなさい燈、戦闘に入るのですからその姿ではなく悪魔体になりなさい」
「……この姿でも、十分かと思いま――」
「燈」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、やんわりと拒否の意志を示した燈をサタンは睨み、低い声で威圧する。
仁すら背筋に汗を浮かべ、一歩下がる程のその威圧感は、サタンが魔王であることを改めて感じさせられる。
「どうしたのです? 早く変身しなさい」
「了解しました……。炎魔転臨!」
不承不承といった様子で了承し叫ぶと、燈を紅蓮の炎が包み込む。人間大のその炎は、次第に大きくなり、家すら飲み込む程の大きさになると同時に消える。
「これが燈の悪魔体か……」
「はい、中々に美しいと思いませんか?」
炎が晴れて中から現れたのは、全長三十メートルはありそうな大蛇の頭に人の上半身が乗った、蛇女の進化種、炎獄の蛇帝。
人間を容易く丸呑みしそうな大蛇は深紅の鱗に覆われており、人の上半身は同色の鎧を纏っている。召喚していた二本の剣は体に合わせて巨大化したのか、刃渡り二メートル程の大剣に変わっていた。
『ああ、感じる! 感じます! 人の熱を、命の熱を! 焼いて、燃やして、喰らい尽くしてあげましょう‼』
燈は変身後、歓喜と狂気を孕んだ叫び声をあげて村へと高速で這い進んでいく。仁は燈が変身を渋った理由が、少しだけ分かったような気がした。
「随分と変わったな、見た目も、中身も」
「あれが燈の本来の姿です。そして悪魔体になると狂暴性が増して、あのようになるんですよ。さあ戦闘が始まります、見ていてください仁様、悪魔の戦い方を」
サタンはそう言って微笑みを浮かべた。魔王然とした、邪悪な微笑みを。
そしてサタン以外にもう一人、邪悪な笑みを浮かべていた者がいた。勿論燈だ。悪魔体になった彼女は邪悪な笑みを浮かべ、巨体をくねらせながら、盗賊の一人に背後から近寄って……
『まずは一人』
鼻歌を歌うかのような気軽さで、手に持つ大剣を振るい、盗賊を頭から一刀両断した。
飛び散る鮮血、響く悲鳴と怒号。両断された肉塊がボトッ! と倒れると同時、燈は近くにいた別の盗賊も大剣で両断する。
『二人。ふふふ、やはり人間を斬るこの感触、何度味わおうと飽きることがありません』
今の燈にとって、人類種は言葉通り餌でしかない。そして、それを証明するかのように、死体の一つを蛇の頭で丸呑みする。
『さあ、調理を始めましょう、食事を始めましょう。こんがりと焼いて、おいしく頂かせていただきます!』
炎の属性を持つ上級悪魔の、蹂躙が始まる。しなやかで艶めかしい蛇体を用いて人を圧殺、絞殺し、地獄から持ち出したかのような炎熱で人を焦がす。そんな炎魔の蹂躙が。
「来たか、じゃあ早速行くか」
「はい、今回は私の転移で一旦移界門まで行き、地界に上がってから再度目的地に転移します」
「移界門?」
移界門。それは天界と地界、地界と下界を繋ぐ門である。それぞれの世界を行き来するにはこの門を通らなければならない。
そして地界から下界への門は数十とあるにも関わらず、地界から天界に繋がる門は一つしか存在しない。
そのうえ天界から下界、下界から天界に繋がる門は存在しないため、その2つを行き来する際は地界を経由する必要がある。
「サタンでもその門を使わずには上に行けないのか?」
「行けないこともないですが、魔力と体力を大きく消耗するうえ、天使共に気付かれますのでお勧めする手段ではないですね」
サタンが言うには、天使達は地界全域を監視しているため、移界門以外で上に上がればすぐに気付かれること。
気付かれれば当然討伐隊が派遣されるため、天使との戦闘を避ける意味でも魔法による移界は選択肢には入らないことを説明する。
「天使がこの世界に勇者を召喚するのか?」
「天使と言うよりはその上に存在する神、聖神ですね」
「成る程、なら勇者と戦うときにはそいつらとの戦闘も視野に入れなきゃなんねぇな」
「仁様、サタン様、お話はそこまでにしてそろそろ向かいませんか?」
燈がサタン達の話を切って地界に行くことを促す。燈は仕事中であったため、事を早く終わらせて仕事に戻りたいのだろう。
「そうだな、さっさと行こう。態々仕事中に呼び出してすまなかったな燈」
「気にしないでください。私達は仁様、サタン様に仕える身ですから、御用があればいつでもお呼びください」
「では行きましょうか、転移!」
サタンが二人の手を握って叫ぶと、三人の足元に魔法陣が浮かび、一瞬で移界門付近まで転移する。
移界門は魔法陣を下に敷いた高さ十メートル程の巨大な黒い門。扉には精美な装飾が施されており、髑髏と十字架が描かれている。扉は開いているものの、中は光に包まれていて見ることは出来ない。
仁達が転移したのは移界門の前ではなく、そこから少し離れた林の中。何故門の前ではなくここに転移したのか、それは移界門の前には関所があり、門番が二人立っているからだ。
「あれが移界門か。門番が立ってるのは悪魔が地界に行かないためか?」
「はい。ですが、魔王である私や、上級悪魔である燈達には意味を成しませんね。【睡落の子守歌】」
サタンが門番二人に向けて眠りの魔法を唱える。するとすぐにその効果は表れ、門番達は意識を失って眠りに落ちる。
サタンが先に行き、他に人がいないことを確かめると、待機していた仁達に合図して呼び寄せる。
「他に人はませんね。仁様、燈、こちらに」
「たった二人か、少ないな」
移界門の門番はSランク冒険者から選ばれる。当然、今倒れているこの二人もSランクの冒険者達なわけだが、そのSランク冒険者達も、燈一人だけで容易く殺すことができる。
それをしないのは単に騒ぎになるのを避け、魔神が現れたことを悟られる可能性を排除したいからに過ぎない。
「この門を通れば地界に上がれます。上がると同時にまた転移しますので、二人共手を」
サタンに手を伸ばされた二人はその手を掴み、門を潜る。門の中の光を抜け、地界に出ると同時に、サタンは転移魔法を発動して一瞬で目的地へと移動した。
 人間領メルエデス、そこにある村の一つが今回のサタン達の目的地である。
そこは数ヵ月前に盗賊の一団に占拠されて以来、領主にすら見放され荒くれ者共の拠点となっていた。
「あの村が現在、盗賊達が占拠している村になります。領主すら既に見放してますから私達が奪おうと問題は無いでしょう」
今のサタンの表情は、普段仁達に見せような明るく美しい笑顔ではなく、冷淡さを感じさせる無表情だ。
そしてサタンだけでなく、燈からも普段浮かべているような穏やかで暖かな笑み消えており、代わりに真面目な表情が浮かんでいる。
「さて、領主が見放す程ですからSランクが複数いるのは間違いないでしょう。今の仁様ではSランクに勝てません、ですから今回は燈に戦ってもらいます。仁様には燈の戦闘を見学してもらい、魔法の使い方を学んでもらいます」
「分かった」
「了解致しました。では早速……」
燈が紅い西洋剣を二本召喚し、盗賊の拠点に攻め入ろうとした瞬間、サタンが静止の声をかける。
「待ちなさい燈、戦闘に入るのですからその姿ではなく悪魔体になりなさい」
「……この姿でも、十分かと思いま――」
「燈」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、やんわりと拒否の意志を示した燈をサタンは睨み、低い声で威圧する。
仁すら背筋に汗を浮かべ、一歩下がる程のその威圧感は、サタンが魔王であることを改めて感じさせられる。
「どうしたのです? 早く変身しなさい」
「了解しました……。炎魔転臨!」
不承不承といった様子で了承し叫ぶと、燈を紅蓮の炎が包み込む。人間大のその炎は、次第に大きくなり、家すら飲み込む程の大きさになると同時に消える。
「これが燈の悪魔体か……」
「はい、中々に美しいと思いませんか?」
炎が晴れて中から現れたのは、全長三十メートルはありそうな大蛇の頭に人の上半身が乗った、蛇女の進化種、炎獄の蛇帝。
人間を容易く丸呑みしそうな大蛇は深紅の鱗に覆われており、人の上半身は同色の鎧を纏っている。召喚していた二本の剣は体に合わせて巨大化したのか、刃渡り二メートル程の大剣に変わっていた。
『ああ、感じる! 感じます! 人の熱を、命の熱を! 焼いて、燃やして、喰らい尽くしてあげましょう‼』
燈は変身後、歓喜と狂気を孕んだ叫び声をあげて村へと高速で這い進んでいく。仁は燈が変身を渋った理由が、少しだけ分かったような気がした。
「随分と変わったな、見た目も、中身も」
「あれが燈の本来の姿です。そして悪魔体になると狂暴性が増して、あのようになるんですよ。さあ戦闘が始まります、見ていてください仁様、悪魔の戦い方を」
サタンはそう言って微笑みを浮かべた。魔王然とした、邪悪な微笑みを。
そしてサタン以外にもう一人、邪悪な笑みを浮かべていた者がいた。勿論燈だ。悪魔体になった彼女は邪悪な笑みを浮かべ、巨体をくねらせながら、盗賊の一人に背後から近寄って……
『まずは一人』
鼻歌を歌うかのような気軽さで、手に持つ大剣を振るい、盗賊を頭から一刀両断した。
飛び散る鮮血、響く悲鳴と怒号。両断された肉塊がボトッ! と倒れると同時、燈は近くにいた別の盗賊も大剣で両断する。
『二人。ふふふ、やはり人間を斬るこの感触、何度味わおうと飽きることがありません』
今の燈にとって、人類種は言葉通り餌でしかない。そして、それを証明するかのように、死体の一つを蛇の頭で丸呑みする。
『さあ、調理を始めましょう、食事を始めましょう。こんがりと焼いて、おいしく頂かせていただきます!』
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