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魔王に連れられ異世界転移〜魔神になった俺の敵は神と元カノ〜

龍鬼

ダンジョン探索

「んで、最初に修行つけてくれんのがお前さんか白亜」


 仁と白亜がいるのは昨日の地下空間。ここであれば悪魔体でも人目につかず、暴れても周りに被害は出ない。


「私の戦闘スタイルは徒手空拳……。だから、悪魔体での動きに慣れるには、最適……。多分……」
「そうかい、んじゃまぁ頼むよ」


 白亜の頭を雑に撫でながら言うと、感情の読めないその顔が少しだけ赤くなった気がした。


「仁様……悪魔体に、なって……」


 仁は腰から短剣を抜き左胸に突き刺し悪魔体になる。


『これでいいか?』
「うん……。仁様、そのまま、走れる……?」
『ブー……』
「強化魔法無しで……」
『無理だな、体が重い。歩くのがやっとだ』
「じゃあ、最初はそこから……。歩いて、体力作り……」


 そう言って白亜は歩き出し、仁もそれについて行く。
 ドシン、ドシンと象が歩いているかのような足音をたて仁はゆっくりと歩みを進める。


『これは、思ったよりもキツイな……』


 今の仁は悪魔になった時点で人間以上の身体能力を有しており、悪魔体になると更に強化される。
 だがそれでも歩くことすらままならない、それどころかお辞儀すれば倒れる程にこの体は重い。
 倒れないようバランスを取り、文字通り重い足を動かすのは相当体力が削られる。現に今、仁は歩いて三十分で息を切らしている。


「少し、休憩……」
『は……? まだ、行け、る……!?』


 強がる仁の足を白亜は払い無理やり座らせる。


『いってぇ……』
「休憩は、必要……。無理は、ダメ……」


 仁は溜息を吐いて壁にもたれかかる。


『あー……情けねぇな……』
「急ぐ必要は、ない……今日はまだ、一日目……」
『さいで……』


 それから十分程の休憩を挟んで、仁はゆっくり立ち上がるとまた歩き出した。


「…………」
『…………』
「…………」


 仁の速度に合わせ後ろからついてくる白亜の視線が気になり仁は立ち止まる。


『白亜……』
「なに仁様……」
『さっきから俺を見てるが、どうした?』
「…………。仁様、しゃがんで……」


 頭に疑問符を浮かべながらも仁は膝をついて屈み、白亜は仁の左肩に乗る。


「立って……」
『屈んでだの立ってだの忙しいな』
「鏡、出せる……? 大きいの……」


 仁は自分達が収まる大きさの鏡を創る。


「戸愚呂兄弟……」
『ぶふぉ!?』


 白亜の不意打ちに思わず吹き出す。
 咄嗟に右手で口元を抑え笑いを堪えるもその肩は小刻みに震えている。


『突、然……何言いやがる……』
「緊張、ほぐれた……?」
『……一応な。ありがとよ、白亜。てかなんでそれ知ってるんだよ』
「サタン様が、たまに仁様の世界の書物、持って帰ってきてくれます……。面白い……」
『俺も今度読もうかな……。んじゃ白亜、歩くぞ』
「降りる……?」
『ガキの一人ぐらい抱えられなくてどうするよ』


 そう言って仁はウォーキングを再開する。足音を響かせて、少女を乗せた魔神は歩き出す。


 ────────


「で、これはいったいどういう状況ですか?」


 今サタンの目の前には仁が白亜を背中に背負って肩で息をしていた。


「ぜぇ……はぁ……。白、亜……が……」
「あぁ、いえ……。概ね予想がつきました。修行の一環で悪魔体の仁様が白亜を背負ったところ、体力が限界に近づいた頃に白亜が寝てしまったので、変身を解いてここまで戻ってきた、ということでよろしいですか……?」


 サタンが仁の背中で眠る白亜を自分の背中に背負い直すと、途端に仁は座り込み息を整える。


「まぁ、そんなところだ……。それよか、部屋で寝てきていいか? 悪いが疲れた……」
「ゆっくりお休みください、夕食の時間になりましたら起こしに行きますね」
「頼む……」


 フラつく足取りで仁は自室へと戻って行く。
 部屋に戻った仁は布団を敷き、潜ると深い眠りについた。


ー数時間後ー


「失礼します。仁様、お食事の用意が整いました」


 襖を開け部屋へと入ると、静かに寝息を立てる仁の姿が目に入る。
 仁は体を窓側に向け、布団から顔を半分出し丸まって眠っている。
 音を立てぬようそっと近付き、サタンは寝顔を覗き込む。


「目つきは悪いですし普段は仏頂面ですが、寝顔は可愛いものですね」


 優しく頭を撫でると、くすぐったかったのかもぞもぞと体を揺らす。


「ふふっ。こういうのも、悪くないですね」


 その様子を見て、サタンは胸が高鳴るのを感じる。彼女は仁に、狼のイメージを抱いていた。強面で、強く、黒が似合い人を寄せ付けない、そんなイメージを。


 そして今の状況はその狼が警戒心を解き、安らかに眠りについているようなもの。この状況にときめくのは、きっとサタンだけでは無いだろう。
 頭を撫でても起きないことに調子に乗ったサタンはそのまま頬をつつきだす。


「じ〜ん〜さ〜ま〜、起きないと大変なことになりますよ〜……」
「……そうか、ならさっさと起きなきゃあな〜」


 サタンの顔が引き攣り、固まる。じんわりと背中に汗をかき、この状況をどうするべきか必死に考える。
 仁は布団から起き上がり、まだ眠たい目をこすって軽く伸びをする。


「どうしたサタン、飯の時間なんだろ? 行くぞ」
「あ、はい! 食事は下の食堂で用意していますので案内致しますね」


 さっきのことを気にしていないのかと、内心ホッとしたサタンは仁を食堂に案内する。


「んで、起きなきゃどう大変なことになったのか教えてくれますかね?」
「い、いえ……。あれは冗談でして…」
「冗談、ね〜……」
「それよりも、仁様こちらでの食事は初めてですよね? 食文化は仁様の世界とあまり変わりませんのでご安心を」
「そうか、ちなみに料理はサタンが作ったのか?」
「ここでは私と燈と碧が料理出来ます。今回は燈が作ったんですよ、わざわざ仁様の国の料理本を読みながら」
「そうか、そりゃ楽しみだ。そういやサタン、気になってたんだが悪魔体になったら口ないけど、あれどうやって喋ってんだ?」
「やはり分からないまま話してましたか、あの状態でもちゃんと口はあるんですよ? あーんと口を大きく開ければ開きます、普段は腹話術のように、閉じたまま話せるんですよ。さぁ着きましたよ」


 食事処と書かれた暖簾のれんを潜ると六人掛けの横長テーブルが縦横三列に配置された空間が広がる。


「いらっしゃい仁様。さ、こちらの席へ」


 燈が椅子を引き手招きする。仁は招かれるままその席に座った。
 テーブルを見れば肉じゃがと卵焼き、味噌汁とお椀に盛られたご飯が並べられている。


「美味そうだな」
「初めて作りましたので味に自信はありませんが、気に入っていただけたら嬉しいです」


 不安の色を浮かべた大人びた笑みに、燈の方がサタンより年上感あるな、と感じてしまう。
 手元に置かれた箸を取り手を合わせる。


「いただきます」


 真っ先に手をつけたのは卵焼きだった。五つに切り分けられた卵焼きを一つ取り、口に運ぶ。柔らかな食感と甘い味付けに仁の口元が綻ぶ。


「甘いな……」
「甘い味付けは嫌いでしたか?」
「いや、好きな味だ。美味いよ」
「なら良かったです」


 次に箸を伸ばしたのはメインの肉じゃが。具材は食べ易い大きさに切られており、立ち昇る湯気が食欲を唆る。
 ジャガイモを取り口に運ぶ。


「あぁ、美味い……」


 味が染み込んだその温かいジャガイモは仁の心も温めたような気がした……。


──誰かに作ってもらった飯ってのは、随分と美味く感じるんだな……──


 幼少の頃に両親を亡くした仁は一人暮らしが長い。そのため、誰かに料理を作ってもらったこと自体が少ないのだ。


──美味いし、あったかい……──


 黙々と箸を進めていく。一口、また一口と料理を頬張るうちに仁の頬をツー……と涙が伝う。


「あ……?」
「どうしました、仁様?」


 サタンが涙をそっと拭う。


「……別に、なんでもねぇよ」


 小さく笑って食事を再開する。脳裏によぎるのは一人の少女の笑顔。仁が愛して、守りたくて、でも守れなかった少女の……。


──次は、無い……。もう失わない、この温かさを忘れない、壊させない。だから、強くなろう……──


「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」


 燈が空になった食器を下げる。綺麗に平らげられたからか、美味いと言われたからか、その顔は嬉しそうだ。


「そういや他のみんなはもう食ったのか?」


 白亜や碧がいないこと、自分が食べている間も見ているだけだったサタン達が気になり聞いてみる。


「仕事がありますから、もう少し後になります。それに私達は仁様やサタン様の部下にあたりますから食事の席を共にするわけには……」


 チラリとサタンの方を見ればただ苦笑を浮かべるのみ。この様子からサタンも燈達に上下関係など気にしなくてよいと言ってるのだろうが聞いてもらえないのだろう。


「燈さん」
「待ってください仁様、なぜ私が呼び捨てで燈がさんづけなのでしょうか」
「静かにしててくれポンコ……サタン」
「今ポンコツって言いかけました!?」
「話進まないから割とマジで静かにしててくれ。でだ燈さん」
「私も呼び捨てでかまいません仁様」
「そうか、なら燈。サタンに言われたかもしれないが上下関係なんて気にしなくていいし、出来ればみんなで飯を食いたい。だから明日からは全員揃って飯食いたいが、大丈夫か?」
「はい、仰せのままに」


 燈は一礼すると厨房へと入っていく。


「さて、仁様。なぜ燈がさんづけだったのか教えてもらっても?」
「燈の方がお姉さんって感じだったから」
「酷く無いですか!?」
「それよりサタン、これからなんかすることあんのか?」
「それよりって……まぁいいです。夜は私が特訓に付き合います。食後早々ではありますが付いてきてください」


 ────────


 サタンに連れてこられたのは昨日の地下ダンジョン、その中にある部屋の一つだった。


「ここは、牢屋か?」
「そんなところです。中に入る前に一つ、仁様。人を躊躇いなく殺すことはできますか?」
「必要とあらば」


 即答だった。だがそれが冗談でないことは目を見れば分かった。


「……そうですか。今日から毎晩、仁様は人を殺すことになりますが、大丈夫ですか?」
「その殺人に意味はあるのか?」
「仁様が直接人に与えた恐怖や絶望は経験値となり魔神としての成長を促します。魔神として成長すれば、今ある体の重みは無くなっていき、今より更なる強さを得られます」
「成る程。もう一つ、殺人対象の人選は?」
「奴隷商や盗賊、闇ギルドの人間をこのダンジョン内に拉致していますのでそれらを……」
「……ならいい、やろう」
「では始めます、心の準備を」


 サタンが鉄扉を開けると、中には物がなく、周りはただ暗い灰色に染まっていた。部屋の中央には、椅子に座らされた誰かがいるが、暗くて見えない。
 サタンが、入って直ぐ右にある魔石に魔力を流すと、天井の魔石に光が灯り、部屋全体を照らす。


「面白い仕組みだな。電気……じゃなくて雷属性か光属性の魔力ってところか?」
「五十点です、仕組みはまたいずれ。今はこちらをご覧ください」


 サタンに促され見ると部屋の中央で座っていたのは三十代と思しき男性で手足を縛られ、目隠しと猿轡をさせられていた。


「彼はとある国の貴族でありながら裏で奴隷商を営んでいました。商品とされたのは自分が治める領地の少年少女、他、闇ギルドを使ってさらった亜人種の子供達です」
「亜人種ってのは? 悪魔や他の種族の総称か?」
「はい、普通の人間を人類種と呼びます。それ以外にも獣人、鬼人、蟲人等々様々な種族がいますが、どれも人類種と敵対しているため、亜人種と一括りに呼ばれることが多いのです」
「成る程成る程……。まぁ大体の事情は察したわ。奴隷商なんて分かりやすい屑だが、一応弁明ぐらいは聞いてやろうぜ」


 大量の汗をかきながら震えるその男の猿轡を外す。
 そして開口一番叫ぶのは……


「助けてくれ!!」
「うるせぇな、まずは落ち着け」
「助けてくれ助けてくれ助けてくれ!! 嫌だ、俺はまだ死にたくない、死にたくないんだ!」


 こちらの話を聞かず叫ぶ男を鬱陶しく思い、仁は彼の髪を掴み上げる。痛みに顔を歪めるその男に、仁は静かにこう告げる。


「少し黙れ。わーきゃー喚くなら、早々にその首切り落とすぞ」


 途端、男は叫ぶのをピタリとやめ、青かった顔を更に青くする。これで話が聞ける、そう思い仁は掴んでいた髪を離した。


「そんで? なんでお前さんは奴隷商なんかやってたんだ? 貴族ならそこまで金に困るこたぁねぇだろ」
「あ、あんたが思うほど、良い暮らしなんかしてねぇよ……。俺は領主をやってるが、税だけじゃ足りない……。もっともっと金が必要だったんだ……。それに妻や、子供もいる。家族にいい暮らしをさせてやりたかったんだ……!」


 男の言葉を、仁は鼻で笑い飛ばす。そして額に手を当て、腹を抱えた大仰な動きでおもいきり彼を嘲笑った。


「ははははは! そんなことのために他人のガキを売り捌いたって? ハッ! こりゃ見事に屑だな! 拉致されようが殺されようが、恨み言一つ言う資格なんざねぇよな!」
「い、嫌だ……、いやだ嫌だイヤだ嫌だ嫌だ! 俺には待ってる家族がいるんだ! もう十日も帰ってない! きっと心配している、頼む!! 俺を助けてくれ、金なら払う! 望むなら作物や、女だって用意する! だから、だから……」


 嗚咽を漏らしながら男は泣き出した。この男のしてきたことは決して許されない。普通ならばこの場で処刑するだろう……。だが仁は違った。


「サタン、外には誰もいないな?」
「仁様……?」
「もう一度聞く、誰もいないな?」
「…………はい」
「ん、じゃあこいつの縄解いてやってくれ」


 俯いていた男の顔が上がる。目隠しをしてはいるが、その目に安堵と驚き、そして歓喜が浮かんでいることだろう。
 サタンは言われた通り、縄を解き目隠しを外す。すると直ぐさま彼はドアに向かって走り出した。


「【機械仕掛けの処刑棺メイデン・オブ・ギア】」


 鉄の処女アイアン・メイデンをご存知だろうか。女神像のような形をした棺で、中には無数の針が生えている拷問器具のことだ。なぜ今この話をするのか、それは鉄扉を開けると、男の目の前に、それに似た棺があったからだ。


「え?」


 棺が開き中から鎖が一本伸びる。それは男の右手に巻きつくと、中に引きずり込もうと引っ張り出した。
 棺の中は針ではなく歯車が嵌まっており、ガコン、ガコンと音を立てながら回っている。


「あ? え? 待てよ、待ってくれよ!! なんでだよ!! 助けてくれるんじゃなかったのかよ!?」


 中に引き込まれまいと必死に抵抗するも、少しづつ、少しづつ歯車へと体が近づいている。


「なぁ、どんな気分だ? 逃げられると思って扉を開いたら、ゆるりゆるりと自分を殺そうとする器具があった気分は」
「くそ! クソクソクソクソクソ!! こんなもん魔法で!」
「あら、忘れましたか? あなたを拉致していたこの部屋含め、この辺りは魔封じの結界が張られているのを」


 その瞬間、男の顔が絶望に染まる。そしてついに指が棺の中、歯車の隙間へと入っていく。


「い、ぎゃああああああああ!? 痛い痛い痛い!?」


 ミチミチ ブチ グチャ


 一度嵌れば抜け出せない。指、手、腕と順番に歯車に巻き込まれ肉を潰し、骨を砕く。血は滴り、歯車の隙間をすり抜けてやがて底に落ちる。
 響くのは痛みと絶望に彩られた絶叫。泣き叫びもがくも、逃げることは叶わない。
 三十分もの時間をかけ、棺の中を人肉のミンチが埋めると、棺は蓋を閉じて消えていく。


「悪いな、屑を許し生かすほど、俺は優しくねぇんだわ」

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