友だちといじめられっ子
3
「ねえ、加奈。また、教室に行かない?」
ある日、尋ねられたが、少女はすぐに答えられなかった。
「でも⋯⋯」
「大丈夫。今度は、私が付いてるから。行きづらいのは、私たちのせいだよね。分かってる。でも、私が付いてるから、どうか安心して。」
少女の友人は、笑顔でそう言った。
翌日、少女は教室のドアの前に立っていた。少女は、一度ゆっくりと深呼吸をして、ドアを開けた。
「おはよ、加奈」
少女の友人の声で、他の生徒も「おはよ」と、少女に言った。
「おはよう」
少女は、笑顔で言った。
それから数ヶ月後。少女は、熱体夜の薄暗い夜道を、一人で歩いていた。履きなれない下駄で、急ぎ足で何度も転びそうになりながらも、何とか転ぶことなく、目的の場所に辿り着いた。
「おーい、加奈!こっち!」
声のした方を見ると、浴衣姿の友人が、大きく手を振りながら、少女の事を呼んでいた。
少女は、自分の走って乱れた浴衣を直しながら、友人の元へ急いだ。
その日、少女はこの友人と、神社で行われている夏祭りに来ていた。保健室で話していたあの日から、二人は良く一緒にいるようになっていた。
かき氷にクレープ、綿菓子、射的、金魚すくい。少女達は、この友人と友達になれて良かった、と心から思った。それは、この友人も同じだった。
夏祭りも終盤を迎えた頃、少女の友人が少女の手を引いて、二人は走った。夏祭りに来た時のように、少女は何度も転びそうになった。
夏祭りの会場である神社の裏のごく小さな山。その山の中ほどの小さな広場、そこで少女の友人が足を止めた。ここが少女の友人が、少女を連れてきたかった場所だった。
「なんで、ここに?」
少女は尋ねた。
「ここはね、この夏祭りの最後に上がる花火が凄く綺麗に見えるんだよ。誰にも教えてなかったんだけどね」
少女の友人は、笑って答えた。
「じゃ、私たち二人の秘密の場所、だね」
少女は笑顔で言った。本当に嬉しかった。
「そうだね」
少女の友人も、笑顔で答えた。少女の友人も、少女と同じ気持ちで嬉しかった。
ほどなくして、一発目の花火が上がった。少女とその友人は、二人だけの静かな空間で綺麗に上がる花火を見た。少女は、こんな時間がもっともっと長く続けばいいな、と思った。それは、少女の友人も同じだった。少女たちの中で、その年のたった数発の花火は、どんな大きな花火大会よりも、どんなに大きくて綺麗な花火よりも、綺麗だと思った。
小さな町の、小さな夏祭りの最後に上がるたった数発の花火。だけど、少女たちには、かけがえのない思い出になった。
花火も終わり、帰り道。
「加奈」
少し前を歩いていた友人が振り返り、友人は、少女の名前を呼んだ。
「なぁに?」
少女は友人に尋ねた。
「私、加奈と友達になれて良かったよ。なんで、あんなことしちゃったんだろ。ほんとごめん」
少女はそれを聞いて、可笑しそうに笑った。
「いいんだよ、もう、そんなこと。私、あの日、保健室に凛花が来てくれて、謝ってくれて、ほんとうに嬉しかったんだ。あの時は、ありがとね」
少女の友人は、ほっとしたように笑って前を向いた。
「これからも、ずっと友達でいようね」
夏祭りの最後に買った、ラムネ瓶の中のビー玉を落とすと、泡が吹き出た。少女たちは、真っ暗になった道を二人で、歩いていた。少女たちの手には、開けたばかりのラムネ瓶が握られていた。
それから数日後。夏休みの明けた、始業式の日。少女は、いつもより遅れて学校に来た。
「おはよー」
──しかし、いつも真っ先に返ってくる少女の友人の声がなかった。そして、教室を見渡しても、彼女の友人の姿はなかった⋯⋯。
ある日、尋ねられたが、少女はすぐに答えられなかった。
「でも⋯⋯」
「大丈夫。今度は、私が付いてるから。行きづらいのは、私たちのせいだよね。分かってる。でも、私が付いてるから、どうか安心して。」
少女の友人は、笑顔でそう言った。
翌日、少女は教室のドアの前に立っていた。少女は、一度ゆっくりと深呼吸をして、ドアを開けた。
「おはよ、加奈」
少女の友人の声で、他の生徒も「おはよ」と、少女に言った。
「おはよう」
少女は、笑顔で言った。
それから数ヶ月後。少女は、熱体夜の薄暗い夜道を、一人で歩いていた。履きなれない下駄で、急ぎ足で何度も転びそうになりながらも、何とか転ぶことなく、目的の場所に辿り着いた。
「おーい、加奈!こっち!」
声のした方を見ると、浴衣姿の友人が、大きく手を振りながら、少女の事を呼んでいた。
少女は、自分の走って乱れた浴衣を直しながら、友人の元へ急いだ。
その日、少女はこの友人と、神社で行われている夏祭りに来ていた。保健室で話していたあの日から、二人は良く一緒にいるようになっていた。
かき氷にクレープ、綿菓子、射的、金魚すくい。少女達は、この友人と友達になれて良かった、と心から思った。それは、この友人も同じだった。
夏祭りも終盤を迎えた頃、少女の友人が少女の手を引いて、二人は走った。夏祭りに来た時のように、少女は何度も転びそうになった。
夏祭りの会場である神社の裏のごく小さな山。その山の中ほどの小さな広場、そこで少女の友人が足を止めた。ここが少女の友人が、少女を連れてきたかった場所だった。
「なんで、ここに?」
少女は尋ねた。
「ここはね、この夏祭りの最後に上がる花火が凄く綺麗に見えるんだよ。誰にも教えてなかったんだけどね」
少女の友人は、笑って答えた。
「じゃ、私たち二人の秘密の場所、だね」
少女は笑顔で言った。本当に嬉しかった。
「そうだね」
少女の友人も、笑顔で答えた。少女の友人も、少女と同じ気持ちで嬉しかった。
ほどなくして、一発目の花火が上がった。少女とその友人は、二人だけの静かな空間で綺麗に上がる花火を見た。少女は、こんな時間がもっともっと長く続けばいいな、と思った。それは、少女の友人も同じだった。少女たちの中で、その年のたった数発の花火は、どんな大きな花火大会よりも、どんなに大きくて綺麗な花火よりも、綺麗だと思った。
小さな町の、小さな夏祭りの最後に上がるたった数発の花火。だけど、少女たちには、かけがえのない思い出になった。
花火も終わり、帰り道。
「加奈」
少し前を歩いていた友人が振り返り、友人は、少女の名前を呼んだ。
「なぁに?」
少女は友人に尋ねた。
「私、加奈と友達になれて良かったよ。なんで、あんなことしちゃったんだろ。ほんとごめん」
少女はそれを聞いて、可笑しそうに笑った。
「いいんだよ、もう、そんなこと。私、あの日、保健室に凛花が来てくれて、謝ってくれて、ほんとうに嬉しかったんだ。あの時は、ありがとね」
少女の友人は、ほっとしたように笑って前を向いた。
「これからも、ずっと友達でいようね」
夏祭りの最後に買った、ラムネ瓶の中のビー玉を落とすと、泡が吹き出た。少女たちは、真っ暗になった道を二人で、歩いていた。少女たちの手には、開けたばかりのラムネ瓶が握られていた。
それから数日後。夏休みの明けた、始業式の日。少女は、いつもより遅れて学校に来た。
「おはよー」
──しかし、いつも真っ先に返ってくる少女の友人の声がなかった。そして、教室を見渡しても、彼女の友人の姿はなかった⋯⋯。
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