異世界生活物語

花屋の息子

親を説得

 父には息子が何を考えているのかは分からなかったが、良い事を考えているとは思えなかった。
 その口元が、モノの見事に微笑みを湛えていたからだ。


「エド何を考えているんだ?」
「悪い事をしたからって、死ななきゃいけないの?みんなの命を守るのがパパ達の仕事でしょ、じゃあ、その人たちの命は良いの?」
「それは・・・」


 質問に質問で返す事は褒められた事ではないだろうが、ここを言い負かせなければ、この後に続く弁論に勝てるとは思えない、ウチの父も馬鹿では無いが脳筋と呼ばれる人種ではある、しかし隊長格ともなるとただ武辺が確かだけでは勤まらない、最低限の文官としても働きが出来ないのでは、その職務に支障が出てしまう。
 領主の前にも侍る機会が多い、隊長という役職者を論破しない事には、この計画は成就しないのだ。


「その人達だってパパ達を殺そうとした訳じゃないでしょ?他の人達を殺そうとした訳じゃないんでしょ?約束を破った事はいけないけど、殺されなきゃいけない事?罰を受けるのじゃダメなの?」
「いやしかしだな・・・」


 父からは何か言う事は出来なかった。言われては困るのだから、言わせないようにしていたのは、俺なのだが。
 そのまま父の袖を摘むと、強引に引っ張った。


「早くしないと、殺されちゃうかもしれないんだよ」
「あなた、エドの気持ちを考えているの?こんな小さな子が、その人達の事を思っているのに」


 母には俺の顔は見えていない、もし見られていたら違う反応だったかもしれないが、この上ない援軍を得た気分だ。


「連れて行くだけだぞ、しかしお前は・・・」と、父は渋々だが、北面の陣に俺を連れて行く事を承諾してくれた。
 母はその場にいたので良いとして、姉とウェインには事情を話して置かなければならないだろうな。
 父は出勤準備を、俺は説明のためにウェインの所に駆けた。


「そう言う訳だから、今日は香草を姉ちゃんと集めて置いて欲しいんだ」
「それは良いけど、何でお前がそいつらの心配をするんだよ?」
「それは心配するでしょ、貴重な労働力だよ?」
「をぉい」


 別段、抜け駆けをした人の心配をしている訳ではない、俺の心配事と言えば、このまま忙しくなった時場合、ウチの人員に掛かる負担が大きすぎる事だ。
 そして単一の香草の不足で軟膏生産が滞る事、この二つが俺が最も気にすべき事で、そのついでに戦士団の人達も助けてあげようと言う事なのだ。
 それも、『奴隷では無い』。
 あくまでウチ専属の香草農家としての道を用意すると言う事、下請けと言うヤツだ。
 嫌になって下手に脱走すれば、領軍が飛んで来るオマケが付いているだけ、農奴ではないのかと言われるかもしれないが、自由すらある刑務所の作業と同じと考えれば、死刑になるよりは余程マシだろう、逃げる自由だけが無いのだから。

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