異世界生活物語

花屋の息子

苦悩は続く

 凡人の頭だが一生懸命考えた結果、ひとつ思い当たる節に行き着く、金虫だ。金属成分で構成されるその骨格は、無から生み出されている訳ではないだろう。
 虫の食事から摂取されているか、もしくはイノシシの様にヌタ回って体に付着させるか、深海にすむスケール何ちゃらとか言う貝のように、化学合成した排泄物を体に纏う者もいるだろう。
 このすべてに言える事は、そこにその成分が存在するからこそ、取り入れまたは、付着できたと言う事だ。
 この土中には金属成分が存在し、粘土内にあったのか灰に含まれていたのか、はたまた両方と言うことも考えられるが、それを高温焼成したために天目茶碗のような金属の肌を成形したと考えられる。
『灰を溶かした釉薬かければ、もっと違う焼き物もできたのかな?』
 俺がそんな事を考えている後ろでは、さっそくに水を汲みに行く男班と洗い物をする女班に分かれて、焼きあがった物の洗浄作業が始められようとしていた。
「こんな綺麗なもん見た事ないわ」
「クリームも欲しいけどこれも良いわね」
「見ほれてねえで、洗ってくれよ」
「あんたは黙って水汲んでおいで」
 伐採に薪割り高温との戦いの焼き上げと、散々妻のために働いたにもかかわらず、寅さんの題名張りにこき使われる男たちは、なんと悲しいことか。
 哀愁漂うのか、それともただ打ちひしがれているのか、水を汲みに行く男たちの背中が、なんともどんよりとしている。折角の成功の後だというのに。
 しかしこの成功も喜んでいいのかが解らないところである。
 その理由は、曾祖母であるエリザの元へ行った時に見た物が原因なのだ。
 確かに調度品などが飾られて、ウチなどより余程立派な屋敷だったあの家にすら、今回出来上がった鍋ほどの物は飾られていなかった。
 せいぜい村長クラスと考えれば、領主館にはこれ以上のお宝が飾られていても不思議ではないが、ここに集まった人を見ても、異世界であろうと地球であろうと、美的感覚に大きな差があるとは思えない。
 もしこの焼き物が領主家の御眼鏡に叶った時、これが再現できない時、この鍋の所有者は誰になるだろう。
 腐った貴族がいないとは言え、封建社会において5親等以上はなれた赤の他人と言ってもおかしくはない。親戚が、本家で権力者でもある領主が欲するものを、譲らないなどと言って良いものだとは思えない。
 相当額の金を払うなどと言われた日には、鍋なら金属製のものを用意してやると言われたら、断る理由は子供のように、これじゃなきゃヤダとしか言えないではないか。実際子供だけど。
 超綺麗だけど鍋だよ、一番綺麗な物は寸胴なんだよ、まさか飾らないよね。
 ここに来て出来の良さに悩まされる事になるとは、それともこれで新たな文化を開花させる事が出来たと喜ぶべきか、悩みは尽きないものである。
 今度は曜変天目の茶碗でも作って献上しようかな?
 なにやら目的のために手段を選ばず、手段のために目的を忘れていく感じが、否めなくなってきているが、もうなったらなっただと腹を括るしかない訳で、出来てしまったのだ、これを喜ぶのが先決だろう。
『野郎ども、宴だ』そう言いたい気分だ、酒は飲めないけれども。

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