異世界生活物語

花屋の息子

上手に焼けました~

 手を入れた場所は灰山の上部なので粉砕だけは避けられたようだが、後は欠けやヒビが無い事を祈るばかりである。
 爪から響いた音は、金属とも陶器とも取れない、なんとも微妙な音だった。
 逸る気持ちと連動するように手が動くのは、顔が必死の表情を浮かべなければ、子供らしくて良いのだろうが、俺の表情は気難しい屋の陶芸家ばりに険しい表情になっていた。
 野焼きとは言え、高温で焼かれた灰はかまどのふわふわ灰とは大きく違い、その粒子が細かいせいか重さに反してずしりとした手応えがある。
 灰をかき分けても、見えるものは焼く前より少し小さくなった灰色の塊で、音の正体は分からなかった。
 掘り進めて行くと、9割以上が欠ける事無く焼成されて、俺たちの前へと姿を現した。
「できたのか・・・?」
「エドワード君どうだい?」
「これでヒビが無ければ、大丈夫じゃないかと思うけど・・・」
 チャプチャプと水の音をさせながら、天秤棒で水を運んできてくれる男がいた、どこの世界にも気の利くヤツはいるものである、誰も気付かなかったが洗い水が無ければ灰落としも出来ない事など、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。義兄さんあんたはスゲぇよ。
 その焼き物を洗うにしても、いきなり完品を水に入れる勇気は俺には無い、割れた器で耐水試験だとばかりに水をかける。
 するとどうでしょう、金に茶に青のグラデーションが掛かったメタリックな色を帯びた、美しい陶器が顔を覗かせた。その色合いからイメージは天目茶碗が、一番近いものだが、何でこうなった?
 そのまま考え込みそうになったが、ふと俺を中心に円陣が出来上がって、出来たのか?と目で訴えられては、そのまま結果をお預けする訳にも行かない、今度は完品を手に取り洗ってみる。
「これも綺麗な色ね」
「こんな色は初めて見るな」
かねのようじゃが」
 水を弾きながら灰を脱ぐように現れるその肌は、もはや芸術作品と言えるレベル、造作の粗さは否めないが、この色を見て誰がガラクタと言えるだろう、灰の下から出た肌は先ほどと違い、赤に金とエメラルドグリーンを浮かべた色合いだった。
『さっきのと色が違うけど・・・元の粘土の違いか?』
 その後も色合いは皆違う物が出来上がった。テレビでは見た事があったが、灰釉でこんな色合いが出るのは見た事がなかったし、釉薬掛けした訳でも無いので、俺の頭は?が浮かびっぱなしだ。
 これほど理屈が解からない以上、ファンタジー補正と言ってしまうのが一番なのだろうが、なんか悔しいな。

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