異世界生活物語

花屋の息子

焼き始めました

「そんなに少しで良いのかい?」
 近くで見ていたおっちゃんからは、そんな疑問が投げかけられた。
 火力維持用の薪が少しと器が隠れる程度の藁しか、可燃物は置かれていないところに火をつけたのだからそう思うのは仕方が無い事だろう。
「この前はいっぱい入れて、うんと熱くなる様に燃やしたから割れたんじゃないかなって思って。だから少しにして、無くなったらまた入れようと思うんだ、ゆっくり熱くしてあげたら割れにくいかもしれないでしょ」
 すっかり忘れてたとは言え前回は一気に燃やしすぎた、細かい理屈は覚えていないが、窯焼きは1時で100度づつ上げていくだかをやると、陶芸をやっていたおっちゃんに聞いた事がある。
 ちゃんと聞いておけば良かった(泣)
 まさか温度計の無い野焼きでそれをやれる訳では無いが、素地の中に残った水分を完全に飛ばすとか、粘土成分の融結を穏やかに進めるとかが目的だろう。
 ワラが半分程度燃えたら、薪を少し増やしてまたワラを被せる。
 これを薪を増やしながら繰り返して、火の色なんて見ても何度だか解からないので何となくだが、投入量からしても穏やかな温度変化は出来ていると思うのだ。
 前半組みは老若組みが担当しているが、昼からの薪をガンガン投入する後半組みは、うちのオヤジ世代である男衆の中でも体力自慢の20~30代が担当する、軟化のお陰で薪の素状は整っているが、重さに変化がある訳ではないので、大量投入ともなると体力だけが物を言うからだ。
 ちなみに薪にされているのは、すべて広葉樹で針葉樹は含まれていない、北の森には奥に行けば針葉樹も生えているらしいが、それ以外の森の木すべては広葉樹で構成されている。
 本来であれば高温になる針葉樹の薪を使いたいところだが、無い物ねだりも出来ないので広葉樹の薪を使っているのだ。
 流石に北の奥地など恐ろしくて行けたものではないし、成木からの薪を採取するまでの時間に、魔物のご飯確定らしい。
 などとやっているうちに太陽は真上に来ていた。さて昼からは本焼きだ。

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