無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

魔風穴

 ここに来た時もそうだったが、エリザさんは転移魔法を普通の魔法かのように使っている。魔力量が半端じゃないのか?それともイメージ力か?、これだけポンポンと使える魔法が普及していないところを見ると両方なのかもしれないが、どちらにせよ何としても修得したい、前世に比べれば体は使うようになっているし動く事も苦ではないが、それでも長距離を歩きたいか?と言われたらそんな趣味は無いと応えるだろう。
 それにどこかに行くにしても、重い物を持っての移動は苦行でしかない、それが魔法一つで置換出来るならこんな素晴らしい事は無い。異世界版夏休みの宿題は、転移魔法と定めたり~。
 宿題は完遂できない物なのだが、そこは置いておくとしよう。
 そんな事を思っているとまたも景色が一変した。元いた部屋で談笑する祖母たちは、もはや馴れたものなのだろう、お帰りなどと言って驚きもしないのだ。
 その中で大叔母のエリスさんなどは「食事の準備できているわよ」などと食事を進めてくるあたり、慣れとは恐ろしいものだ。戻ってくればお腹が空いているだろうからと、大叔母と祖母とで準備してくれていたようだ。
 口を付けると祖母の味付けだったので、味の方は心配が要らないとホッとする。親戚と言えども料理の腕前が同じとは限らないからだ。
 地球での子供時代にウチに来た叔母さんの作った物を食べたが、その味は不味くは無いが、美味いとは褒められない味付けのモノを食べさせられて、ゲンナリした事があるのだ。
 それがこちらの世界となるとコショウなどは無いので普段の料理で使われるのは、ハーブモドキと塩それから刺激のある種、種は確かホウランとか言ったと思う、香りの無い山椒の実といったところだ。
 このハーブモドキは家庭によってどころか個人で配合が違う物だから、中にはとんでもない配合の人などもいる訳で、そういった家庭の旦那さんが祖母に泣きついているのを見かける事がある。
 日本にいた時も何にでも七味をかける人が居た位だから、どんなに世界が変ろうとも異次元味覚の人が存在するのは、神的力が働いているとしか思えない、全く神も余計な所に使う力があるのなら、他に使えと言ってやりたくなる。
 食事の最中にエリザさんが俺を魔風穴に連れて行くと告げると皆を驚かせた。普段ならこの後談笑をする流れだそうだが、一様に危険ではないかとエリザさんに考え直すよう勧める。否定はしない勧めているだけだ。


「誰も一人で行かせる訳じゃないわぁ~、私がそばにいるのだから問題無いでしょ~」


 エリザさんにしても口調が元に戻っているので、自分が護衛に付くのだから問題ないと思っているのだろう、某ゲームの瞬間移動呪文の様に、簡単に使えないのが転移魔法なのだろう、それが出来る人が護衛につく修行となれば、たぶん・きっと・おそらく安全だと思う・・・。
 皆からはひとしきり不安な声が上がったが、俺としてはじんわり魔力アップなんて気の長い事は、そもそも遠慮したいと思っている。ノンリスクではなくとも良いので、その他の方法で上げる事が出来るのならそちらを選ぶ、この世界に生きる人はもっと貪欲に魔力を求めても良いのでは?などと思うほどに、魔力的執着が少ない、一般人は生活魔法くらいにしか使わない処からもそれは伺える。蟻の時も素材を気にしないのだから、魔力さえ多ければ魔法使いでの範囲殲滅攻撃などの手段が取れたと思う、そう言った使い方をして来なかったしこれからも使う事は無いのだろう、俺って特異点が出なければ。


「ばあちゃん、僕もっと魔法が使いたいから、行って来るよ」
「でもね」


 食事中に聞いた魔風穴のある場所から考えたら、祖母の反応が妥当なのだろうな、小さい子をライオンの檻の中に連れて行くと言われて、はいそうですかとはならないのだから。
 食事を終えて一休みをする中、未だに皆の顔は心配の表情だが、曽祖父に関しては長年連れ添ってきた事もあって、「こいつに任しときゃ大丈夫だろう」といった余裕の表情だ。事実かどうかは置いておいて東の森を焼いた人と、森と運命を一緒にしかけた人、うんなかなかシュールな結束力が生まれそうな夫婦だな。


「そろそろ行くわよぉ~」
「はい大丈夫です、ばあちゃん行ってくるね」
 結構能天気な挨拶だ、心配するなと言う方が無理だろうけど、まあ心配しないでよ。
「気を付けるんだよ」「は~い」


 そう言うと景色が一変する。何度やっても転移魔法ってスゲ~って感心できる。今目に映るは南の森に比べると黒さを増した森だった。山の麓と言っていたが山などは一切見える事は無い、そこには木と地面に口をあけた穴が映るのみだ。


「その穴が魔風穴なの?」
「そうよぉ~、魔素が流れ出しているわぁ~、と言っても解らないでしょ~。この石を入り口に置いてみなさぃ~」


 手渡してきたのは大ぶりのキラキラ石だった。これが何だというのだろう、言われるがまま穴のそばに置いた俺が驚いたのはすぐだった。キラキラ石などとは言っても宝石のように輝く訳ではない、砂に混じった石英よろしく、少し透明で濁った色をしただけの普通の石から見たらキラキラしている石が、キラキラ石なのだが、魔風穴に置いた石からは濁りが取れて、透き通るほどにはならないが、置く前に比べると透明度が増していた。


「まだ置いておけば~、もっと透明になるのよぉ~、それは収魔石って言うのぉ~、魔素を貯める石ねぇ~」


 知らずに使っていた子供たちのおもちゃでしかなかった物が、意外にとんでもない物だったのか?

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