無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

美魔女現る、曾祖父母はビックリ人間

 この毛皮の張った木のベンチにしても、ウチにある只の木製より上等な物なのだから、ソファーを発明した人は天才だと思う、今になってベンチ生活だから分かる。あのフワフワの座り心地は正義だ。
 ベンチが悪いとは言わないが、やはり沈み込むソファーの座り心地は忘れられない、人によってはイヤだという人も居るが、そう言う人は座らなければ良いのだ。あれを忘れない内に開発できたら良いな。
 大叔母が「ノドが渇いたでしょ?」と、出してくれた果実のジュースを飲み乾いたノドを潤した。バイラル王の実とは違った、酸味のある爽やかな味が長い道のりを忘れさせてくれる。


「それにしても遠い所よく来たね。お義母さんもエドワードが来るのを楽しみにしていたのよ、少し出かけているから今呼んでくるわ、少し待っていてね」


 そう言うと俺と祖母を残して出かけてしまった、いくら親戚とはいえ無用心ではないのだろうか。
 そんな事を読まれたのか「エリスも昔っから変らないね」と祖母の口からもれたので、どうやら大叔母のあの性格は雀百までというヤツのようだ。
 事前連絡など出来ないこの世界に置いて、他家への訪問は急に訪ねるのが当たり前で、何も準備が出来ないから留守という事もたまにはあるのだ。一家揃って旅行などはありえないので、最悪夕方まで時間を潰せば、誰かしら家の者に会えるから良いといった、アバウトすぎる来訪スタイルが当たり前で、今回はたまたま大叔母がいたから良かったものの、畑まで行ってみたりと探しまわるのも珍しくないのだ。
 なにやらまぶたが重いな。6キロからの距離を歩いた俺は眠気に襲われ始めたのだ。首がコクンと垂れ下がる。
 どの位経ったのだろう、バタバタと数人の足音に目が覚めた。呼びに言った大叔母たちが戻ってきたのだろう、寝顔での顔合わせにならなくて良かったよ、あわてて目をこすり口元をぬぐってみたが、よだれ等は垂れていなかった事に安堵した。


「伯母上、お久しぶりです」
「パーン、元気そうだね、お邪魔させてもらっているよ」


 先頭で入ってきた男が祖母に向かってそう挨拶をした、この人がこの家の家長の人だったと記憶している。
 従兄弟叔父の歳は父と変らない30ほどで、ヒョロヒョロでは無いが父のようなタクマシサハ無く、どちらかと言うと文官系の香りのする人物だった。
 その後ろをメッシュ白髪の男性が続く、年恰好からして先代当主でウチの爺さんの兄だろう、兄弟だけあってよく似ている。


「気を使うな、ここはお前の家も同じだと言っておいただろう」
「グローゼ、もうパーンの家になったんだからそうも言えないだろ。これが孫のエドワードだ。ウチの人に似て良い面構えだろ」


 豪快な笑い声がその後に続く「グァハァァァハハハ、確かにクラインに良く似ておるわい」と言いながら入って来たのは、筋肉ダルマとも言えるゴツイおっさん、スキンヘッドにボディービルダーが霞む筋肉って需要あるんですか?と言いたくなる人だ。見た目は金剛力士、これが曾じいさんかと思うと少し将来が不安だ。
 それと同時に俺の横に人の気配があったのだ。そこに目を向けると、こちらの世界に来て一番の美人と思える人が座っていた。他の人が入って来るまでは誰もいなかったそこには、今は人がいるのだ。


「その下品な笑い方は何とかしなさいって言ってるでしょぉ~」


 まるっきりお嬢様喋りをするその女性は、母と同じか若いくらいの歳で、ものすごく落ち着いた印象の女性、パーンさんの奥さんかな?・・・じゃなくて、どこから湧いたんだこの人、さっき目をこすった時は居なかっただろ。
 その人を前に祖母がとんでもない爆弾を落とした、と言っても知っているほかの人からすれば、なんて事の無い話なのかもしれないが。


「ご無沙汰しています、お義母さん、これが孫のエドワードです」


 知らない俺からすれば、「は?????」としか言えない、はっきり言って思考がフリーズした。どう見てもウチの母と同い年か下にしか見えない、曽祖父の歳は確かまだ還暦前だったと思ったが、その連れ合いがこんなに若い訳はないだろう、それに30代に間違う60手前は居るかもしれないが、20代に間違う事など無いだろう、シワ一つ見当たらないこれが美魔女とか言うやつか?。


 トリップしている俺の前で手をヒラヒラ「エドワード帰ってきなさぁ~い」との曾祖母の言葉に、「はっ」とする、完全に停止の世界に居た。


「は、始めまして、エドワードです・・・・」


 言葉に詰まった、それと同時に90度のお辞儀をしていた。


「おまえな、リースの時も固まっていたか、面白がって曾孫をからかうな」


 イメージは鷹の目中尉の老後と言ったのをイメージしていたのに、何か聞いてた話とキャラが大分違う気がするが、どうやら曾祖母で間違いは無いようだし、あまり怖い感じもしないのは助かった。


「そ、それよりいつ来たんですか?」
「今よ~。転移魔法って言うのよ~珍しいでしょ~」


 転移魔法あるんだ。少し心が躍る。転移だよ、踊るでしょ、魔法があるのも踊ったけど、生活魔法レベルですこし残念だったけど、これはもうザ・魔法の代名詞みたいなもんだもん。
 目がキラキラになっている事に曾祖母は気を良くした様だ。さっきより微笑が増した感じがする・・・、イヤイヤイヤそこじゃないよ、転移魔法で逸れたけど何でそんなに若い訳よ、絶対おかしいでしょ?、あれか皆既日食の時にしか使えない秘術、凍れる時の何チャラとかいうヤツですか?
 大魔法使いとか、超若いとか、一族の絶対君主とか、もうウチの曾ば~ちゃん何者よ。
 ついでにパーン叔父さんの奥さんと子供は居ないのか?どこまでも謎しか無い家族に困惑する。

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