無い無い尽くしの異世界生活

花屋の息子

ルーツ

 領主の館があった場所から橋を渡った所からが西区画になる、俺が住んでいる東区画より建物が少し古めかしい感じだが、少量だが石材で壁が補強されたりと、堅牢っぽそうな建物が立ち並んでいる。


「この辺はお家に石使ってるんだね?」
「この辺が初代の領主、レイアームが最初に町を作り始めたところだからなんだよ。昔は今より魔物も近くに住み着いていて、北では今でもだが魔物が町の中まで入ってくる事もあったと言うからね」


 何代にも渡って魔物と戦い続けた悲しい負の遺産と言った所なんだろうか、家に居て魔物に襲われない生活が、幸せなんだと感じてしまう。
 そんな町を通りながら風景を目に焼き付けていくと、今まで見た家とは雰囲気も大きさも違う家が見えてきた。一般的な家に比べると二回りほど大きな屋敷と呼べる家、もちろん先に見た領主館には比べられないが、あれを本城とするなら出城とか支城と言った雰囲気の建物だ。


「見えてきたね、あれがこれから行くお前の曾お婆さまの家だよ」


「は?」と言いかけたのを飲み込んだ。


「リースを始めて連れてきた時もそんな顔をしていたかね。大きな家だろ、昔の領主館だから無理も無いんだけどね」


 もう何から聞いたら良いのやら、質問が多すぎて頭が混乱してきた。何で旧領主邸に住んでる人が、曾じいばあ夫妻なのよ?ウチの家系ってお金持ち?その割にはウチは一般農民だよ?


「ウチの人の家系はね、何代か遡ると、今の御領主と同じ先祖に行き着くのさ。もっとも継承権なんてのは残っていない話だけどね」


 頭の整理はまだつかないけど、じいちゃんの家系がとんでもない事だけは解ったよ。源氏とかで良くあるあれか、何とか源氏、何々流、何々氏的な、三国志の劉備みたいなとも言えそうだけど。
 ウチみたいに傍流の傍流ともなると、もはやって感じもあるけど大叔父の家が元領主館を使ってるって事は、もしかすると超傍流でも無いのか?、謎が謎を呼ぶとはまさにこの事なのか?ついでに世が世なら俺も御貴族様ですか?


「何て顔してるんだい、口を閉じなさい、そんな顔見られたら、着いた早々お説教が待ってるよ」


 そんな事言ったって、話が飛びすぎてびっくりが止まりません、心臓がバクンバクンと音を立てるとはこの事で、自分のルーツが思いもかけないところにあったのだから、俺としたら口くらい開かせて欲しいと思う。
 屋敷を見つけてから1キロ近い道のり、結局屋敷に着くまで心臓はバクバクしたままっだったけど、やはり遠くから見るのと近くで見るのは違うもので、流石に防御機構の馬防柵みたいのは無かったけど、町並みより一段と石材をつかって、屋根までスレートのような物で覆われて、いかにも堅牢に見える造りの家だった。


「お、大きいね」
「お行儀良くするんだよ、挨拶もしっかりとして」
「はい」


 龍球の孫悟飯が緑の人にするような、子供の割に生真面目といった変な返事をしてしまったが、その父親がするような「オッスおらエドです」って挨拶にならないと良いけど、威圧感たっぷりな人だったらどうしよう、会う前から無駄に緊張が押し寄せてくる、余計な情報無しに合えれば、こんなに緊張しなかっただろうに、いろいろ聞いた今となっては、・・・・ああ帰りたくなってきちゃったじゃんか。
 屋敷の規模に合わない無装飾の輪打ち金が付いた平凡な物だが、この世界にそれほどの装飾を期待する方が間違っているのかと思い直す事にした。
 そんな俺の脳内混乱などお構い無しに、祖母はドアに付いたノッカーを打ち鳴らし、その反応として祖母より少し高めの声で返事が返ってきた。


「はいはい、どなた?」
「ハンナだよ」


 少し重い音がしながら開かれた扉から出てきたのは、祖母と同じくらいの女の人だった。忘れているかもしれないが、祖母の歳は39だ。まだ40には届いていないんだよ。


「ハンナ久しぶりね、元気だった?」
「半年ぶりくらいかね、エリスも変わりが無くてよかったよ」


 玄関先で井戸端会議も無いだろう。ボクァ7キロ近くも歩いてクタクタなんだけど?、このまま見ていると、祖母たちの玄関先でのおしゃべりが過熱しそうなので、挨拶でもしておいた方が良いかな。


「はじめまして、エドワードです、大おばあさまに会いに来ました」
「あらあら、こんにちは。しっかり挨拶できるなんて偉いわね~、私はあなたのおばあちゃんの義姉で、エリスよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「さあさぁ、暑い中大変だったでしょ、中に入って」


 ちょっと言うのが遅いよなんて言わないよ。体感温度はお盆と同じ時期なのにセミが鳴かないので、風情は無いが暑さはまるで一緒、そんな中を歩いて着た自分を自分で褒めてあげたいと思うほど暑かった。
 勧められるが早いか「お邪魔させてもらうわ」祖母は中へと進んでいく、あ~暑かったんだ良かった。
 奥に通された先は客間と呼べるほどには整った部屋だった、まあ調度品なども『ちょびっと』は置かれていて流石は元領主の館といった造りをしていた、勧められたのが毛皮を張ったベンチでなければ、もう少し気分も盛り上がったのに。

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